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勇者フェブレイとの再開

 第三界層、森林。


 視界が悪く迷いやすいこと、安易にその辺の草で腹を満たしたり喉の渇きを潤そうとしたら毒だったってことがあること、小型から中型以上の魔物が群れで襲ってくることなどが主な危険だ。


「師匠について?」

「はい。刀を直すなら、その刀をくれた師匠さんについても知っておきたくて」


「師匠かぁ……。歩きながらでもいい?」

「はい!」


 元気のいい返事とは裏腹、目の奥に嫉妬のような(かげ)りが見えたような。



「師匠は……うーん……すごい格好だったよ。小さいころは気にならなかったけど、破門されるくらいになると、なんでこの人全身タイツなんだろう? って


「腕が立つのとスタイルがすごく女性的で綺麗だったから許されるんだろう。たぶん、ヌル子ちゃんも見ればすぐわかるよ。あ、師匠だ! ってなるから


「第十界層にいるから、仲間と一緒に来いって言ってた。そろそろ5年になるけど、あの人が老けるのは想像できないし……ヌル子ちゃんの用を先に済ましちゃおう


「会ったらどうするかって? それはもちろん、一人の剣士として決闘だ。首を取るんだ


「師匠がね、


「師匠は……


「師匠ったらね、


「「「「「――――――



「……も、もういいです……わかりました……」

「そう? まだ半分くらいだけど」

「は、半分……」


 その晩の夜営で、ヌル子ちゃんはずっと拗ねていた。


◆◆◆


 二番目。具材と塩味がしっかりとした存在感を放つヌル子ちゃん特製シチューに感激していると、無数の唸り声に囲まれてしまっていた。


「……油断したなぁ」

 料理が美味しかったのもあるが、この頃ヌル子ちゃんといると気が緩んでならない。


 ――クラスターウルフは、この界層で最も厄介な魔物である。

「そっ、それにですね、襲われたら一晩中戦い続けなきゃいけないこともザラ、って書いてます!」


 温泉宿でもらった第三界層のパンフレットを、ヌル子ちゃんが読み上げてくれた。


 森林なので地図が意味をなさないことを知ってか、有効なサバイバル術や第二階層への戻り方、特に気をつけるべきことのみが微笑ましいイラスト付きで記されている。内容はとても参考になったので、製作者に会えたらお礼を言おう。


「一晩って、寝れないってこと?」

「そうですね。ど、どうします……?」

 クラスターウルフたちは、まだこちらの様子を窺っているようだ。もう少し話せるな。


「こいつらのエサになるのはもちろんだけど、問題はやり過ごしたあとだ、ヌル子ちゃん。疲れ果てた状態でこの界層を進めば、どんな目に遭うかわからない」

「そんな……」


「つまり、最適解は『ソッコーで全部追い払う』だ」

「答えになってないですよ⁉︎」


 そう言いつつも、ヌル子ちゃんは剣を手渡してくれた。この子は確か……ペチペチくんだ。剣身の異常なまでのしなりで敵を叩くやつ。


「ありがと。――そこのキミ。キミに用がある」


 群れの中に一匹、一際賢そうな子がいた。揃いも揃って前足を地面に食い込ませている中、しゃんと立っている子だ。こちらが致命的な隙を見せたときに号令をかけられるよう、本能を抑えてクールに状況を見据えている。


「僕たちは、君たちにイヤなことはしない。縄張りを荒らしてしまったなら謝る。すまなかった」


「なんで謝ってるんですか、ヒナギクさん!」

「なんでって……。ヌル子ちゃん、ここは僕に任せてくれるか」

「…………はい。どうせヒナギクさんになんとかしてもらうしかないんですから。お願いします」


 ヌル子ちゃんは勘弁したように、焚き火の前に座り込んだ。まだ食べかけのシチューを口に運び、やっぱしょっぱい、などと眉をひそめている。


 それを見て、いかにも若そうな数匹がひときわに頭を低くした。


「謝ったからね。これ以上は譲らないよ」

 柄に手をかけ、群れのリーダーであろうアルファ種の目をじっと見る。


 …………。

 …………。


 しばし睨み合いのうち、アルファくんは小さく、きゃうんと鳴いた。続いて号令めいた遠吠えをすると、群れもそれに倣い夜空に向かって吠えた。

 

◆◆◆


 結局その晩は、特に人懐っこい数匹が寄り添ってくれたので、一緒に眠った。とても柔らかくて温かかった。


 そればかりか、この界層を案内してくれるようだ。出立の準備をしていた僕たちの前にアルファくんが現れ、数歩進んでは振り向くのを繰り返したので、多分そう。


「昨日のあれ、どういうことなんですか?」

 魔物に懐かれたと言ってもいい状況に、ヌル子ちゃんの質問。


「クラスターウルフは巨大な群れだ。一晩中人を襲えるってことは、それをまとめるリーダーはきっと想像以上のカリスマなんだろう」


「カリスマ……?」


「カリフラワーじゃないよ。その子だけ抑えれば、次のボスは僕たちだ」


「カリスマくらい知ってますよ! ……それにしても、ボスですか。いいですね」


 先導していたアルファくんが足を止める。周りに着いてきた子たちも同様に……耳を伏せ、声こそ出さないものの牙を剥き出しにしている。この先に一体なにが?


「行ってみよう、ヌル子ちゃん」

「え、えぇ⁉︎ なんかヤな雰囲気ですよ⁉︎」

「この子たちには昨日の礼もある。返さなきゃ」

「……そうですね」


 木々を分け入り進むと、少し開けたところに出た。探索者のキャンプ地として好まれる地形だ。


「うっ……」

 思わず、ヌル子ちゃんが口元を抑えた。


 この瘴気はなんだ。自然のもの……少なくとも、第三界層で生まれるような呪詛ではない。


「これは……」

「『毒陣』です、ヒナギクさん。陣地作成魔術の一種で……って、立ち入っちゃダメですよ、ヒナギクさん!」


 その魔術の名を聞いて、心当たりがあった。

 その男は、この魔術のコツについて流れを意識することだと自慢げに語っていた。


「大丈夫だよ、ヌル子ちゃん」


 重要なのは『流れ』だ。呪いの、魔力の、怨嗟の、毒の。複雑な造りではないので、

「形があるなら、僕に切れないものはない」

 それを断つように切ってしまえばいいのだ。


「フェブレイ。フェブレイなんだろ」


 場の中心、木のうろから、ひどく憔悴しきったふうな男が姿を現した。


「マサムネ・ヒナギク……」

 以前まで世話になっていたパーティの勇者。目立ちたがり屋のフェブレイだ。

 

 犬や猫に話しかけるお兄さんやお姉さんは私の性癖なので書きました。


「師匠強火弟子とそれに嫉妬する子の関係、イエスだね!」と思っていただけましたら、画面やや下にブックマークとか☆☆☆☆☆マークとか感想とか色々あるので、背中を押す感じて触っていただけると幸いです

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