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再び巡り合う時 ~転生オメガバース~  作者: 一ノ瀬麻紀


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25. 孤独な塔の上

 オメガだと判明した日を境に、僕の人生は再び灰色の雲に覆われてしまった。

 今度こそ、光が差し込んで明るい未来が見えたと思ったのに。

 これから、希望に満ち溢れた人生を送れると思っていたのに。


「また、オメガだなんて……」


 窓の外を眺めながらポツリと呟くと、自嘲的に笑った。



 ここは塔の上にある、めったに人が近寄らない部屋。唯一の光は、窓から差し込む柔らかな光だけ。

 最低限の簡素な設備が整えられていて、食事は使用人が届けてくれる。用事を済ませる必要があるときだけ、使用人の監視のもとで部屋を出ることが許される。


 あの日以来、僕はずっとこの部屋にいる。

 顔を合わせるのは、食事を運んできてくれる使用人のみ。フィルやフレッドのことを尋ねても、無言で与えられた職務をこなすだけで、答えてはくれない。

 僕と親しかった使用人たちは、どうやら僕に関わる仕事から外されているようだ。部屋に来るのは見たことのない人ばかりだった。


 何もやることがなく、誰とも会話をしないで過ごしていると、どうしても思考は悪い方へ悪い方へと向かってしまう。


 フィルは無事に入学して、寮生活を楽しく過ごせているだろうか。

 僕の大切な弟。僕が役立たずだから、フィルに全部任せることになってごめんね。

 甘えん坊で寂しがり屋のフィル。寮生活はさみしくて泣いていないかな。僕が一緒だから大丈夫だよって言ったのに、嘘つきなお兄ちゃんでごめんね……。


 双子というのは、神秘的な力があると信じられている。

 遠く離れていても、お互いの心が共鳴し合う。

 僕の心も、フィルの心も、抜けないトゲが刺さったかのように、ずっとチクチクと痛み続けていた。


 フィルのことを考えながら、僕は首元につけられたネックガードを無意識に触っていた。ほとんど誰にも会わないから必要ないと思うのに、ここに入る時に無理やりつけられた。

 このネックガードは、オメガであるという現実を突きつけられているようで、余計に僕を苦しめた。







 夜も更け、城内が静まり返った頃、コツコツ……と階段を上がってくる足音が聞こえた。


「こんな時間に……? お父様かもしれない……」


 この部屋に人が訪ねてくるのは、基本的には食事の時だけ。今は城内が静まり返る夜更けだから、使用人たちも部屋で体を休めているはずだ。


 なのに、階段を上がる足音は、確実に近付いていた。

 僕は怖くなって、窓辺に移動して身を縮こませた。


 バース検査の結果が出た日の、お父様のあの冷たい視線が思い出される。まるで汚いものでも見るような視線に、僕の全てを否定されたような気がした。

 オメガというだけで、もう僕には人権はない。一生ここで過ごすのか。それとも、どこかに売り飛ばされるのか。

 ああ、そのために、夜中にこっそりやってきて、お母様も知らないうちに僕を遠くへやろうとしているのかもしれない。


 ……怖い。扉を開けたくない。でも開けなければ、何をされるかわからない。


 階段を登る足音が扉の前で止まった。

 僕は反射的にぎゅっと目を瞑り、体を硬直させた。


 コンコン……。


 控えめなノックの音。僕の心臓がバクバクと大きな音をたてる。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう……。


 窓の方をちらっと見る。あそこから出たら、僕は自由になれるかもしれない。

 僕はそう思って、ふらりと立ち上がった。

 せっかく転生できたのに、『リク』に会えないまま、また僕は別の場所に行くことになるんだ……。

 ごめんね、リク。僕は謝ってばかりだ。


 走馬灯のように、色んな人の笑顔が次から次へと脳裏に映る。

 そして、ひときわ輝いて見えたのは『フレッド』だった。

 

「フレッド……ごめんね……」


 やっぱり僕は謝ってばかりだ……。

 もっと、普通の人になりたかったな……。


 いつしか流れ出ていた涙を拭うこともなく、窓に吸い込まれるように近づいていく。


「ミッチ……」


 そんな時、扉の向こうから聞こえてきた声が予想外で、僕はびっくりして扉の方へ振り向いた。


「えっ……? フレッド……?」

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