ヌルレイン・クロームスミス/皮剥き兼業鍛治師
「魔術、使えないんですか⁉︎」
一緒に帰る、つまり一時的なパーティを組むにあたり、僕が魔術の類いを一切使えないことを伝えると、ヌル子ちゃんは信じられないというような声を上げた。
慣れたつもりではあるけれど、やっぱり傷つく。
「使えなくて困ったことないし……」
「たまたま困らなかっただけです! 索敵はもちろん気配遮断、虫とかの群体型の魔物との戦いには必須で、だからパーティが必要なんです!」
「……そうなの?」
「そうなんです。ヒナギクさんも、今までそうだったんですよね?」
「……違うけど」
「違う⁉︎」
ぷりぷり怒るヌル子ちゃんも見ていて愉快だけど、あんまり強めに詰められるとさすがにダメージがある……。心配してくれてるんだろうけど……。
「フェブレイ……あ、勇者ね……のとこは仲良くしてくれたから一緒にいたんだし、パーティに所属してたのも、そうじゃないと師匠に会ったとき決闘を受けてくれないからだし……それに、索敵は僕の仕事だったよ?」
「……はぁ。じゃあ、索敵係お願いしてもいいですか? 私、そっち方面はできないので」
◆◆◆
ヌル子ちゃんの案内に従うこと、数時間。
「……うそ……」
草原の第一界層を抜け、街の出入り口にきた。
「うそじゃないよ。索敵やってたんだって」
「そうじゃないです!」
そうじゃないならなんなんだ。
「途中、魔物に全然会いませんでした。どういうことなんですか?」
「どう、って……怒らない?」
「……怒りません」
「ほんと?」
「ほんとです」
「じゃあ……」
普段は魔物たちに向けて威嚇している剣気を、不本意にながらヌル子ちゃんに向ける。
「ひぃっ⁉︎」
とっさに頭を手で庇い、ヌル子ちゃんはしゃがみ込んでしまった。
「やめて、やめてください……叩かないで……」
……。
「叩かないよ」
「…………」
涙を滲ませて、僕を見上げるヌル子ちゃん。
「……えっと、その……なっ、何するんですかー!」
「怒らないって、怒らないって言ったから!」
「む、むむー……」
納得のいってない顔だ。納得できないのは僕の方だ。
「確かに、これならヘタな索敵よりも効果的ですね。はぁ……うん。ありがとうございました、ヒナギクさん。それではまた、ご縁がありましたら」
ペコリと深くお辞儀をして、ヌル子ちゃんは走っていってしまった。
◆◆◆
「いらっしゃい!」
「すまない。金はないんだ」
ギルド横の食堂。
切り盛りしている女主人にそう伝えると、
「帰んな!」
と言われた。それもそうだ。
「帰ろうにも帰れない。できれば、ここでしばらく働かせてほしい」
「ふむ…………」
フライパンを器用に返しながら、僕を見聞する。
「立ち姿よし、顔もいいし肝も据わってる……。いいよ! 腹は減ってんのかい?」
「うん」
「賄い食ったらさっそく着替えてウェイターだ! よろしく頼んだよ」
「ウェイターか……。うん。こちらこそ、よろしく頼む」
……。
「あ」
「え」
白シャツにスラックス、サロンエプロンに着替え終えてバックヤードから出ると、厨房の隅でヌル子ちゃんがしゃがんで芋の皮を剥いていた。
「……ども」
「久しぶり、ヌル子。これからしばらく、ここでお世話になることになった、マサムネ・ヒナギクだ。よろしく頼む」
ウェイター姿としゃがんで芋触ってるところが書きたくて仕方なかったです。
「このあとめちゃくちゃ仕事したんだよね……」と思っていただけましたら、画面やや下にブックマークとか☆☆☆☆☆マークとか感想とか色々あるので、背中を押す感じて触っていただけると幸いです