「あとで知ったんですけど、太らない体質だって聞いて蹴っちゃいました」
「……ヌル子ちゃん、専属の?」
パーティということだろうか。
「はい。……立ち話もなんですから、お店行きませんか? お代はお支払いしますから」
◆◆◆
ヌル子ちゃんに連れてこられたのは、深夜も営業している食事処だった。お酒もそこそこ揃っていて、メニューはガッツリ系の炭水化物をメインに軽食も取り揃えられている。こんな時間にこんなところで食事する客の期待に応えた、いい店だ。
「えっと、まずですね。私、ヌルレイン・クロームスミスといいます。この意味、わかりますか?」
ワインで唇を湿らせながら、ヌル子ちゃんが話しはじめた。小柄な女の子が、ということで店員から確認が入ることも……、常連であることを窺わせた。
「クロームスミス……クロームスミス?」
聞き覚えはあるんだが……なんだったか。
「鍛治の名家、クロームスミスですよ。自分で言うのもなんですけど。探索者さんなのに知らないんですか?」
……そういえば、フェブレイが自慢していた剣が、そういうブランドだったような……。
「あいにく、僕はずっと師匠からもらった刀だけだったから……ミートパスタ頼んでいい?」
「どうぞ。それで、一人前のクロームスミスには条件があって……。今年……20歳が終わるまでに、自分の作った剣で第五界層まで行く必要があるんです」
「それで?」
湯気まで香るミートパスタが届いた。鮮やかなトマトベースのソースが眩しい。
「……食べながらでいいですから、聞いてくれますか?」
「やった。いただきます」
「あと、笑わないでくださいね」
「うん。笑わないよ」
パセリがいい仕事をしている……。厨房の方から客がいなくて暇してる店主が覗き込んできたので、サムズアップをすると、満足げに笑って戻っていった。
「私、落ちこぼれなんです」
「そうなの?」
「そうですよ。普通はみんな18でできてるのに、私だけ……。それでメがないって家も追い出されて、皮剥きなんかやってるんです……」
「皮剥きも立派な仕事だと思うけどな。アップルパイ頼んでいい?」
「どうぞ。当主も妹になりそうだし、もういいやーって思いつつ、じっとしてられなくて素材とか集めてたんですけど……いろんな人に頼んだけど、第五まで行ける人は聞いても見てくれなくて……」
パイが来た。生地にはしっかり照りもあり、
「わー、美味しそう!」
「……聞いてます?」
ジトっとした目で見られた。
「しっかり聞いてる。誰も引き受けてくれなかったんだよね」
「はい。それで、今日のあなたを見て確信しました!」
「サクサクサクサク……」
「……。私、この人とならクロームスミスになれるって! だから、」
「サクサクサクサクサクサクサクサク……」
「……その、」
「サ、ク……」
「聞いてます?」
「聞いてるよ」
「はぁ……。人としてはちょっとアレみたいですけど、腕は立つみたいですし。お願いしてもいいですか?」
「いいよ。よろしく」
このパイもとても美味しかった。生地にリンゴジュースを練り込んであるのか……。店主にちっちゃく拍手を送ると、ご満悦で戻っていった。
「その。頼んどいてこういうこと聞くのは失礼なんですけど、ヒナギクさんも大概失礼なんでおあいこってことで……大丈夫なんですか? 第五界層ですよ? 生存限界域ですよ?」
「失礼とは失礼だな。僕はただ素晴らしい食事に敬意を払っているだけだ」
「私には⁉︎」
「食べながらでいいと言うから……気を悪くしたならすまない」
「まぁ、そういうことなら……」
「第五まで行けばいいんだよね? いいよ。棒切れでもなんでも。君を連れて行ってあげる」
「やっぱり失礼ですね!」
あんまりぶどう酒を一気に飲むとよくないらしい、と伝える間も無く、ヌル子ちゃんはグラスを空けてしまう。
「最後にいちおー確認ですけど、ヒナギクさんはどこまで行ったんですかぁー?」
テーブルに突っ伏してしまった……。
「僕? 第七界層だけど。行ったことあるけどすぐ引き返したんでもいいなら第八だね」
「へぇー。えひひ……すごいですねぇ。」
ご飯食べてるとこ完全に女の子なんですよね。書く機会があるかどうかわかんないですが、ヒナギクの大好物はちょっと前がきっかけでシチューです
「好きな人ならまず胃袋を掴みたい!」と思っていただけましたら、画面やや下にブックマークとか☆☆☆☆☆マークとか感想とか色々あるので、背中を押す感じて触っていただけると幸いです