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穏やかな革命 ~Adiabatic Revolution~  作者: 刃竹シュウ
第5章 協会の危機
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その後の顛末

鬼林の事件があった夜、湖岡町アパートの辻の部屋に、優子、米村、由川が集まっていた。3人は咲さんから辻が襲われたという連絡を受け、大山に車を運転してもらって、湖岡町のアパートに駆けつけたのだ。


「永ちゃん、無事で何よりやん、咲さんから連絡あったときはほんまに心配したんやで?」


優子が辻に話しかけると、辻は布団から身体を起こした状態で、


「みんな、心配かけてごめん、僕はこの通りピンピンしているから大丈夫だよ。」


と眼鏡をキランと光らせ、両腕でガッツポーズをしてみせる。


「辻クン、思ったより元気そうで安心しまシタ。」


「うん、いつもの辻君だね。」


米村と由川は、おどけて見せる辻にホッと胸を撫で下ろしていた。


「それにしても、どういう状況で襲われたの?」


由川が疑問をぶつけると、辻は事の成り行きを説明し始めた。


「、、、というわけで、その鬼林さんという人は、遊女のホノカさんのお兄さんで、自給生活協会が怪しい宗教団体だと勘違いして妹さんを連れ戻そうとしてたんだよ。」


辻が説明し終わると、


「その鬼林いう人、ほんまに大丈夫なん?」


と、優子が怪訝そうな顔で尋ねる。


「見た目は怖いけど自分の非を認めてちゃんと謝罪できる人だよ。南州の平島出身の人みたい。」


辻は、孝之に間に立ってもらい鬼林と示談したのだが、そのときに彼の人となりを観察していた。鬼林勝オニバヤシ・スグル、基本的に実直で一本筋が通っており頭も切れる親分肌のような男だった。ただ妹の穂香のことを溺愛するあまり彼女のことになると途端に判断力が鈍るようだ。


辻の話を聞いて、米村と由川が互いに顔を見合わせる。


「平島、、『仁義なき闘争』の舞台デスね、、」


「こ、怖い、、、」


優子は自分が南州出身なこともあり、


「うち中学んとき修学旅行で平島に行ったことあんねんけど、今の平島は治安ええで。」


と言って怖がる2人を安心させる。


「でも、その人らはなんで北州に来たんやろな?」


優子の問いに、辻が、うんと頷いて、


「鬼林さんたちは幼いころから両親がいなくて施設で育ったらしいんだ。妹のホノカさんが高校を卒業して政府公認の遊郭に入りたくて北州に来たみたい。」


と説明した。


政府公認の遊郭は和皇国には、南州、本州、北州にそれぞれ数か所あり、北州の湖岡町の遊郭は近年アニメの舞台になったことで、若い遊女たちに人気があったのだ。


「鬼林のあんちゃんとその子分みたいな人は?」


「お兄さんとその仲間の人たちは平島の遊郭で用心棒をしてたんだけど、ホノカさんが北州に来たから心配で追いかけて来たんだって。」


「せやったんや。」


優子は、当初は辻を襲った鬼林に怒りを感じていたのだが、彼らが孤児院出身だということを聞いて怒りが和らいでいた。それは同じく両親を亡くした由川の身の上に重ねていたからかもしれない。


優子がチラリと由川を見ると、彼は黙って畳の床をじっと見つめていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


場所は変わって、湖岡町アパートの孝之の部屋。


大山は辻の安否を確認すると、孝之の部屋に行き、シェンを交えて緊急のオンライン会議を行っていた。


「なるほど、状況は分かった、今後、協会の治安維持についても考えていかなければならんな。」


大山は、孝之から今回の事件の説明を受け、腕を組んで考え込んでいた。


そんな中、オンラインのシェンが孝之に尋ねてきた。


「そのサクラとかいう遊女は、本当に2人の男を一瞬で気絶させたのですか?」


孝之はシェンがサクラに興味を示したことを意外に思いながらも説明した。


「せや、僕も半信半疑なんやけど、用心棒の澤田はんが言うには、サクラはんは身体能力がえらい高うて、特に反応速度が異常に早いそうなんや。鬼林はんはサクラはんは『ソウタイシュンゲ』の使い手やないんか言うとった。サクラはん本人はそんな武術は知らん言うとったけどな。」


孝之の説明に、オンラインのシェンが驚いた顔をする。


「相対俊気? 反応速度が異常に早いというのはどの程度なんですか?」


シェンが問い詰めてきたので、孝之は、


「シェン君はその武術知っとるん?」


と聞き返した。


「はい、相対俊気というのは和皇国の古武術で、動作の緩急を付けて相手を惑わし、あたかも自分の動きが早くなったように見せるのが特徴です。」


シェンは中学時代、ゲーム攻略の一環として格闘技全般の知識を収集していたのだ。中二病まっさかりの時期だったので自分の部屋でこっそり技の訓練をしていたり、自分の作った技に名前を付けてノートに書き記したりしていた。ちなみにそのノートは自宅の押し入れにひっそりと封印されていた。


「そうなんや、まあ僕もその場で見たわけやないんやけど、サクラはんは、投げたダーツを素手で掴んだそうや。」


孝之の言葉にシェンは目を見開く。


「まじか、、、だとしたら『本流』の方か、、、」


シェンの様子に、それまで黙って聞いていた大山が割って入ってきた。


「『本流』とはどういうことだ?」


シェンは大山を見ると、一瞬、間を置いてから説明し始めた。


「実は一般的に知られている相対俊気は『亜流』で、始祖が始めた『本流』の方は別格であると言われています。」


「ほう、何が違うのだ?」


「『本流』は惑わすのではなく実際に反応速度が早くなると言われています。最後の『本流』と言われた相対俊気の使い手、旗中清三ハタナカ・セイゾウは20年以上前に亡くなっていますが、彼は生前、ニューアメリア連邦の研究機関で人体実験を受けています。何でも彼が相対俊気を『発動』させたときにアクセラーゼという酵素が分泌されていたとか。」


「なるほどな、『本流』はそもそも、そういった特徴を持つ遺伝子を受け継いだ者ということか。」


大山の推察に、


「はい、なので、始祖の血族にしか『本流』の相対俊気は使えないと言われています。」


とシェンが答える。


「せやったら、サクラはんは、その血族いうことなん?」


孝之がそう尋ねると、


「わかりません、そもそも、旗中清三の人体実験の話も、格闘マニアの間では都市伝説ではないのかと言われているので。」


とシェンは曖昧な返答をした。そんなシェンに、


情報源ソースはないのか?」


と大山が尋ねる。


「ネット上には、いくつかの記事がありますが、そのどれも情報源ソースを明らかにしていません。」


大山は情報源ソースが明らかでないと知ると、途端に興味を失った。


「ふん、まあいい、協会の治安維持についてだが、懸案だった格闘スキルの協会員への付与を解放する時期かもしれんな。」


格闘スキルは柔道、空手、レスリング、剣道など、道徳教育を受けた有段者に高いQPが加算される。協会内の警備や護衛、違反行為の取締りなどの治安維持活動をすることでCPが加算される。ただしモラルに反した行動をした場合、QP、CPともに大きく減算される。


大山が格闘スキルについて言及すると、シェンはそれに答える。


「そうですね、格闘スキルが解放されれば、AIが治安関係のミッションを追加するでしょう。」


その後、大山とシェンは孝之を交えて格闘スキルの付与の是非について議論をした。自給生活協会はあくまで社団法人なので警察のように犯罪者を取り締まることはできない。なので警備員のようなものを置くことになるのだが、それならば一貫してRMSで管理した方が良いだろうという結論に至った。


治安維持についての議論が落ち着くと、大山は茶を飲みながら別の議題を持ち掛けた。


「ところで、地熱発電の方はどんな具合だ?」


大山が地熱発電について尋ねると、孝之が報告し始めた。


「地熱については、温泉の熱源を使うた小規模な発電を検討中です。」


孝之は、湖岡町支部の会員の一人に三友重工の技術部長がいること、彼に低温熱源の小規模バイナリー発電機の製品を紹介してもらったこと、また、三友重工を定年退職した技術者が新たに協会に入会する予定でスターリングエンジンを自作することを計画中であること等を資料を表示しながら述べた。


「ほう、是非ともその計画を進めてくれ。必要であれば基金を使っても構わん。」


大山の言葉に孝之は頷いた。


オンライン会議が終わるころ、孝之は今後の治安維持活動について思いを巡らせていた。


 格闘スキル、今んとこ適任者は用心棒の澤田はんと三島はんやろか、、、


 まあ、サクラはんも、適任者かもしれんけどな、どうなるんやろ、、、


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


場所は再び辻の部屋に戻る。


辻は優子の顔を見ながら、そう言えば、という感じで話しかけてきた。


「おミヤさん、この前のオンライン会議のときから眼鏡してないけど、どうしたの?」


辻の問いに、優子はちょっと照れたように、にへっと笑うと、


「北皇宮殿下が視察に来られた日からコンタクトに戻したんや、イメチェンいうやつや。」


と答える。辻は、北皇宮殿下の名前を聞くと、


「そうなんだ、陽御子さまかぁ、僕も会いたかったなぁ。」


と頬を赤らめながら遠い目をする。


辻も北州民の間で人気のある陽御子に一度でも会ってみたいと思っていたのだ。


そんな辻に米村は、


「フッ、さすがは辻クン、ロリは変わってないデスね。」


とニヤリとほくそ笑む。


「僕はロリコンじゃない!」


いつもの掛け合いである。


「ネムも人のこと言えんで? なんや陽御子さまにえらい気に入られよったからな?」


優子は、陽御子の視察中に米村が「ぷにクエ」をやっていたこと、彼女の顔を知らずにお世話係の人に挨拶してしまったこと、陽御子に「ぷにクエ」の勝負を挑まれて完敗した後、あろうことか彼女の頭を撫でてしまったこと、その後、陽御子が米村家の果樹園でブドウ狩りをして米村の妹の陽菜と萌と仲良くなったことなどを、面白おかしく話して聞かせた。


辻はそれを聞いて眼鏡をキランと輝かせると、


「ふーん、そうなんだ、実は米村君の方がロリコンなんじゃないかなぁ」


とこれまでの意趣返しとばかり米村をイジリ始めた。


「辻クンにロリ扱いされるとは、不覚デス、、、」


米村は悔しそうにぐっと手を握るのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そんな風に4人で談笑していたときだった.、突然、部屋の扉がガラリと開いた。


「辻くーーーん!!」


幼い顔をした女性が辻に駆け寄ってきて、ぎゅっと抱きつく。


「今日はほんまにごめんねぇ」


彼女に続いて、手に酒の瓶を持った若い女性たちが部屋にぞろぞろと入ってきた。


「辻くん、ホノカがお詫びに一緒にお酒飲みたいんだってさ。」


「今日は災難だったねぇ、まあ、うちらもびっくりしたんだけどさぁ。」


「って、あれ、この人たち誰? 辻くんの友達?」


遊女のホノカに、クルミ、ツバキ、カエデたちだ。4人とも酔っぱらっており部屋の中は香水とアルコールの、むーんとした匂いが立ち込める。


優子たちは唖然としながら、突然の乱入者たちをポカンと見つめていた。


数秒の静寂の後、もう一人の女性が部屋に入って来た。


「こらー、みんな、ノックもなしに男の人の部屋に入ったらダメでしょ!」


遊女のサクラである。彼女は辻の部屋に先客がいるのを見ると、


「あ、すみません、辻さんのお友達ですか?」


と尋ねてきた。どうやら、サクラだけは素面しらふのようだ。


優子はようやく正気を取り戻すと、


「あ、、、うちらは高校んときの同級生なんやけど、、、」


と言って、辻をチラッと見る。


「永ちゃん、どういうこと?」


辻は狼狽しながら、


「こ、この人たちは、最近入会してきた遊郭の人たちで、、、ほ、ほら、さっき話したでしょ、遊女のホノカさん、、、」


と言って、辻に抱きついているホノカを指さす。


優子は、ジト目で辻を見つめる。


「永ちゃん、えらい楽しゅうやっとるねんな?」


米村もようやく我に返ると、


「辻ハーレム、爆誕デスね。」


と同じくジト目で辻を見る。由川はいまだに口をあんぐり開けたままでいた。


サクラはそんな優子たちに、ペコリと頭を下げる。


「すみません、すぐ出ます(汗)」


そしてクルミたちに大声で、


「みんな、お邪魔しちゃだめだから! あたしたちは出ていくよ!」


と言い、辻に抱きついているホノカの首根っこを捕まえて立たせる。


クルミたちは、


「しょうがないね、辻くん、また今度飲もうね。」


と言いながら、ぞろぞろと部屋から出て行った。


サクラは、ホノカを、よいしょっと部屋から押し出すと、扉のところで振り返った。


「皆さん、ご迷惑おかけしました。」


とペコリと頭を下げる。そして、去り際に辻の方を向いて、


「辻さん、お渡しした無料クーポン券使ってくださいね? お店で待ってますね?」


そう言い残して去っていった。


廊下の向こうからは、クルミたちの声が漏れ聞こえてくる。


「ってか、サクラ、うちらよりもエグいよね、今のタイミングでそれ言う?」


「え、そう?」


「辻くんと飲みたいんよぉぉ、、、」


嵐が過ぎ去った後の部屋で、辻は冷や汗を流しながら固まっていた。


優子、米村の2人は、そんな辻に冷ややかな視線を向ける。


由川は、あははは、と愛想笑いをしていた。


「さて、と、うちらもそろそろ、行こっか?」


「そうデスね、ボクたちはお邪魔みたいデスから。」


「じゃ、じゃあ、辻君、、元気で、、、」


と優子、米村、由川はそう言って辻の部屋から出て行った。


残された辻は、


「なんで、こうなるの、、、」


と、トホホという感じで布団に倒れ込むのだった。


先月は投稿できませんでしたm(__)m

作者プライベート超多忙なもので、、、

話の構想は頭に入っているのですが、なかなか先に進めませんね。

気長にお待ちください。

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