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穏やかな革命 ~Adiabatic Revolution~  作者: 刃竹シュウ
第1章 協会設立
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自給生活協会

大山邸の集いから半年後、天仁町に「自給生活協会」という名の社団法人が設立された。


協会の本部は大山の家で、設立時の会員は、会長の大山、運営委員の由川、三宅、米村、辻、そして一般会員は、三宅優子の兄、家政婦の清水さんの家族6名、大山が地主をしている土地で農業を営んでいる近隣住民12名、全員で24名であった。


協会の当面の目標は、会員が生活する「生活棟」、食料を生産する「食料生産棟」、衣類を生産する「衣類生産棟」を建設し、持続可能な自給自足生活を追求していくことである。

会員は基本的に現在の仕事を続けながら、徐々に協会の活動にシフトしていく計画であった。


協会の設立からさらに半年後、本部の大山邸にて5回目の委員会が招集された。


「では、これより自給生活協会、第5回運営委員会を開催します。」


議長を務める由川が開催の宣言をすると、居間のソファに並んだ面々が、由川の方に注目した。


「皆さん、お忙しい中お集まり下さり、有難うございます。」


「かたい挨拶はええって、それより、オンラインの方はつながっとる?」


優子が尋ねると、由川は手元のマイクに向かって声を掛けた。


「オンラインで参加の三宅さん、聞こえますか?」


少し間があって、テーブルに設置されたPCのモニタに、柔和な表情をした30代くらいの男性が映し出された。


「はい、聞こえとります。」


優子の兄、三宅孝之ミヤケ タカユキだ。自給生活協会の目標に感銘を受け、自分も何らかの形で協力していきたいと今回の運営委員会にオンラインで参加することになったのだ。


「続いてもう一人、オンラインで参加の清水さん、聞こえますか?」


すると、モニタの画面が二つに分割して、片方に20代後半くらいの男性が映る。


「聞こえてるぜ、まこッチ。てか、清水さんとか調子狂うし、隆一でいいよ。」


もう一人は、家政婦の清水さんの息子で由川の従兄にあたる清水隆一シミズ リュウイチだ。

清水さんの夫は、天仁町で工務店を営んでおり、自給生活協会の建物の建設に関わっていた。

隆一は1級建築士の免許を持っており、建設中の協会の建物の構造計算や設計を行っていた。


「今回新たに委員として2名の方が参加されるということで、お互い自己紹介をしたいと思います。それでは、三宅さんから、よろしくお願いします。」


由川が自己紹介をお願いすると、モニタ越しで優子の兄、孝之がゆっくりと会釈した。


「ご紹介に与りました、三宅孝之いいます。北央市で小っさい小児科クリニックやっとります。協会では医療関係でお手伝いさせて貰おう思うとります。よろしゅうお願い致します。」


孝之がモニタ越しに頭を下げると、居間にいる面々も、


「よろしくお願いします。」


と挨拶をした。


「それでは、次に、隆一兄さん、自己紹介お願いします。」


由川がそう言うと、


「えー、清水隆一です。大山会長には、誠ッチとお袋が、いつもお世話になってます。」


そう言って、ビッと頭を下げる。


「ああ、私の方こそ清水さんにはいつもお世話になっている、ありがとう。」


大山が答えると、隆一は顔を上げた。


「皆さんご存知のように、俺は親父が工務店やってる関係で協会の建物の建設とかに関わっています。今後ともよろしくお願いします。」


そう言って再び頭を下げる。


隆一の自己紹介が終わると、居間にいる由川、優子、米村、辻もそれぞれ簡単な自己紹介をした。


「それでは、次に大山会長、よろしくお願いします。」


由川はそう言ってテーブルの上のマイクを大山の前に置く。


「会長の大山だ。この協会は皆の協力の下に成り立っている。現在はまだ第1フェイズの準備段階だが、今後、第2、第3フェイズへと移行すれば、会員の未来が保証されるものと信じている。長い目で付き合って頂きたい。」


大山の挨拶が終わった後、由川の議事進行の下、建設中だった生活棟と食料生産棟の竣工式について、医務室の運用について、運営基金の状況についてなどの議論が行われた。


協会の生活棟は、木造断熱構造で外壁がセラミックでサイディングしてある2階建ての巨大な長屋だ。1階は中央の廊下を挟んで、独身者用の個室が30部屋、2階は家族用の部屋が10世帯あった。全室バストイレ付の他、共用のキッチンと食堂、保育室、医務室も備えていた。電力はソーラーパネルと圧縮空気システムによる完全自給、水道は川から引いた水をフィルターで浄化し上水とし下水は処理されて再び川に流されるようになっていた。上下水システムはモジュール毎に規格化されており今後の需要に応じて拡大縮小が可能であった。北州の冬は積雪量が多いので生活棟の横にはソーラーパネルから落ちた雪を貯める蓄雪溝ちくせつこうが掘られていた。この蓄雪溝の中には熱交換器の配管が通っており夏季の空調に使用されるようになっていた。


食料生産棟は建物の構造は生活棟と同じで、ソーラーパネルと圧縮空気システム、蓄雪溝と熱交換器、上下水システムなどの施設が備わっている。建物の中では水耕栽培と水産養殖が組み合わされたアクアポニックが行われる。水耕栽培では炭水化物源である米・麦類、蛋白源の豆類などの栽培品種が、また水産養殖ではティラピア、アユ、マス、ウナギなどの淡水魚が育成される。これらの品種は需要に応じて変更できるようになっており、米村が農業技術研究所で開発していた自動制御技術を使うことにより、簡単な操作でメンテナンスできるようになっていた。


まだ完成していないが、衣類生産棟は食料生産棟の水耕栽培システムを応用して綿花を栽培し、収穫された綿は織物工房の区画で更地の布やシャツなどの衣類に加工されるよう設計されていた。


なお、これらの自動生産される食料や衣類は、基礎食品ベーシックフード基礎衣類ベーシッククローズとなり、会員に無償で配布される。基礎食品や、基礎衣類に入ってない品目の食料や衣類は、協会の運営基金から一括して購入したり、農家の会員から農作物の余剰生産品を提供してもらって補うことになっていた。


「それでは、最後の議題として、運営基金の状況について。こちらの表をご覧ください。」


PCのモニタに映し出された表には、建設にかかった費用と諸経費がリストアップされていた。


「協会の基金は1億8000万円で、内訳は1億7000万円が大山会長からの寄付、1000万円が国からのゼロエミッション助成金という形で充当されています。生活棟の建設費は3500万円、食料生産棟が7200万円、衣類生産棟が6100万円、合計1億6800万円が費用として計上され、現在1200万円が残っています。贈与税については公益事業とみなされ免除になる予定です。固定資産税については、土地、建物含めて年200万円くらいを見積もっています。」


由川の報告を見て、優子はそわそわした感じで大山を見た。


「先生、本当に大丈夫なん?こんなにお金使こうてしもうて、、、」


「問題ない。」


協会の基金については、当初は銀行から借りる話も浮上したが、大山が拒み、結局、大山の保有する証券等を売却して基金に充てることになったのだ。


「建物の補修や装置の消耗品なんかの維持管理費はどうするんデスか?」


米村が尋ねる。


「一度軌道に乗れば、施設の維持も自前で賄えるようになる。」


大山の算段では、今後、建設資材や施設の消耗品なども自前で調達できるように計画していた。何より労働力が会員の自主的な活動ボランティアに基づいているので、最大の固定費である人件費がかからないのだ。自給生活協会はある意味大規模なDIYを行う集団と言っていい。


「問題は税金ですね。土地や建物がある以上、固定資産税だけは払わなければいけないから。」


と由川が腕を組む。


「それについては、考えがある。計画が第2フェイズに進めば解決するはずだ。」


そう言って大山は第2フェイズの計画について説明を始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


大山邸で運営委員会が終了した後、優子は夕刻の最終バスで天仁町駅に向かい、皆と別れた後、電車で北央市の自宅に帰宅した。


「ただいまー。」


「あー、優子、おかえり。」


兄の孝之が迎える。昼間クリニックに急患があったので大山邸には行かず、自宅から委員会に参加していたのだ。


「しんどいわ~、今日は夕飯、出前にせえへん?」


「ええで、寿司でも頼もっか?」


「頼むわ~」


孝之が電話で寿司の出前を注文している間、優子は自分の部屋で着替えを済ませ、リビングのソファに倒れこんだ。


孝之は注文を終えると、向かいの椅子に腰掛ける。


「せやけど、大山会長も、面ろいこと考える人やな。」


「ほんまに。天仁町の住民みんな協会員するいうて、そんでもって協会の土地と建物、町に譲渡するいうんやから、、、」


大山が語った、自給生活協会の第2フェイズのことだ。


天仁町は、北央市とは合併していない独立した地方自治体なので、協会の財産が天仁町の所有になれば固定資産税を払う必要はない。そもそも町の税収は、住民のための公益事業、例えば、消防署、図書館、病院、学校、ごみ収集所などのためにあるのだが、住民がそれらをボランティアでやれば、税金は必要ないと言うのだ。


「せやけど、協会のもんは何でもただで貰えるいうても、どない分配するんやろ。」


孝之の疑問に優子は、


「それも先生考えてんねん。てか、うちが協会に勧誘された日にその説明があったんやけど。まだそのシステム出来とらんみたいやから一般会員には周知されてないねん。」


と答える。


「なんや、僕も委員になったんやし、教えてもらわへん?」


「ええよ。」


そして優子は1年前、大山邸に集まったときのことを語り始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時は1年前に遡る。


大山は、由川、優子、米村、辻を見渡し、不敵な笑みを浮かべるとこう言った。


「君たちには、ちょっとしたゲームをして貰いたい。これは如何にして金を使わずに生きて行けるか、そういったゲームだ。」


大山がそう言って語り始めたのは、自給自足を目的とした社団法人を立ち上げると言うものだった。

その社団法人に属する人々は、住居、食料、衣類を自分達で生産して、自分達で使用、消費するというのだ。


「せやけど、お金払わんでええ生活って、ほんまに実現できるん?」


優子の溜息混じりの言葉に、大山は澄ました顔でこう答えた。


「既に世の中の至る所で実現している。」


「どういうことですか!?」


優子に代わって、辻が驚いた表情で聞き返す。


「家庭だ。家で作った料理を食うとき金を払うか? 冷蔵庫からプリンを取るときに金を払うか? 」


大山の突拍子もない理屈に、辻は訳が分からないという感じで反論する。


「でも、料理の材料も冷蔵庫のプリンもお金を払って買ったものですよね!?」


「貨幣の媒介は、家庭と家庭外との間で発生する。家庭の内部に限ればそれは発生しない。そのような内部的に貨幣を使わないコミュニティの規模を徐々に大きくしていけば良いのだ。」


辻が頭を悩ませている時、由川は、なるほどそういうことかと、大山がやろうとすることが段々と理解できてきた。


今の経済は貨幣を媒介とした複雑なネットワークで成り立っている。そのネットワークの分岐点ノードの最小単位は個人であるが、それをグループ化してノードの数を減らそうというのだ。


 ん? でも、、、、


由川は、ある問題に気付いた。


「あの、そのコミュニティの中で、どうやって物を分け合うんですか? 公平に同じ量だけ分け合うと言っても、中には一生懸命働く人もいるだろうし、サボって楽をしようとする人もいると思うんですが。」


由川の質問に、他の3人も、うんうん、と頷いていた。


「もちろん、コミュニティの資源を誰でも同じようにに享受できる訳ではない。」


「というと? 労働に応じて分配量を変えるということですか?」


大山は由川の質問にはすぐに答えず、ワインを静かに口に入れた。


「私は君達にゲームをしないかと言ったな?」


「え?、あ、はい、確かにそうおっしゃいました。」


「言葉通りの意味だ。君たちの好きなRPGという奴だよ。」


「!?」


4人の教え子達は、呆気に取られて大山を見つめていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「RPGって、どういうことデスか?」


それまでポテチを食べていた米村が、大山の話に食いついてきた。


「コミュニティ内の人間は、貢献値(CP)と資質値(QP)という2つのステータス値が付与される。」


「CPは Contribution Point の略だ。コミュニティに貢献した仕事の量によって増えていく。」


コクコクと、米村が頷く。


「もう一つのステータス、QPは、Quality Point の略だ。その人間の資質によって増えていく。」


コクコクコクと、再び米村が頷く。


「CPとQPがある程度増えていくと、レベルアップする。」


キラーンと米村の目が輝く。


「レベルアップするとどうなるんデスか?」


「より良い部屋に住み、より旨い飯が食え、より良い服が着れるようになる。」


ふんふん、今度は優子が相槌を打つ。


「あと、コミュニティ内でパーティを編成できる。その場合パーティにCPとQPが付与される。パーティの仲間の一人が病気で働けない時は、他の皆で助けるといったこともできる。」


「ええやん! なんか、面ろそう!」


と優子。


「うん、面白い!」


と辻。


大山はニヤリと笑うと4人に尋ねた。


「どうだ、やってみるか?」


4人は互いに顔を見合わせると、大山に振り向き、こう答えた。


「やる~」(優子)

「やります。」(由川)

「やりマス。」(米村) 

「やります!」(辻)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


時は戻って、三宅家のアパート。


リビングのソファの背に、ぐたーと背中をあずける優子。


「そんでもって、うちらは大山先生の口車にまんまとハマったっちゅう訳や。」


優子の話を聞いて孝之は、ほうほうと頷いた。


「優子の先生は、ほんま面ろいなぁ。」


「あの人の考えることは底が知れんわ。」


「そんで、そのゲームみたいに人にステータスつけるシステムっちゅうのは、ほんまにできんの?」


孝之は興味津々という感じで尋ねる。実は彼もゲーム好きで、幼い優子をゲーマーに仕立て上げたのは他ならぬ彼なのだ。


「先生によると、外部に発注かけとるんやて。なんやったっけな、確か、RMSいう資源管理システムで、製作に時間がかかっとるいう話や。」


そこで、ピンポーンと呼び鈴の音が鳴る。


「あ、出前の寿司ちゃう?」


「そやな、僕が出るわ。」


孝之が玄関に向かうと、優子は、うーんと、伸びをした。


「これから先どうなるんやろ、、、」


不安と期待の入り混じった声をぽつりと漏らした。


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