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“魔術雑用課”の三角関係  作者: 桐城シロウ
第二章 彼らの思惑と彼女の過去について
62/122

18.デートの続きと悪魔好みのサンドイッチ

 





「えっ!? ……えっ!? 現地集合現地解散じゃない!? まだある!? ええっ!?」

「いや。流石の私もその、あれだけ散々畑仕事をさせたのに……あー、デートだと言い切る気は無いです」



 その言葉にぱちぱちと、エディが淡い琥珀色の瞳を瞬く。そして首筋を掻いて、不思議そうに首を傾げた。



「意外だなぁ。レイラちゃんのことだから、じゃあここで解散ということで! それでは! って言って爽やかに帰宅するのかと」

「今の、私の声真似ですか……? まぁいいや、別に」



 いたたまれない気持ちで、顔を伏せると、つい先程「暑いからもう無理、耐えられない!」と叫んで、ホースで頭を洗っていたエディがバスタオルで顔を拭きつつ、こちらの頭を撫でてきた。驚いて見上げると、にかっと爽やかな笑顔を浮かべる。



「ありがとう、レイラちゃん! 嬉しいよ、どこに行く? ドライブデートしちゃう?」

「いや、あの。実はこの先に。丁度良い草原があって。私のお気に入りスポットなんですけど」

「じゃあ、そこに行ってみようか。あー、喉が渇いた!」



 エディがペットボトルの水をごくごくと飲んでいる。ここはまだ、修道院の中庭で。日が少しだけ傾いて、そろそろ帰ろうかと言い出したエディに、先程の提案をしてみたのだが。



(あー、緊張した! ああ、でも。余計なものばっかり、作ってきてしまったかもしれない。どうしよう?)



 一応はデートということで、沢山作ってきたのだが。



(喜ぶとは限らないし、ああ、どうしよう? 何か重たいかもしれない)



 大量に買い込んで、作っている間は気にならなかったのに。途端に気になってしまって、指を絡めていた。冷や汗を掻いて、俯いて、足元の地面を眺めていると、エディがペットボトルを片手にまた頭を撫でてくる。



「どうしたの? レイラちゃん。気分でも悪い? 悩みごと?」

「いや。……あー、その。作ってきたものがあって。口に合うかどうか、」

「お菓子!? ご飯!? 俺のこと好き!?」

「いや、違います!! ちょっと落ち着いて下さいよ、エディさん!?」



 鼻息荒く詰め寄られて、思わず後退るとエディが笑って「ごめん、ごめん!」と謝ってから、またペットボトルの水を含む。



「あー。ほらさ? どっか店で食べるもんだと思ってたから。嬉しい、ありがとう」

「ええっと、その。頼まれてもいないのに作ってきたというか。そもそもの話、嫌いな物も把握していないので」

「っはは、大丈夫だよ。レイラちゃん。意外だったな。君でもそんなこと、気にするんだ?」

「気にしますよ……気にしない方がおかしいでしょう?」



 エディは何かと強い人だから。気にならないのかもしれないが、私は気になる。顔が見れなくなって、足元の地面を眺めていると、ふっと笑う気配が漂って、ぽんぽんと頭を撫でられる。



「ありがとう、本当に嬉しいよ。レイラちゃん。俺、手作りとか抵抗無いタイプだし」

「あー、まぁ。そうですよね? いっつも綺麗な人から貰ってるし」



 そこでエディが変な顔をして黙り込む。しまった。



(あ。これじゃあ、まるで。嫉妬してるみたいだ)



 エディが口を開きかけた、その時。



「ああ、良かった。まだいた。レイラ、貴女の好きな葡萄ジュースとワインを持ってきましたよ」

「院長! わー、そんな! すみません、いつもわざわざ!」



 天の助けとばかりに、現れた院長の下へ向かう。背後でエディが、静かにこちらを見ているような気がした。



(う。視線が痛い。背中に突き刺さる……)



 後ろを振り返ることが出来ずに、院長と楽しく話していると、じきにエディもやって来た。別れの挨拶を済ませて、修道院を後にする。




「わーっ! 凄いよ、レイラちゃん! わー、俺、こういう所好き! やった!!」

「まぁ、エディさんが嬉しいのなら良かったです……」



 オンボロトラックから降りるなり、エディがたっと草原へ駆け出した。海のようにさざめく、草原の向こうには透き通るような青空が広がっていた。前を走っていたエディが、鮮やかな赤髪を翻してこちらを振り向く。



「っレイラちゃん! どこで食べる? あの岩場のほう? わっ、ガイル!?」

「楽しそうじゃないか、混ぜろよ。エディ坊や?」

「えーっ!? 折角のレイラちゃんとのデートなのに?」

「まぁ、いいじゃないか。ケチ臭い」



 黒い狼姿のガイルが、その尻尾を揺らしてエディの隣を歩いている。ここだけが穏やかに、隔絶された世界のようで。強い風に吹かれて、黒髪を押さえる。



(あー、スカートで来ても楽しかったかもしれない。まぁ、長距離移動だしなぁ)



 ピクニックバスケットを持って、揺らして、足元の柔らかな草を踏みしめて。絵画のような青空に、どこまでも続く草原を見て自然と笑みが浮かぶ。



「レイラちゃーんっ、おいでよ、君も! 待ってるからさぁ、俺達ー!」



 エディが声を張り上げたのと同時に、隣のガイルが「ウォン!」と吠える。スニーカーで良かったと思いつつ、弾むように走って行くと、エディが両腕を広げてくれた。きらきらと、期待に満ちた瞳で見てくるものだから、ついうっかり飛び込んでしまう。



「っわ! 凄いや、レイラちゃん! 俺の腕の中に飛び込んでくれるの!?」

「あはは! つい、うっかり! だってあんな目で見てくるから!」



 抱きついて、エディを見上げてみると、何故か淡い琥珀色の瞳を大きく瞠っていた。



「レイラちゃん……凄いや、俺。君がそんな風に笑うの、初めて見たかもしれない」

「えっ!? あっ、ああ。はしたなかったですか? いや、でも。そう言えば大きく口を開けて笑うの、本当に久しぶりで」



 そこでエディが、本当に嬉しそうな微笑みを浮かべる。純粋さが滲み出ている、その嬉しそうな微笑みに心臓がざわりと揺れた。



(あ、どうしよう。今すぐ逃げ出したい、落ち着かない)



 あまりにも真っ直ぐな好意を向けられると、逃げ出したくなってしまう。首筋に汗を掻いて、離れようとすると、エディが自然な動作で、こちらの両手を握り締め、ちゅっと手の甲にキスをしてきた。乾いたくちびるが当たって、背筋が飛び上がってしまう。



「おわっ!? エディさん?」

「あ、ごめん。我慢できなかった。許して?」

「適当じゃないですか、それ!? 笑ってるし! 反省してないし!!」

「へへっ、ごめんごめん」



 照れ臭そうに笑って、こちらの両手を握り締めてからそっと放す。少しだけ名残惜しく思っていると、ふくらはぎにふんわりと黒い尻尾が当たった。



「ガイルさん」

「レイラ嬢。俺のもあるか? 玉葱と葡萄が入ってないやつ!」

「ありますよ、勿論! 考えて作ってきました。山羊ミルクも瓶に詰めて持ってきて、」

「えっ? 俺のは……?」

「さっき頂いた葡萄ジュースがありますよ。紙コップも持ってきました」



 エディがほっとしたように笑って「そっか。ならいいんだけど」と呟く。何となく微笑み合っていたら、足元のガイルに急かされた。



「ほらほらっ? 早く食べようぜ、飯! 楽しみだ、レイラ嬢の。あー、なんだ?」

「わんこが食べれるように。お砂糖も塩も入れてない、パウンドケーキとクッキーを作ってきましたよ?」

「完全に犬扱いしてるね、レイラちゃん……」

「まぁ、いいさ。山羊ミルクもあるのなら」

「いいんだ? ガイル」



 隣を歩くエディが「お前がいいのなら、それでいいけど」と不満そうに呟き、その言葉に笑っていると、足元の小石に躓いてしまった。



「わっ!?」

「っとと、大丈夫? レイラちゃん。あー、折角のデートだから、その」

「……五分。五分なら手を繋いでもいいですよ、エディさん。アーノルド様にも腹が立っているし」



 思いのほか、柔らかく手を握り締められる。ふと見てみると、エディが緊張した顔で前を向いて歩いていた。



「あーあ、もう。変な所で緊張しますよね、エディさんって!」

「いや、何か。普段拒絶されてるもんだから。あっさり受け入れられると緊張する。罵られてる方がまだ好きかもしんな、いでっ!?」

「やめましょう、繋ぐの。変態発言のせいで、一気に繋ぐ気が失せました」

「えっ、そんな! でも、なんか落ち着く」

「……エディさん」



 手を振りほどいて、白けた気分で歩く。ガイルが歩いて、はしゃいで、黒い尻尾をぶんぶんと振っていた。頭上には白い雲が流れていて、夏らしい青空がどこまでも広がっていた。



「あー、青空が丸い。綺麗。さぁ、どこで食べましょうか? あとシートは」

「あ、ポケットに突っ込んである。魔術仕掛けのを持ってきたから」

「ありがとうございます。エディさんもエディさんで、何かと用意が良いですよね……」

「俺は全ての状況を想定して、荷物を考えているから」



 聞き返せば、怖い言葉が返ってきそうなので、聞かなかったことにする。エディと二人で歩いて、良さそげな場所を探し、比較的平らな地面に白黒ギンガムチェックのシートを敷く。



「わっ、可愛い。意外。エディさんがこんなものを持っているなんて」

「半月ほど前に、レイラちゃんが部署でアラン君と一緒に、ピクニックシートの話をしてたから。可愛い柄のものがいいよねって、そう」

「えっ? そんなこと話してたっけ……?」



 やばい。私に関することで、彼の記憶力が良すぎる。



「うーん。エディさんの気持ち悪い所って、そういう所ですよね?」

「えっ、辛い。でも、何かこっちの方がドキドキする!! 何でだろう!?」

「今までで一番、聞かれて困るやつ! こっち見ないで下さい」



 そんな風に喋りつつ、シートに座って、ピクニックバスケットを覗き込む。



「レイラちゃん。俺のは? あっ! こら、ガイル、鼻先を突っ込むなよ?」

「喉が渇いたんだ、寄こせ」

「あー、はいはい。こっちに。えーっと、器を持ってきたので」

「それも犬用!? ガイル、いいの?」

「いい。飲みやすいから」

「へー、いいんだ?」



 とぽとぽと、白い山羊ミルクを注いで渡すと、エディがそれを少し離れた地面に置いた。ガイルが喜んで顔を突っ込んで飲み始める。ふんわりと黒い尻尾が揺れていたので、思わずそれを掴んでしまった。



「はー、可愛い! 美味しいといいんですけど。山羊ミルクもパウンドケーキも」

「大丈夫じゃないかな? ガイルもガイルで、意外と好き嫌い無いし」

「あれっ? そうなんですか? 何かこう、色々とこだわるイメージがあるんで意外です」



 少しだけ緊張して、エディの分を取り出して渡してみると、彼がおそるおそるそれを受け取って、うやうやしく掲げた。大げさだ。



「どうしよう、凄く嬉しい。あとなんか綺麗にラッピングされてるし。写真を撮りたい」

「いや、まぁ。ただのサンドイッチなので。クッキングペーパーでくるくると。巻いただけだし」

「嬉しい……。凄く嬉しい」



 両目を閉じて、しみじみと呟いている。



(何か思ってたのと違った……!! しみじみと喜んでくれるんだな、エディさんって)



 胸の奥がほんわりと温かくなった。爽やかな風が吹いて、草の匂いが漂う。まったりしていると、山羊ミルクを飲み終わったガイルがやって来た。ぼすんと、私の近くに座り込む。ふわふわのお尻が可愛い。



「ガイルさん、甘えん坊ですかー? んー?」

「特別に背中を撫でてもいいぞ、レイラ嬢。信頼の証だ」

「ああ、ですね……わ~、ふわふわ~」

「何でだろう? ガイルの方がレイラちゃんとイチャついているのは、一体何故……?」



 エディが不満そうに呟きつつ、渡したサンドイッチを大事に両手に乗せている。それを見て、思わず呆れてしまった。



「エディさん? 食べて下さいね? 折角、エディさんのために作ったのに」

「えっ!? 俺のためなの、これって!? ええっ!?」

「いっ、一応は……エディさん、意外と素朴なものが好きでしょう? 意識して、全粒粉のサンドイッチを作ってきました」

「それを聞いたら、ますます食べられないっ……嬉しい」

「意外とテンション、低いんですねぇ。まぁ、いいや。私も食べようっと」

「俺も食べる。大事に大事に、食べる……!!」



 スプーンとフォークを出して、蓋付きの容器を手渡すと、エディが首を傾げる。



「でも、俺。まだ、サンドイッチも食べてないんだけど……?」

「エディさんは、それだけじゃ絶対に足りないでしょう? いっつもばくばく食べるんだから」

「うん。……うん、ありがとう。レイラちゃん。嬉しいよ」



 それもまた、しみじみと受け取って。優しげな微笑みを浮かべて、蓋を取って中を見て驚く。



「スープだ。俺の好きなトマトスープ。あっ、豆と肉が浮かんでる」

「鶏肉とセロリと。他にもじゃがいもとレンズ豆と。まぁ、色々入れました」

「わ~、どれも好きなもんばっかだ。ありがとう~」



 凄く嬉しそうに笑って、いそいそとスプーンを持って、赤いスープを掬い上げていた。



(そう言えば。初めてだな、エディさんに食べて貰うの)



 大丈夫だろうか、失敗していないだろうか。



(畑仕事をさせた後だから。一応、ほんのりと岩塩も入れたりして。味を濃くして。きちんと美味しい、鶏皮付きの鶏肉も入れたんだけど)



 はらはらして、それを見守っていたら、エディがスプーンを持ったまま震え出す。ど、毒は入れてないんだけどな……。



「えっ!? 大丈夫ですか!? 不味かった!?」

「うっ、ううん。嬉しい、美味しい、持って帰って保存したい……!!」

「それはやめて下さいね、エディさん。腐るんで。夏場だし」

「嬉しい、美味しい!!」



 そこでばくばくと食べ進めて、最後には一気にぐーっと呷って飲み干してしまった。



「ああ、うん。そうやって食べて貰う方が作った側としては嬉しい、ほっとする。色んな意味で」

「本気で気持ち悪いって言われたくないから、頑張って飲み干したよ、レイラちゃん……!!」



 ここは「頑張りましたね」とか、言うべきなのだろうか。馬鹿馬鹿しくなって、ピクニックバスケットの中から、自分の分のサンドイッチを取り出す。



「あとは、茹で玉子とハムのポテトサラダもありますよー。キュウリも入ってます」

「わー、嬉しい。夏のサラダって感じがする。あ、サンドイッチもうまい!」

「良かった、ええっと。エディさんの分は五個あるんで。余ったら持って帰ってください」

「喜んで!!」

「わざわざ言う必要が無いことでしたね、すみませんでした」



 エディには全粒粉の食パンに、人参と紫キャベツと、フライドチキンと玉葱を挟んだサンドイッチが二つ。それから胡麻をまぶしたパン生地に、柔らかな羊肉のソーセージと赤パプリカを挟んで、チーズソースをかけた、脂っこいけど、素朴な味わいのサンドイッチを二つ。そして残りのサンドイッチは私と同じものを。



「はい、こっちは。私好みのサンドイッチになってしまうんですけど。私は一個で十分だから」

「一個で大丈夫? 足りるの?」

「これにあと、サラダとスープと、デザートにプリンもありますから」

「プリン!! 食べたい、何!?」

「それは後でのお楽しみ~と、言いたいところですが。普通のカスタードプリンですよ? 王道の」



 ぺりぺりと、茶色い紙を剥がして。自分の好きな食材を詰め込んだ、サンドイッチを食べる。これはカンパーニュに、分厚く切ったローストポークとクリームチーズと、紫玉葱とキャベツを挟んで、濃厚なマスタードソースをかけたサンドイッチだ。ざっくりと噛み応えのある、カンパーニュを噛み締めると、中からしっとりとしたローストポークが現れて、マスタードの香りがふんわりと口の中に広がってゆく。



「わ~、美味しい! 自分で作っておいて、言うのも何ですけど。どうですか?」

「うん、美味しい。美味しいけど、レイラちゃんが俺のことを考えて作ってくれたサンドイッチよりかは味が劣る!! また作って欲しいです!」

「ん~、どうだろ」

「うわ、滅茶苦茶反応が渋い……!! 悲しい!」



 ひっそりと微笑んでしまう。



(そりゃあね? エディさんの好みを考えて作ったものですから。ふふっ)



 緩む口元を隠すようにして、サンドイッチを頬張っていると、彼がこちらを見つめてきて、にっこりと綺麗な微笑みを浮かべた。



「俺。さっきのワイン。飲もうかなぁ、ちょっとだけ」

「でも、車の運転……」

「……だね。なんかあっても嫌だから我慢しようかな」

「んぐ。あーのるろ様と。帰って。一緒に飲みまふ? 帰りはジルさんに送って貰えば、」

「やっ、やめとこうかな? お義父さんに殺されそうだし」

「ハーヴェイおじ様はああ見えて、穏やかな人なんですけどね~」



 いつも朗らかに笑っていて、人を笑わせるのが大好きだ。



「イザベラおば様にも。よく甘えていて。んぐ、鬱陶しがられていますよ、大丈夫です。多分」

「んー、それはきっと、レイラちゃんの前だからだよ。きっとね」



 そう言えば、エディは戦争の英雄である。彼から聞いたことはないが、もしかして。



「あー、あの。戦後の平和式典とかで会いました? ほら、女王陛下の演説もあった」

「あー……それとなくね。挨拶はしたよ、一応」

「そうですか。ハーヴェイおじ様もその、少しは戦場にいたので。繋がりがあるかとてっきり」



 ハーヴェイから戦争の英雄“火炎の悪魔”の話は出てこなかったが。



(んー、でも。会ってる筈だよね? だって士気上げの為に、陛下が戦場に出て。その護衛にハーヴェイおじ様も付いていったんだもの)



 エディは黙って、しみじみとサンドイッチを食べていた。話したくないのか、話すべきことがないのか。



(うーん。いつまで経っても、個人的な領域には踏み込めない)



 以前に「俺の過去が知りたいのなら。何でも話してあげるよ?」と、そう言っていたのに。



(肝心な話になると、はぐらかされてしまうと言うか。話して貰えないんだよなぁ、何でだろう)



 重たい部分だから、触れることも出来なくて。落ち込んでいると、エディがはしゃいだ声を上げる。



「レイラちゃん、レイラちゃん。プリン! 食べてもいい!?」

「あっ、どうぞ。普通の蒸しプリンですけど」

「全然いける。絶対に美味しい! 嬉しい! 俺、素朴なプリンのほうが好き~」



 知っている。だから、選んだのだ。余計なものも入れずに作ってみたのだ。エディの好きなものばかりを詰め込んで、拾い集めて、いつしか。



(ずっとずっと、エディさんのことを考えてる。意外と豆料理が好きなことと、冷たいものは一気に食べれない所。熱い珈琲は苦手だってことも)



 思考を切り上げて、食べることに集中していた。確実に何かが育っていて、その芽に囚われたくないから。いつかのエディの言葉が蘇る。『レイラちゃん。君はいつか絶対に、俺のことが好きになるよ』と。ああ、嫌なことを思い出してしまった。



(かなり前のことで、すっかり忘れていたのに)



 水底からゆらゆらと、何かが浮かび上がってくるみたいに、今までの言動や仕草、髪の手触りに湿った匂いを思い出す。



(ひっ! やめよう、私もプリンを食べよう!!)



 咄嗟に手を伸ばして、エディが出してくれたプリンを取って、スプーンを持ち上げる。隣でエディが、不思議そうに首を傾げていた。



「大丈夫だよ? レイラちゃん。そんなに心配しなくてもちゃんと、君の分は残してあるからね?」

「ああ、うん。はい……」



 鈍感なエディに少しだけ苛立った。すると寝そべっていたガイルが、黒い鼻先をひくひくと動かす。



「俺もプリンが食べたいぞ、レイラ嬢? パウンドケーキもクッキーも美味しかった。ありがとう」

「えっ? そうですか? 良かったです! ほんのりとならあげますよ、ほんのりとなら」



 スプーンで掬い上げて、ほんの少しの欠片を手のひらに乗せると、横で寝そべっていたガイルがその口を開ける。



「くれ、あーんしてくれ」

「はい、あーん! 可愛い~」

「レイラちゃん、俺は!? 俺は!?」

「しない。黙って欲しい」

「はい。すみませんでした……ううっ、悲しい。辛い!」







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