28.サイラス・ハルフォードは女好きの屑である
とは言えども、この邸宅は中々に広い。シャンパンの液体が揺らいでいるグラスを持って、黒いドレスの裾を持ち上げつつ、階段を上がる。
(すぐに見つかって良かった、階段が……ってあれ? もしかしてエディさんかな?)
白い大理石の手摺りに掴まって見下ろしてみると、黒髪のエディの周囲に沢山の女性が集まっていた。妖艶なドレス姿の女性に囲まれたエディは、優雅にグラスを持って、その内の一人の腰に手を回し、耳元で何かを囁いている。
(はっや!! 馴染むのはっや!! あと手馴れてる。やっぱりエディさんって、かなりの遊び人なのでは……?)
苦しく手摺りを握り締めていると、こちらの視線に気が付いたのか、エディがふと見上げてくる。銀の装飾が施された仮面を付けているので、その表情は見えない。しかし、端正な口元がゆっくりとカーブを描き、妖艶な微笑みが浮かび上がる。そしてひらりと軽く、象牙色の手を振るのだった。
(っ何あれ、信じられない。チャラい、軽薄! 軽薄!!)
思いつく限りの罵詈雑言を並べて心の中で罵って、階段を駆け上がった。かんかんかんとヒールの音が鳴り響く。息が苦しくなって胸の奥が詰まってしまう。
(早く、早く。エディさんよりもルーカスさんよりも現場を押さえよう、そうしよう)
一人で突っ走って無理をするなと、アーノルドからもそう言われているけど。
(ばっかみたい、子供扱いして! そんな何も出来ない十五、六の女の子じゃあるまいし……!!)
何故か、アーノルドからもエディからも馬鹿にされているような気がして。
(やめよう、そんなことはないのに。ちょっと一旦落ち着いて……あれは)
首の裏にタトゥーが施されている黒いスーツ姿の男を見つけ、赤い絨毯を踏みしめ、立ち止まる。白い壁紙には悪趣味な現代アートの絵が飾られ、半裸姿の女性の彫刻が飾られていた。グラスを持って澄ましながらも、男の後をつける。
(おかしい、脇目もふらずにどんどん奥に進んでいく……慣れているんだわ、きっと)
慎重に黒いドレスの裾を持ち上げて歩いていると、黒髪の男はどんどん静かな廊下へと足を進めてゆく。一瞬だけちらりと、不安が過ぎった。
(どうしよう? エディさんを呼んでこようかな? でも)
彼も彼で中々に忙しそうだし。やめておこう、そうしよう。細く引き締まった体を持っている男が廊下の角を曲がったので、慌ててその後を追いかけようとしたが。
(いや、でも、ちょっと待って? 尾行がばれたら嫌だ、もうちょっとだけこのままで)
近くの壁に背をつけてもたれ、息を吐き出していると、ふっと黒い影がかかる。節くれだった指がこちらのシャンパングラスを持ち上げ、驚いて見てみると、角を曲がった筈の男がにっこりと微笑んでいた。
「だ~れだ? なんちゃって。君か、さっきから俺の後をつけていたのは」
「えっ、あっ、すみません。その、つい目が惹かれて……」
嘘ではない。嘘では。金と黒の仮面を被った男が低く笑って、こちらの金髪を掬い上げる。
「へぇ? まぁ、別にいいんだけど? 相手してやっても?」
「い、いや……貴方も貴方で用事があるんでしょう? 随分とその、急いでいたようですし?」
じっとりと熱い手で肩を握られ、嫌悪感よりも何よりも、激しい恐怖に襲われてしまう。全身から威圧感が滲み出ていた。黒髪に黒いスーツ姿の男は仮面を被っていて、低く笑ったあと、先程奪ったシャンパングラスを返してくれる。
「そうだな。だが、野暮用だ。別に急いで買わなくてもいい」
「買う? 何を買うんですか?」
「その前にちょっと味見」
「はっ? な、えっ?」
男がこちらの指先を掬い上げ、白い歯を立ててがりっと噛み付く。
「いっ!? あの!?」
「ああ、まぁ、こんなものか。さして期待はしていなかったが。まぁ、若い女の血なんて似たり寄ったりだからな」
「はっ、はい? 貴方は一体」
「人肉屋の店主だ。今日もそれ関係のものを買いに来たんだが。まぁ、不発に終わってしまいそうで」
「えっ? 魔術道具じゃないんですか……?」
ついうっかり聞いてしまった。その瞬間、男が歪んだ笑みを浮かべて声を張り上げる。
「おーい、お客さんみたいだぞー? とは言っても、怪しいがなぁ?」
「えっ、ちょっ」
「無理だろ、お前。そんなにぷんぷんと処女臭い匂いを漂わせておいて。合ってない、この場に」
「はっ、ちょっ、えっ、ええっ?」
男がこちらの手首を握り締めると、奥の部屋からぞろぞろと黒服姿の男たちが出てきた。
(あっ、これはちょっとやばいかも……!! 逃げないと!!)
「あっ、レイラちゃんが俺のことを呼んでいるような気がする……!!」
「エディ君、一体何の話なんだよ?」
仮面を被ったルーカスが呆れて溜め息を吐き、足元に転がっている男達を見下ろした。ここは薄暗い居室で、鎧戸がぴったりと閉じられている。ルーカスはごそごそと灰色の懐を探ると、ぱちんと懐中時計の蓋を開けた。
「よし、まだあれから二時間も経っていない。さぁ、エディ君? 残りの奴等も一網打尽にしてしまわないと勘付かれて逃げられ、」
「待ってて、レイラちゃん! 俺が今、君を助けに行くからねー!?」
「ちょっと待てよ、エディ君!? レイラ嬢なら大丈夫だから落ち着けって! まだ魔術道具の回収も出来ていないし、流石にこの人数を俺一人で縛り上げるのは無理だ! ここにいて手伝えよ!?」
「えっ、ええ~? そんなぁ~、レイラちゃん!! 口説かれていたらどうしよう!?」
はっ、はっ、はっと息を荒げて走っていた。足元のガイルが低く唸って、真っ赤な絨毯に黒い影がざわざわと広がってゆく。
「レイラ嬢、殺してやろうか? 後ろの男達を」
「ころっ、殺さないで下さいよ!? 飛びついてっ、はっ、邪魔をして下さい! 私はエディさんを探しに行きますっ!」
「了解した、レイラ嬢。従おうか、命令に」
ずるりんと足元の影から黒い狼が出てきて、わぁっと背後の男たちが悲鳴を上げる。赤いハイヒールを抱えたまま走って、ばっと廊下の角を曲がってみたが。
「っそんな、行き止まりだなんて……ああっ、もうっ! どうにでもなれっ!」
背後から「っおい! 女がそこの角を曲がったぞ! 誰か追いかけろ!」といった声と悲鳴が聞こえてきて、慌てて近くの部屋の扉を開ける。すると何やら、胸元を押さえた金髪の美女が飛び出てきて、ぶつかり「ごめんなさい!」と謝って去ってゆく。
(えっ? 一体何だろう? でも、時間が無い!!)
中に誰がいようとあの男たちよりましだ。強く掴まれていた二の腕がじんじんと痛んでいる。黒いドレスは少しだけ裂けていて、自分の金髪もぐしゃぐしゃに乱れている。
(ああっ、もうっ、最悪……!!)
焦って扉を開けて閉め、ふうっと大きく息を吐き出した。そして、目を凝らして暗闇を見つめていると、誰かがぱっとシェードランプの明かりをつける。瞬く間に花柄の壁紙と赤い絨毯が浮かび上がって、大きなダブルサイズの寝台が目に入ってきた。明かりをつけた人物は鮮やかな赤髪を揺らしていて、その姿にほっとして駆け寄る。
「エディさん! 良かった、私。実は今追われていて……!!」
穏やかに佇んでいる男の黒い袖を引っ張った瞬間、はたと気が付く。
(そうだ、エディさんは今日は黒髪にしていて。それに髪が、長くない……)
赤と金の仮面を被った男が愉快そうに笑った。その物騒な気配にたじろいで、後退ってしまう。
「エディさん、じゃ、ない……!?」
「初めまして、レイラ嬢。俺はサイラス。サイラス・ハルフォード」
サイラスは甘い声で歌うように告げると、優雅な仕草で仮面を外した。そこに現れたのはエディと全く同じ顔の男で、淡い琥珀色の瞳を細め、にっこりと微笑む。
「君を疎んでいる者の一人だよ? こんばんは」
「私を……疎んでいる? って、あっ、そうだ。忘れてた!!」
ばたばたと男たちの足音が響いてきて、我も忘れて会ったばかりのサイラスに縋ってしまう。
「たっ、助けて下さい! 私、実は今追われていて……!!」
「それは大変だ、じゃあ恋人の振りでもしないと。ねっ?」
「へっ? なん、なんで!?」
ふっと手際良く照明が落とされ、辺りが暗闇に包まれる。サイラスがこちらの仮面を取って足元へ投げ落とし、いきなりくちびるを合わせてキスをしてきた。
「んっ、んんん……!?」
ぬるりと酒臭い舌が入ってきて、あまりの事態に呆然としてしまう。ぐっと、両手で胸元を押し返してみたものの、サイラスはこちらの体を更に引き寄せて、深くディープキスをしてくる。
(はっ、はぁっ!? ちょっ、ええええええっ?)
そうこうしている間に部屋の扉が開いて、入ってきた男たちが気まずそうに「違った、次の部屋だ」と囁き合って去っていった。
「っは、サイラス様? もう男たちは行ったので、んっ」
「そういう訳にはいかないよ、レイラ嬢。折角だからこのまま俺と楽しんでみないか?」
「はっ、えっ、初対面なのに……!?」
「あはは、可愛い。俺は全然大丈夫だけど? 初対面でも!」
「えっ、ええっ!? ちょっ、ええっ!?」
するりと背中に腰を回され、そのままじーっとファスナーが下ろされる。女好きというだけあって早い。何の躊躇いも無かった。
「はっ、はいいっ!? ちょっ、本気なんですか!?」
「生憎とさっき、振られてしまってね……どうやら俺は、口説き損ねたようだ」
「えっ、あ、ああ、さっきの金髪美女の話か……」
「そうそう、でも。君の方が可愛いよ? このまま食べちゃいたいぐらいね?」
「えっ、屑じゃん……って、わああっ!?」
「よっと、暴れない。暴れない」
サイラスが暗闇の中でひょいっと、こちらを抱き上げてどこかへと向かう。あまりのことに呆然として、口をぱくぱくと動かしていると、ぼすんと柔らかな寝台へ下ろされた。暗闇の中でしゅるりと、ネクタイを解くような音が響いてくる。
「はーあ、さてと。ああ、大丈夫だよ? とびっきり優しくしてあげるからね?」
「えっ、ほんっ、本気なんですか? エディ、エディさんのお兄様ですよね!? 双子の!!」
「そうだよ? 俺達は一卵性の双子だからね、よく似ているだろう?」
穏やかな甘い声でそう話しつつも、ぎっと、寝台を軋ませて迫ってくる。パニックになって後ろへと下がり、暗闇に向かって声を張り上げた。
「ちょっ、ちょっと待って下さい! 聞いていませんか!? エディさんに私のことを!」
「聞いているよ? 弟の想い人なんだって? あはは、楽しいなぁ~。弟の好きな子の処女を奪うだなんて。考えただけでわくわくしちゃうよ。君はどう?」
「しないっ! するわけが無いっ!! あと悪趣味っ! 本当に本当に女好きの屑だった!! わぁっ!?」
「ああ、ごめんよ。ちょっと縛っておくね? 暴れられても面倒臭いし」
「へっ? 嘘、本当に……?」
あっという間に先程のネクタイで両手を縛られ、身動きが出来なくなってしまった。それから、優雅な動きで私の体に跨る。思考が停止していた。まさか、本当に? かちゃかちゃと、ベルトを緩める音が響き渡り、サイラスがはっと酒臭い息を吐き出す。
「大丈夫、絶対に痛くなんかしないからね?」
「へっ、ちが、そういうのじゃなくて……!!」
「ほらほら、暴れないで? 大丈夫、たっぷりと気持ちよくしてあげるからね……」
するりと太ももに手が這って、頭が混乱して、どうするべきかぐるぐると考えを巡らせていると────……。
「レイラちゃんっ! ごめんっ、遅くなった!! 大丈夫!? 今、ガイルが俺のことを呼びに来てくれて……」
ばんっと扉が開いて、懐かしいエディの声が飛び込んでくる。
「っエディさん! 助けて下さい、女好きの屑に襲われている最中です!!」
「おっと、しまったなぁ~。まさかこんなにも早く来るとはね」
廊下からの明かりに照らされてサイラスが笑い、引き続き、こちらの太ももを撫で上げる。見ると、エディはぽかんと口を開けて突っ立っており、次の瞬間、凄まじい勢いでずかずかとやって来た。そしてぐいっと、サイラスの胸倉を掴んで寝台から引き摺り下ろし、拳を振り上げる。
「このっ、性犯罪者めっ!!」
「わあっ、わあああああああっ!? 殴ったぁーっ!! ばきって凄い音がしたあああああああっ!!」
思いっきりサイラスがエディに殴られ、くちびるの端が切れてぼたぼたと血が流れ落ちる。エディは激怒してサイラスの胸倉を掴んで、がくがくと体を揺さぶっていた。
「一体どこまで見境が無いんだよ!? 兄上は! レイラちゃんを襲うだなんて!! お前みたいな性犯罪者を生かしておいても何もいいことは、」
「おっ、落ち着いて!? 落ち着いて下さいよ、エディさん! 早まっちゃ駄目です!!」
慌ててネクタイを解き、黒いドレスを引き上げて押さえつつ、エディの腕を掴んだ。するとエディがサイラスを掴み上げたまま、焦った表情でこちらを振り向く。どうでもいいことだが仮面を取っていた。二人の顔は本当にそっくり同じで。
「だっ、だってレイラちゃん!? こいつは君のことを襲おうとしたんだよ!?」
「殴るのは賛成です! でも、私のいない所でやって欲しい!!」
「え~? 最後までかばってくれないんだ? でも、そういう冷たい所も魅力的だよね、君は」
薄く微笑んだサイラスがくちびるの端をぺろりと舐めつつ、腕を伸ばして、こちらの首筋を撫で上げる。
(こっ、懲りてない。この人……!! 平然としているんだけど!?)
苛立ったエディが無言でサイラスを掴み上げ、そのままぎりぎりと締め上げた。表情が怖い、今まで見たことがない程の凄まじい形相で怒っている。
「兄上……!! あなたという人は、本当に一体……!!」
「まぁまぁ、そう怒るなって。エディ?」
「そっ、そうそう、まさかサイラス様も本気でその、コトに及ぼうとしていた訳じゃ、」
「えっ? 俺は本気だったよ? 悪いね、昔から。女となるとつい我慢が効かなくって。あーあ、残念。お前が来てなかったら今頃は、」
「っ殺す!! 絶対に殺してやる!!」
「わーっ!? エディさん!? ちょっと落ち着いて下さいよ!? また瞳孔がドラゴンみたいに開いちゃってるし!!」
何とか怒り狂うエディをなだめ、ルーカスと中庭で合流する。それから、違法な魔術道具を売っていた男達と「私は何も知らない! 客が勝手にやっていたことだ!」と喚いている邸宅の主人を捕まえ、黒い門の前に移動し、事の顛末をルーカスに話していた。
「はぁ、それで。君がエディ君のお兄さんか……魔術犯罪防止課の者としては、どうしてこんなパーティーに潜入していたのかを聞きたい所なんだけど?」
にっこりと甘く微笑んだルーカスに対して、あの後、もう一発殴られてしまったサイラスが妖艶に笑う。
「弟が心配だったんです、とても。そして、この辺り一帯は俺の領地でもあるので。見回りも兼ねて?」
「……まぁ、こちらとしても、ハルフォード公爵家と事を構える気はないさ。レイラ嬢? 大丈夫か?」
「あっ、はい。何とか大丈夫です……」
黒いドレスは引き裂かれ、金髪はぐしゃぐしゃに乱れている。手首を掴んで呆然と突っ立っていると、エディがそっと背中を支えてくれた。
「すみません、ルーカスさん。俺の兄上が彼女を襲ってしまって……幸いなことに未遂で済みましたが」
「逮捕案件じゃないか、それって……」
「あはは、まぁまぁ」
「エディさん、後でサイラス様を五十発ほど殴っておいて下さい。それで良しとします」
全然反省していない様子のサイラスに苛立ってそう呟くと、エディが仄暗い表情で「分かった、任せて。レイラちゃん」と約束してくれた。黒と白のストライプスーツを着たサイラスがひょいっと肩を竦め、こちらを淡い琥珀色の瞳で見つめてくる。
「君が悪いんだよ、レイラ嬢。いつまで経っても、俺の可愛い大事なエディのことを好きにならないから。その腹いせだね」
「はぁっ!? 兄上は一体いきなり何を言って、」
「だって、よく考えてもみろよ!? エディは俺に似て、こんなにも格好良くて、しかも俺とは違って真面目で誠実で、好きな女性を一生大事に出来るような素晴らしい男なのに! 間違っても絶対に浮気なんかしないのに!!」
サイラスが「信じられない!」とでも言いたげな表情で、戸惑っているエディの肩を抱き寄せる。呆気に取られて芝生の上に突っ立っていると、ずずいっと、驚愕の表情で詰め寄ってきた。
「それなのに、未だにエディからのプロポーズを断り続けているだなんて! 君はどこか人間としておかしいんじゃないのか!? 何でエディのことを好きにならないんだよ!? おかしいだろ!? どこからどう考えても!!」
「はっ、はぁっ!? 女好きの屑の上にブラコンですか!? くっだんない、好きになる訳が無いでしょう!? 大体、私にはアーノルド様という婚約者だっているのに!?」
「そこだっておかしいだろ!? 普通はどんな婚約者だって捨てて、エディの下へ駆け寄るべきなのに!?」
かっと淡い琥珀色の瞳を見開いて、怒鳴ってくるサイラスに苛立ち、思わず声を張り上げてしまう。
「一体どこの世界の話なんですか!? いきなり気持ちの悪いブラコンワールドを展開してこないで下さいよ、気持ち悪い! 変態!!」
「変態だってことは認める!! 認めるが、そうじゃない! どうして君は未だに、エディのことを振り続けているんだよ!? やっぱりどこか頭がおかしいんじゃないのか!?」
「はっ、はああっ!? なんっでたかだかエディさんを振っているだけで、そこまで言われなきゃいけないんですか!? こうなったらもういっそのことこのハイヒールで、」
ざっとハイヒールを脱いで、思いっきり掲げた所で、ルーカスにぱしっと手首を掴まれる。
「待った待った、レイラ嬢! 一応この国の公爵家の当主だから! なっ!?」
「兄上のことは俺が殴っておくから!! ねっ!? 今日は君も疲れているし帰ろう!? ルーカスさんが応援を呼んでくれたんだし、後はもう帰るだけだからね!? ねっ!?」
そう宥められて渋々と腕を下ろす。強く睨みつけてやると、サイラスもこちらを強く睨み返していた。そう、こんな出会いだけで終わる筈も無く。暫くの間、サイラス・ハルフォードは私の天敵として君臨するのである。