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shall we,show me,sweet my Smith

「な、ななななな、なっ、」


「おはよう、ヌル子ちゃん」

「何してるんですかーッ!」


 女主人さんに紹介された宿。

 顔を洗い終えリビングに戻ると、胸元をはだけたヌル子ちゃんが枕を投げつけてきた。キャッチ。


「なんで私裸なんですか!」

「シャツは着てるだろ」


「脱がっ、脱がせたんですよね⁉︎」

「酔って寝苦しそうだったからね」


「なんで同じ部屋なんですか!」

「ひどく酔ってて危なかったし……ヌル子ちゃんの家知らないし、女の子だったから」


「もー!」


 頭まで毛布を被ったヌル子ちゃん。ぷちぷちとボタンの音がするので、前を閉めているのだろう。


「……ふぅ。確認しました……何もしてないようですね」

 なんの確認だ。


「着替えるので出ててください。はやく」


◆◆◆


 まだちょっとトゲトゲしてるヌル子ちゃんに連れられて、工房に来た。


「ここがヌル子ちゃんの?」


 そこら中に試作品らしき剣が転がっている。剣というにはヘンな形だが、……あえて形容するなら剣だろう。


「そうです。でも材料が全然なくて……。しばらくは剣……刀っていうんでしたっけ……の素材を集めて、っていう方針なんですけど……」

「いいよ」


「それで、当座の武器がですね……」

「言っただろう。棒切れでも構わない。ここのを数本借りてもいいかな?」

「えっ、ここのですか⁉︎」

「えっ、だめだった?」

「ぜんぜん全然ぜんぜんぜんぜん! ぜひ使ってください! ナマクラかもですけど、魂込めて作ったので!」


「いいね。そういうの」

「えへへ……」


 機嫌が一気に回復したヌル子ちゃんと共に、ダンジョンへ出発した。


◆◆◆


「お目当ては第二界層にある鉱石です。案内しますね」


 今回持ち込んだ剣はヌル子ちゃんが特に上手くできたというナマクラ三本、念のために買った市販品二本。それらはヌル子ちゃんの魔術『リュック』でどこかにしまわれているらしい。


◆◆◆


「サラマンダーですね。資料によれば、喉の奥にある火袋がいいらしいです」

「わかった」


 四つん這いの赤い爬虫類だ。間抜けな丸顔に反して、耐火防具がないと厳しいくらいの炎を吐くらしい。


「これをどうぞ。市販品です」

「僕の腕試しってこと?」

「そうです」

「まぁ、見ててよ」


 サラマンダーの頬が大きく膨らみ、ボウッと火を吹いた。耐火コートで受けて反撃しようとすると、さっきのを目眩しに小さめの火球をいくつも放っていた。胃に溜め込んだ石と同時に吐き出しているものだ。


「シッ!」

 こういうのは盾でガードするか、斬り払うしかない。


「御免!」

 つぶて全てを落とし、首元目掛けて剣を振り下ろした途端、赤い外皮に触れるでもなく、パキンと音を立てて刃が粉々に砕けた。昨日の椅子の足と同じだ。


「ヒナギクさん!」


 一旦退いて、ヌル子ちゃんから次の剣を受け取る。


「ぐにゃぐにゃくんです! ブレード部分に非常に柔らかい金属を使用して――」


「今度こそ!」


 握っているだけでも軸がブレて危なっかしかったが、なんとか首を断てた。

 手を一つ合わせて、素材を回収。構成核を失ったことで、サラマンダーは赤い土に還っていく。


◆◆◆


 その後も――


「金剛ヤドカリです! ドシドシくんでお願いします!」

 事実上のハンマーを渡されて、ダイヤの殻をもらったり。


「鉄竜! 鉄竜ですよ!」

 レアな鉄竜(外皮を鋼鉄に覆われ竜種のうち、四本足のものを指す)を相手に、市販品がまたぞろ砕けたので、最後の試作品であるギザギザくんを使うことに。……ヌル子ちゃん、ノコギリっていうんだよ、これ。


「すごいすごーい! これでしばらくは素材に困りませんね! あっ、赤鋼! うーん……いい匂い……」

 よくわからないけど、すごいはしゃぎようだ。


「すごいのはヌル子ちゃんの作った剣だよ」

 忙しなく鉄のかけらを拾うヌル子ちゃんが手を止めた。


「すごいって言っても、ヒナギクさん全部普通に切っちゃってたじゃないですか」


 なぜ不機嫌になる……?


「ヒナギクさん、ただ切るだけじゃないですか! むしろなんで切れるんですか⁉︎」


「なんでキレるんですか?」


 ほんとなんでだ。


「切れるっていうか、多分振れるだけですごいんだよ、ヌル子ちゃんの剣は」

「それってどういう?」


 完全に砕け散った市販品の柄を拾い上げる。


「その辺で買ったやつは、僕が振り下ろすだけで砕け散ったんだ」

「そうですけど……」

「ヌル子の剣は、ほら。ヒビ一つない」

「そりゃ、そうですけど……」


 全然わからない、というふうに首を傾げられた。


「師匠からもらった刀以外を使ったのが初めてだから分かんないけど、多分、僕が剣気を込めただけで、普通のだと壊れちゃうんだよ」


「けん、き?」

 鉄の鱗を一つ拾って、地面に書いてあげる。


「まぁ、切るぞって意思とか、気合いとかなんだけど。鍛えれば棒切れでも鉄を切れるようになれる」

「あぁー! それで椅子の足でも!」


「そうだね。あれは木だからって加減してたけど、なまじ剣だってわかってると遠慮しないから、壊れちゃうみたい」


「私の試作品を剣だと思ってないことですか……?」


 しまった。

 家で落ちこぼれてることを気にしているヌル子ちゃんだ。こういう言い方をすると引っかかってしまうのか。


「違う違う。ちゃんと全力だったよ。でも壊れなかった。だから、今度はこっちからお願いするよ」


 少し屈んで目線を合わせ、小さな手をとる。


「どうか、僕の専属鍛治師になってください」

「自己肯定感低めの子には王子様ムーブをぶつけんだよ!」と思っていただけましたら、画面やや下にブックマークとか☆☆☆☆☆マークとか感想とか色々あるので、背中を押す感じて触っていただけると幸いです

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