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“魔術雑用課”の三角関係  作者: 桐城シロウ
第一章 彼と彼女の始まり
27/122

23.休日の拒絶反応と美味しいジェラート

 




 賑やかなショッピングモール内でばったりと遭遇した、エディとアーノルドは黙り込んだまま、お互いに虚ろな表情で見つめ合っていた。アーノルドとデート中だった為、レイラは青いフリル袖ブラウスと白いロングスカートを着て、大きな白いリボンの麦わら帽子を被っていた。



 アーノルドの手を握り締め、ごくりと唾を飲み込む。



(えっ、ええっと、どうしよう? ここは何て声をかけたらいいんだろう……?)



 散々迷ったあと、死んだ魚の目で見つめ合う男達に声をかけてみる。



「わっ、わ~! 凄いですね、エディさんにアーノルド様! そうやって全く同じ服を着て並んでいると、双子のようですね!」



 そんな苦しい褒め言葉に、アーノルドとエディが同時にこちらを振り返る。とんでもなく嫌そうな顔をして、青ざめていたので、どうやら私は言葉選びを間違えてしまったらしい。



 そう、彼らは揃えた訳じゃないのに、全く同じ服装だったのだ――――それも鞄と、履いている靴まで同じで。二人は麻素材のベージュシャツの上から、紺色ジャケットを羽織ってデニムを履いていた。それに、黒い本革のボディバックと真っ白なスニーカー。気に食わない恋敵と服の趣味が同じだと知って、激しい拒絶反応を起こしてしまったらしく、ただひたすら黙って見つめ合っていた。



 永遠に続くかと思われた沈黙のあと、エディが口を開く。



「何でお前が、俺と同じ服を買って着ているんだよ……おかしいだろ、色々とさぁ」

「それはこっちの台詞だっての。しかも、何で色まで同じなんだよ? 別の色にしとけよ、そこはさ」

「いやいやいや、それを言うのならお前もだろ? お前だって別にそんな、わざわざ俺と同じ店の同じ服の同じ色を買わなくっても……」

「それじゃあ、私。今から帰りますね! お二人で仲良くデートでもしてきて下さい!」



 折角の休日なのに、アーノルドとエディの喧嘩の仲裁なんかしたくない。しかし、それではやはり駄目だったらしく、二人が同時に腕を掴んできた。



「おいおいおい、ちょっと待てよ、レイラ!? いくら何でもお前、早すぎるだろう!?」

「そうだよ、アホノルドの言う通りだよ!? 本当にごめん! 今日はもう俺達、一切口喧嘩とかしないからさ!? しないからさ、このまま三人で一緒に遊ぼうよ!?」



 そんな訳で一緒に遊ぶことになったのだが。ショッピングモールならではの明るい照明を受けて、白い大理石の床が輝いている。午前中だからか、人はまばらで少ない。それでも家族連れやカップル達がちらほらと行き交い、レイラ達三人は通りすがりの人々にじろじろと見られていた。



 特にそう、アーノルドが一番目立っていた。何が何でも隣を歩きたいと主張したエディとアーノルドに挟まれて歩き、深い溜め息を吐く。



「レイラちゃん? レイラちゃんは今日、何を買いに来たの?」



 隣のエディが上機嫌で覗き込んでくる。いつもの鮮やかな赤髪が揺れた。それを見て、何となく安心してしまう。



「あー、そうですねぇ……実は今日は、私の買い物じゃなくて。アーノルド様の服を見に来たんですよ」

「えーっ!? いいなぁ、羨ましい! レイラちゃん、俺の服も選んでくれない?」

「いいですよ、勿論。この際、折角ですからアーノルド様とのお揃いコーデを増やしてみましょうか!」



 にこやかな笑顔でそう提案してみると、アーノルドが嫌そうに顔を顰めていた。そして、こちらの手をぎゅっと握り締める。



「絶対にやめろよ? こいつとのお揃いコーデなんて、金輪際したくないんだからな!? エディもエディでやめろよ? おいっ、考え込むな!!」



 意外にもエディは顎に手を添え、真剣に考え込んでいた。怯えた様子のアーノルドに話しかけられ、静かに口を開く。



「いや……よく考えてみたら、これもチャンスかな? と思ってさぁ~」

「絶対にやめろ。絶対に頼むからやめてくれよ、もう……」

「だってそうでもしないと、レイラちゃんは俺の服なんか選んでくれないし。そうだ、お前一人が全部我慢をすれば済む話じゃないのか?」

「お前はどこまで俺に負担をかける気だよ……!! 甘えるのも大概にしろよ、エディ? レイラもレイラで他人事みたいに笑ってないで、さっきの発言を撤回してくれよ!?」



 笑ってアーノルドを見上げた。これはこれで楽しそうな休日になりそうだぞ、と期待に胸を膨らませる。



「ふふっ、別にいいじゃありませんか、アーノルド様! お二人が仲良くしてくれた方が、私の精神的な負担も減りますし……とりあえず、あのお店にでも入ってみましょうか!」















「わっ! これ可愛い~」

「確かにお前に良く似合いそうだな、レイラ。試着でもしてみたらどうだ?」



 その言葉でふと我に返って、慌てて素敵なブラウスを棚へと戻す。いけない。今日はアーノルドの服を選びに来たのであって、自分の服を選びに来た訳ではないのだ。気を取り直して、アーノルドに美しい紺色のシャツを勧めてみる。



「ほら。これとか似合いそうですよ、アーノルド様? どうですか?」

「レイラちゃん、俺は!? 俺への服は!?」



 それまで黙り込んでいたエディが辛抱堪らないといった様子で、アーノルドの隣から声をかけてくる。少々面倒に思いつつ、適当に白いシャツをお勧めしてみた。



「あー、じゃあ、この白いシャツとか似合いそうですよね、エディさんは」

「お姉さん! 俺、これを試着しまっす!!」

「いいのか、エディ? それ、今お前が着ているシャツと変わりないぞ……?」

「レイラちゃんが俺にお勧めしてくれたものだから、何が何でも絶対にこれを着てみせるっ!」

「まぁ、お前が良いのなら、それで良いんだけどな……」



 そんな訳で試着室へと移動する。突然現れた二人の美形に、女性店員が赤い顔で困惑しながらも、丁寧に接客をしてくれた。エディは上機嫌でカーテンの裏へと消えてゆき、残されたアーノルドと他愛も無い会話をして暇を潰す。



「アーノルド様は今日、こんな服が欲しいとか。そんな希望はありますか?」

「あー、俺か? 俺は別にいつもと同じ感じの服で……ああ、いや、もういっそのこと、あいつと被らなさそうな、奇抜な服が欲しいなぁ」

「よっぽど嫌だったんですね? エディさんとの双子コーデが」

「頼むからやめてくれよ、レイラ! いちいち双子コーデって言うなよ!? たまたま被っただけだろうが」

「レイラちゃん!! 俺、着てみたよー! どう、どう!?」



 アーノルドが低く呻いた所で、試着室のカーテンが勢い良く開いて、エディが現れる。先程とあまり変わらない。というか、上のジャケットを脱いだだけである。



「あー、さっきとあんまり変わりませんね。でもまぁ、いいんじゃないですか? 何だかんだ言って、エディさんに一番よく似合うのは白いシャツのような気がするんで」

「レイラ、お前、適当過ぎやしないか?」

「お姉さん、俺、この白いシャツを今すぐ買います!! お会計お願いします!」

「お前もお前で、それでいいのかよ……あと、シャツがズボンからきちんと出ていない。気を付けろよ、こういうことは」



 何だかんだで面倒見が良いアーノルドが、デニムに巻き込まれていた白いシャツの裾を直してやっている。エディもエディでぞんざいに「ん? ああ、ありがとう」と言って、そのままシャツの裾を直して貰っていた。



(仲が良いのか悪いのか、よく分からないな……)



 その後、エディにいちいち「この服は持っていないよな?」とアーノルドがしつこく確認をして、その度にエディが「ああ、それは持っていないやつだよ」と答えていた。意外と繊細なアーノルドはそれでようやく安心出来たらしく、レイラお勧めの紺色シャツと、貝釦のストライプシャツと、他にもVネックのカーディガンとスキニージーンズを何枚か買って、そこで本日のお買い物は終了した。



 三人は周囲の視線を強烈に浴びつつ、ショッピングモール内をぶらぶらと歩き回っていた。するとそこで、ふとあるジェラート店に目が吸い寄せられる。



「あっ、ほらほらっ! あそこ! 今、雑誌でも話題のジェラート屋さんなんだけどさ?」

「お前はいちいち、そんなのまで確認しているのかよ……」

「俺は常日頃から、レイラちゃんとのデートに備えてデートスポットをくまなくチェックしているからさ~」

「それはあんまり聞きたくなかった情報ですね、エディさん? まぁいいや。それじゃあアーノルド様の服も買ったことですし、あの店に寄ってみますか!」



 どんなジェラートがあるのかなと、わくわくとして駆け寄り、人だかりの後ろから首を伸ばす。かろうじて間から見えたガラスケースの中には、美味しそうなジェラートがぎっしり詰まっていた。



「あー、何か、色々あるっぽい……!! うまそう!」

「あー、だけど、あんまりよく見えないな……ここはあれか、いつもの手を使うべきか?」

「おっ! そうしてみて下さいよ、アーノルド様! アーノルド様なら一発でしょう? ほらっ、前髪も上げてみて!」



 若干嫌そうな表情のアーノルドを屈ませて、その煌く銀髪をさっと上げて、色っぽい褐色の額を出す。その途端、どこからか小さい歓声が上がった。そちらを見てみると、学生らしき若い女の子達がきらきらとした目でこちらを見ていた。アーノルドがそんな集団に向かって、珍しくにっこりと微笑んで手を振る。途端に「きゃあああああっ!」という歓声が上がった。周囲の人々が驚いて、一斉にアーノルドを見上げる。



 エディだけが唯一つまらなさそうな顔をしていたが、熱っぽい視線を一斉に浴びているアーノルドが極上の微笑みを浮かべ、とびっきりの甘い声を出して告げる。



「申し訳ありませんが、ジェラートを選びたいので少しだけ退いてもらっても? ああ、勿論、順番はきちんと守るつもりです」



 その言葉は神のお告げか何かのようで、店の前に佇んでいた人々が一斉にざっと飛びのく。突然出来た空間の中を、アーノルドが最高の笑顔を振りまいて会釈をし、ショーケースへと向かう。



「すみません、どうもありがとうございます。ほら、エディにレイラ? お前らは何にするんだよ? こっちに来て一緒に選ぼうぜ?」

「お前、今の芸で一生生きて行けるんじゃないのか……?」

「まぁ、餓死しない自信はある。レイラ? レイラは何にするんだ?」

「あー、そうですねぇ、私は何にしよっかなぁ~」

「レイラちゃんが全く動じていなくて、俺、ちょっとびっくりだよ……」



 こういった人々の反応は見慣れている為、淡々とラズベリーとアーモンドのジェラートを選ぶ。びしばしと感じる視線に、居心地が悪そうなエディもラズベリーとアーモンドに決める。平然とした様子のアーノルドは、苺とミルクの濃厚なジェラートにしていた。



 順番待ちをするつもりだったアーノルドは「どうぞ?」と言って振り返ったのだが、赤い顔の人々をとんでもないといった様子でぶんぶんと首を横に振っている。こうしてアーノルドを前にした人は大抵、俯いて真っ赤な顔で後ろへと下がってゆく。だからまぁ、余計にアーノルドはこちらに執着しているのだが。



「ああ。じゃあ、先に頼むか……どうもすみません。ありがとうございます」

「あっ、私が注文しますよ。邪魔なんで下がっててください」

「邪魔って、おい。レイラ……」

「あっ、代わりに俺が頼もうか? レイラちゃん。前に注文するのが苦手だって言ってたよね?」



 ただそこで、緊張して真っ赤な顔で震えていた女性の店員さんが「火炎の悪魔だ!!」という顔をして固まってしまったので、男二人を追い払って注文を済ませる。



「はーっ、もうっ! たかだかジェラートを選んで、注文するだけで一苦労ですよね~」

「おい、レイラ? お前が俺の前髪を上げて、あんなことをさせたんだろうがよ……」

「でもさぁ、お前もお前でかなり乗り気だったじゃん? いつもはさぁ、不機嫌そうな顔でむっつりと歩いているくせに! 何だよ、あの愛想の良い笑顔は」



 三人はショッピングモールの屋上庭園をゆっくりと歩いて、それぞれ手にしているジェラートをつついていた。エディが不機嫌そうに顔を顰めて、ラズベリーのジェラートを口に運んでいる。彼は冷たいものを一気に食べると、頭がきーんとなってしまうらしくちまちまとお上品に食べ進めていた。



「あー、俺はジルからあんまり笑わないようにって、そう言い含められているからなぁ」

「うげっ、何でだよ、それは?」

「日常魔術相談課で過ごしていると麻痺しちゃうんですけど、アーノルド様は基本的に、どこに行ってもまともに買い物が出来ないんですよね~。あんな風に愛想の良い笑顔で過ごしていたら、大騒ぎになっちゃうでしょう? だからです。まぁ、ジルさんもジルさんで、若干心配性なんですけどね……」



 はしゃいだ様子の子供が走って通り過ぎてゆく。初夏の眩しい陽射しが芝生を照らしていた。この屋上庭園には魔術仕掛けの噴水と広場があり、そこから小さな人魚やエイが飛び出して、辺りをすいすいと泳いでいる。幼い子供がわぁっと歓声を上げて、水で出来た魚へと手を突っ込んでいた。



 それをぼんやりと眺めつつ、ベンチに並んで座って、冷たいジェラートを口へと運ぶ。その途端、甘酸っぱいラズベリーの香りが広がった。ざらりとした舌触りの、アーモンドジェラートも濃厚で堪らない。



「レイラちゃん、レイラちゃん、俺のもちょっと食べてみる?」

「いや、エディさん? 私のと全く同じジェラートですよね?」

「はっ! そうだった、しまった! つい、いつもの癖でレイラちゃんと同じものを頼んじゃったけど、こんなことなら違うジェラートを頼めば良かったかもしれない!!」

「レイラの婚約者である俺の前で、よくもまぁ、そんな発言が出来たもんだな?」



 不穏な会話をし始めた男二人に挟まれ、思わず溜め息を吐いてしまう。



「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ、アーノルド様? そう心配しなくても、私が好きなのはアーノルド様だけですからね?」

「レイラちゃん、俺は!? 俺はっ!?」

「いや、ここでエディさんも好きですよって言ったら私、とんだ二股女じゃないですか……」



 呆れてそう返すと、隣に座ったアーノルドがにやりと、悪そうな笑みを浮かべる。



「俺は別にそれでも構わないぞ、レイラ? 何ならエディを愛人にして、俺と結婚するか?」

「糞みたいな提案はやめてくれないか、アホノルド? 誰が愛人だよ!? 俺はレイラちゃんときっちり入籍したいんだからな!?」

「うーん。こんな長閑な屋上庭園で、ドロドロとした会話はやめて欲しいなぁ~……」



 爽やかな初夏の風が吹き抜け、ジェラートを食べ終わったエディがぐーんと、気持ち良さそうに体を伸ばす。しばらくそのまま、風に吹かれてのんびりしていた。



「あー、それじゃあ、そろそろ帰るかぁ? 邪魔者が一名、いることだしなぁ~」

「誰が邪魔者なんだよ!? 俺からしてみれば、お前が一番邪魔な存在なんだが!?」

「折角だから、他にも色々と見て回りましょうよ、ほら  あとこれ以上ぐだぐだと喧嘩したら、家に帰りますからね!?」













「あっ! ほらほら、見て見て、レイラちゃん! ほらっ、これ! どう? 似合ってる?」

「お前はまた、一体どこからそんなハート型のサングラスを取り出してきたんだよ?」

「っあははは! 意外とよく似合っていますよ、エディさん? 私も何か試してみよっかな~」



 棚からサングラスを取って、試しに星型のサングラスをかけてみる。それを見てアーノルドが笑った。焦ったエディが「俺もかけてみる! 俺もかけてみるっ!」と言って、赤色の星型サングラスをかける。可愛らしくて、意外とよく似合っていた。



「わー、これ、可愛い! 僕も一緒に連れてっての、魔術仕掛けのアニマルバッグですよ! ほらほらっ」

「おわっ!? レイラちゃん、こいつら思いっきり動いているんだけど!? そんなんで荷物が運べんの? 大丈夫なの!?」

「心配するところはそこなのかよ、エディ」



 本物そっくりに動いて、ふわふわと尻尾を振っている、チワワの子犬をエディに手渡してみると、その子犬がべろべろと口元を舐め始める。このアニマルバッグはお腹に銀色のファスナーが付いていて、その中に色んな物が収納出来るのだ。ちなみに、お散歩用のリードも別で売られている。アニマルバッグが重たくなってきて、持ち運ぶのが面倒になった時は地面に下ろすと、てこてこと可愛らしく歩いてくれるのだった。



 これはアレルギーで犬が飼えない我が子の為にと、母親の一等級国家魔術師が開発したもので、犬や猫が飼えない人々に熱く支持されている。



「ほらほら、お前も抱っこしてみろよ、アーノルド?」

「いや、俺は別にいいって、わぶうっ!? ちょっ、こいつ、俺の顔を滅茶苦茶に舐めてくるんだが!?」

「わっ、可愛いですねぇ! 羨ましい~」

「っいや、そうじゃなくて、切実にどうにかしてほしっ、わぶぅっ!?」



 ぶんぶんと、激しく尻尾を振り回しているチワワの子犬バッグが、アーノルドの顔にべったりと張り付いて、べろべろと嬉しそうに舐め回している。それを見てエディも笑って、ようやく自分の顔からチワワを引き剥がしたアーノルドも、弾けるように笑っていた。ひとしきり笑った後で、果たしてこのバックには何が入るのか、ハンカチとティッシュぐらいしか入らないのではと、真剣に話し合っていると、チワワの子犬バッグが腕の中できゅーんと悲しげに鼻を鳴らす。



 結局はそんな悲しげなチワワバッグを「あんまり収納出来そうにないから」と言って、レイラはあっさりと戻してしまった。



「あー、これ良いなぁ、意外と……俺の部屋のソファーもそろそろ買い替えようかなぁ?」

「次、俺もそこに寝転がってみたいからな、アーノルド? さっさと譲ってくれよ?」



 灰色のカウチソファーにゆったりと寝転がったアーノルドを見て、エディがほんのちょっぴり羨ましそうな顔をしている。



「少しぐらい待てないのか、お前は? ……あー、駄目だな。ちょっと高いな、これは」

「お前、絶対にこれぐらいは余裕で買えるだろうが……」

「駄目なんですよ、エディさん。アーノルド様はかなりのケチ、いや、かなりの倹約家ですからね」

「隠しきれてないぞ、レイラ? お前の本音がな! あー、購入は見送るかぁ。おい、エディ? お前、次座りたいんだろ? ほい」



 アーノルドが値札を確認した後、さっと素早く立ち上がって、エディに次を譲っていた。エディがいそいそとソファーに横たわって、かっと淡い琥珀色の瞳を見開く。



「これ、滅茶苦茶座り心地が良い!! レイラちゃんと俺との新居に是非とも置きたい!!」

「その顔に水でもかけてやろうか、なぁ?」

「エディさんのとんでも片思い発言に今更、ぐだぐだと何かを言ったって無駄でしょうに。アーノルド様? それじゃあ次は、あの雑貨屋さんに寄りたいでーすっ」

「それもそうだな。もう行くか、レイラ」

「待って待って、レイラちゃん!? さりげなく俺を置いていこうとしないで!? 俺のことを見捨てないで!?」



 二人に置いていかれると思って焦ったエディがぐんっと起き上がって、慌ててレイラとアーノルドに駆け寄る。そんな様子のエディを見てアーノルドが振り返り、声を潜めて注意していた。



「お前はいちいち、声が大きい! 今すぐやめろ、誤解を招くような発言は!」

「ごめん、ごめん、ついうっかり。レイラちゃんとお前に置いていかれると思ってさ~」



 意外と仲良く歩いている、エディとアーノルドを振り返って笑いかけてみる。



「二人とも、今日はやけに仲良しじゃないですか! やっぱりこれも、双子コーデのおかげでしょうか?」



 そんな言葉を聞いて、エディとアーノルドは物凄く嫌そうに顔を顰めていた。



「うげっ、頼むからやめてくれよ、レイラ? うまいジェラートも食って忘れていたのにさ」

「でもさぁ、よく考えると、普段から俺達は双子コーデだよな?」

「は? エディ、お前は何を一体言って、」

「あー、それもそうですよねぇ。だって、毎日同じ制服を着て働いていますもんね?」



 今更な事実にショックを受けてしまったのか、アーノルドが口元を押さえる。



「うわっ、どうしよう、あの制服の色を魔術で変えてやろうかな……」

「いや、アーノルド、お前それ、制服として何の意味もないやつだからな?」

「それもそうですよ、アーノルド様? じゃないとリオルネ都民の皆さんが、私達を見つけられないじゃないですか! あの美しい紺碧色の制服は、日常魔術相談課の証なんですからね?」



 アーノルドがやれやれといった様子で溜め息を吐き、首を横に振る。どうしよう? 言わない方が良かったかもしれない。



「あーあ! それじゃあ、変える訳にはいかないよなぁ~……おい、エディ? お前、そろそろ辞めたらどうだ?」

「一体どうしてそうなるんだよ!? 絶対に辞めないからな!?」

「あー、はいはい! 二人とも落ち着いて! 後はもう帰るだけなんですから、ちゃんと最後まで仲良くして下さいよ?」






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