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第59話:再起動の朝

朝日が差し込む寝室で、俺は目を覚ました。上半身を起こすと左手のデバイスを操作し、日課となったセーブポイントを作成する。この世界に来てから10日ほどが経過していた。


「お兄様、おはようございます!」


リンの明るい声が響き、彼女の部屋のドアが開いた。制服姿のリンが姿を見せる。上着は灰色のブレザー、スカートはグレー、ブルー、黒のチェック柄で、白いブラウスに水色と黄色のストライプのネクタイ、そして白のハイソックスに黒のローファーという、どこか品の良さを感じさせる制服姿だった。


今日は彼女の高校初登校の日だった。リンは制服に袖を通す姿に、どこか嬉しそうな様子を漂わせていた。


先週末、俺たちは渋谷の高校を訪れ、俺は「兄」として入学手続きを済ませた。リンは帰国子女として編入試験を受け、優秀な成績で入学を認められている。1学期も残り1カ月を切っており、2学期からの入学を勧められたものの、早く学校に慣れたいという理由で、すぐに入学することを認めてもらった。怪しまれることもなく、全てが順調に進んでいた。


「おはよう、リン。学校の準備は大丈夫だね」


「はい、問題ありません」


ダイニングに向かうと、テーブルにはAIロボットが用意した美味しそうな朝食が並んでいた。リンはパンを手に取り、かじり始める。その仕草は、もはや人間と見分けがつかないほど自然だった。この10日間で、リンは様々な食べ物を経験し、新しい感覚への戸惑いも少なくなっていた。


「俺も今日から就職活動をするよ。リンも学校、頑張って」


「はい、お兄様。とても楽しみです」


そんな会話を交わしているときだった。突然、轟音が響き渡る。次の瞬間、玄関のドアが吹き飛び、武装した警官が5、6名なだれ込んできた。


「警察だ! 動くな!」


俺はあっけにとられていた。何が起きているのか、頭が追いつかない。


リンが俺の前に立ちはだかる。


「止めてください! 私たちは何も悪いことはしていません!」


俺を守ろうとするリンの姿に、我に返った。この光景は、どこかで見たことがある。そう、現実世界で警察に地下シェルターを急襲され、国内治安維持法で拘束された時の記憶が蘇る。


「ここには武器や爆弾はありません。まず、逮捕状を見せてください」


何事も経験がものをいう——俺は落ち着いた声で告げた。


「逮捕状は必要ない」


最も高位と思われる警官が冷たい声で答える。予想通り、国内治安維持法による令状なしの拘束だった。


そして俺は今更ながら、最も重要なことを思い出していた。エターナル・ソサエティ総帥の黒川からのオファーに対する回答期限である1週間が、この世界ではすでに過ぎていたのだ。俺は現実世界の1週間がこの世界では3年だと思い込みすぎていて、この世界はこの世界の時間で進んでいることをすっかり忘れていた。


黒川は約束の1週間が過ぎても返事に現れない俺がオファーを拒否したと判断し、再び政府に働きかけて拘束しようとしているのだ。3年どころか、たった10日で俺たちの平穏な生活は終わりを告げた。


「リン!すまないが、3日ほど戻るぞ」


俺はそう叫ぶと、左手のデバイスを瞬時に操作して3日前のセーブポイントに戻る。目の前が一瞬暗くなり、気がついたらベッドから上半身だけ起こしている自分がいた。


日付を確認すると、確かに3日前の朝に戻っている。俺は急いでリンの部屋のドアを叩いた。


「リン! 大丈夫か」


「大丈夫です、お兄様」


部屋の中からリンの声が聞こえる。30秒ほど経って、リンがドアを開けた。


「すまなかった。せっかく、学校へ行くところだったのに。俺はすっかり黒川の回答期限について忘れていた」


「私は大丈夫です。それより、お兄様はどうするつもりですか?」


「この世界でもエターナル・ソサエティの手から逃れられないことは分かった」


俺は現実世界での厳しい逃亡生活を思い返していた。リンを同じ目に遭わせたくはなかった。


「とりあえず、俺は黒川のオファーを受ける」


リンは驚いた表情を見せた。


「でも、それでは、この世界を救うことはできないのではないですか?」


俺は深い息を吐いて言った。


「そうだな、今回の世界線では無理かもしれない。でも、どのみちエターナル・ソサエティの手を逃れる方法をまず見つけ出さなければ、俺たちは逃げ回るばかりで何もできない」


今回は、黒川の懐に入り込んで、エターナル・ソサエティが何を考えているのか、さらに、エターナル・ソサエティの手を逃れるにはどうすれば良いのかを探るしかない。黒川の元で働いている限りにおいて、リンと俺は普通に暮らせるはずだ。リンを学校に行かせてやることもできる。


「リン、今日の午前中、もう一度渋谷に行こう。同じ事の繰り返しで済まないが、編入試験を受けてくれ。午後はこの前の店で、自分で制服を買ってくれるかい?俺は午後、黒川の所に向かう」


リンは少し寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに理解を示した。


「分かりました、お兄様。一人でも大丈夫です」


俺は窓の外を見つめた。朝日が昇り、新たな一日が始まろうとしていた。この世界での3日前に戻ったことで、俺たちには再びチャンスが与えられた。俺は深呼吸をして、心を落ち着かせた。これからの道のりは険しいだろう。エターナル・ソサエティの内部に入り込むことで、新たな危険が待ち受けているかもしれない。しかし、現時点では他に道はないように思われた。

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