傍外・勇者フェブレイの凋落
「いやぁ、傑作だったな!」
焚き火を囲い、獣肉を食う一組のパーティ。
金髪の勇者・フェブレイを中心とした探索者たちは、勇者・魔術師2・剣士1・弓手が一人の構成をしている。界層ダンジョンを攻略するにあたり、比較的オーソドックスな組み合わせと言えるだろう。
「見たか? カタナとかいう変な剣を折られたときのアイツの顔をよぉ」
まだ可食部の残る骨つき肉を無造作に投げ捨て、酒を煽るフェブレイ。
「『師匠からもらった、大事なものなんです』だってよ。知るかよンなこと! 無駄な殺生はよくないだの、まだ子供だから見逃そうだの、何さまのつもりだよ、アイツ。ちょっと面白い武器持ってたから、目立つと思って一緒にいてやったのによぉ。なぁ?」
酔いも回ってきたのか、隣に座る女魔術師と肩を組む。彼女の装備は肌の露出が無駄に多いもので、魔術による対環境補正は一応ある。彼女の表情は、明るいとは言えない。
「フェブレイ、そろそろ休んだ方がいい。ここ最近魔物との遭遇が多い……休めるときに休もう」
男剣士が口を開く。パーティの要石とも言える人物で、経験も豊富なことから、フェブレイも一目置いている存在だ。
「そうだな。なんか最近、ザコが寄り付いてウザいったらありゃしない。おい! 索敵任せたぞ。オレ達は休む」
「は、はい!」
気弱そうな女魔術師が命令され、跳ね上がりながら了承した。
「大丈夫ですよ。ぼくも一緒に見張りますから」
「は、はい……ありがとうございます……」
そんな彼女に、男弓手が寄り添った。
◆◆◆
「フェブレイ! フェブレイ起きて!」
男弓手が、勇者の体を強く揺する。
その背後では男剣士と女魔術師二人が、数十匹の魔物と交戦してた。
「なんだよ……まだ朝じゃないだろ……」
それどころか、あれから薪を足すほどの時間すら経っていない。
「って、なんだコレ! おい、索敵任せたはずだよな!」
状況に対し、フェブレイがまず行ったのは仲間の糾弾だった。
「油断しすぎだ、フェブレイ! いくらしっかり索敵しようにも、それより早く交戦距離に入られたら意味がない!」
「なら入れるなよ! こんなザコども、警告術式も一緒に使えば寄ってこないはずだろ!」
「いまそんなこと言っても仕方ないだろ! まずは追い払わないと」
……。
抗戦は夜明けまで続いた。
彼らが戦っていた獣型魔物のクラスターウルフは、夜になると力を増すという比較敵スタンダートな特性を持つ。日が登れば撃退は容易だ。
「おい、新入り」
身体中に傷を負いながら、フェブレイは小柄な女魔術師を吊し上げていた。
「どうなってんだこれは」
「ど、どうって……」
「なんであんなのに襲われることになった? なぁ。なぁ!」
「ひぃっ」
振り上げられた拳を、男弓手が押さえた。
「なんだ? お前も歯向かうのか?」
「それは……」
「落ち着けフェブレイ。その子はちゃんと仕事をしていた。それでもクラスターウルフに襲われたのは、我々がナメられたということだ」
言い淀んだ男弓手に続いて、男剣士も立ち上がる。
「じゃあ何か? オレたちの連帯責任ってことか? 違ぇだろ。あの腰抜けが抜けた途端に、あんなのに見下されるようになったってことか? そんなわけねえだろ。コイツが使えないってだけだ。サポートもできない、ツマンネぇ身体の女がよぉ」
「フェブレイッ!」
吠えたフェブレイの頬を、男弓手が力の限り殴りつける。繊細なコントロールを要求される弓使いが、それでも拳を痛めかねない行為に及んだことで、パーティの中により一層の緊張が走った。
「…………すまない、フェブレイ。熱くなった。今まで世話になったな」
「ま、待ってください……!」
荷物をまとめ、男弓手はパーティを去った。華奢な体つきの女魔術師も、彼のあとを追う。
「潮時かもねぇ」
紫炎を吐き出して、露出の多い女魔術師が呟いた。
「なんだ……なんだよ、お前まで」
「フェブレイ。お前とも短くない付き合いだ。街までは一緒に帰ってやる」
二人にも背を向けられ、フェブレイは喪失感からか膝をついた。