日常魔術相談課劇場 灰被り姫
作品の時間軸は気にしないで、頭空っぽにしてお読みください。かなり適当です。
「えっ、何で俺が灰被り姫役なんだろう……こういうのはさ、普通はさ、レイラちゃんがお姫様役で俺が王子様役の、いわば幸福な結婚までこぎつける幸せなお芝居を、」
「うるさいぞ、エディ! いや、シンデレラ! ぐだぐだと訳の分からんことをのたまっていないで、さっさと床の拭き掃除でも何でもしてこい! 分かったな?」
「うっわ~、アホノルドお前、意地悪な義母役が死ぬほど似合うじゃん、俺超可哀想……」
「やかましいな!? お前は本当にいちいち……俺だってこの役は不満だよ、シンデレラ! はい! その床掃除が終わったら次は皿洗いに、家中の窓をぴっかぴかに磨き上げてこいよ! 返事は!?」
「ちっ、この糞ババアめ! 今に見てろよ、いつか絶対に俺には素敵な王子様がやって来るんだからな!?」
「やけに元気が良いシンデレラだな……後で俺の靴磨きも追加で」
「才能あるじゃん、やっぱりお前……」
「なぁ、これって、俺らがいる意味ってあんの? あとパンプスが超痛い、脱げそうだし」
「その気持ちはよく分かるぜ、マーカス君。折角だから絆創膏をエディ、じゃなかった、シンデレラに持って来させようぜ!」
「ジェラルドさんの意地悪が小さい! いいよ、いいよ、そんなもん、優しいお姫様の俺が魔術で怪我を治してやるよ」
「自分で自分を優しいって言うなよ、シンデレラ!?」
「えっ? だって、これってそういう物語だよね? 義母や義理の姉に心の中で毒吐きながら、いつか王子様がやってくるんだぞって執念深く毎日歌ってる、優しいお姫様の成り上がりストーリー……」
「突っ込み所が多すぎて困る! お前はいっぺん読み直して来いよ!? いや、その前にさっさと家中の窓を磨いて来い、シンデレラ!」
「ちっ、これだから性根の腐ったババアは……はーあ! いつか颯爽と素敵な王子様役のレイラちゃんが現れて、俺と結婚してくれないかな~」
こうして義母と意地悪な姉達に虐げられつつ、灰被り姫は毎日健気に働いておりました。
「レイラちゃんが来ないかな~、素敵な王子様役がレイラちゃんだといいな~、レイラちゃんが早く来ないかな~、まだかな~」
「お母様、さっきからシンデレラがぶつぶつと怖いことを呟きながら、ずっと床の拭き掃除をしているんだけど……」
「放っておけ。じきに飽きるだろう。まったく。出会ったこともない見ず知らずの王子に、自分の人生を変えて貰おうと、毎日期待しているとはな……。本当に馬鹿な小娘だ。身の程を知れ、身の程を」
「やっぱりお前、乗り気じゃん!? 俺可哀想、俺、本当に超可哀想!!」
「うるせーよ!! 黙れよ、シンデレラ!? それが終わったら洗濯と買い物に行って来い! 行って玉葱十袋とジャガイモ十袋を買ってこい!」
「ちっ、この糞ババアが……見ていろよ!? 俺がいつかこの国の王妃になったら、未来の王妃を不当に虐げていたとしてお前達を告訴、裁判にかけて処刑台送りにしてやるからな!? 首を洗って待っておけよ!」
「いや、だから、灰被り姫はそんな話じゃないって……」
そんなある日、お城から舞踏会の招待状が届きます。
「うわっ、行きたい!! 行ってレイラちゃんと踊る! レイラちゃんに迫られてくる!」
「うるさいぞ、シンデレラ! いつお前を連れて行くと言ったんだ、俺は!?」
「そうよ、そうよ、お義母様の言う通りよー」
「エディ、じゃなかった、シンデレラはお留守番でもしとけよなー」
「お前らな、もうちょっと何かないか……? まぁいい、シンデレラ。お前は留守番だよ。俺達が舞踏会に行っている最中、掃除して飯作ってお前はパン粥でも食ってろ」
「ひっど!! 行きたい! 踊りたい! やだやだ、俺も舞踏会に行くもん!! やだやだ!」
「やばい。エディ君のせいで、原作のイメージが思いっきり掠れそうだぜ……」
「少なくとも悲壮感は漂っていないよな、このお姫様は」
「な」
留守番させられた灰被り姫は、しくしくと惨めに泣いておりました。
「うっ、ううっ……折角王子様なレイラちゃんと踊る機会だったのに! 俺だってこんなぼろきれじゃなくて、素敵な美しいドレスを着て、レイラちゃんに迫られて、お腹一杯ご馳走を食べたいのに!」
「その願いを叶えてあげましょう、働き者のシンデレラ」
「その声はミリーさん! じゃなかった、とっても親切な魔法使いのお婆さん!」
「棒読みでの説明をありがとう、シンデレラ。さぁてさて、貴方に素敵なドレスを出してあげましょうね~」
「王子様の目に留まるやつでお願いします! アホノルド達よりも抜群に素敵な青いドレスでお願いします!」
「このシンデレラ、意思主張が随分とはっきりしているのね~……まぁいいわ。そのお願い、叶えてあげましょう。そぉれ!」
「よっしゃあ! 何かよく分からないけど、滅茶苦茶素敵な青いドレスが出た! っしゃあ!」
「思ってた反応とちょっと、いや、かなり違った……」
「それじゃあ、行ってきまーす! ありがとう、親切なお婆さん!」
「待って待って、シンデレラ! 注意事項! 注意事項をまだ話していないから! いいこと!? その青いドレスのレンタル期間は今日の十二時までで……」
「待ってて、レイラちゃん! 今、この俺が君に会いに行くからねー!」
「絶対人の話を聞いていない、このシンデレラ! いい!? 絶対にとにかく、今日の十二時までに帰ってくるのよー!?」
こうして親切なお婆さんに助けられて、シンデレラは意気揚々と舞踏会に出かけました。
「はっ! あの美しいお姫様は……?」
「なんという事だ、見たことも無いような美しいドレスを身に纏っているぞ……」
「王子様は、レイラちゃんは、素敵な王子様は一体いずこに!? あっ、いた! レイラちゃんだ!!」
「どうしてでしょうか、全力で逃げたい気持ちです……」
「そんなっ!? 一体どうして!? そんなことを言わないで、俺と踊ってよ!?」
「わ、分かりました! 踊ります、踊りますから、この手を離して下さいよ!?」
「これから踊るのに?」
「あっ、それもそうだった……というかその青いドレス、今にもはちきれそうですね……」
灰被り姫は王子様から踊りを申し込まれて、無事に楽しく踊ることが出来ました。
「すごい! レイラちゃんとこんなにも堂々と、長時間一緒にいられるなんて! 業務時間外なのに!!」
「今はお芝居中ですよ? そんな発言はやめて下さい、可愛い人」
「わー! レイラちゃんが俺のことを可愛いって言ってくれた! その調子で俺のことをどんどん口説いて欲しいです!」
「まぁ、それぐらいは……今まで君はどこにいたんだろう? その青いドレスもよく似合っているよ、私はって、顔色が何かおかしなことになってますよ!?」
「ご、ごめん、まさか、本気で口説いて貰えるとは、あんまり思っていなくて……」
その様子を遠く離れた所から、意地悪な義母たちが羨ましそうに眺めておりました。
「何でレイラもレイラで、意外と乗り気なんだよ……」
「まぁまぁ! あーのる、お母様! 今だけですからね!?」
「そうそう、まーかす、お姉様の言う通りですわ、お母様! じきに王子様も飽きましてよ!」
「絶対にあいつ、これが終わったら覚えておけよ……!! くそが、あの灰被り娘め!」
(言っちゃ悪いんだけど、物凄く似合ってはいるんだよな、この役柄に……)
(というかウエスト細いな、この人……何でそんな細身のドレスが入んの?)
灰被り姫は楽しく踊っていましたが、そのせいですっかり時間を忘れておりました。もうすぐで魔法使いのお婆さんが言っていた、十二時です。
「わーっ! レイラちゃんともっと踊っていたいのに、もうすぐで十二時になってしまう!」
「一体どこへ逃げるおつもりですか? 私はこのままもうずっと、今夜は貴女を帰したくないのに?」
「お芝居だからって、そんなことばっかり言う! さっきからずっとそう! さっきからずっとそう!!」
「待って下さい! 私はまだ、貴女と踊っていたいのに!?」
「はっ、初めてレイラちゃんに引き止めて貰っている……!! でも、あんな変身が解けた無様な姿を素敵な王子様風のレイラに見られたくない! ごめんなさい、さようならっ!」
「ちょっと待って下さい、ガラスの靴を落としましたよ!?」
「あげます! どうせ貰いもんだし!」
「シンデレラがそんなこと言っちゃ駄目!! って、ああー……行ってしまった。逃げ足はっや、わー、凄い、片足脱げたままで、何であんなに走れるんだろう……」
魔法は解けて、また元通りのみすぼらしい姿となってしまいました。
「でも、楽しかった! あと、レイラちゃんの王子様姿が普通に眩しすぎて神々しかった……!! 何だか俺が、乙女気分になってしまう素敵さと格好良さだった、好き! 後で写真を撮らせて貰えないかなぁ」
灰被り姫はまたいつもの日常に逆戻りです。でもどうしても、あの日のことが忘れられません。
「あ~、家の掃除とかしたくない、またあの舞踏会に行って、王子様と踊りたいなぁ~」
「いいから黙って働けよ、シンデレラ?」
「そうよ、そうよ、シンデレラが生意気よー」
「お姉様の言う通りだわ、シンデレラ! このわたくし達を差し置いて、あんなに素敵な王子様と踊るだなんて、最低もいいところだわ!」
「いや、だって、あの会場の中で俺が一番輝いていたし……」
「っうるせえよ、いい加減に黙れよ、このアホアホシンデレラが! 今すぐこのバケツの水をひっくり返して、お前の服にでもぶちまけてやろうか!?」
「やっぱりお前、超乗り気じゃん……」
「ああ!? 何だと!?」
(確かにそれはちょっと、いや、かなり否定出来ないんだよなぁ……)
(意外とそのドレスがよく似合っていますよ、部長……)
そんな毎日を送る中で、ある日。あの王子様がガラスの靴の持ち主を探していると、そんな知らせが街に出されました。
「えーっ!? 絶対俺じゃん、絶対俺じゃん!? 待ってて、レイラちゃん! じゃなかった、あの日の王子様! 今から俺がその靴を受け取りに……!!」
「おい、待て待て待て! シンデレラ!? お前は何を勝手に一体、そんなガラスの靴を落としてきたんだよ!? わざとか!? なぁ! まさかわざとなのか、この陰湿な灰被り女め!」
(うおお、死ぬほどノリノリじゃん、アーノルド様……)
(というか原作に、こういうシーンってあったっけ?)
ガラスの靴を持ったお城からの使者が、シンデレラたちが住むお屋敷にもやって来たのですが、シンデレラは部屋に閉じ込められてしまいます。
「えーっ!? ないない! それはないだろ、アーノルド!? いや、お義母様! ごめんって! 俺がちゃんと黙って、床磨きでも何でもするからさぁ! ここから出してくれよ、なぁ!? 頼むからさぁ!」
「ええい、うるさい! 誰がお前なんぞ、城に行かせるか! たった一度だけ、殿下と踊っただけで調子に乗るなよ!?」
「だって、レイラちゃんも俺のこと好きって言ってくれたもん!!」
「やかましい! 堂々とそんな虚偽を述べるなよ、このクソ悪魔が! レイラは絶対、お前のことなんか好きにならないからな!? 何が何でもこの俺が阻止してやる!!」
「お義姉さまー! お義姉様でもいいから、ここから出してー! というか、ここから出せよ!?」
「うっわぁ、凄まじいなぁもう、これ~……」
「どうすりゃあいいんだよ、俺達は……というかあれ、さっきから扉が凄い勢いで軋んでいるんだけど」
「壊れるんじゃね?」
「な、壊れるよな」
「な~」
シンデレラを閉じ込めている間に、意地悪な義姉たちが試してみましたが、どうしても靴に足が入りません。
「これ、入らないというよりかは、靴がゆるいやつじゃん……」
「がばがばだよなぁ~、これ。まぁ、あの背が高いエディ君が履いていたガラスの靴だから、それも当然か」
「これ、もはや鈍器じゃね?」
「分かる。ガラスって重たいし、割って使えば、立派な凶器になるよな~」
「というかこれ履いて、本当にあの舞踏会で踊っていたのか? 俺なんてヒールのある靴で立つのがやっとだったのに」
「エディ君は体幹が出来てんだろ。あとこの靴に、靴擦れ防止の魔術がひそかに……」
「あの、もうよろしいでしょうか? お二方。入らないのなら入らないで、ここにおられる筈の、もう一人のお嬢様に靴を試して貰いたいのですが?」
「ひえっ、ジルさん……いえ、お城の使者様! うちにはもう一人の女なんていないんですよ~」
「そうそうそう! ここには俺達二人だけしかって、うおっ!?」
「はぁはぁ、勝った、あいつとの戦いに勝ったぞ……!! その靴は俺のものです! 俺が履きます!!」
「シンデレラと義母のガチンコバトルか~」
「でもまぁ大体、原作もそんな感じだよなぁ……大丈夫かな、部長。怪我とかしていないかな」
そこへ義母との戦いに勝ったシンデレラが現れ、ようやくその靴を履きます。
「っしゃあ! ぴったり! まぁ、俺が履いていた靴だから当然なんだけどな!?」
「良かったですねぇ、シンデレラ~。それでは、お城でレイラ様が待ち侘びているので、五分以内に支度を済ませて下さい」
「勿論です、ジルさん! こんなの五分とかかりませんよ、三分で全部用意してきます!」
「エディ君ならそう言うと思っていましたよ。それでは、お二方? 俺はこれで失礼させて頂きますね?」
「へっ? あっ、はい、どうぞどうぞ」
「ご自由に……さようなら、シンデレラ。達者でな~」
そして、シンデレラは王子様と会って、幸せに結婚しました。
「っレイラちゃん! やったよ、やった!! とうとう俺の悲願が達成されたよ!」
「いや、あの、されていませんからね!? ちょっとかなり近い、現実世界では結婚もしないし、私はアーノルド様の婚約者で、」
「でも、今は俺の王子様だよね!? 俺だけの王子様だよね!?」
「えっ!? ああ、はい、まぁ、この舞台上では……」
「この間みたいに言って欲しい! 俺のことが好きだって、そう言って欲しい!」
「演技でいいのならいくらでも言いますよ、シンデレラ? 好きです、私と結婚して下さい。あっ、エディさんがとうとう、崩れ落ちてしまった……」
END
その後の舞台裏にて
「あ~、疲れた。まったく。何でこの俺が意地悪な義母役だったんだよ……」
「お疲れ様です、アーノルド様。冷たいお水でも飲みますか?」
「お前が口移しで飲ませてくれるのなら」
「もう! アーノルド様はまた、そんなことばっかり言って!」
「ちょっと待ってくれよ、アーノルド!? てめぇ! 何でレイラちゃんに膝枕して貰ってんの!?」
「それは俺が持つ、当然の権利だからな……あー、疲れた。レイラ? 俺の頭を撫でてくれないか?」
「いいですよ、それぐらいなら。喜んでいくらでも」
「レイラちゃん、俺は!? 俺の頭は!?」
「どうでもいい」
「いやぁ、つっかれた……にしてもこの配役は一体、誰が考えたんですかね?」
「私の出番、ちょっとだけで少し悲しかったかも~……」
「あ、それは俺ですよ、ジェラルド君?」
「「「ジルさんが!? 一体どうして!?」」」
「あはは、三人で声が揃いましたね~。俺としては坊ちゃんのストレス解消も兼ねて、この配役と舞台をセッティグしてみたんですけどねぇ~」
(従者の意味……)
(というかこの人、アーノルド様からお給料を貰っているんじゃ?)
(アーノルド様は、このことを一体いつ知るのかしら……)
日常魔術相談課劇場「灰被り姫」 配役発表
シンデレラ役 エディ・ハルフォード
意地悪な義母役 アーノルド・キャンベル
意地悪な義姉役 マーカス・ポッター
意地悪な義姉役 ジェラルド・オースティン
魔法使いのお婆さん役 ミリー・クック
王子役 レイラ・キャンベル
お城からの使者役 ジル・フィッシャー
ガヤ 実はマーカスとジェラルドがこっそり担当していた
次回の上映予定 一章の終わりに公開予定
次回予告 「白雪姫」配役未定




