12.エディの従兄弟達と暁の宝石
窓からの陽射しに照らされ、ぎらりと赤い宝石が光り輝く。暁の女神が大事に持っていたとされる“暁の宝石”はたっぷりと陽の光を浴びて、見る人の網膜を焦がすかのような、真っ赤な煌きを放っていた。それをサイラスが見つめ、眉を顰める。今日は薔薇色のネクタイに、紺色と白のストライプスーツを着ていた。エディと同じ、だが短い赤髪を後ろへと撫でつけ、ポケットには白いハンカチを差し込んでいる。
「何でそれにしたんだ……? おかしいだろ。どこぞの大富豪のおっさんが持ってるギラついた指輪かと思ったぞ、俺」
「こう見えても、お値段は張りません! 人の婚約指輪にケチをつけないでくださいよ!?」
「いや、値段の問題じゃなくてさ? 婚約指輪なんだからこう、もっと可愛らしいものを」
「いいんです! 可愛らしい指輪も買って貰ったし!」
「いや、だから、何故それを婚約指輪にしない!? どうしても欲しいのなら……いいや、こんなに不気味に光り輝く宝石のどこがいいんだよ!? それにエディの髪色はもっと品が良くて、明るくて鮮やかで、」
「あ~……はいはい。兄上もレイラちゃんも一旦落ち着いて?」
鼻息荒く睨み合っていると、エディが止めに入ってきた。私の腕まで覆われた、真っ白なレースワンピースと百合の造花バレッタに合わせたのか、落ち着いた紺色のネクタイと白いスリーピースを着ていた。鮮やかな赤髪はいつもよりきっちりと、ハーフアップにされている。エディが淡い琥珀色を細め、穏やかな微笑みを浮かべた。
「いいんだよ。婚約指輪は一本だって、そう決まっている訳じゃないし。こっちの薔薇色の指輪に変えても。ほら」
「なっ、何でポケットに入れて……? それにエディさんもこれ、気に入ってないんですか!? 良くないですか!? 輝きも照りも抜群だし、目を奪われる感じで、」
「悪いな、エディ。昔からレイラの趣味は悪いんだ」
「お兄様!?」
ばさりと、アーノルドが置いてあった新聞を手に持ちながら、こちらを見てちょっとだけ笑う。応接室の肘掛け椅子に腰かけ、その長い足を優雅に組み直しながら、また新聞に目を落とした。
「だって、そうだろ? 付いて行けば良かったか……いや、まぁ、昔からそうだもんな? 服にもさして興味が無いし。変なおばさん趣味のものばかり選ぶしな」
「へっ、変じゃないもん……素敵な花柄だもん!」
「あれ? でも、いつもお洒落だったんだけどな? 俺とのデートの時とか」
「教えてやろうか? エディ。あれはな、全て俺が選んだものなんだ。何から何まで全部」
「ごめん、ちょっと殴ってもいい? 腹が立ってきた」
「その怒りをぶつけるべきは俺じゃなくて、父上だろ……? 相変わらずレイラのこととなると、心が狭いなぁ」
アーノルドが苦笑して、溜め息を吐く。奥の椅子に腰掛けて、絶対にこちらを見ようとはしないアーノルドを見て、同じく溜め息を吐く。応接室の窓からは、午前の浅い陽射しが射し込んでいた。ディケンズ伯爵家の応接室はやや手狭で、結婚式場の控え室のよう。でも、置いてある調度品は一級品で、品が良かった。白と金色の壁紙には、のどかな湖畔と別荘の絵画が飾られている。
「ああ見えて緊張しているんですよね、アーノルド様。ちょっと人見知りだから」
「えっ? 叔父さんも従兄妹もいい人ばっかだよ? そんなに緊張しなくてもいいのに」
「まぁ、繊細そうだもんな? どれ、アーノルド。俺が緊張を解きほぐしてやろうか?」
「いいです……やめてください。あと、緊張もしていないので。別に」
「嘘吐け、ずっと奥から出てこないじゃないか」
サイラスが愉快そうに笑って、アーノルドの下へ行く。そのまま銀髪頭をわしゃわしゃと撫で、アーノルドが照れと苛立ちが混じった顔で「やめてください! 髪型が崩れる!」と言って、その手を払っていた。何故か意外と仲が良い、あの二人は。ぼんやり眺めていると、おもむろにエディが私の婚約指輪を抜き取る。
「えっ? あの」
「今日はこっちにしようか、レイラちゃん。この指輪を買って貰ったんですって言ったら、微妙な空気が流れそうだしさ?」
「な、何故……!! みんな素敵な指輪ねって、そうにこやかに言ってくれるのでは!?」
「いやぁ、無いなぁ。ちょっと微妙な顔して終わりだと思う」
「えっ、ええええええっ……?」
周囲に小さなダイヤが付いた、淡い薔薇色の指輪を見て息を吐く。確かに可愛いんだけど! 金色と薔薇色で、アンティークのような雰囲気があって可愛いんだけど!
「つっ、つまらない~……それに、エディさんの髪色じゃないし!」
「いや、あれだって俺の髪色とはかけ離れてるよ……」
「面白味が無い……わっと驚く新鮮さが無い」
「どうして、婚約指輪に面白味を求めているんだよ? レイラ? いいからそれにしておきなさい。無難だし、可愛らしいし、他の人達も見て困らないだろ?」
「暁の宝石がいい~……一瞬で魂が奪われそうな赤色だって、そう言われているんですよ!? 興奮しませんか!?」
「ん~、俺はしないかな」
「レイラ嬢、壊滅的なセンスだな……」
「ほら見ろ、エディでさえも否定的じゃねぇか。大人しく付けてろ、それ」
「う~……」
ああ、ここにシシィちゃんがいてくれたら。あの青い瞳を輝かせ、「その通りですわ、お姉様! 魂が興奮しますわ!!」と言ってくれたのに。そうぼやくと、アーノルドが困惑して「まぁ、あいつはお前に関して、ちょっとおかしいところがあるから……」と言い始めた。解せない。
「まぁまぁ、またシシィちゃんと一緒に来ようよ。残念だったね、風邪で」
「はい……でも、お父様とお母様は」
「駄目だろうなぁ~……夫人はともかく、ハーヴェイが駄目だ。叔父上はかんかんに怒っていてね。馬鹿にしてる! って」
「でしょうね」
「だろうな、当然の反応だ」
「ん~……俺は気にしないって言ったんだけどなぁ」
エディが困ったように笑い、頭を掻く。そんなエディを見つめて、サイラスが穏やかな微笑みを浮かべていた。アーノルドの隣に立ち、まるで兄のように寄り添っている。
(あ、そうだ……)
どう思っているんだろう? 私のこと、ハーヴェイおじ様のこと。あれからエディとはじっくり話し合った。エディはお父様からの手紙を見て、深い愛情を感じて、そんな風に大事に愛されていた私を、自分も大事にしようと思ったのだとか。エドモンとって、念願の娘であり、本当はこの手で、最後まで大事に育てたかった娘。そんな思いを綺麗な文字の端々から読み取ったらしく、読み終えたあと暫くの間、しみじみと眺めていた。
『恨みがね、消えていく気がするんだよ……これを見ていると。ああ、俺もこの人が遺した宝物を大事にしようかなって、そう思うんだ』
エディが困ったように笑い、「エドモンさんにね、きっと幸せになって欲しいんだ。もう亡くなった人なんだけどね」と呟いた。ああ、生かされてるなと思った。ジョージ大叔父様から始まって、脈々と受け継がれてゆく。
だからか、すんなりと言葉が出てきた。ここで謝っておきたい、知っておきたい。何でもない、平気なふりをしながらも誰よりも傷付いている男。きっと、サイラス・ハルフォードはそんな男だ。抜け目無く、自分の弱さを綺麗に隠してしまっている。
「サイラス様は恨んでいないんですか? 私のこと、ハーヴェイおじ様のこと」
ふいにゆったりと、甘く整った顔立ちがこちらを見つめる。精悍な雰囲気を持つエディとは違って、夏の暗闇のような、甘い雰囲気を持っていた。同じ顔立ちでもまるで違う。その何を考えているのかよく分からない、透明な琥珀色の瞳が私を捉える。ああ、そうか。この人のことが苦手なのは、がらんどうの瞳を持っているから。まるで精巧な造りの人形のようで。
「……恨んでいるように見えるか?」
「見えません。だから、聞いているんです。質問に質問で返さないでください」
ぴしゃりと跳ね除けると、愉快そうに微笑んで腕を組んだ。この人はにっこりと笑って、とことんこちらを拒絶してくる。アーノルドが顔色を悪くして、胃の辺りを押さえつつ、「父上が……父上が全部悪いんだ」とぶつぶつ呟き出した。ああ、もう! 繊細なんだから! それを無視して、サイラスを見据える。隣のエディはただ、静かに佇んでいた。その顔が見れない、今、それを見る気も無い。
「本当は……本当はかなり、深く恨んでいるんじゃないんですか? 私のことも、ハーヴェイおじ様のことも。貴方はいつもいつも、私をからかってばかりだけど、」
「恨んでどうなる? 変えようが無かったことだ、何もかも」
先程までの軽薄さが削り落とされ、ずっしりと重たい声となる。虚ろな顔で私のことを睨みつけていた。そのまま、止まらなくなったかのように語り出す。
「俺はあの時、誓ったんだ。エディを守ると。母もそう言っていた。お前がお兄さんなんだからきちんと守るようにと。だが、言われなくともそうするつもりだった。ほんの数分、早く生まれただけだけだが。……エディは純粋無垢で、すぐ人に騙される。俺とは何もかもが違った。四歳になる頃にはそのことにもう、気が付いていた」
頭の回転が速く、面倒臭い子供だったんだろう。泣きじゃくるエディと、それを心配そうな顔で覗き込むサイラス。ふと、そんな場面が浮かんできた。柔らかな陽射しが射し込む中で、サイラスが虚ろな顔で佇み、私のことをひたすらに睨みつけてくる。
「俺が憎いのは君じゃない、レイラ嬢。戦争でも無い、ましてやキャンベル男爵家でも無い。俺が憎いのは全員だよ、全員。エディを苦しめる奴ら、そいつら全員が憎い。俺の母も父も、何もかも……でも、エディがいいと言うのなら、もうそれでいい。俺はそれだけで全てが飲み込める」
じゃあ、自分の憎しみをエディのために飲み干しているんだ。エディがそっと、静かに「兄上」と呟いた。ふいに弟の顔が見れなくなったのか、穏やかな表情で自分の足元を見つめる。
「俺がこの恨みを持ち続けて何になる? ……何もなりはしないだろう? だって、変えられやしないのにさ」
「……サイラス様」
「今を見なきゃ駄目だろ、レイラ嬢。少なくともエディは今、君といて楽しそうだ。それなら、それでいい。俺はもう何も言わない、この結婚だって祝福しよう。エディが幸せなら、もうそれでいいんだ。それで……よしとしたいんだ、俺は」
無神経に問いかけてしまったのかもしれない。謝りたいというのも、結局は私の自分勝手な思いで。自分が楽になりたかったから、謝りたかった。この人にとっては、何のためにもならない行為なのに。
「……申し訳ありませんでした、無神経にこんなことを聞いたりして」
「ああ、別に。好奇心からだということにしておいてくれ。君の謝罪なんざ、聞きたくもない。お前があんなことを命令しなきゃ、キースが苦しむこともなかったんだからな」
やっぱり、全てお見通しだった。そこで限界が来てしまったのか、アーノルドが自分の顔を両手で覆う。よっわ……。多分あれ、泣いてる。本当にお祖父様そっくりだ。
「俺が……俺があの時、レイラを止めていたら。いいや、連れて逃げることが出来ていたら……!!」
「繊細だなぁ! アーノルド君は! エディもエディで、キャンベル男爵家に取られちゃったし。君が俺の弟にならないか?」
「は? えっ?」
「そうだ、そうしよう! 年齢が一個上だけど、一個下ということにしてさ! なっ?」
「えっ? いや、あの。言っている意味がよく分からな、」
「ハンカチをあげよう、涙を拭くといい」
優雅にポケットからハンカチを抜き取り、アーノルドに差し出す。戸惑いながらも、「あり、ありがとうございます……?」と言って受け取っていた。それをにこにこと笑いながら、見下ろしている。エディがこてんと首を傾げた。
「いい……のかな? あれで」
「ま、まぁ、いいんじゃないですかね……?」
「俺さ、レイラちゃん」
「あっ、はい」
「ぶっちゃけて言うとさ? 兄上の愛が重たくてさ……」
「えっ!? か、可哀想ですよ。そんなこと言ったら」
「だから、その愛をアーノルドが負担してくれないかなって」
「お、押し付ける気満々じゃないですか……!! 愛を!」
「あ、義兄さんだったね。今は。は~、良かった! ちょっとほっとしたなぁ、俺」
「まぁ、エディさんがいいのなら別に、それでいいんですけどね……」
そこでコンコンと、ノック音が鳴り響いた。どうやら昼食の支度が整ったみたいだ。
「ごめんなさいね、お待たせしてしまって! お口に合うといいんだけど」
向かいでそう朗らかに話し出したのは、エディの叔母であるサンドラ・ディケンズ。胸元が開いた、真っ赤なドレスを着たふくよかな女性で、柔らかな金髪と青い瞳を持っている。いかにも温和そうで、ちょっとほっとした。その隣に座ったエディの叔父、バートンが悪戯っぽく笑って、グラスを持ち上げる。
エディとはあまり似ておらず、本が好きそうな顔立ちをしていて、うねった黒髪とダークブラウンの瞳を持っていた。上質な紺色のスーツを着ている。
「いやはや、驚いたよ……もう少し苛烈な女性かと思っていた」
「は、ははは……いや、あの、本当にすみませんでした。甥っ子さんにとんでもないことをしてしまって」
「いいのよ、いいのよ、もう! 聞けばあの当時、十四歳だったって言うじゃない! 間違えて当然だし、私だってあの頃はとんだおてんば娘だったわ」
本当に気にしていないのか、ころころと笑って白い手を振る。こ、これはこれで気まずいな……!! 焦ってナイフとフォークを握り締めていると、向かいに座ったエディの従兄弟、ジョンソンがくすくすと笑い出す。こちらは黒髪のエディといった感じで、明るい茶色の瞳を持っていた。深い葡萄酒色のスーツを着こなしている。
「父上、母上。いきなりその話題はちょっとどうかと。でも、エディが写真も見せてくれなかったからな。ようやくお会い出来て嬉しいよ、レイラ嬢」
「あ、いえ、こ、こちらこそ……!!」
「レイラちゃん、緊張してるね? 可愛い」
「あーあ、エディはもう婚約者に目が釘付けだなぁ。大丈夫か? サイラス。手を出すんじゃないぞ?」
エディの隣に座っているサイラスが低く笑って、「大丈夫、大丈夫」と返す。こいつ……以前襲われかけたことを暴露してやろうかと思ったが、ぐっと我慢した。えらい、私! 殺気立ちながらも、薄切りアーモンドを鱗に見立てた白身魚のムニエルを、美しく切り分けて口へと運ぶ。
「私はそれより、アーノルド様との話を聞きたいんだけど? ねぇ、レイラちゃん? 希代の色男を振って、エディにしたんでしょう?」
嬉しそうな顔で両手の指を合わせ、うっとりとアーノルドを見つめるのは波打つ黒髪とダークブラウンの瞳を持った、快活そうな美女のエミリア。熱っぽい眼差しを受け止め、隣に座ったアーノルドがにっこりと微笑む。でも、額に汗が浮いてそうな顔だった。
「元々、俺とレイラは兄妹でしたから……」
「あら? じゃあ、他に恋人が?」
「いえ、そういうことは。父がうるさかったので……」
「おいおい、やめろよ? エミリア。お前、恋人がいるじゃないか。あいつはどうしたんだ? またポイ捨てか?」
「知らない。連絡来てるけど、見てないし」
こちらもエディによく似ていて、母譲りの金髪と青い瞳を持っている。そんなリカルドは黒と白のストライプ柄スーツを着ていた。でも、混乱してしまう。どこを向いても、色味が違うエディがいる。
「悪いな、アーノルドさん。エミリアは面食いでね……だがまぁ、これがかの“女殺し”かと思わせるような美貌だなぁ。なるほど、彫刻みたいに美しい。確かに、こんな極上品はそうそう落ちちゃいない」
「そう品定めをするな、リカルド。困っているだろう」
あ、真面目なエディさんだ。見た瞬間、そんなあだ名を付けて呼んでしまうほど、厳格な雰囲気を持っている男性だった。きっちりと黒髪を撫でつけ、眼鏡の向こうで黒い瞳を光らせている。紺色の無難なスーツを着ているからか、ちょっと教師のような、裁判官のような。そんな彼をまじまじと見つめていたら、ふっと相好を崩して笑う。
「でも、良かったよ。エディの長年の片想いが叶って。二人の結婚式が楽しみだな! 日取りはもう決まったんですか?」
「一応、来年の春にしようかと思っていて……色々と詳しく決まったら、またその時にお知らせしますね」
「ああ、ありがとう。楽しみにしているよ」
真面目そうな男性なのに、ひとたび笑うと、春の陽気さを纏う。思わずそのギャップにときめいてしまった。すると、眷属が不穏なものを察知して、かちゃんとナイフとフォークをおく。
「レイラちゃん? どうして、エドウィンにときめいているのかな?」
「えっ? いや、それは」
「ときめいて……?」
「ほら、あの子の眷属なんでしょ? 感情を共有しているだとか何とか」
「でも、確かレイラ嬢は分からないんだろう?」
「そうなんですよ、レイラは分からないんですよ」
ああ、何だろう……気まずい、いたたまれない。
(ここまで事情が知っている人が並んでいたら、お願い、黙ってって思っちゃうなぁ~……)
向かいでじっと、エディと似た従兄弟達が見つめてくる。上の何人かは思うところがあるらしく、欠席していた。おもむろにふと、エドウィンがぱぁっと満面の笑みを浮かべる。
「いやぁ、でも、嬉しいなぁ。ときめいて貰ったようで。ははは」
「レイラちゃんの浮気者……!!」
「いや、あの! だっ、だだだだって、エディさんとよく似てるから……」
そう、結局はこの顔立ちに弱い。エディは隣だし、振り向かないと見えないし。でも、エディとよく似た真面目そうな男性が、本当に明るく嬉しそうに笑うものだから。
「ちょっと厳しそうな人だなと思ってたんですけど……エディさんそっくりに笑うから、つい」
「まぁ、こう見えてモテるしな、エドウィンは……」
「リカルド兄さんほどじゃないけどね。でも、確かに言い寄られたことしかないかな」
「いや、もう、どの子も私にちっとも似ず、交友関係が色々と派手で……」
「あら? じゃあ、私に似たって言いたいのかしら? あなたは」
「いや、そういうことじゃないんだよ、サンドラ……」
笑いながら問いかけられ、弱々しい笑みを浮かべる。意外だ、気が弱そうで。
「でもまぁ、本当に良かったよ……これからもエディのことをよろしく頼む、レイラ嬢」
「あっ、はい! こちらこそ……」
「何か困ったことがあれば頼ってちょうだい。私、勝手にエディの母親代わりだと思っているもの」
サンドラが両手の指を合わせて、ころころと笑う。良かった、素敵な人ばかりで。
「それで? どんな婚約指輪を買って貰ったの? レイラさんは」
「あっ、はい。妖精姫の宝石箱シリーズの一つで、この初恋と言う名が付いた指輪なんですが」
「まぁ、可愛い! 綺麗な薔薇色ね~」
「よく似合っているなぁ。うんうん、婚約指輪らしい……いいものを選んで買ってあげたんだなぁ、エディ」
「でしょう? 彼女も一目見て、気に入って」
叔父からの問いかけに、しれっとエディが嘘を吐く。にこやかに笑っているエディの隣で、サイラスがぷるぷると肩を震わせていた。笑っているらしい。ここに誰もいなかったら、ナイフの柄でがつんと殴っていたかもしれない。でも、隣に座るアーノルドも先程からやたらと、「ん! んんんん……!!」と言って、咳払いをしている。
「うっ……あのですね? 本当は」
「だからカラードレスも、こんな華やかで可愛らしい色合いが似合うんじゃないかなって。選びに行くのが楽しみだね、レイラちゃん」
「で、ですね! でも私は暁の女神みたいに、」
「そうだ、叔父上。腰の調子はいかがですか? 先日、打って転んだと、そう仰っていましたが?」
「ああ、もう何とも無いよ。ありがとう、エディ」
「そうだ! 厚かましいかもしれないけど、私! ドレスの試着に付いて行きたいわ。その、駄目かしら?」
サンドラに問いかけられ、笑顔で頷く。ああ、私の宝石自慢が……!! 出来なかった! あんなに素敵な照りと輝きを放つ、極上の真っ赤な宝石なのに!
(うっ……どうしてエディさんも、ハーヴェイおじ様でさえも微妙な顔をするんだろう? 綺麗なのに! 素敵なのに!!)