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第34話:暫定合意

Audreyによって明かされたライフコードの闇。俺たちはそれを正すために戦う決意を固めていた。


その時だった。突然、地下シェルターの電源が切れ、暗闇が室内を包み込んだ。部屋の中に静かな緊張が漂う。


皆が沈黙する中、Audreyを宿すデバイスの光が周りを薄暗く照らしていた。結月の接続は切れていた。


しばらくすると、非常用電源に切り替わってシェルター内が再び明るくなった。


「驚いたな。今の時代に停電か」


西村さんがつぶやいた。確かに、俺も生まれてから停電を経験した記憶はない。


「……インディゴが動いているのかもしれません」


俺には思い当たる節があった。


「ありうる話だな。社会のあらゆる場所にネットワークを持つ彼らなら、意図的に広範囲を停電させることも可能だろう」


西村さんは冷静に分析した。


「いずれにせよ、急ぐ必要がありそうだな」


斎藤さんが言った。


俺は急いで匿名コンタクトポイントを使ってKBとの接触を試みた。しばらくして、接続が確立された。


「KB、今の停電、君たちの仕業か?」


KBは沈黙した。俺はそれをイエスだと受け取った。


「我々もプロジェクト・オーバーライドの存在は把握している。まだ詳細は不明だが、何か大きなことが起きようとしている。何としても止めなければならない」


KBの声には緊張が滲んでいた。俺は一瞬考え、決断した。


「KB、提案がある。プロジェクト・オーバーライドを止めることでは俺たちの利害は一致している。そこで、当面の目標を、ライフコードの完全破壊ではなく、一時停止という形にして協力できないか?」


「一時停止?」


KBは不信感をあらわにした。


「そうだ。ただ、一時停止といっても、すぐに再稼働はさせない。できる限り時間を稼げるようにする。その後のことは、その時に考えるしかない」


KBは少し躊躇した後、同意した。


「俺だけでは決められない。正式な返事は後だ。ただ、反対する理由はない。今は時間との戦いだ」


とりあえず、暫定合意というところだ。俺たちとインディゴが別々の目的を持ってエターナル・ソサエティと対峙する事態は避けられた。


KBとの通信を切った後、俺は仲間たちに向き直った。


「西村さん、斎藤さん、お二人にお願いがあります」


二人が頷くのを確認して、俺は続けた。


「西村さん、マスコミにプロジェクト・オーバーライドの危険性を伝えてください。ライフコードのシステムが何者かによって大幅に書き換えられようとしている、ということだけで構いません。斎藤さん、政府筋に働きかけてください。ライフコードの停止に備えて、社会の安定を保つための準備を進めるよう要請してください」


二人は俺の意図を即座に理解し、すぐに動き出した。


しばらくして、コンソールに結月の間抜けなアバターが映し出された。


「停電ってなんだよ! ここにつなぎ直すの、無茶苦茶面倒なのに」


結月は怒っていた。


「すまないユヅ。お前の力がどうしても必要なんだ。ライフコードの監視とエターナル・ソサエティの調査を続けてくれ。Audreyと協力して、できる限りの後方支援を頼む」


結月を巻き込みたくないなどと言いながら、俺はこの天才中学生を完全に当てにしていた。


「了解!」


結月は力強く答えた。


「Audrey」


俺がデバイスに向かって言った。


「君の力が必要だ。俺たちを導いてくれ」


「はい、全力を尽くします」


Audreyの声には強い決意が込められていた。


俺は深く息を吐いて自分を落ち着かせた。


「よし、準備を始めよう。時間がない」


自分に言い聞かせるように、そう言った。しかし、心は揺れ動いていた。本当は、結月を巻き込みたくなかった。しかし、澪を失った今、結月の力は絶対に必要だった。Audreyが危険を冒すようなことも避けたかった。彼女はライフコードを使って行われていたことの全てを知っている、唯一の「目撃者」なのだから。しかし、事情を知る優秀な頭脳を眠らせておく余裕は、今の俺たちにはなかった。

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