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第83話:ブラックアウト

2051年1月下旬、新年の喧騒も落ち着いた頃、俺は黒川との面談のためにサイファー・アーキテクチャ社に出勤した。エレベーターを降りると、いつもより明るい雰囲気のオフィスに少し戸惑う。普段は無表情でせわしなく動き回る社員たちが、今日は皆、どこか上機嫌にみえる。


黒川の部屋に入ると、彼は満面の笑みで俺を迎えた。両耳には新型デバイスが装着されている。その姿を見て、俺は不安と期待が同居した奇妙な感情を覚えた。


「やあ、真島君。待っていたよ」


黒川の声は弾んでいた。


「君の加入は我々にとって大きな転機となった。この装置、素晴らしいじゃないか」


そう言いながら、黒川は左手のデバイスで何かを操作した。突然、彼の表情がさらに明るくなる。その変化は、まるで別人のようだった。普段の冷静沈着な黒川からは想像もつかない、幸福感に満ちた表情だ。


「これは、驚くべきデジタルドラッグだ。まるで天にも昇る気分だよ」


黒川は陶酔したような表情で言った。


「是非とも、エターナル・ソサエティの総会で発表しなければならない」


俺は驚いた。エターナル・ソサエティが世界規模の組織だったとは。これまで、日本国内の秘密結社だと思っていたが、その規模は俺の想像を遥かに超えていたようだ。


「真島君、君も同行してくれたまえ」


黒川は熱心に言った。その目は、まるで子供のようにキラキラと輝いていた。


「はい、喜んで」


その言葉が口から出た瞬間、俺は自分に驚いた。なぜそんなに簡単に承諾したのか。本来なら、もっと慎重に考えるべきはずだ。しかし、不思議と気分が高揚しているのを感じる。黒川の感情に影響されているのだろうか。それとも、この部屋全体から何かしらの影響を受けているのか。


黒川との打ち合わせを終え、オフィスを後にする頃には、夜も更けていた。東京の街は、いつもと変わらない喧騒に包まれている。しかし、俺の心には、自分の発明が世界を変えるという、これまでにない興奮と期待が満ちていた。


夜遅く帰宅すると、リビングでリンが待っていた。気分の高揚が続く俺に、リンは心配そうな目を向ける。


「お兄様、最近お仕事漬けですが、大丈夫ですか?」


リンの声には、明らかな心配が感じられた。


「大丈夫どころか絶好調さ」


俺は興奮気味に答えた。


「聞いてくれ、来月、スイスへ出張することになったんだ。この革命的な発明を発表するためにね」


俺は自分の耳から取り外したイヤホン型のデバイスを見せた。リンは困惑した表情を浮かべる。


「最近、お兄様はよくそれをつけて居ますよね。それは...一体何なのでしょう?」


リンの声が少し震えている。


「感情を読み取り、さらには操作できる装置さ。例えば、こうすると...」


俺は左手のデバイスで喜びのボタンを押した。瞬間、体中に幸福感が広がる。まるで、世界中の喜びが一気に押し寄せてくるかのようだ。


「たちまち幸福感に包まれる。すごいだろう?リンも試してみないか?」


リンの表情が曇る。しかし、俺はその表情の変化が気に留めるほど重要なものではないと考えた。


「いや、是非試してみよう。AIのリンにどんな効果があるか、興味深いじゃないか」


「いいえ、結構です。私はそれを装着したくありません」


リンは断固として拒否した。その表情には、これまで見たことのない強情さがあった。


しかし、俺は聞く耳を持たなかった。むしろ、リンの拒否が新たな興奮を呼び起こす。


「遠慮することはない。ほら、つけてみろ」


俺はリンに近づき、デバイスを手に取った。リンは後ずさりする。その目には、明らかな恐怖の色が浮かんでいた。


「やめてください!お兄様、正気に戻ってください!」


リンは必死に抵抗する。その声には、悲痛な響きがあった。


その瞬間だった。突如として視界が真っ暗になった。意識が遠のいていく。最後に聞こえたのは、リンの悲痛な叫び声だった。


闇の中で、俺は考えていた。自分は何をしているのか。リンを守るべき立場にいながら、なぜこんな行動を取ってしまったのか。意識が完全に途切れる前、俺は決意した。目覚めたら、リンに謝罪しよう。この危険な装置の開発を止めなければならない。しかし、その決意も、すぐに闇の中に消えていった。

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