表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/86

09. 消えた約束

 街で迷子になったあの日、フレッドに助けられて無事に帰ることができた僕たちは、後日改めてお礼をするために会う約束を取り付けた。

 けど、忙しいお父様のスケジュールはなかなか空かずに、やっと時間が取れたのは一ヶ月ほど経ってからだった。


 あの日と同じように護衛二人とメイド一人を連れて、街の中を進んでいった。途中までは馬車で乗り入れたけど、その先は道も狭く歩いていくしかなかった。

 その場所は相変わらず薄暗い路地で、空気も重く感じた。道行く人々の視線も、突き刺さるようだった。


 フレッドと別れたあと、メイドがフレッドに付き添って家まで送ったらしい。なのでフレッドの住んでいる場所もメイドが知っていたし、事前に会う約束も取り付けてくれたらしい。

 僕たちはフレッドの連絡先を何も知らないから、メイドがすべて段取りをつけてくれて助かった。

 メイドから聞いた話だと、フレッドの本名は『フレドリック』というらしい。でも本人が愛称を好んで使っているため、フレッドと呼んでほしいと言ったみたいだ。


 メイドの先導でさらに奥に進むと、それなりに大きなお屋敷にたどり着いた。ここがフレッドの住み込みで働いているお屋敷らしい。

 あの日のフレッドの身なりを思い出すと、どうしても腑に落ちなかった。このくらいのお屋敷ならば、いくら使用人とはいえもう少し整った身なりをしそうなものだ。


 門番に約束をしていることを伝えると、どうぞお通りくださいと門が開けられた。門番に軽く会釈をして庭を通り、玄関へ到着すると、ドアノッカーで訪問の合図をした。

 すると中から使用人が出てきて、その場で待つように言われた。拭いきれない不信感を胸に残しながら、僕は両親の後ろでフィルと一緒に待機していた。

 程なくして、五十代くらいだろうか。深いブラウンの髪の毛に少し白髪が混ざり始めた、野暮ったい格好をした一人の男性が出てきた。その表情からは、どう見ても歓迎している様子は読み取れなかった。


「お忙しいところ失礼いたします。私はハイネル伯爵家当主、エドワード・ハイネルと申します。先日、私の息子たちが迷子になった際に、こちらで働いている、フレドリックに助けてもらいました。お礼をしたいと訪ねてきたのですが、フレドリックはいますか?」

 お父様は優しく微笑みながら丁寧に尋ねているのに、この家の当主と思われる男性は、僕たちをジロジロとひと通り見たあと、ふぅと小さくため息をついた。


「エドワード・ハイネル伯爵、わざわざお越しいただきありがとうございます。しかし、あいにくフレドリックは今ここにはおりません。お手数ですが、また別の機会にお越しください」

「お待ちください。うちのメイドが本日、約束を取り付けているはずです」


 メイドを通して約束したのは間違いないはずだ。お父様は忙しくてなかなか時間の取れない中で、息子たちのためだからとやっと時間を作り出して訪ねてきた。それが不在な上に説明もしないで追い返そうとするなんて、不自然でしか無い。

 けれど当主と思われる男性は、お父様の言葉が聞こえていないかのように「それでは失礼します」と会釈をすると、そのまま屋敷の中へ戻っていってしまった。


「申し訳ありませんが、フレドリックとの約束は確認されておりません。何かの間違いではないでしょうか」


 屋敷内に戻る主人を見送ったあと、使用人は顔だけこちらに向けてそう言った。

 表情こそ変えなかったものの、迷惑だから、これ以上かかわらないでくれと言われているようだった。


 確実に約束を取り付けたのに、なかったことにされている……?


 主人の態度も、使用人の言葉も、不信感を抱く(いだく)には十分だった。



「なにあれ!」


 フィルがプンプンと怒り出した。

 久しぶりにフレッドと会えると、ワクワクした気持ちでこの屋敷に来たのに、不在だと言われた挙げ句、約束自体がなかったことにされているようだった。

 フィルじゃなくても怒りたくなる気持ちはわかる。


「あれっ!? あそこに、こやがあるよ。なんだろう!」


 さっきまでプンプン怒っていたフィルが、もう気持ちを切り替えたのか、興味は別のところに移っていた。

 広い庭の片隅の方を指さして、何やら見つけた様子で言うと、突然走り出した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ