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再び巡り合う時 ~転生オメガバース~  作者: 一ノ瀬麻紀


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50. 懐かしい匂い

 次の日の朝になって、塔の部屋を訪ねてきたのは、使用人の一人だった。

 手には軽食の乗ったトレイを持っていた。


「エミ……あ、ミッチェル様」

「あはは、良いよ。言い慣れてるエミで。僕と二人のときなら、今まで通り普通に話して」


 使用人同士で話している時間のほうが長かったから、今更ミッチェル様なんて言われても、気恥ずかしいだけだ。


「じゃあ失礼して、エミと呼ばせてもらうわね。奥様から、もう少しここで待っていてほしいと言伝(ことづて)を預かってきたわ。食事は私たちが運んでくるので、一人でここを出ないようにね」

「何かあったの?」

「うーん、そこまでは聞いてないのよね。旦那様も戻られないし、奥様も数日出かけるとおっしゃってたの」

「そっかぁ……。ごめんね、引き止めちゃって」


 トレイを受け取りながら、僕はお礼を言った。


「お昼の食事の時に回収するから、そのまま部屋に置いておいてね」

「うん、ありがとう」


 お父様のあの怒鳴り声を聞いたのかもしれないのに、普段と変わった様子は見せなかった。

 何かを知っていても、秘密を守るという使用人としての態度なのだろうけど、普段と変わらない態度なのは、正直ホッとした。





 結局、そのまま数日何も変化のない日が続いた。

 毎日、食事を届けてくれる使用人が、その日の出来事などを話してくれるけれど、代わり映えはしなかった。

 両親は出かけたまま戻らず、僕は塔の一室から出られない。

 本来ならばありえない状況なのだろうけど、屋敷には使用人だけが数人過ごすという異常事態となっていた。


 フレッドが怪我をした時に、お父様から僕に向けて発せられた『疫病神』という言葉が脳裏に浮かんだ。けれど、否定するように、頭をブンブンと横に振った。

 オメガの存在が悪い。疫病神だから不幸が降りかかる。そんな馬鹿げた話があるわけない。

 現在のハイネル家の異変は、以前と変わってしまったお父様自身が、引き起こした問題だと思う。それを今、お母様やペーターが水面下で調べているんだ。


 だからまもなく真実が解明され、この異常事態も落ち着くはずだ。

 不安の全てが解消されるわけではないけれど、僕はいつものように『大丈夫、大丈夫』と呪文のようにつぶやいた。



 それからまもなくして、扉がノックされた。

 ちょうどお昼の食事の時間だろうか「はーい」と扉の方に向かって返事をして、鍵を開けた。なのに、扉が開いて人が入ってくる気配がしない。

 ああ、トレイを持ってるから開けられないんだっけ。いつも「開けてー」って言われるので気にしなかったから、うっかり開け忘れてしまっていた。


「ごめんね。今開けるよ」


 そう言いながらゆっくり扉を開けると、目の前には予想もしなかった人物が立っていた。


「──っ!」


 思わず息を呑んだ。

 脳の処理能力が追いつかないというのは、こういうことを言うのだろうか。

 時間にしてほんの数秒の出来事だった。

 僕は信じられない気持ちで、目の前にいる人物の、頭の先から爪の先まで舐め回すように見てしまった。


「……久しぶり」


 目の前の彼はゆっくりと右手を上げると、照れくさそうにそう言った。


 驚きのあまり止まっていた思考がやっと動き出した。

 目の前の人物を認識すると、僕の口からは、ずっと会いたかった人の名前が飛び出してきた。


「……フレッド!!」


 記憶の中のフレッドよりも、背は高くなり、声も幾分低くなったように思う。

 それでも、はにかんだように話す優しい声は、何も変わってはいなかった。


 思わず僕は、フレッドの胸に飛び込んだ。懐かしい匂いがする。


「会いたかった……!」


 あまりにも懐かしくて魅力的な匂いに、僕は大きく息を吸い込んだ。

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