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“魔術雑用課”の三角関係  作者: 桐城シロウ
第三章 全ての秘密が明かされる時
80/122

4.夏の社員旅行 悪魔の寝顔と彼女の願い

 






「俺は海で泳いでくる。その後はジルと観光に行って来るから。お前はエディと一緒に行動したらどうだ?」



 ええっとそれはもしや。



「エディさんとデートしてこいという意味でしょうか……?」

「……」



 麻のシャツとデニムを着たアーノルドがむっつりと黙り込み、美しい眉を顰める。私は今日、アーノルドと一緒に海で泳いで観光してと思っていたのだが。



「だからその為にもお洒落してきたのに……」

「昨日のだってそれだってエディの為だろうが、白々しい」



 ホテルの廊下にてアーノルドがそっぽを向く。いや、しかしこれは本当に彼の為に着てきたのに。黒髪をハーフアップにして麦わら帽子を被り、白いセーラー襟が付いた淡いブルーのワンピースに真珠のピアスを付け、青いリボン付きのバッグを持って見上げる。




「そう拗ねてないで一緒に出かけましょうよ、アーノルド様。折角アーノルド様が好きそうな清楚系かつ純真そうな服装とアクセサリーを意識して、」

「もういい、やめろ。俺は今日一日ジルと一緒にいる。お前はエディといろ、肉を食うなり何なり好きにしろ。いいな?」

「えっ、えええええ~……?」




 手を伸ばしつつ、足早に去ってゆくアーノルドの後ろ姿を見送った。白い壁紙に赤い絨毯の廊下がしんと静まり返り、自分の溜め息の音が響き渡る。



「あーあ、じゃあ。エディさんの所に行くか……」



 腕時計を確認してみると、九時二十六分だった。起きているだろうか?



(多分起きてはいるんだろうけど……泳ぎに行っちゃったかな? あ、ベル鳴らそう。ベル)



 昨日の反省を生かしてベルを鳴らしてみたものの、応答が無い。



(これはもしや……本気で寝てたりして?)



 そっと金色の取っ手を握り締めて押してみると、あっさり開いた。無用心だ。あれから鍵をかけて眠らなかったのか。



「ま、いいや。お邪魔しまーす……」



 ドアをきいと開けて足を踏み入れると、薄暗かった。ひんやりとした空気を肌で感じながらおそるおそる歩き、奥の寝台へと向かう。



「エディ、エディさーん?」



 返答は無い。その代わりにガイルがすぴすぴと鼻を鳴らしている音とエディの深い呼吸音が聞こえてくる。寝台のライトがぼんやりと点いているので、それを頼りに足を進める。鮮やかな赤髪が見えて、その顔をそっと覗きこむ。




「エディさん……? どうしよう? 起こさない方がいいかな……」




 エディがあどけない寝顔ですうすうと眠っている。頬にシーツの跡がついていて笑ってしまった。いつもの赤髪もぐしゃぐしゃで、口が半開きとなっている。無防備に投げ出された腕にちょんと触れ、その筋肉を確かめてみる。



(うーん、良い筋肉。じゃなくって! どうしよう? 起こそうかなぁ、どうしようかなぁ、迷惑かなぁ)



 きっと彼は朝に弱いのだろう。起こそうか起こすまいか頭を悩ませていると、眉を顰めてもにゃもにゃと口元を動かす。



「腹……腹が減った。腹が……」

(ううーん、まさかの寝言までそんな感じとは……)



 お腹が減ったのなら起きて食べればいいのに。くすりと笑って、そのあどけない寝顔を見つめる。一方のガイルは足元で腹を向けて眠っていた。もふもふしたかったが耐える。流石に噛まれそうだ。



「んー、どうしよっかな。見ていようかな、このまま……」



 自然と笑みが浮かんで、エディの寝顔をじっと見つめる。そう言えばこんな風にまじまじと見るのは初めてかもしれない。いつもの鮮やかな赤髪を見つめ、何となく指で梳かしてみる。



(起きないかな、エディさん……)



 魔術新聞を賑わせていた人物がバディとなって、こんなにも近しい存在になるだなんて。そこでふとあることに気が付く。彼は戦時中でも髪が長かった。戦闘の邪魔になっただろうに。



(そう言えば何で髪を伸ばしているんだろう? 後で聞いてみようかな……でも)



 迷惑にならないだろうか、そこまで踏み込んでいいのだろうか? エディに拒絶されるときっと心が砕けてしまう。エディの迷惑そうな顔なんて見たくない。



(あれ? 私、ここまで臆病な性格だっけ? まぁいっか。起こそうかな、どうしようかな?)



 答えが出ないまま眺めて、何となく赤髪を梳かしているとその目蓋が震える。そしてぼんやりと淡い琥珀色の瞳を開いて、こちらを憂鬱そうに見上げてきた。




「レイラちゃん……? 夢?」

「いっ、いや。夢じゃないですよ? ええっと、一緒に遊びに行こうと思って来たんですけどやっぱり、」

「行く。レイラちゃんとデートに行く、俺……」




 ゆっくりと体を起こし、何故かそのまま硬直してしまう。腕立て伏せの体勢を保ったかと思うと、そのままぼすんと白い枕に顔を埋めた。どうやら眠たいらしい。



「むり、無理だった……!! 悲しい、俺。デートに行きたいのに。あと腹も減ったのに」

「さっき寝言で言ってましたよ、それ。カーテン開けますね~。少しは目が覚めるだろうから」

「んん~……ありがとう、レイラちゃん。ふあ、ふあぁ~……」



 そこで大きく欠伸をして、枕に顔を埋めた。可愛い。大きな葉と果実が描かれた重厚なカーテンを開けると、眩い朝日が射し込んでくる。



「エディさーん? どうしますか? やめておきますかー?」

「ん~、もうちょっとだけ待ってて。レイラちゃん……もう起きるから」




 そこで初めて気がつく。エディが何も着ていない。もしや全裸で眠るタイプなのだろうか? 彼は。



「エディさん……パジャマって」

「昨日暑くて脱いだ。下はちゃんと着てるから大丈夫……ねっむ、つっら……」



 よ、良かった。まぁ、裸で眠るようなタイプに見えるけど。ちゃんと着てて。



「私、出直した方がいいですかね? 一時間後に出かけることにして、エディさんが眠ってる間に市場にでも行って朝ご飯を買ってこようかと、」

「行く。もうちょっとだけ待ってて……シャワー浴びてくるから。俺、一緒にお昼ご飯が食べたい」

「朝ご飯ですって、だから……思いっきり寝ぼけてるじゃないですか、も~」



 眠たそうな後ろ姿を見つめて苦笑する。まぁ出直した方がいいんだろうなと思ってドアの方へ向かっていると、それまで寝ていたエディがばっと起き上がる。



「本当に待って、レイラちゃん……ご飯、ご飯。レイラちゃんと一緒に朝ご飯が食べたいから、俺」

「じゃあ私、ガイルさんをもふもふして待っているから。その間にシャワーを浴びてきて下さい。お腹空いた」

「うん、ごめんね? ちょっと待っててね、あと数分だから……」



 もしゃもしゃに絡まった赤髪で顔が見えない。エディは白いシーツに包まってあぐらをかいていたものの、やはり眠たくなってしまったのか突っ伏して四つん這いで眠り始める。



「あーあ、もう。じゃあ待ってますよ、私。ここに腰掛けて。ガイルさんをもふもふしてますから。ねっ?」

「うん、ごめん。あと五分……いや、十五分待ってくれる? そしたら目も覚めるだろうから」



 エディが四つん這いの状態からもそもそと動いて、白いシーツに包まって眠り始める。迷惑そうな顔で寝直したガイルの傍に行って腰掛け、その黒い毛皮を堪能する。



(うん、たまにはいいな。こういうのも。のんびりしていて)



 豪華な客室には眩しい朝日が射し込んでいる。それを寝台に腰掛けてのんびりと眺めていた。













「ごっ、ごめんね? レイラちゃん……結局お昼まで眠っちゃって。もう十三時だぁ~、ごめん。本当。お腹空いたよね!?」

「大丈夫ですよ、別に。前を向いて歩いて下さい。人にぶつかっちゃいそうなので」

「あ、うん。ごめん」



 エディは目立ちたくないからと言って黒髪のウィッグを被り、白いポロシャツとデニムを着ている。何だかまるで違う人だ。爽やかさが増して、いつもより大人っぽく見える。



「うーん、エディさんって。そうしていると大人っぽく見えますよね……」

「えっ? これ? ウィッグのこと? レイラちゃんとお揃いにしたかったから選んだんだけど。似合ってるかな?」



 にっこりと笑いかけられ、どうしてか心臓が跳ね上がってしまう。ここが港の市場で、はぐれないように手を繋いで歩いているからだろうか。店主が魚を勧める声と屋台の「出来たてだよー、出来たてだよー」といった声が飛び交い、賑やかな人々の中で足を進める。




「どうしようかな~? 何食べる? キッチン付きの客室探してそこで料理でもする?」

「うーん、それもいいですが……折角だから串焼きとか屋台のものを食べましょうよ、エディさん。あっ、鯖サンドがある。美味しそう~」

「鯖サンド食べる、俺。実は密かに好物っ!」

「えっ? そうなんですか? 美味しいですよね、鯖サンド」




 二人で屋台に行って鯖サンドを購入し、ついでに近くにあったフライドポテトを売っている屋台でフライドポテトを購入する。エディの愛想の良さを気に入って、おじさんが沢山ポテトを入れてくれた。どうやらトレードマークである赤髪を封印していても、おじさん受けは良いらしい。



「むわっ、うんまっ、海辺に行って食べてみない? これ。海見ながら食べたい!」

「賛成れすよ、エディさん。もっと下さい。美味し~」

「ん、どーぞ。いくらでも!」



 エディが爽やかな笑顔を浮かべ、紙袋を差し出してくる。うぐっと喉にフライドポテトが詰まりそうになった。慌てて飲み込んで数本ほど摘まんで、もそもそと食べる。危ない、あまり見ないようにしよう。そうしよう。




「どっかいいところは無いかな~。あっ! あっちとかどうだろ? なんか階段がある」

「いいですね、降りてみましょうか」

「うん。ついでにどっかで、飲み物が買えるといいんだけどなぁ~」

「俺が買ってきてやろうか? エディ坊や」

「ガイルさん。いいんですか? 私の分もお願いしたいんですが……」




 影の中から出てきたガイルがにやりと笑い、黒い帽子を被り直す。しかし、ぴこぴことした黒い狼の耳とふわふわの尻尾が生えているので可愛いとしか言いようがない。



「別に構わんさ、レイラ嬢。エディ坊やと心置きなく楽しんでこい、デートだろ。これ」

「うん、デート。少なくとも俺はそう思ってるんだけど? レイラちゃん?」

「あっ、圧が強い……!! 降りましょうよ、もう。ほらっ」



 ガイルを見送って不満げに「え~? え~?」と言うエディの腕を引っ張り、石造りの狭い階段を降りてゆく。赤茶色のレンガ壁には黄色い花と蔦が這い、何ともロマンチックな雰囲気だ。少々緊張しつつも手を繋いで、狭い階段を降りてゆく。



「おお~、綺麗。海。どっか浜辺にベンチでもあるといいんだけどな~。ま、無いか」

「でしょうね……まぁ、でも地面に座るのも別に、」

「大丈夫、ピクニックシート持ってきたから。あっ!? そうだ、俺! 一等級国家魔術師じゃん!?」

「何を今更なことを、エディさん……」



 エディがこちらの手を放して階段をとんとんと降り、短い黒髪を揺らして振り返る。黒髪なのが新鮮だ。淡い琥珀色の瞳が蕩けて、口元に優しい笑みが浮かぶ。



「だからさ? 俺。レイラちゃんの為にベンチを作ってくるよ。ちょっと待っててー、良い場所探してくるからさ!」

「あっ、エディさん……早いな、もう」



 あともう少しだけ手を繋いでいたかっただなんて。置いていかれて淋しいだなんて。



(あーあ、どうしようもないな。ま、いいや。ご飯ご飯。お腹空いたなぁ~)











 エディが作ってくれたベンチに腰掛け、鯖サンドとフライドポテトを食べる。何故か白いアンティーク調のベンチだった。目の前にはざざんと音を立てている青い海と青い空が広がっており、遊泳禁止の所だからか誰もいない。ごつごつとした岩場が気になりつつ、鯖サンドを食べる。



「レイラひゃん、どう? 美味しい?」

「美味しいですよ、エディさん。あと座り心地も滅茶苦茶良くてぞっとしてます。ソファーに座ってるのと大差無いんですが……?」

「魔術で工夫した~、レイラちゃんのお尻を守りたい! いたっ!?」

「奇妙な変態発言をしないで下さい、鬱陶しい」



 足を蹴り飛ばしてやると、何故か嬉しそうな笑顔を浮かべる。やめて欲しい、ノーマルのままでいて欲しい。柔らかい潮風が吹いて、こちらの頬と首筋を撫でてゆく。



「んー、美味しい。檸檬が効いていて。どうします? この後」

「海で泳がない? 俺と一緒に! 二人きりで!」

「はいはいはいはい……じゃあホテルに戻って。あっ、そうだ」

「ん? どうしたの? レイラちゃん」



 もっちりとした香ばしいパニー二生地を噛み締め、エディが不思議そうな顔で振り返る。その何も考えていなさそうな淡い琥珀色の瞳に少しだけ緊張しつつ、言葉を紡ぐ。



「前から気になってたんですけど。ええっと、その赤い髪。どうして伸ばしているんですか?」

「あー……これはね。前に綺麗だって言ってくれた人がいて。その人のために伸ばしてる」



 ずきりと、胸に鋭い痛みが走る。ガイルに買ってきて貰った紅茶缶を握り締め、その静かな横顔を見つめる。




「女性ですか? ……ひょっとして、恋人だったりして?」

「どうだろう、よく分からないな」




 エディが青い海を見て困ったように笑う。鯖サンドを口に突っ込んで、それっきり黙りこんでしまった。




(あ、何だろう。……やっぱりやめておいた方が良かったかも。聞くの)




 否定して欲しかったのにしなかった。以前に「レイラちゃんと同じ髪型にするー! ハーフアップー!」と言っていた無邪気な笑顔のエディを思い出し、無性に苛立ってしまう。



「何だ、もう。……いるんじゃないですか、好きな人。その人と結婚したらどうですか?」

「今はもう惰性で伸ばしてるだけだから。それにいきなり切っちゃうと落ち着かないし」



 何だかもう、何もかもが信じられない気持ちになって胸の奥がぐっと詰まる。ああ、嫌だな。気が付きたくないのに。蓋をしてしまおう、そうしよう。




「エディさん。……何か嫌いです。そういうところ。私」

「もしかして嫉妬してる? 大丈夫だよ、俺が好きなのはレイラちゃんだけだから」

「ちょっ、触らないで下さいよ? いきなり」




 エディが低く笑って腕を伸ばし、肩を抱き寄せてくる。その距離感に心臓が跳ね上がって頬が熱くなる。どうしよう、単純だ。苛立ちが吹っ飛んでしまった。頭がぐるぐると混乱している。



「レイラちゃん、ねぇ? 誰もいないんだけど、今」

「……だから何をしても許されると?」

「俺は誰もいないって言っただけだよ、レイラちゃん? レイラちゃんはさ、俺と何かしたいことでもあるのかな?」



 減らず口を。ごくりと唾を飲んで、一気に紅茶を飲み干す。首筋が熱い。隣に座ったエディがにやにやと笑っているような気がして緊張してしまう。陽射しが熱かった、どうしようもなく。



「ないっ、ないです! さっ! もう行きますよ!? 海で泳ぎましょうよ、海で!」

「え~? つまんないなぁ、いいけどね? 別に」



 ああ、エディに敵う気がしない。いつからそう思うようになったんだろう、私ってば。ベンチから立ち上がったエディが砂浜をざくざくと踏みしめて、笑顔でこちらを振り向く。




「じゃあ泳ぎに行こうか? もう今日で終わりだなんて淋しいよね、社員旅行。まぁ今度は皆を抜きにして、二人きりで来たいけど!」

「もうそれ、社員旅行じゃない……!! 二人きりで旅行なんて絶対に嫌です。嫌です」

「二回言う必要あった? レイラちゃん……」

「ありました。エディさんの同僚という立場を明確にしておきたかったんです。同僚。ただの同僚」

「レイラちゃん……ま、いっか。距離も縮まった気がするし?」



 悪戯っぽく笑い、こちらの顔を覗き込んでくる。赤い顔で睨みつけてやることしか出来なかった。ああ、散々だった!












 その後は二人でまったりと泳ぎつつ、海を楽しんだ。そこから遺跡や植物園を巡ってレストランで遅い昼食を摂り、ホテルに帰って荷造りをしたのだが。



「ねむっ、眠い……!! もうちょっと休憩を挟んだら良かったかもしれないね、レイラちゃん」

「確かにそれはそうですね、エディさん……ふわぁ~あ。ねむっ、帰りのバスで寝るからって油断した」



 エディと座席に座ってぼやいていると、サングラスをかけたアーノルドが嫌そうに顔を顰める。どうしたんだろう? 二人で遊んでこいと言ったのは彼なのに。




「お前ら……今日は一日ずっと一緒にいたんだな? あと二人でそこに座るんだな?」

「あっ、そうだ。レイラちゃん。俺、つい習慣で窓側の席に座っちゃったんだけど譲ろうか!?」

「おい、エディ。お前、俺の話を聞く気絶対に無いだろ……」

「いっ、いいですよ。エディさん、ここで。あの、アーノルド様?」

「いい。お前もそこに座ってろ。俺は前の席に座ってるから。ずっと一生二人でそこに座ってろよ、もう」




 駄目だ、完璧に拗ねている。立ち上がろうと思って腰を上げると、エディがこちらの手を掴んできた。振り返ってみると、真剣な表情でじっと見つめてくる。



「ごめん、レイラちゃん。ここにいて、お願いだから」

「へっ? あっ、ああ。じゃあここにいますけど……」



 いつになく真剣な顔に戸惑ってしまう。一体どうしたんだろう、エディは。とそこへ婚約したばかりのジェラルドが乗ってきて、こちらを見て意外そうな表情を浮かべる。



「何だ、もう。すっかりカップルじゃん。エディ君とレイラ嬢」

「はっ、はいっ!? そんなことはありませんけど!?」

「俺はもう、レイラちゃんの肩にもたれて寝よっかな! おやすみ、レイラちゃん。また明日!」

「いや、今日中には着きますからね、これ。はーあ……」



 バスが出発して、物言いたげなミリーとにやにやと笑っているジーンに見守られつつエディと寄り添って両目を閉じる。ああ、もう。頬が熱い。どうしたらいいんだろう、一体。



 眠っているエディがこちらの手を握り締め、ぼそりと呟いた。




「楽しかったね、レイラちゃん。……来年には俺と君も。夫婦になれているといいんだけど」




 夫婦。その言葉がやけに生々しくて黙っていた。がたごととバスに揺られながら考え込む。



(ああ、もう。どうかずっとこのままでいられますように……)






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