日常魔術相談課劇場 白雪姫
「はい、とうとうこの時が来ると思っていましたよ、私は!!」
「悪いな、レイラ。主人公に抜擢されたばかりで悪いが、森へと追放されてくれないか?」
「あーのる、じゃなかった、お義母様? 一体どうしてですか?」
「先程俺が鏡で占ったところ、お前がこの国で一番美しい娘だと、そう出たからだ。つまり」
「つまり?」
「お前がいなくなれば、この国で一番美しいのはこの俺となる」
「いや、あの、あーのる、お義母様の方が断然美しいと思うんですけど……?」
「ジーン、じゃなかった。鏡からしたらそうらしい」
「はぁ、まぁ、そうでしょうね……」
「と言った訳で、お前は森へと追放だよ、白雪姫」
「やる気が無いな~」
「当たり前だろう? こんな、女王役だなんて……」
「物凄く似合ってますけどね、ドレス姿」
「おい、やめろ。レイラ。撃ち殺されたいのか、猟師に?」
「いいえ……」
「アーノルド君、じゃなかった、女王陛下に念の為に貴女を殺せと、白雪姫。その、私は命じられてやって来たのだが……?」
「うーん。ライさんは、いや、猟師さんは無理ですよね、そんなこと」
「ああ、無理だ。こんな、罪も無い娘さんを殺すだなんて……!! しかもそれが義母とは言えども、母親からの、そんな、命令だなんて」
「実際の猟師さんも、こんな感じだったのかなぁ~」
「レイラじょ、いや、白雪姫。しかし、森は何かと危険が多い。本当は私が付き添って、国外へと逃げおおせるまで、付いて行ってあげたい気持ちでいっぱいなんだが」
「いや、大丈夫ですよ? そこまで無理をしなくっても、」
「だからせめてもの、この、サバイバルグッズ一式を持っていって欲しい。中には干し肉とドライフルーツと水とナイフとロープと、寝袋と、それから虫さされの薬と胃腸薬と、毒キノコの見分け方図鑑が入っているから、」
「うわっ、重たっ!? えっ、すっごい、これ背負って森の中を歩くの……!?」
「すっ、すまない!! 白雪姫、やっぱり私が今すぐその中身を詰め直して、」
「いやっ、もう、本当に大丈夫なんで!! 文句言ってすみませんでした!!」
といった訳で、白雪姫は森へと逃げて行きました。
「おっ、重たい! 思ってたのと何か違う、思ってたのと何か違う、思ってたのと何か違う……!!」
そして重たいリュックを背負いながらも、小人さんの家へと辿り着きます。
「あっ、ああ、ようやく明かりが見えてきた……!! ようやくこのリュックを下ろせる、ようやく休めるんだーっ! やったぁ!」
「うわっ!? 何かすっごい荷物を持った娘さんがやって来たぞ、おい!」
「ジェラルドさん、じゃなかった、小人さん。ここに一晩泊めて頂けませんか?」
「俺が後で、エディ君やアーノルド様に殺されそうな台詞を言うのはやめて欲しいなぁ、本当にもう!」
「あらあら、大丈夫よ? だって、この私もいるんだもん!」
「みっ、ミリーさぁん……!!」
「さっ、疲れたでしょう? 白雪姫。どうぞ入って休んでいって下さいな?」
「ありがとうございます、そうさせて頂きます~!!」
そんな訳で、白雪姫は過保護に甘やかされます。
「いや、あのっ、私だって掃除ぐらいは……!!」
「いやいやいや!!俺らが後で、アーノルド様やエディ君に殺されちゃうんで!! ねっ、ねっ!?」
「そうっすよ、レイラ嬢!? いや、白雪姫! あなたはどうぞ、ゆっくり休んでいて下さい!」
「えっ、え~? そんな、大袈裟なことを言って」
「いいからいいから、レイラちゃん? ほぅら、美味しいコーンクリームスープが出来ましたよー?」
「何か、こんな生活を続けていると、太ってきちゃいそうだなぁ~……あ、美味しい」
「良かった~! スープのお代わりも、まだまだ沢山あるからね?」
「わーいっ、やったぁー! 小人さん、ありがとう!」
「何? 白雪姫が、まだ死んでいないだと? それはまた、一体どうしてだ」
「いやぁ、人選ミスなんじゃないですかね~?」
「鏡よ、鏡。この国で一番美しいのは一体誰だ?」
「今もなお、生きている白雪姫でぇーすっ」
「よし、殺そう。今度こそは確実に、毒林檎でも食わせて確実に殺そう」
「うわっ、執念深-いっ!」
「叩き割るぞ、ジーン? じゃなかった、お調子者の鏡め……」
「待って、怖い!! 部長ー、今俺、手ぇ塞がってるんで~!」
「だからこそじゃないか、ジーン? いや、鏡よ鏡」
「うわぁ、とんだパワハラだよ~、まったくもう」
「こっちの台詞だ、こっちの」
そんな訳で、女王は老婆に化けて、白雪姫の下へと向かいました。
「っくそ、こんな所でぬくぬくと暮らしてやがったのか! ……あー、ごほんごほん。どなたかいらっしゃいますかー?」
「はーい? あのう、小人さんなら皆さん、森へと働きに行っていて、」
「いやいや、娘さん。私はただ、この美味しい林檎を売りつけにきただけだよ」
「あの、訪問販売ならお断りで」
「まぁ、いいから。ちょっと見ていってくださいよ、娘さん。ほらっ」
「わっ、わ~! 美味しそう! つやっつやしてる~!」
「一口、試食でいかがですか? 今ならお安いですよ~?」
「何かこれも、思ってたのと違う……!! でもまぁ、いいや。折角だし美味しく頂きます!」
「どうぞ、どうぞ。かなりちょろいな、白雪姫」
白雪姫はとうとう、老婆のすすめる林檎を断りきれなくて、食べてしまいました。
「っぐ、これは! 試食だと騙して、私に毒林檎を食べさせましたね……!?」
「今更気が付いてももう遅いぞ、白雪姫? これでようやくこの俺が、この国一番の美しい人間となるんだ……!!」
「いや、もう、私なんかよりも、美しいと思うんですけどね~」
「いいから、黙って死んどけ。黙って」
「ふぁ~い、これ、意外とおいひいれふよ、アーノルド様……!!」
「死んだ筈の白雪姫が寝そべってむしゃむしゃと、毒林檎を食うんじゃない!! 没収!!」
「あっ、ああ~。証拠隠滅されてしまったあぁ~……」
そして家に帰ってみると、そこには。
「あっ、ああ~!! 白雪姫~!!」
「だからあんなに、知らない人から食べ物は貰っちゃいけないよって、あんなにもよく言い聞かせていたのに~!!」
「大丈夫!! どうぞ安心して下さい、優しい小人の皆さん!!」
「うっわ! 王子の登場、はっや!!」
「気合い、入っているわね、エディ君……!!」
「えっ? これ、一体どうすんの? まだ、白雪姫の死体を棺おけに詰め込んでないんだけど?」
「硝子の棺と言えよ、硝子の棺と。マーカス、お前、そっちの足持ってくんない?」
「えっ!? 俺がレイラちゃんを、いや、意識を失った白雪姫を城へと持って帰りたいんだけど!?」
「何かとまずいから、その発言!!」
「もういいから、王子は黙ってろよ!?」
「部長に怒られる俺らのことも考えてくれって感じっすよ、本当にまったくもう!!」
「あら~、非難ごうごうね~」
「えっ、あっ、はい、申し訳ありませんでした、小人の皆さんたち……」
そして、嘆く小人たちの前に現れたのは。
「はいはい、テイクツー、テイクツー!! エディ君は、はいっ! そこの茂みから、馬に乗って颯爽と現れてー?」
「マーカスさん、馬操りにくいです……何もこんな、茂みから現れることもなく、」
「はいはい、もういいからそういうのは!! ほらっ、エディ君じゃなかった、王子様には白雪姫がいるだろ!?」
「あっ、そうだった!! レイラちゃん、レイラちゃん!! 俺がレイラちゃんとキスして起こす、俺がレイラちゃんとキスして起こす!!」
「こんな欲に塗れた、王子様って本当に嫌よね~。はーあ。まったくもう」
そんな訳で、唐突に現れた王子様は。
「っはい!! もう起きたーっ! これでいいでしょう!? キスしたことでってことで!!」
「うわーっ!? レイラちゃん、そんなっ!? 俺っ、折角君の王子様役になれたというのに!?」
「うわっ、白雪姫、今の腹筋力が凄かったなぁ~」
「な。エディ君が棺に手をかけて、開いた瞬間だったもんなぁ」
「と言うか今の目覚め方って、白雪姫というよりかは、ゾンビなのでは……?」
「レイラちゃん、よっぽど嫌だったのね~。エディ君と、お芝居でもキスするのがね~」
白雪姫を見事に生き返らせたのでした。
「っぐ!! ちょっと待って下さいよ、エディさん!? 一体、どこに手を回しているんですか!?」
「いや。どこって、お腹の辺りかな? ちょっ、痛いよ、レイラちゃん!? ほらっ、ここで白雪姫は王子様と一緒に無事に、国外逃亡しましたよーって、話だから本当に……!!」
「やっぱり白雪姫、何か思ってたのと違ったー!! 誰なの、本当に? 今回の配役を考えた人はー!」
END
その後の舞台裏にて
「お前だったのかよ、エディ!? 今回の配役、考えたの……!!」
「いや。何か前回のが本当に、猛烈に腹が立ったから、復讐的な感じで……?」
「っくそが!!きょとんとした顔をするなよ、鬱陶しいな!?」
「ライさん、このスープ、中々美味しいですね~! ドライフルーツも美味しいです! あっ、マンゴーとピタヤまで入ってる!!」
「ああ、そうなんだ。レイラ嬢はその、フルーツが好きだと、アーノルド君からそう窺ったものでな……」
「ありがとうございます~! わ~! 嬉しくて美味しい~!」
「なぁ、あれ。どう思う?」
「いいんじゃないか? ほのぼのとしていて……」
「いや、そっちじゃなくてエディ君だよ、ジェラルド君!!」
「あんだけ睨みあってんの、俺らどうしたらいいんすかね、ミリーさん?」
「うーん、どうもしなくていいんじゃないかしら? 殴り合いの喧嘩でもさせておけば」
「っあははは! さすが、ミリーちゃんだよね~! というか今回、出番が少なくて不満~! 俺も、レイラ嬢がキスで起こす王子様役がしたかった~!」
「いい加減に懲りなさい、あんたも……」
日常魔術相談課劇場「白雪姫」配役発表
白雪姫役 レイラ・キャンベル
王子役 エディ・ハルフォード
女王役 アーノルド・キャンベル
鏡役 ジーン・ワーグナー
猟師役 ライ・ロチェスター
小人役
ジェラルド・オースティン
ミリー・クック
マーカス・ポッター
トム・キンバリー
次回の上映予定 二章の終わり頃
その他は未定




