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穏やかな革命 ~Adiabatic Revolution~  作者: 刃竹シュウ
第6章 アカデミー設立
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花のワルツ

突然の来訪者にマティは立ち上がることもできず床に座ったまま固まっていた。


「あなた、マティーファさんですわね?」


陽御子が、時子、島田と共に歩み寄ってくる。


陽菜と萌はマティの両脇に駆け寄ると膝をついて顔を近づけてきた。


「同じクラスの子だよね?」


「さっきのどうやったの?」


 近い、近い、、、何、この子たち、、、


マティは座ったまま後ずさりする。


陽御子はゆっくりと歩いてきてマティの前で止まった。


「あなたも冒険者ギルドの依頼で来たのですか?」


どうやら陽御子たちはギルドの依頼を受けて体育館の清掃に来たらしい。


マティはグラシィズを使って陽御子のステータスを見た。


 <MP: 5 / 100>


冒険者登録したことで陽御子のステータスにMPが追加されていた。最大ゲージはマティと同じく100、初期値からカンストしている。さすがに和皇国の皇女といったところか。体育館の清掃依頼を受けたことで使えるMP値が5に増えていた。


 ママに報告しないと、、、


手を後ろに隠してバーチャルキーボードでメッセージをタイピングしようとしたときに、島田がぬっと近寄ってきた。


「ずっと陽御子さまを見ていたな?」


マティの心臓が飛び上がる。


 やっぱり、気付いていた!?


島田はグラシィズ越しにマティの目をジロリと見る。


「そのメガネを見せてもらう。」


 い、いや、来ないで、、、


マティは怯えてがたがたと震える。


「島田、下がりなさい。」


陽御子が島田に強い口調で命じた。


「島田さん、下がっても大丈夫です。」


時子も島田に声をかける。


島田は一瞬チラッと時子を見ると、マティから目を離さずにすっと引き下がった。


陽御子はマティの前に跪く。


「驚かせてごめんなさい、彼はわたくしの護衛なのです。」


時子も跪いてマティに向き合う。


「私は陽御子さまの側近を務めるものです、マティーファ・メルティスさん、あなたのことは調べさせてもらいました。」


 調べられた? どこまで?


マティの心の声を聞いたかのように時子は答える。


「あなたのそのメガネは情報処理端末として機能している、違いますか?」


 グラシィズのことか、、、


マティは時子の問いに黙って頷き肯定する。


「時子、そのことはもういいのです。」


陽御子はそう言うと、マティに向かってにっこりと微笑んだ。


「マティーファちゃんって呼んでもよろしいですか?」


 、、、へ?


陽菜と萌もマティに話しかける。


「あたしたち、あなたとお友達になりたかったんだよ?」


「ゲームが好きなんだよね?」


 あ、そうか、、、


マティはホームルームで自己紹介したときのことを思い出した。


『マティーファ・メルティス、趣味はゲームです、よろしくお願いします。』


 ボイストランスでそんな短い自己紹介を言ったっけ、、、


そのときはアメリア語でなく和皇語で自己紹介したので陽御子たちはマティが和皇語が話せると思っている。実際、マティがディルに連れられて和皇国に来てからは日常会話はほとんど和皇語だったのでグラシィズの翻訳機能なしでも和皇語を理解していた。


マティは後ろに隠した手でバーチャルキーボードにタイピングする。


「ちゃん付けは止めて下さい、ただのマティでいいです。」


ボイストランスの声に合わせて唇を動かした。


 わたしの声、シンクロしてるわよね、、、


マティは不安になりながら陽御子を見た。


「そうなのですか? それでは、わたくしのことも陽御子と呼んでください。」


「あ、じゃあ、あたしは陽菜でいいよ?」

 

「あたしも、萌でいいよ?」


陽御子たちはマティの『声』を疑うことなく普通に受け答えをしていた。


 ばれてない、良かった、、、


陽御子がマティに尋ねてきた。


「マティ、あなたの魔法をもう一度見せてくださいますか?」


「あたしも見たい!」(陽菜)


「桜の花が、ばあぁって浮くやつ!」(萌)


マティは陽御子、陽菜、萌に囲まれて戸惑いながら何と答えればいいのだろうと思案する。


「分かっているとは思うけど、、、」


そしてこう続けた。


「あの魔法は、ソニックウェーブを使った物理現象よ。」


マティの言葉に陽御子たちはショックを受けたようだった。


「え!?そうなのですか?」


「本物の魔法じゃないの!?」


「そんなぁぁ、、、」


陽御子たちの反応にマティは自分が彼女たちの夢を壊してしまったことに気付く。


 あ、あれ? もしかして知らなかった!?


マティが時子の方を見ると、彼女はニヤニヤと笑っていた。


「陽御子さま、賭けは私の勝ちですね。」


どうやら、時子は陽御子と本物の魔法かどうか賭けていたみたいだ。


陽御子は冒険者登録のときに渡されたパンフレットを取り出した。


 <冒険者になったら、Moral Point (MP) が付与されるよ!>

 <MPはいいことをすると貰えるんだ!>

 <MPを上げると魔法が使えるようになるかも!?>

 <依頼を積極的に受けてMPを上げよう!>


おそらくそのパンフレットは低学年の学生にもやる気を出させるように作られたのだろう。マティは冒険者登録する前にギルド会館を飛び出してきたのでそれを見るのは初めてだった。


 それにしても高校生になっても信じてるなんて、、


マティが陽御子を見ると、彼女は悔しそうに頬をぷくぅと膨らませていた。


時子は勝ち誇ったように陽御子に告げる。


「約束どおり、私の名前にちゃん付けするのは止めてもらいますね?」


「えーー、時子ちゃん、かわいいのに。」


「あ、今、ちゃん付けましたね!」


マティはそれを見て思わずふっと笑った。


それから彼女は一瞬チラッと島田を見る。すると彼は穏やかな目で愛しそうに陽御子を見つめていた。


 ああ、そうか、、、


マティはそれまでの緊張がスッと解けたような感じがした。


 あなたはプリンセスが好きなのね、サムライ・ナイトさん


恐怖の対象だった島田に対して余裕のようなものが生まれ、マティは彼に向かって話しかけた。


「あの、わたし、魔法を使ってもいいですか?」


島田は目をキリっと変えて、マティを見る。


「陽御子さまに危害はないな?」


「もちろんです。」


マティは立ち上がると、RFPMの術式を解放する。


<Rem, release the Magic>


<The Magic released, chant please>


リームが術式解放のプロンプトを告げた。


「ヒミコ、あなたにとっておきの魔法を見せてあげるわ。」


マティは壁際の床に集められた桜の花びらにグラシィズのカーソルを合わせた。



「旋律の精霊ムジカよ、汝の美しい音色を我に響かせ給え、、、シンフォニー!」



RFPMのシンセサイザーが3拍子のリズムで管楽器の音楽を奏で始め、マティはリズムに合わせて指揮者のように手を振る。すると桜の花びらがソニックウェーブでふわっと浮き上がり、リズムに合わせて振動しながらゆっくりと陽御子たちの頭上に広がっていった。


「わぁぁ、、、」(陽御子)


「すごぉぉい、、」(陽菜、萌)


「これは、、、」(時子)


皆が口をポカンと開けて、頭上に広がる桜の花びらを目で追った。


マティは目を閉じてリズミカルに腕を上下に振る。


シンセサイザーの音楽は途中から弦楽器が加わり、マティの指揮に合わせてワルツを奏でる。


頭上に広がる花びらは、ワルツのリズムに合わせてまるで踊っているかのように振動していた。


陽御子、陽菜、萌は目を見開いて、瞬きもせずその様子を眺めていた。その瞳にはワルツを踊っている桜の花びらが映っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


アカデミーの校長室。


ディルがソファに座って監視モニターを眺めながら微笑んでいた。


「マティったら、ふふふ、、、」


ジェイスンがディルの背後からソファの背に手をついてモニタ画面を覗き込む。


「マティはプリンセスと友達になれそうかい?」


「いい感じよ。」


ディルが嬉しそうにそう答えた。


「プリンセスをRFPMの模範プレイヤーにするなんて理由をでっち上げた甲斐があったね?」


ジェイスンがディルにウィンクする。


「マティがギルド会館から飛び出した時はどうなることかと思ったけど。」


ディルのRMS端末がピコンと鳴る。


<ぷにぷにクエストの版権の買収、完了しました>


ジェイスンはそれを見てニヤリとする。


「プリンセスにいいプレゼントができたね?」


大山はワインを飲みながら、彼らを眺めていた。


この夫婦は娘に友達を作るために数千億円もかけてアカデミーの体育館を建設したとでもいうのだろうか? ニューアメリア連邦のFPAの話は彼らにとって些末なオプションとでも?


 まさかな


大山はモニタから流れる音楽に合わせてワイングラスを持つ人差し指をトントンと動かす。


「マティーファは、いい指揮者だな。」


ディルは大山に微笑みかけた。


「でしょ?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


体育館ではシンセサイザーの音楽が終盤に入っていた。


 ターラ、ターラ、タッタ、ラララッ、、、


音楽のフィナーレと共にマティは両腕を高く掲げ、そして余韻を残すようにゆっくりと下ろした。


宙を舞っていた桜の花びらが一斉にひらひらと舞い下りてくる。


「すごーーーーい!!」(陽菜)


「ぶらぼーーーー!!」(萌)


パチパチパチ、、、と拍手が響き渡る。


「マティ、わたくし感動しました!」


陽御子はマティに歩み寄ってその手を取る。


しかしマティは目を伏せて無言のままだった。


「マティ?」


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