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“魔術雑用課”の三角関係  作者: 桐城シロウ
第三章 全ての秘密が明かされる時
85/122

9.魔術書修理の塔“ロー・クロムウェル”

 



 伝わらないのならいっそ告白……? と思って悩んでいる時に。一風変わった依頼が舞い込んできたのだ。



「ごめんね~、私も私で何かと忙しくてね~……悪いけど、この壊れちゃった魔術書を修理してきて貰えないかしら?」



 肩の上からキルト毛布を羽織った初老女性に尋ねられ、隣に立っていたエディが頷く。その横顔は心なしか嬉しそうだった。



「勿論ですよ、ベイカーさん。ただここからあの塔まで二時間ほどかかるので……俺と彼女の交通費と、魔術書の修理代、手間賃ってかかりますけど。大丈夫ですか? お財布」

「ふふっ、大丈夫よ。エディ君。お金はこういうことに使わなくっちゃね。はい、お小遣い。あげる」

「えっ……? 依頼料とはまた別なんですか? これ」

「別よ、エディ君。別。ふふふふふっ」



 凄い、流石はエディさんだ。黄色いパンジーに赤いサルビアが咲き、緑の芝生と白い小石の砂利道が美しい庭先に立ったレイラは、いつもの紺碧色制服を着てエディを見上げていた。



(知らないおばあさんからお小遣いを貰ってる……というか、流石のエディさんも困惑してるなぁ~)



 エディは「えっ!? えっ!?」と言いつつ、手の上の貨幣とにこにこ笑顔のベイカー婦人を交互に見つめる。やがて無言の圧力に負けたのか、困ったように笑って「じゃあ、有難く貰いますね……」とポケットに突っ込んだ。可愛い、弱ってる……。



(珍しいな、エディさんがこんな顔をするなんて。可愛い~……)



 その端正な横顔をしみじみ眺めていると、エディがふとこちらを向いて不思議そうに笑う。



「レイラちゃん……? じゃあ、行こっか?」

「あっ! はい! 行きましょうか! ええっと、それでは帰ってきてから交通費など諸々頂きますね! 夕方の五時までには絶対に戻ってきます」

「いいのよ、今日は一日ずっとお菓子作りをして過ごす予定だから。今度のね、チャリティバザーに……」



 そこから話が長くなってしまい、気がついたら十一時だった。隣で歩くエディが腕時計を確かめ、話しかけてくる。



「もうこんな時間か~……お昼遅くなりそう。折角パスタとサンドイッチ作って持ってきたのに!」

「えっ!? あっ、ああ……そっか。そう言えばそうでしたね……バジルのやつ」

「えっ? まさか、昨日のことなのに覚えてなかったの……?」



 エディがショックを受けた顔をして、その淡い琥珀色の瞳を瞠っていた。しかし、少しだけいかがわしめのエディの夢を見てしまって、朝から悶絶してたのですっかり吹っ飛んでいた。顔と首筋がかっと熱くなって、足元の石畳を眺める。顔が見れない……。



「いろいろ、その、悪夢とかを見まして……」

「えっ? でも悪夢避けのサシェ……あーっ! あれって半年だもんな! 効果! ごめんね、レイラちゃん!? また買ってくるね!?」

(つたっ、伝わらなかった……)



 ことごとく色んなものが邪魔してくるような気がする。でも、そう言えばすっかりあの悪夢を見なくなった。



(もう効果が切れている筈なのに……旅行先にも持って行かなかったし)



 そして、お父様とお母様のことを思い返すことがなくなった。胸はもう痛まず、痛むことと言えば。



「エディさん……私、もうお父様とお母様の、ええっと、その、顔を思い浮かべることがなくなったんですよ」

「あれ? そうなの? 良かった……のか?」



 エディが「うーん?」と唸って、首を傾げる。それを見て笑い、この気持ちを伝えたくて腕を伸ばした。エディの硬い手をぎゅっと握り締め、その顔を見上げる。



「最近、思い浮かべているのはエディさんの顔ばかりです……いつもありがとうございます」

「それは、レイラちゃん」



 よしっ! 頑張った!



(我ながら物凄く頑張った! さぁどう出る!? 大丈夫!? 伝わった!?)



 亡くなった最愛の父の母の顔よりも、真っ先にエディの顔が思い浮かぶ。ひょっとしてこれでもう、完璧に伝わったのでは────……。



「もしかして、俺の顔が鬱陶しいから……?」

(ちっがーう!! 何でそうなったんだろう!? 馬鹿じゃない!? 鈍過ぎない!? エディさん!?)



 魂の叫びを飲み干し、苛立ちを押さえて聞き返す。ああ、頑張ったのに。折角頑張ったのに! というか、今手も繋いでるのに!



「あのですね? エディさん? 何でそんな考えになったんですか? もっと他に思うことありません?」

「だって俺が折角バジルを作ったのに、どうでも良さそうだったし……忘れてたし」

「あっ、いや、でもそれはですね……」

「最近ずっと苛立ってるし、俺のこと睨みつけてくるし……」

「にらっ、睨んでるように見えましたか……?」



 ここで「あれはエディさんに見惚れていたんですよ」と、にっこり笑って言えたらいいのに言えない。



(でも、きっと。サイラス様なら女の子相手に言っちゃうんだろうな……さらっと)



 そこで猛烈に腹が立ってしまった。あのブラコンが驚愕の表情で「俺のエディは世界の宝なのに!? 一体どうして!?」と言っていたことを思い出して舌打ちをする。エディがびくりと体を動かして、「あっ、すみません。うっかり無意識で手を握り締めていました……」と言って私の手を解いてしまう。



(あああああああっ……一向に伝わらない。誰か、誰かにアドバイスを求めなくては!)



 一体何が悪いんだろう? よく分からない。



(そもそもの話、これが初恋だし……他の皆さんはどうやって恋愛をしているんだろう……)



 難しい。よく分からない。考え込んでいると、エディがぼそりと呟いた。



「最近のレイラちゃん……何だか変だよ? もしかしてまだ怒ってる? 前はもうちょっと喋ってくれたのに、今もそうやって舌打ちしてから黙り込んでるし……」

「ごっ、ごめんなさい! 違うんですよ!? 別にエディさんに腹を立てている訳じゃなくって!」

「本当に? だったらいいんだけど……ごめんね、俺が馬鹿な作戦を決行しちゃって」



 ああ、伝わらない上に落ち込んでいる。好きな人の笑顔を守るどころか奪っちゃってる。でも、先程のように手を伸ばして繋げない。もどかしい、あと一歩の勇気が出ない。



(拒絶されないって分かってるのにな……どうしてだろう、怖い)



 胸元を押さえ、深く考え込む。黙り込んでしまった私を見て、エディが悲しそうな顔をしていた。「好きだよ」と言って、頬にキスでも出来たら良かったんだけど。



(世界がひっくり返ったって無理……怖い!)









 がたごとと揺れるトラムに乗り込んで、エディが嬉しそうに笑う。平日の昼間だからか、赤と青の広々とした車内に人の姿が見当たらない。エディが意気揚々と奥のシート席に座って、緑と石造りの街並みが流れてゆく窓を見つめる。浅い陽射しがその鮮やかな赤髪を照らしていた。



「わ~、良かったね。レイラちゃん。今日、天気が良くって!」

「ですね……トラムから降りたらまた歩くし」

「あっ!? レイラちゃん! これってなんかデートみたいじゃない!? ほらっ!」



 それまで窓を見ていたエディが振り返って、嬉しそうな笑顔を浮かべる。ああ、可愛い。かっこいい……。



「ですね、エディさん。デートみたいですね!」

「えっ? あっ、うん……? さっきの舌打ちしたお詫び……?」

「何でですか……? も~」



 思い悩むのに疲れて、こてんとエディの肩に頭を預けてみるとエディが「うえっ!? うえっ!?」と言って、焦ってこちらを見下ろしてきた。両目を閉じていても何となく分かる。



「疲れたので寝ます。……着いたら起こして下さい」

「あっ、はい。了解です……」



 堅苦しい返事が来た。よく分からない。



(私なりに頑張ったのに……でも)



 とりあえずがたごとと揺られながら、穏やかに昼寝でもしよう。そうしよう。頬を緩めてエディにもたれかかり、暫しの幸福にまどろむ。ああ、好きなのに。中々言えない。エディがそっと、私の頭に頭を預けてきた。ふわりとシダーウッドのような香りが漂って、エディの熱さが染みこむ。



「好きだよ、レイラちゃん。……ありがとう」



 眠りに落ちる寸前、そんな声が聞こえた。秋の悲しさが滲むような声。



(あれ……何か忘れかけているような気がする。何だっけな……)













 黒い大理石の柱がずらりと並んだ重厚な正面玄関に向かい、数段の低い階段を登る。がこんと自動で木製のアンティーク扉が開き、中に入ると魔術の光がゆらりと揺れ動いているシャンデリアが出迎えてくれた。



 黒い大理石の床がどこまでも広がって、陽の光を反射している。その上を魔術書の閲覧や購入に来た人々が歩き、羽根が生えた手紙とペンがキイキイと飛び交う。



「わぁ、凄いな……天井が高い。初めて来たけど、圧巻だね。ここは……」

「でしょう? 海外からの観光客にも人気の場所で、ここは……ええっと、修理はどこかな~」

「あそこじゃない? 魔術書の修理はこちらってある」

「行ってみましょうか。ちょっと緊張するな……」



 魔術書は恐ろしく高価だし、持ち主証明書を持ってないと修理は受け付けて貰えないのだが。ベイカー婦人から預かっている証明書と「日常魔術相談課」の職員であることを示すカードを見せ、そのぼろぼろに擦り切れた魔術書を預ける。すると、カウンターの向こうに座っていた職員が深い溜め息を吐いた。



「こういうことは困るんですけどね、お客さん?」

「あっ、ええっと、ベイカー夫人は今度のチャリティーバザーでクッキー百枚とマフィンをそれぞれ、」

「俺が言ってることはそういうことじゃないんですよ……こんなことになるまで放置するなって言いたいんです。分かりますか? 俺の話」



 堕天使のような黒い翼を持った美しい男性が眉を顰め、舌打ちをしてとんとんと指で魔術書を叩く。職員のガラが悪い……。



「えーっと、それはベイカー夫人に言ってください。俺の物じゃないし、それ」

「……確かにそれもそうですね。俺の代わりに怒鳴っておいてください。後は? 他に何か?」

「何もありません……」

「よろしい。では修理を承りました。お帰りはあちらです、どうぞ?」



 優雅に手で扉を指し示され、エディとレイラは顔を見合わせた。黙って会釈をして、そそくさと優美な木のカウンターから離れる。ちょっと緊張したかも。



「なんか背中に黒い翼が生えていたし、愛想が悪かったね……」

「獣人か人外者とのハーフでしょうね……ご飯を食べに行きましょうか。エディさんの作ってくれたサンドイッチ、楽しみです」



 その言葉を聞いて、隣を歩いていたエディが照れ臭そうに笑う。ああ、眩しい。何でこんなにピュアな笑い方をするんだろう、可愛い。



「うん! どっかそうだな~。軽く観光も兼ねて歩いてみよっか! 確かこの近くにオルゴールの公園があって、」

「行きましょう! オルゴール聴きたいです!」



 聞くところによると、オルゴールの公園には澄んだ水が流れている小川と赤いレトロな桟橋があって、茂みのあちこちからオルゴールの音色が聞こえてくるらしい。淡くぼんやりと青色に光り輝いている鈴をざらんざらんと付けている花々が群生しているからだそうで。



(デートスポット! エディさんとデート! そこで告白しちゃおうかな~って、あれ?)



 そこでふと、あることに気が付く。同じく上機嫌で隣を歩いているエディがポケットから小さい鞄を取り出し、ぼんっと元のサイズに戻していた。それを見て深く考え込み、呆然とする。



(好きだって言うの、告白するの……物凄く勇気がいるのに)



 現に今も緊張して心臓が痛い。両想いだって分かってるのに。でも、本当? 本当に?



(両想いかな……本当に? 嘘じゃない? だってこんなにも怖いし、私に拒絶されてもいっつもへらへら笑ってるのに……?)



 時折見せる鋭い眼差しと、背後でナイフでも握り締めているんじゃないかと思うような殺意。どんなに拒絶しても笑っていて、毎朝毎朝プロポーズをしてくる。今朝もしてきた。恥ずかしくて頷けなかったけど。



(あれ? どうしよう……騙されていたら)



 足元が暗く歪み、これまでの現実ががらがらと崩れ落ちてゆくかのようで息が出来なかった。公園の入り口で立ち止まっていると、エディが不思議そうな顔をして振り返る。



「レイラちゃん? どうしたの? お腹でも痛い? 深刻そうな顔して……」

「エディさん」



 言えない、聞けない。「本当に私のことが好きなんですか?」って。首を横に振って、無理矢理笑って駆け出す。どうしよう? 今までのが全部全部嘘だったら。



「何でもないです。楽しみです、エディさんのサンドイッチとパスタ!」

「朝から早起きして、頑張って作ったよ~。楽しみにしててね!」



 ああ、その笑顔が胸に突き刺さる。息が吸えなくなって、ひたすら虚ろに笑っていた。



(好きじゃないのかも、私のこと……)



 ばりっとした固めのブールに鮭フライとタルタルソースが挟まれたサンドイッチに温かいコーンクリームスープ、ジェノベーゼパスタに自家製のピクルス。どれもこれも美味しいのに胸の奥が詰まって笑えない。



 ピクニックシートに座ったエディが心配そうな顔でサンドイッチを頬張り、首を傾げる。鮮やかな赤髪が陽に揺れ、それを見てまた胸の奥が詰まった。



「レイラちゃん? 大丈夫? どうしたの?」

「エディさん……いや、何でもないです。別に……」



 怖くて聞けない。「私のこと好きなんですか?」って。



(折角好きになったのに、全部嘘だったらどうしよう……)



 頭上には秋らしい澄んだ青空が広がっていた。緑の芝生もころころとゆったりと流れるオルゴールの音色も美しいのに、何でも揃っている筈なのに胸が苦しい。



(帰って。アーノルド様に相談してみようかな……そうしよう)











 本でも読んでいたのか眼鏡をかけたアーノルドがきゅっと眉間に皺を寄せ、黙り込んでしまった。普段はコンタクトレンズにしているのだが、それで正解だと思う。銀髪に銀灰色の瞳のアーノルドが眼鏡をかけると、よりいっそう神経質な感じが際立つ。



 ぼんやりと明かりが灯る寝室にて、白いシャツ姿のアーノルドが腕を組んで黙り込んでいる。黙っていようと思ったけど限界だった。この気持ちを抱えてアーノルドと結婚出来ない。



(エディさんを好きになっても、アーノルド様と結婚すればいいとずっと思ってた……でも、無理だ。出来ない)



 好きとはそういうことだ。頭では理解しているのに、どうしたって割り切れない。恋に落ちた今だからこそ分かる。無理だ、絶対に。そんなことは。白いかぎ針編みのカーディガンを羽織ったレイラが俯き、きゅっとくちびるを噛み締める。怖い。怖いけど仕方ない。聞かないと。



「アーノルド様は。何か知っているんでしょう? そっくりさんだって何か言ってた、エディさんのプロポーズが嘘みたいなこと……」

「嘘じゃない。そっくりさんは人外者だ。……悪戯に人の心を弄ぶ。信用するな、その言葉を」

「でも、だって……」



 アーノルドが深い溜め息を吐いて、後ろの勉強机へと寄りかかる。ずっとずっと昔から使っているものだった。私もよくそこに座って、読めもしないのに魔術書を開いていた。薄暗い寝室に、痛いほどの沈黙が落ちる。いつからか、アーノルドはすっかり遠い存在になってしまった。兄どころか、よく分からない男性に見える。



「聞けばどうだ? エディに。気になるのなら」

「やっぱり、アーノルド様は何か知っているんですね? おかしいと思った、最近は一緒に出かけて仲も良いし、」

「あれは偶然会っただけだ! 別に一緒に買い物なんかしてないからな!?」

「すみません、全部エディさんから聞いてます……」



 そこでアーノルドが低く呻いて、「あいつに黙るって選択肢は無いのか……!?」と呟く。多分無いと思う。銀髪頭をわしゃわしゃと掻き毟ってから、アーノルドがこちらを向く。その褐色の頬は少しだけ赤かった。



「いいか? この件について俺が言えることは何もない……それはお前と、アンバーが話し合ってこれからのことを、」

「アンバー? アンバーって今、言いましたか? アーノルド様」



 鳥肌がぞわりと立つ。()()()()()。私はその名前が誰のものかもよく分からないのに、()()()()()。歯を食い縛って、ぞわぞわとする二の腕を擦る。心臓がばくばくと早鐘を打っている。



「アンバー? アンバー? 誰のことですか? アーノルド様、私、私は」

「っレイラ! もういい、何も思い出そうとするな!」



 ふと気が付けば、アーノルドに抱き締められていた。無意識に抱き締め返し、歯を食い縛る。知らない、知らないのに。何を知っているというんだろう、私は。



「私は、私は、アーノルド様」

「いいか、レイラ? 何を知っても気にするんじゃない……いいや、それは無理な話なのかもしれないが。とにかくお前はまだほんの子供だった。十三歳の子供だったんだ……!!」

「十三歳の子供? 何が……?」



 今までずっとずっと、アーノルドの婚約者として暮らしてきた。確かに両親をこの手で殺して慟哭(どうこく)して、泣き暮らしていた時もあったけど。



(でも、私の人生はずっと平坦で。旅行にも行って、仕事して……)



 それなのに、十三歳の時に一体何があったんだろう? でも何か恐ろしく大きな出来事があった筈だ、そのことを考えると胸にぽっかりと穴が開く。ぎゅっと、アーノルドの白いシャツを握り締める。



「アーノルド様……エディさんはどうして、私に初対面でプロポーズしてきたんですか? 知っているでしょう? そのこと……」

「ああ、知っている。全部……エディは一生黙ってる気だった。でも」



 そこで私から離れて、泣き出しそうな表情で黒髪を耳の後ろへとかけた。お父様とそっくりだった、その顔が。



「お前が聞いたら言うだろうよ、あいつも。でも、粘れよ? 命令しろよ?」

「命令だなんて、そんな……」

「いいから聞け。聞きに行ってこい。ちょうど明日は休みだし……そのまんま告白してデートにでも行ってこい」

「えっ!? 告白は無理、緊張する……」



 そう言った途端、むにぃっと頬を引っ張られる。驚いて見上げてみると、アーノルドが怒りに燃えた瞳で深く息を吸い込んだ。



「あのなっ!? どーせっ両想いのくせに何をぐだぐだぐだぐだと言ってるんだよ!? 言えっ! それぐらいっ! 言えっ!!」

「ぎょっ、ぎょめんなひゃい、あーにょるろはま……」



 もごもご言いつつ謝ると、アーノルドが深い深い溜め息を吐いて解放してくれた。じんじんと痛む頬を擦っていると、舌打ちをして引き出しから魔術手帳を取り出す。



「サイラスさんに連絡しておく。エディとは交換してないからな、俺」

「大丈夫ですって、そんなに仲良しじゃないアピールをしなくっても……」

「アピールじゃない!! 本当に俺は交換していないんだよ! 見るか!? ほらっ!?」

「いいからもう、早くサイラス様に連絡して下さいよ……まったくも~」






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