日常魔術相談課劇場 赤ずきんちゃん
「はいっ! 安直だと思いまーすっ! 俺の髪が赤いからって、赤ずきんちゃんは安直だと思いまーすっ!」
「頑張ってエディさん、じゃなかった。赤ずきんちゃん、はいこれ。パンと、ええっと葡萄酒? だったかな。沢山詰め込んだから、お祖母さんに持って行ってね」
「アラン君。似合うね、金髪のウィッグにエプロン姿が……」
「うん、女装が似合うってよく言われるよ、僕。ええっと、森には怖い狼さんがいるから気をつけて行っておいでね? 赤ずきんちゃんのエディさん」
「うん、分かったよ。お母さん。これでアーノルドが狼役だったら笑うし、心が死ぬな……」
「死んじゃうんだ……? 大丈夫だよ、狼役はもごもご、」
「はいっ、ネタバレ禁止! 行ってくるわ、じゃあ!!」
赤ずきんちゃんは狼が出るという森を歩き、お祖母さんの家へと向かいます。
「誰かなぁ~、狼役。嫌だなぁ、こんなぺらっぺらの赤いスカートで。森の中を全力疾走して追いかけてくるアーノルドを振りきんの……? 俺、逃げ切れるかなぁ?」
赤ずきんちゃんが森の中を歩いていると、そこへ狼が現れました。
「ええっと。あのう……? こんにちは?」
「まさかのレイラちゃんだった!! パンいる!? 葡萄酒いる!?」
「いや、それはお母さんから託された、大事な大事なご飯でしょう!? 病気のお祖母さんに持って行くやつ!!」
「あっ、俺のことを食べちゃう!? あそこの茂みにでも入っちゃう!?」
「これじゃあ、どっちが狼なんだか……ああ、ほら。お見舞いに花を持っていくといいですよ、そこに花畑があるから。摘んできてください」
「レイラちゃんの、違った! 狼さんの命令とあれば喜んで摘みます!!」
「うーん、なんて残念な赤ずきんちゃん……」
赤ずきんが喜んで花を摘んでいる最中に、狼はお祖母さんの家へ向かいます。お祖母さんを食った後、お祖母さんに成りすまして赤ずきんを食ってやろうと思ったのです。
「赤ずきん役……まさかのジルさんですか~。もう猟銃を構えているし」
「やっぱりこの時代、いついかなる時も近くに銃を置いておくべきですよ。お祖母さんはどうしてそうしなかったんでしょうね? レイラ様?」
「いや、お祖母さん。風邪で寝込んでいる設定ですから……あと童話として終わるので、それは。お祖母さんが常々近くに置いてあった猟銃で狼を撃ち殺し、返り血を浴びた状態で孫娘を迎えましたって、スプラッタ展開になりますからね?」
「いいんじゃないんですかね、それで。ほら」
(相変わらず、この人もこの人でよく分かんないな……)
狼はお祖母さんをぺろりと食べ、寝台に寝そべって赤ずきんを待ちました。
「っ可愛い! レイラちゃんがねんねしてる!!」
「ああ、やっと来たのかい。遅かったねぇ、赤ずきん」
「ああ、ほら。お祖母さんのためにお花を摘んできたよ! あと、なんか耳が大きい気がする! 何で!?」
「無邪気ですねぇ……それはお前の声が、遠くからでもよく聞こえるようにさ」
「うっ、感動!! レイラちゃんが俺の声を聞きたがっている!! 俺感動!!」
「……そして目が大きいのは、お前の顔がよく見えるようにです。何か面倒になってきたな、これ」
「いっつもレイラちゃんは、俺の顔面を鬱陶しいとしか言わないのに!! 感動! 良かった、赤ずきんちゃん役を引き受けて! 良かったああああっ!!」
「いつにも増してテンションが高い……!! ぞっとする、怖い」
「あっ、それでこのあと俺は!? 君に食い殺されるんだよね!?」
「いや、お腹の中に入るだけだと思う……」
「それでどうするんだっけ?」
「猟師さんがやって来て、私のお腹を引き裂く」
「ひどい、無理っ! お祖母さんのことは諦めようっ! 尊い犠牲だった!」
「ひっど、赤ずきんちゃんが一番言っちゃいけない台詞ですよ、それって……」
狼が赤ずきんを食べて眠っていると、そこに。
「おい……何でお前ら三人でお茶してんの? 仲良しか? なぁ?」
「あっ、坊ちゃん。坊ちゃんも食べますか? 木苺のパイとチーズ」
「……食べる。一切れくれ。あと俺は紅茶がいい」
「かしこまりました、はいどうぞ」
「レイラちゃん、可愛い~。狼のコスプレがよく似合っている~、可愛い~」
「も~、うるさい。黙って木苺のパイを食べて下さいよ、エディさん~」
「えーっ? レイラちゃんがあーんしてくれるのなら食べる~」
「何だ、このバカップルは……」
「ばっ、バカップルじゃないもん! 普通の距離感ですけど!?」
「アーノルド、大丈夫大丈夫。最近の俺達は大体こんな感じだから。大丈夫大丈夫」
「そうか……そうか」
「坊ちゃん、紅茶じゃなくてハーブティーにでもしましょうか? ちょうどラベンダーのがありますよ?」
「くれ……それ飲んで落ち着く」
赤ずきん役 エディ・ハルフォード
お母さん役 アラン・フォレスター
狼役 レイラ・キャンベル
お祖母さん役 ジル・フィッシャー
<それぞれのちょっとした裏話>
アーノルド
元々イザベラは家事が不得意で(料理とお菓子作りは得意)、子供を産み育てる自信がありませんでした。子供は欲しくない!と言い張るイザベラに、子供好きのハーヴェイは泣いて縋って「俺が全部するから! 俺が育てます!」と宣言。嘘が吐けないのでそれを信用。そして産んだ後、本当にハーヴェイに丸投げをして、ハーヴェイは嬉々としてアーノルドのオムツを替えていました。
そして、アーノルドはハーヴェイから家事を教わり、自然と家事は自分がやるべきものだと思い込む。ハーヴェイが仕事で度々家を離れるようになると、イザベラの代わりに全ての家事をこなし、幼いレイラの面倒を見ている内に、すっかり主夫となりました。天気の良い日は洗濯物を干さねば! と思って慌てている美形。
レイラ
女友達がいたのに、アーノルドのせいで消滅。男友達を作ろうと思って頑張ってみたが、それもアーノルドに潰される。人にじろじろと見られるのが嫌なので、アーノルドと外出したくないのだがそうなると、アーノルドが新しい服や消耗品を買えなくなってしまうので我慢している。ちなみに妹のセシリアはアーノルドと出かける気は無い。犬猿の仲。
アーノルドもアーノルドで変装して出かけてみたものの、一瞬でばれる。レジの店員が縮こまってミスを連発するので申し訳なく思い、「やっぱりレイラと出かけるしかないか……」と諦めた過去を持つ男。
エディ
レイラと連絡先を交換したが、そのことは当然アーノルドも知っているだろうと思い込んでいる(しかしアーノルドはまだ知らない)。
野菜の収穫時期を魔術で早めようと思ったら、庭師のおじさんに「味が落ちるから駄目ですよ、エディ様! 水っぽくなります!!」と言われ泣く泣く断念。かなり時間がかかるので「ああ、こんなことなら。もっと早くに植えておけば良かった……!!」と死ぬほど後悔中。
サイラス
エディに殴られても恍惚としている変態。構って貰っている感じが嬉しい。エディよりもメンタルは強く、毎回全力で恋をしている女好き。
好みのタイプは身長体型顔立ち問わず四十二歳までの女性で、自分のことをカッコイイと褒めてくれる女性。よって手当たり次第口説く。
サイラスがメイドに手を出しまくって大変なことになったので、それ以来メイドは雇っていない。ハルフォード公爵家の使用人は現在男のみ。(エディとキースが決めたことで、サイラスはいまだにメイド服! メイド服! と騒いでいる)




