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“魔術雑用課”の三角関係  作者: 桐城シロウ
第一章 彼と彼女の始まり
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番外編 エディ・ハルフォードの着せ替え人形

 






「そう言えばエディさんって、割と、どんな服でも似合いそうですよね……?」

「えっ? そっ、そうかな?」

「あー、確かにそれは言えてるかもな~、何でも似合いそう、サファリ服とか」

「ミリーさん、何でピンポイントでサファリ服なんですか……? でも、この間の飲み会で着てたよな? それらしいやつ~」

「着てた、着てた。俺とマーカスの向かいで着てた、着てた」

「それはいいからとりあえずさ、エディ君? ちょっと服脱いでみてくんない? 本気で」

「「えっ!?」」

「レイラ嬢とエディ君で声揃ったな、うける」











 ミリー提案「パティシエが着ている白いやつ」





「にっ、似合う……!! 圧倒的によく似合ってて、凄い!!」

「えっ? そっ、そう? レイラちゃん? でも、何だかあんまり、褒められてる気がしないな~」

「いそう、こういう人……お菓子作るのが下手くそで、愛想が良いやつ」

「えっ!? ちょっ、マーカス君、それはただの悪口なんじゃ……?」

「いるわよね、こういう人。ちょっとケーキのデコレーションとか下手くそだけど、顔と愛想の良さで、全てを乗り越えていくパティシエ」

「滅茶苦茶よく分かりますよ、ミリーさん。そんで、近所のマダムがお持たせとかで根こそぎ買って行くやつ」

「そんで残り物とかを、裏口に来た猫にあげて、話しかけて、美味いかー? とか声かけてるやつ」

「えっ!? えっ!?」

「結局居着いちゃって、あ~、どうしよう、俺ケーキ屋なのにな~って悩んで、抱っこしてるタイプの人に見える」

「いや、ちょっ、俺、皆さんが何を言ってるのか、今いちよく分かんない……」










 レイラ提案「黒いサングラスと黒い本革のボディスーツ上下」




「うわっ……うわっ」

「れ、レイラちゃん……それは一体、どういう感情での声なのかな?」

「いや、でも、俺はレイラ嬢の気持ちがかなりよく分かんぞ、これって……」

「いや、マーカス君。一体どういうことか、ちょっと、よく説明して欲しいんだけど?」

「いや、なんかもう全てにおいて駄目」

「ジェラルドさん!? えっ、一体何の話なの、本当に!?」

「色気というか、うーん……何かこう、全てにおいて全部が駄目」

「みっ、ミリーさん……!? えっ!? えっ!?」

「まぁ、一言でいうと色気が凄まじいな! あと、何かチャラそう」

「いるよね、こういう人」

「いるいる。何かこう、ピンチの時に現れて、その場を引っ掻き回して、さらっと重要なメッセージを残してって、夜の街とかに消えていくやつ」

「女侍らせてるタイプな。そんで美人とかにちょっかい出して、冷たくされてもニコニコ笑ってる悪役」

「ちょっと待って下さいよ、一体何が起きてるんですか、俺の身に……?」









 マーカス提案「紺色キャップとTシャツとデニムと、ついでに小道具としてスケートボード」




「やっぱ似合う!! 休日の公園とかでいそう、こういう爽やか系の男子!!」

「いやっ、あの、マーカス君……?」

「似合いますね、エディさん……何だか、かなり若返った感じで」

「へっ? 若返った? ああ、でも、まぁ、ちょっとはしゃいだ感じの、ラフすぎる格好かなぁ~」

「エディさん、意外と、かっちり系の服が好きですもんね~」

「あら? レイラちゃん。まるで、私服のエディ君を見てきたように話すのね?」

「ミリーさん。私。何かと面倒臭いので黙秘権を行使します」

「面倒臭いからなんだ……?」

「次行こうぜ、次! 次は俺が提案したやつなー?」

「定番だったな、これ」

「な。着せるまでもなかったな、これ」







 ジェラルド提案「弁護士みたいな黒いスーツと黒縁眼鏡」




「うわっ!! 何か人を騙してそう、小物臭が物凄くする!!」

「えっ!? いやっ、だからそれは、俺へのただの悪口ですって!?」

「意外と黒縁眼鏡が似合わないのね、エディ君……」

「あー、そうなんですよ。俺。眼鏡全般が何だか、いまいちよく似合わなくって」

「サングラスなら似合うのにな。でも、何かそれも悪役感が出ててあんま似合わなかったよなぁ~」

「色が薄いものなら、いけるのかも……? ああ、でも、何かチャラい感じが出て、女が好きそうな感じも出ちゃうな~」

「れ、レイラちゃん……!? 俺、ちょっと、さっきから、物凄く悲しいんだけど!?」

「あとスーツもあんま似合わないな、エディ君。かっちりしすぎたやつは」

「あー、確かに。色が明るいと、もう少し似合うんですけどね~。チェック柄とか」

「もうエディ君はチェック柄着とけ、チェック柄」

「それがいいな、もうな」

「いや、俺はシンプルに、白いTシャツの上に黒いジャケットとか、そんなのが一番好きなんですけど」

「そうなんですか? チェック柄のシャツとかが、一番良く似合いそうなのに?」

「俺、今度の休みにチェック柄のシャツを大量購入してきます!!」

「相変わらず、打てば響くように、レイラ嬢の言うことを聞いてんな~」

「心底、どうでもいい……」

「れ、レイラちゃん……!!」










<こんなのもよく似合った>




「カウボーイ服が死ぬほど似合いますね、エディさんは……」

「えっ? そっ、そう? 似合う!? もっと褒めて欲しい!!」

「凄い凄い、似合う似合う」

「こう、あれかなー? ざっくりとした、ナチュラルな素材の方が合うのかなー?」

「麻素材とかな。麦わら帽子とか、後はカンカン帽とか」

「似合いそう、白いシャツにサスペンダー付きの紺色ズボンとかな」

「いや、俺。そういうのを着ると、避暑地のお坊ちゃん風になっちゃうんで……」

「あー、育ちが良い系の」

「あー、はいはい。探偵服とか着ても、何かそういう感じになりそうだよね」

「愛想が良くて、物忘れが酷くて、犯人に後ろから頭殴られてそうな、探偵の助手……」

「えっ、えー? 基本的に、俺に対する悪口なんだ?」

「育ちが良いからかな? 何か、ドジしそうな感じなのよね」

「ああ、それも俺。よく昔から言われますよ……」

「何かごめん、エディ君」

「ごめんね、みんなで遊んじゃって」

「ごめんね、エディ君……」










<エディ・ハルフォードのこぼれ話>






「うーん。何か俺、目薬が上手くさせないっ!!」

「えっ? いきなりどうしたんですか、エディさん……?」

「いや。何か今日はやたらと、その、目が痒いから、何かに反応してるのかなぁと思ってさ」

「はぁ。それで?」

「今、七回目に挑戦してみたんだけど」

「ああ、だからこんなに、デスクの上に大量のティッシュが」

「うん。ことごとく全部失敗してしまって。だからレイラちゃんが、俺に目薬をさしてくれたらそれで、」

「俺が直々にさしてやろう、エディ。ほら、お前の目玉をこっちに寄こせよ?」

「うわっ!? でっ、出た! 腹黒陰険イヤミ虫がっ!! って言うか、その目薬の持ち方、絶対にそれで俺の目ん玉を突き刺すつもりだろっ!?」

「失敬な。俺は純粋に、お前への完璧なる好意でだな……」

「嘘吐け!! 何でそんな、真剣な顔で言ってくるんだよ!? いいよ、もう! 俺はレイラちゃんにさして貰うからって、あれ!? 何でどこにいないの!?」

「レイラちゃん。自動販売機で何か飲み物を買ってくるって言ってたわよ、エディ君?」

「今頃気が付いたのか」

「くっそ!! 目も痒いし、本当、何かと辛い!!」









「エディさん、それ、一体どうしたんですか?」

「いや、何か。大量にパン貰っちゃった」

「お前。それ絶対、廃棄分を体よく押し付けられたんだろ……?」

「いや、何かもう、よく分からない……アーノルド。お前も食うか、これ?」

「変な味がしなければ、だな。俺はこっちのミートパイにしてみるか」

「あっ、それは駄目。俺が食べる予定のやつだから」

「何だよ、お前……それじゃあ、こっちのスコーンは?」

「それはいい、別に。紅茶入ってんのは、そんなに好きじゃないから」

「それじゃあ、私も何か、一個貰おうかなー?」

「どーぞ、どーぞ。こっちのバジルとチーズのパンが美味しいよ、レイラちゃん」

「エディ。後でお前、この大量のパン屑をどうにかしろよ? 床にまで落ちてやがる」

「はい、お義母さん。後で片付けておきますね?」

「お前っ、それ、俺のことを絶対に義母扱いしているだろう!?」







「なぁ、アーノルド? それ、いくらで売ってくれる?」

「売らん。絶っ対に売らん。ついでに言えば、お前にこれを見せるつもりは微塵も無かった」

「ちなみにそれ、何歳の時のレイラちゃんなんだ?」

「……十六歳の時に、夏に俺とプールに行った時の写真だ。ついでにその、苺柄の可愛いワンピース水着は、この俺が選んだやつだ」

「そういう陰湿な情報は、いちいちいらないから。あと、財布の中に入れて、何で持ち歩いてんの?」

「今日はたまたまだ。エディ、お前。何か猛烈に飲みたいものとかはないか?」

「たかだか自動販売機の飲み物で、俺のことを買収しようとしてくるなよ……」

「いや。レイラに、その、バレたくなくてだな……まぁ、婚約者の俺のすることだから、笑って許してくれるんだが」

「いちいち、お前は、余計な一言が多いっ!! 多過ぎるっ!!」

「お前もな。お互い様だろ、お互い様」








<いつものレイラとエディの会話と、それをヒヤヒヤしながら見守っている人々>





「エディさんって、嫌いな食べ物とかはあるんですか? いつも大体、何でも食べていますよね?」

「あー、うん。食べてるね、全部。特に無いかなぁ、嫌いなものは~」

「私は微妙に、レーズンサンドとかが苦手ですね……」

「あれっ? 意外だなぁ。レイラちゃんのことだから、甘いものは全部いけるかと思ってた」

「いや、私。あんまりべったり甘いのはちょっと……最近は塩キャラメルビスケットにハマっています」

「あー、どこの? 王道系かな? レイラちゃんの性格からすると」

「そんな感じですね、王道の……さくさく食感の、ちょっとしけったやつ」

「ちょっとしけったやつ、限定なんだ?」

「いや、限定では無いんですけどね? ちょっとしけっている方が何か、美味しいような気がして」

「あー、でも何か分かるかも、それ。俺はあれかなー? 溶けかけのジェラートが好きかなー?」

「頭、キーンってするって言ってましたよね、エディさん」

「そうそう、頭がキーンってしちゃうんだよねー、俺」





(ひたすら続くんだよな、レイラ嬢とエディ君の会話って)

(別にイチャついてる訳じゃないんだけど、仲がとっても良いわよね……)

(あー、どうしよう、あれ。何かさっきから徐々に、アーノルド様不機嫌になってないか、これ?)





<その更に五分後>




「そう言えば俺。この間、突然の雨に降られちゃってさー」

「あー、そう言えば、ざぁっと、降ってきた時がありましたよねー」

「うん。そんでちょうど、折りたたみとか持ってなくて。がっつり濡れちゃってさ」

「あー、大変でしたね、それは」

「うん、そう。一瞬魔術とか、使おうかと思ったんだけどさ? 咄嗟のことで良い術語が思いつかなくってさ~」

「あー、はいはい。ありますよね、そういうの。私もよく、家に忘れ物をした時とかに、自分が魔術師だったってことに気が付かないで、そのまま家に帰っちゃう時があります……」

「あるよねー、そういう時」

「ありますよね、そういう時。あっ、そうだ、エディさん?」

「ん? なになに? レイラちゃん?」

「この間、エディさんがあれ、何の鳥だろうって言ってたやつですけど」

「あっ、分かった? 何か。あの、腹の赤いやつ?」

「そうそう。この間たまたま、図書館で鳥図鑑があったからそれを借りてきて」

「それを借りてきて? 何だった、あの鳥?」

「それが何か、今の季節限定でこっちをうろついてるやつらしくって」

「あー、あるよね、それもね」

「でも、本当は川辺とか、そんな所に生息している鳥らしくって」

「えー? あいつ、道路にいたよね? 思いっきり」

「いたいた、いましたよねー」

「ねー。あっ、鳥と言えばさぁ、俺。この間新しく出来たスーパーで買ってきた肉が」




(ひたすら続くな、やっぱり。二人の会話って……)

(何を話すことがあんの? そんなにもう)

(うーん。レイラ嬢もレイラ嬢で鈍いなぁ、も~)





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