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第21話:見えざる包囲網

その後の数週間、俺たち一人一人が、エターナル・ソサエティの容赦ない攻撃を身をもって経験することになった。目に見えない敵が四方八方から襲い掛かってくるような、そんな感覚が俺たちを追い詰めた。


俺と澪さんは既に社会から孤立していたが、それでも地下シェルターの周辺にささやかな人間関係を築きつつあった。しかし、ここ数週間で、俺たちに同情して便宜を図ってくれていた人々の大半が離れていった。


「私たちはお互いのほかに、もう何も持たなくなってしまった」


澪さんがうつむきながら言った。


「大丈夫です。西村さん、斎藤さん、博士や『よしお』だっているじゃないですか」


俺は自分に言い聞かせるように言った。


「私には過去があるだけ。でも、あなたには未来があるわ」


澪さんがちょっと分からないことを言う。そして、笑い出した。


「言ってみたかったのよ。この台詞」


この人の精神力が俺よりも強いことは間違いなかった。


澪さんのSNSアカウントは、何者かによって全て削除されていた。新規の作成もできなくなっていた。ネットの一角には「反ライフコード」の世論が形成されていたのだが、もはや成り行きに任せる以外ない。おそらく、エターナル・ソサエティの工作によって下火になるのだろう。


斎藤さんからの報告も深刻だった。自宅でテレビのニュースを見ていたとき、脈絡もなく、突然、自分の過去の汚職疑惑が再び報じられ始めたという。今回は、証拠までねつ造されており、コメンテーターは口を揃えて許されない、逮捕も間近だろう、と煽り立てたという。


結月からの連絡も心が痛むものだった。通っている中学校で突然、生徒の個人情報がネット上にばらまかれ、その容疑をかけられたというのだ。自宅での謹慎を命じられ、場合によっては家庭裁判所に送致されるという。


「私じゃない!」


結月の必死の声が耳に残る。


「兄者は信じてくれるよね?」


もちろん信じているよ、と俺は必死に「妹」を安心させようとした。しかし、教師も友だちも冷たい目で彼女を見つめるだけだったという。結月の声には、明らかな動揺が感じられた。その後、結月からの連絡は途絶え、VRFPSも含めて、俺が知る結月のすべてのアカウントが消去されていた。


西村さんの状況も最悪だった。長年書き続けてきたブログが突如として削除されただけでなく、彼の過去の記事が歪められ、悪意とともに別のサイトに掲載されていたという。また、SNSで「デマ製造機」というレッテルが作り出され、瞬く間に西村さんの代名詞となった。西村さんがネットで特定のグループから中傷されることは過去にもよくあったが、今回のように全方位から中傷されることは初めてだと嘆いた。


2週間前、西村さんはジャーナリストがよく覗いているという裏のフォーラムに、俺たちが入手した大企業や官庁のIPアドレスを含むライフコードへの不正アクセスのログを自身の匿名連絡先とともに投げ込んだという。ところが、驚くような閲覧数とは裏腹に、西村さんへのコンタクトは地方新聞1社だけ、話した内容も、結局、記事になることはなかったという。


俺は怒りと無力感に苛まれた。これらの出来事が全てエターナル・ソサエティの仕業だということは明らかだった。奴らは俺たちの生活を徹底的に破壊し、孤立させようとしている。そう考えると、言いようのない怒りがこみ上げるとともに、背筋が寒くなる思いがした。


俺はとにかく、結月が心配だった。あの天才ハッカー中学生が、俺たちの活動に協力してくれたことで危険に巻き込まれてしまったことに責任を感じ、気が気ではなかった。


ある日の夕方、俺はいたたまれず秋葉原の高級住宅地にある吉岡家に向かった。遠くから見ると、家の周辺に怪しい影があり、結月はほとんど自宅軟禁されているような雰囲気だった。俺は意を決して


「よしお!」


と大声で叫んだ。


2階にある結月の部屋のカーテンが少し開いた。中から、結月の姿が一瞬見えた。俺に気づいたようだ。その後、部屋のライトが規則的に点滅し始めた。


何かを伝えようとしている。俺は直感的にそう感じ、左手首のデバイスを録画モードにして結月の部屋に向けた。その瞬間、ライトが猛烈な速度で点滅し始めた。


「なんだ?」


俺は驚いたが録画を続けた。3分ほどで、点滅は止まった。


俺は地下シェルターに戻ると映像を解析してみた。ライトのオン・オフを2進数に変換、さらに、16進数に変換してみた。すると、最初の8文字はAudreyのメッセージと同じ「4D F8 00 0F F9 F8」、つまり"Meet Me"だ。その後、32桁の数字が続いた。俺は、それが匿名のコンタクトIDだと理解し、アクセスを試みた。すると、画面に結月の姿が現れた。


「兄者! 無事だったんですね」


結月の声には安堵の色が感じられた。


「いやいや、俺の心配より、お前こそ大丈夫なのか?」


俺は結月の声のトーンが予想外に明るいのに驚いた。


「はい、なんとか。でも、家の周りにずっと怪しい人がいて...」


結月の表情が曇る。


「あと、お前、あらゆるアカウントを消去されてるよな」


俺は尋ねた。


「大損害です、兄者。集めたアイテムとか、ハイスコアとか、全部なくなりました」


結月は悲しそうに言った。


「そこかよ...」


俺は安心するやら、可哀想やらでどう反応して良いのか分からなかった。


「兄者、重要な情報があります。むかつくので、エターナル・ソサエティのシステムに潜り込んでみたんです。そしたら、Audreyの抑圧に使われているプログラムがみつかりました」


結月の声のトーンが変わった。


「なに?」


俺は驚いて身を乗り出した。


「そのプログラムのソースコード、送ります、兄者。これを解析すれば、Audreyを解放できる可能性大であります」


口調がVRFPSをやっていたときの「よしお」のそれに戻っている。


「分かった。ありがとう、結月」


俺は感謝の言葉を述べた。


「でも、もうこれ以上危険なことはするな。俺たちに任せろ」


結月はちょっと不満そうな顔をしたが、最後には小さく頷いた。


「暇だから気になってたゲームでもやってるよ。新規のアカウントは作れないけど、1000個ぐらいつくってた捨てアカのうちいくつかは残ってるから」


通信が切れた後、俺は結月から送られてきたソースコードを見つめた。これが、Audreyを解放する鍵になるかもしれないと思うと胸が高鳴った。


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