11.女殺しと悪魔による剣舞と彼女の恋心
たった一つ、たった一つだけ。
明日も彼女が笑っていてくれたらそれだけで。明日も何も知らずにどうか幸せなままで。それなのに彼女は教えてくれと言う。俺に過去の全てを教えてくれと言う。
「エディさん、お願い。魔術を解いて、あのことを考えさせて……」
俺が悪いのかな、どうして伝わらないんだろう。守ろうとしているのに、こんなにも。いつか彼女の可愛いおねだりに負けて教えてしまったらどうしよう。レイラちゃん、お願いだから君はそのままでいて欲しい。
何も知らずにこの先を生きて行って欲しいよ。それともこれは俺の我が儘なのかな、君を傷付けてしまうだけなのかな。でも、それでもいいよ。構わないよ。
「俺は絶対に言いたくない……教える気もない」
冷たく拒絶をすると、傷付いた顔をしていた。でもこうするしかないんだよ、俺は苦しむレイラちゃんの顔なんか見たくないよ。罪悪感なんかで俺と結婚して欲しくない、血の怨嗟を抱え込むのは俺一人だけでいい。
両目を閉じて、亡き叔父が吐き出した言葉を思い出す。ああ、叔父上。俺は知っていたのに、あなたがどれだけ心を砕いて国民のために働いていたのかを。
『エディ。お前は王家の恥さらしだ』
その短い言葉に全てが詰まっていた。あれを聞いて、膝から崩れ落ちそうになった日のことを思い出す。ああ、それでも俺はこれをやり遂げなくてはいけない。剣の柄を握り締め、恐怖に満ちた顔をしている国民の顔を見渡す。みんなが俺のことを責めている、やめてくれと叫んでいる。
ああ、それでも俺はあの日、剣を振り下ろして斬ってしまった。わっと悲鳴と怒号が上がって、首がごとんと転がり落ちた。血の匂いが漂っている。
ああ。どうかどうか、君だけはそのままでいて。それともこれは俺の我が儘なんだろうか、レイラちゃんを傷付けるだけなんだろうか────……。
ああ、教えて貰えない。
(まさか、エディさんがあんなにも頑固な人だったとは……)
自分のデスクに突っ伏して考える。食欲も湧かない、胸の奥が痛い。折角好きだって自覚した筈なのに、両想いだって分かった筈なのにちっとも幸せなんかじゃない。
(ああ、嫌だな。エディさん……お願いだからどうかこの魔術を解いて欲しい)
彼はとても高度な魔術を私の脳みそにかけた。過去に関する事柄を考えようとすると、ふっと頭に白い靄がかかってしまう。何だった? 私が彼に教えて貰おうとしたことは何だった? 何を教えて欲しいんだった?
(私は何か、とても大切なことを聞こうとしていて……)
それを知らないと、把握しないと彼とは結婚出来ないと思ったのに。何だったっけな、上手く頭が回らない。同じ一等級国家魔術師のアーノルドに解いて貰おうと思ったけど無理だった。エディはどうやら物凄く繊細な魔術を扱うらしく、下手にいじると私の記憶に影響が出ると言われた。渋い顔つきのアーノルドに。
そもそもの話、記憶をいじる魔術は使ってはならない。法律で禁止されている。
(それなのに躊躇無く使った……いや、蓋をするだけで。違法じゃないのかもしれないけど)
記憶を消したのはエディさん? エディさんなのかなと考え込んでいると、ふっと黒い影が差した。彼かと思って顔を上げてみると、心配そうなアランが立っていた。くるくるの金髪巻き毛に青い瞳を持った彼は友人で、ふんわりと甘い声を持っている。
「大丈夫? レイラちゃん? お昼ご飯は? 食べないの?」
「腹が立つからエディさんをぱしってます……買いに行かせてます。チキンサンド……」
「そうなんだね? あ、僕。ここに座ってもいい? ライおじさんも」
「ああ、ライさん……こんにちは」
「こんにちは、レイラ嬢」
ライが青い瞳を細め、厳つい顔立ちを綻ばせて笑う。そして向かいのデスクに座り、がさごそと何かを取り出し始めた。バディであるアランもエディのデスクに座って、早速野菜ジュースを取り出している。
「……お二人とも。その、ちょっとだけ私の愚痴を聞いてくれませんか……?」
「うん。そのつもりで来たんだし……エディさんのことでしょう? この間からずっと悩んでるよね、レイラちゃん。なんかちょっとだけエディさんもギスギスしてるし」
「珍しいな、レイラ嬢もエディ君もあんな顔をするだなんて」
「私のことが大事だからって言うんです、エディさん……訳分かんない」
今まで馬鹿がつくほど優しかったくせに。いや、今でも優しいが険のある態度を隠そうとしない。私が知ろうとすると、またその話かみたいな顔をする。淋しい。淋しくて辛くて悲しい。冷たくて、肌に触れると切り裂けてしまうような絶望がひたひたと流れ込んできて、胸の奥が苦しくなってしまう。
「何も食べたくない」と、我が儘を言ってみようかな。どうしようかな。そんなことを考えて黙り込んでいると、無花果と胡桃のどっしりとしたパンを齧っていたライが口を開く。
「そうだな……エディ君もエディ君で悩んでいるようだからな……ここ最近はずっと無口だ。何も喋らない」
「そうなんですか? 私の前ではむしろ……前より明るいんですが」
いや、薄々気が付いてはいるんだけど。無理をして笑って「レイラちゃん、俺のことが好きになってくれたんだよね!? シート席の店にでも行っちゃう!?」とか何とか言っちゃって。無理して明るく振舞っているエディを見ていると苦しい。もういいよ、詮索なんかしないからって言いたくなる。言って、甘やかしてあげたい。
「レイラちゃん、レイラちゃんはどうなりたいのかな? その、エディさんと」
「腹が立つからもう、アーノルド様と結婚しようかな……どーせエディさんは私のことなんか好きでも何でもないし。ハーヴェイおじ様達の反対にだってあうだろうし……」
「それは困るな~、俺はこんなにも君のことが好きなのに?」
「エディさん」
今、一番会いたくない人物がとうとう帰ってきてしまった。少しだけ力なく笑って、エディがこちらのデスクにぷんとスパイシーな香りが漂うチキンサンドを置く。それでも心は晴れない、いらない。
「食べたくないです……欲しくない。エディさんなんか嫌い。大嫌い……」
「うーん……せっかく買ってきたんだけどなぁ、俺。あ、ごめん。アラン君。俺の席返して貰ってもいいかな?」
「あっ、うん。ごめんね? はいどうぞ。ライおじさん……」
「ああ、そうだな。それじゃ、また後で」
「えっ……いや、二人っきりにしなくても別に」
言うが早いが、二人はささっと荷物を纏めてどこかへと行ってしまった。ぱたんと部署のドアが閉まって、二人きりとなる。隣の席に座ったエディが手を伸ばし、私の頭を優しく撫でてくれる。その温度に泣き出しそうになったのは、一体どうしてだろう。好きなのか、そうじゃないのか。よく分からない。
「……エディさん。エディさん」
「ごめんね、レイラちゃん……不安にさせちゃって。でも俺は」
「でも、俺は……?」
「君のことが好きだよ、たとえ何があってもね。……レイラちゃんは?」
分かっているくせにずるい。エディが甘く声を潜めて、顔を近付ける。振り返ってみると、淡い琥珀色の瞳に苦しみを滲ませていた。ああ、私も好きなのに。どうにも上手くいかないな。
「前にも言った通りです、エディさん……教えて下さい。じゃないと私、」
「俺とは結婚しないって? じゃあこの間みたいにまた、誰か他の女性を口説いてみようかな……」
エディがこちらの頭を引き寄せ、そっと触れるだけのキスをしてくる。ああ、ずるい。好きなのが分かってるから、こんな色仕掛けみたいなことをしてくる。熱っぽく見つめていると、エディがふっと嬉しそうに笑った。そして、私の黒髪を優しく指で梳かす。
「可愛い。拗ねてる」
「……だってエディさんが教えてくれないから。魔術も解いてくれないし……」
「ごめんね、レイラちゃん。何をしたら許して貰えるかな……」
またこちらに触れてくる。椅子に座り直して、酷く熱っぽい眼差しで顎を持ち上げて。両目を閉じるとまた、くちびるを合わせてきた。
「……好きだよ、レイラちゃん。何も考えずに俺と結婚してくれる? 大丈夫だよ、俺は一生」
「いらない。そんなのいらない……」
「レイラちゃん。ああ、参ったなぁ。どうしたらいいんだろう、本当に」
心底困った声で嘆いてみせるくせに、肝心なことは何一つとして教えてくれない。両腕を伸ばしてエディに抱きついてみると、エディが「わっ、可愛い……」と言って嬉しそうに笑っていた。ぎゅっとこちらを抱き締め返し、耳元で低く笑う。
「ごめんね。でも、良かった……良かった」
「良くない、エディさんの馬鹿……馬鹿。大っ嫌い。嫌い……」
「……俺のこと好きって言ってくれたら。魔術も解いてあげるんだけどなぁ~」
「じゃあ好き。好きだから教えて下さいよ、エディさん……」
「ん~、どうしようっかな。やっぱりレイラちゃんが俺にキスをしてくれたら、いでっ!?」
「あんまり調子に乗らないで下さいよ、エディさん」
苛立ってごんと頭をぶつけたら、エディが嬉しそうに笑って自分の額を押さえていた。どうやら両想いになれたのが嬉しいらしい。私はちっとも嬉しくなんか無いのに、彼だけがずっと嬉しそうだ。
「腹が立つ……来週のデートもやめようかな、もう」
「ごめんね~、レイラちゃん。俺、ちょっと口元のにやけが止まんなくってさ~。可愛い~!」
「腹立つ、苛立つ……もうチキンサンドも食べたくない。やだ」
「まぁまぁそう言わず。俺があーんでもしてあげよっか? あーん」
「この世の春って顔してますね、エディさん……はーあ」
そうだ、嫉妬大作戦で行こう。
「私にはちょうど、色男の婚約者もいるんだし……」
「なぁ? まさかレイラ、そんなくだらない考えで俺を連れ出したのか……?」
今日も部署で事務仕事をすると言って聞かないアーノルドを無理矢理連れ出し、その腕に腕を絡める。そして先程から嫉妬全開で歯軋りをしているエディを無視して、秋が深まってきた並木道をそぞろ歩く。
「エディさんがね、教えてくれないんですよ。そして私にかけた魔術も解いてくれないし……」
「だからと言って、俺を連れ出さなくても……さっきから視線が突き刺さる。痛い」
「通行人のですか、エディさんのですか」
「どっちもだな。いや、エディか……おい、背後で殺気を撒き散らすなよ。お前……」
作戦だと分かっていても不愉快らしく、アーノルドの背後をぴったりと歩いて恨み言をぶちぶちと垂れ流す。
「俺には婚約解消するだなんだと言って、自分はレイラちゃんとイチャついて仕事をさぼる気なんだなぁ~……いいなぁ~、腕。俺もレイラちゃんと腕を組んで歩きたいのにお前ときたら、」
「イチャついてない。これはレイラがどうしても俺と腕を組んで歩きたいと言うから、仕方なく腕を組んで歩いているだけだ。別に俺からしたいと言った訳じゃないぞ?」
「その陰湿さは健在なのかよ……あーあ、まったく。レイラちゃんもレイラちゃんで分かりやすいよね」
素知らぬふりをしてアーノルドの腕にきゅっと腕を絡める。ちらほらと赤と黄色の葉が舞って、肌寒い中を車や馬車が通り過ぎてゆく。そして、前方からやって来た通行人が何故かアーノルドを見るなり顔を赤くして回れ右をする。流石はアーノルドだ、歩きやすい。
「ねぇ、レイラちゃん。それ、後で俺にもしてくれる? 俺のこと好きなんだよね?」
「好きは好きですが、まだ自覚したばかりの恋心なので弱いです。激弱です」
「激弱……」
「そう。つまりはいずれ好きじゃなくなるってことです。あんまりにもエディさんが頑固で教えてくれないと、アーノルド様と結婚します。入籍します」
「やめて欲しい……本当に。マジで」
「頑張れ、エディ。その間、俺はそれなりに楽しんでおくから。なっ?」
「後ろから蹴っていいか? 膝」
「かっくんってなるだろ、やめろ」
しれっとした顔でエディを煽ってくれる。もう一押しだと考え、口を開きかけたその瞬間。ばばっと曲がり角から一人の男性が飛び出してきて、勢い良くアーノルドの肩をがっと掴む。
「いたあああああっ! “女殺し”だあああああっ!! 良かった、いて!! 目撃情報合ってた!!」
「あっ、あの。一体何ですか……?」
血走った黒い瞳でアーノルドを食い入るように見つめていた若い男性が気を取り直し、ごほんと咳払いをしてから手を放す。どうやら早速、依頼が舞い込んできたらしい。背後にいたエディを見てみると、満面の笑みを浮かべていた。
(もう。分かりやすいなぁ、も~……可愛い~)
「俺が頑張って仕入れてきた剣が売れなくて……」
「はぁ、売れない……まぁ、良いお値段しますよね。これ」
「折角店の内装にもこだわって、年老いた賢者がひっそりと魔術書と剣売ってますみたいな感じにしたのに」
「はぁ、お疲れ様です……」
どう励ませばいいんだとでも言いたげなエディの横を通り過ぎ、古い本棚から一冊の魔術書を取り出す。魔術書とは言ってもただ、術語が書き連ねられているだけではない。それぞれに個性と意思があって、まめに手入れしないと怒って噛み付いてくる。まれに飛んで逃げ出す魔術書もいるが。
「わぁ、凄い。綺麗……これってあのゲオルクの魔術書ですか? 初めて見た……」
「そうそう。流石に複製だけど……でも、彼と契約していた人外者が作ったんだよ。内容は正確だ、とてもね」
白い壁と焦がしたキャラメルのような床の店には、金と銀の光を纏ってぼんやりと発光している大木がそびえ立っていた。その無数の蔦が絡まった太い幹を通り過ぎると、上へと続く螺旋階段が現れる。その黒い手摺りを掴んで階段を上がると、びっしりと天井まで詰まった魔術書や魔術図鑑が出迎えてくれるのだ。感嘆の息を吐いて上がり、あちこちを見て回る。
「わ~、たのし~……依頼のこと忘れちゃうぐらい、楽しい~……」
「ははは、喜んで貰えて良かった。最近、褒められるのに飢えている所だし……」
要するに依頼は店の宣伝。ここの剣を使ってアーノルドとエディが適当に踊ったり戦ったりしてくれないか? と依頼されている。しかし、男二人の表情は今いち冴えない。
いつも乗り気で愛想が良いエディは「でもさ、俺はさ……レイラちゃんにはもう好きになって貰ったし。頑張って良いところ見せる必要ももう無いし……あんまり目立ちたく無いし」とよく分からないことをぶつぶつと呟いて拒絶している。
アーノルドもアーノルドで「宣伝とは言ってもな……俺が剣を使う以外で絶対何かある筈で」と言って、無駄な悪足掻きを見せている。そんな訳で私は店内の探検をしていた。はしゃいで本棚を見て回るレイラを、つまらなさそうな表情のエディとアーノルドが見守っている。
「ああ、ほら。これなんかも気に入るかもしれない……ユニコーンが入ってる魔術書。ご機嫌はどうかな?」
「わっ! 凄い、綺麗……可愛い……!!」
魔術書を開くと、目の前に大きなユニコーンがふわりと現れた。青に乳白色が混じった瞳を細め、白銀のたてがみをきらきらと輝かせながら頭を下げる。ごっと、蹄が古い床板を擦った。
「えっ? いいのかな、これ。触っても……」
「ああ、勿論。いいよ。でも触れるってことは君、処女で……いてっ!?」
「申し訳ない。彼女は俺の婚約者なので。そういった発言は無しでお願いします」
振り返ってみると、にっこりと怖い微笑みを浮かべたアーノルドが佇んでいた。先程パトリックと名乗った依頼人が怯えた様子で弾丸を掴み、「うわっ……弾丸投げ付けられたんだ、俺」と呟く。エディは出遅れたらしく、ぷーっと頬を膨らませて二の腕を組んでいる。かわ、可愛い……。
「じゃあまぁ、触りますね……わ~、意外。ふわふわ、絹糸みたい……」
「売れないし、プレゼントしてあげようか? 売れないし……」
「まっ、まぁまぁ、落ち着いて下さいよ……私があの二人を説得してみるので。あっ、そうだ」
「ん? どうしたの?」
「彼女っていますか、パトリックさん?」
「ごめん! レイラちゃん!! もう限界! 第二回押して駄目なら引いてみろ作戦失敗のお知らせえええええっ!!」
「あれ? 引いてたんですね? エディさん……」
さっきからやけに離れた所で突っ立っているなと思いきや、エディはどうやらあれで引いていたつもりらしい。必死の形相でこちらへとやって来る。
「レイラちゃんっ! やめよう!? そういうのはさ!? 俺が本当に悪かったからさ!?」
「エディさん、引くっていうのは物理的な距離じゃなくって心理的な距離だと思います……」
「あの、アーノルド様。いいのかな、これ……がっつり二人がイチャついてますけど」
「……そいつはもういいんです。そいつは」
ふっと笑って、エディの焦った表情を見上げる。馬鹿だ、そんなに焦るのなら最初から私の傍にいれば良かったのに。汗ばんだ手を握り締め、淡い琥珀色の瞳をじっと見つめると嬉しそうに煌く。
「エディさんがね? ずっと私につれなくするからですよ? も~、色々と教えてくれないし!」
「え~、ごめんね? レイラちゃん。俺のこと好き? 冷たくされて悲しくなっちゃった?」
「クソかよ、お前ら……エディもエディでいい加減にしろ! 仕事するぞ、ほら!」
「いでっ!? 何だよ、も~。折角レイラちゃんとイチャイチャしてたのにさ……」
手を叩き落とされ、ちょっとだけ落ち込んでしまった。しかし渋い表情を浮かべたアーノルドに「レイラ。お前もお前でそういうのはやめろ。今はな」と言われたので意識を切り替える。
(そうだ、今はやめとこ。今は……あっ、後で何かしてみよ。エディさんと一緒に!)
ようやく決心したアーノルドとエディは店に置いてあった民族衣装に着替え、店先に立つ。ちなみにこれは赤地に金色の刺繍が入った長いケープマントで、剣は振る度に雪が舞う魔術仕掛けの剣だ。ただしエディは自分の通称に相応しく、火の粉が舞う剣を選んでいる。
二人はそれぞれ白い羽根が並んだ赤い帽子を被り、魔術仕掛けの剣を持って向き合った。短い銀髪に長い赤髪。温かみのある美貌に鋭利な美貌。それなのに二人は向かい合って立つと、どこか似たような雰囲気を醸し出す。固唾を飲んでその様子を見守っていると、通行人が足を止め、アーノルドの姿を指差して興奮し始める。
「そんじゃ、適当に戦うか。とは言っても俺、剣舞とかは出来ないけど。首の落とし方しか知らないな……」
「やめろよ、ここは戦場じゃねぇんだ。適当に打ち合っとくだけでいいだろ? ほら」
アーノルドが優雅な仕草で剣を構え、エディが持っている剣にかんと打ち付ける。すると白く煌く雪がはらりと舞って、アーノルドの鋭い銀灰色の瞳を横切っていった。エディもにやりと笑い、真っ赤に燃えるような刀身を振り下ろして赤い火の粉を舞わせる。
そのまま二人は獰猛に笑って剣を打ち付けあい、滑らせ、雪と火の粉を空中へと散らしてゆく。そしてくるりと回って背中を合わせると、またもう一度向き合って剣をがっと打ち付ける。まるで儀式のようだった。二人は物憂げな表情で剣を重ね合わせ、結び、雪と火の粉を舞い散らせながら優雅に踊ってゆく。
レイラはぽかんと口を開けて、それを暖かい店内から眺めていた。日も落ちてきたし、外は寒いのでここから出る気は無い。
「わっ、凄い。綺麗……」
「これで売れるといいな、これで売れるといいな……少なくともあの剣二本は高く売れる。今の内に値を吊り上げておこう、そうしよう……」
「吊り上げるんですか、パトリックさん……」
「あとこっちの魔術書もアーノルド様に触って貰って……何なら鎖骨辺りに擦り付けて貰って!」
「そんなことよりも、魔術書を五冊買った方にはアーノルド様のハグを、とかどうですか?」
「いいね! それは! 皆いくらでも出すぞ~、いくらでも出すぞ~。良かった、依頼して!!」
店内からその美しい剣舞を鑑賞しつつ、計算機片手にパトリックと金儲けの話を延々とする。わぁっと外から興奮気味の歓声と口笛が聞こえてきた。少しだけ嫉妬してしまうが仕方ない。エディは一応、私のことが好きだって言ってるし。
(うーん……早く二人でイチャイチャしたいな。いつになることやら、一体)
過去を暴かないで、そのままにして結婚すればいいのだろうか。でも、時折見せる冷たい眼差しは? キースとサイラスの態度も引っかかる。私は一体何をしたんだろう、彼に。エディに。
(ハーヴェイおじ様にもいつ言おうかな……ああ、もう。とりあえず過去を聞かないと何も始まらない……!! ような気がする)
早くエディに触れたくてもどかしい。昼間のキスを思い出して一人で赤面してしまった。いつになったらあの艶やかな赤髪も優しい声も独り占め出来るんだろう。心置きなく隣にいたいのにそれが出来ない。次の休みが待ち遠しくて待ち遠しくて仕方ない。楽しそうに笑って、剣を構えているエディを見つめた。
(ああ、エディさん……本当かな。本当にかな? 本当にエディさんも私と同じ気持ちなのかな? 同じぐらい恋しいって、そう思ってくれてるのかな…………)
その姿を愛おしく見つめながら考える。どうかどうか、エディさんも私と同じくらい苦しい気持ちを抱えていますように。私と同じくらい、私に焦がれていますように。




