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穏やかな革命 ~Adiabatic Revolution~  作者: 刃竹シュウ
第4章 ブドウ狩り
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北皇宮殿下の御来訪(2)

土曜日の早朝、陽御子さまの視察の当日、米村家にて。


ドタドタドタッと階段を駆け上る二人の足音。米村幸助の部屋の扉がバーンと開け放たれる。


「お兄ちゃん、今日から新イベント始まるよ!」(陽菜)


「ボスラッシュ・クラシック、最大ダメージを競うんだって!」(萌)


米村は眠い目を擦りながら枕元の携帯を取って「ぷにクエ」の新着情報を見る。


「ん、、過去のギルイベのボスから好きなのを選べる、、か、、面白そうダナ。」


そして大きく欠伸をするとベッドから起き上がった。


「お兄チャンは今日も食料生産棟の当番だけど、陽菜と萌は果樹園の手伝いするんだゾ。」


「うん、分かった!」 「分かった!」


妹たちは元気に返事をすると、二人して米村に頭を向け、ナデナデを要求する。


「もう、中学生なのに、変わらないナ、、」


「だって、お兄ちゃん生活棟に泊まること多いから!」(陽菜)


「こっちにいるときは甘えたいもん!」(萌)


米村は両手を陽菜と萌の頭に、ぽすっと置くと、髪をわしゃわしゃしながら撫でまわす。


「へへっ」 「へへへっ」


米村の双子の妹たちは13歳になり、RMSからCPの付与が可能になった。


RMSでは働くことの出来ない子供や年寄りを扶養家族として登録すれば、人数分の食料や衣類が供給される。生まれたばかりの赤ん坊ならミルクやオムツ、大きくなってくると離乳食というように年齢に応じて供給されるものが変わってくる。和皇国の労働基準法では15歳から働くことができるが、就学時間外の軽微な労働であれば13歳から働ける。RMSでもそれに合わせて13歳からCPを付与することができるのだ。


ちなみにQPに関しては年齢制限がないので、幼稚園児でも音楽や芸術の才能があればQPが加算される。しかし現状では携帯を持てるのはある程度年齢が上がってからなのでそういった事例はまだないのだが。


米村は朝食を取って出かける準備を済ませると、父親と母親に、


「今日もしかしたら、見学の人たちが来るかもしれないカラ。」


と伝える


「協会の人かい?」


父親の質問に、


「外部から来た四人家族で、夫婦と女の子とおじいさんダヨ。」


と答える。


臥院の要請により陽御子の視察のことは一般会員に伝えていなかったので、米村の家族は見学者が誰なのか知らなかった。身分を隠すため、島田と時子は夫婦を演じ、陽御子はその子供、臥院時郎は祖父の役をすることになっている。


「ちょうどブドウ狩りの時期だし、予約してもらうといい。」


と父親が言う。


「ウン、もしこっちに来るようなら、そう伝えるヨ。」


「女の子来るんだー、楽しみ!」 「楽しみ!」


陽菜と萌は見学者の子に会えるのが嬉しいようだ。


「じゃあ、行ってきマス。」


米村は家を出るとマウンテンバイクに乗って食料生産棟に向かう。


朝日に照らされた木々の間の細い道を通り抜け、アスファルトの道路に出ると20分くらいで食料生産棟に辿り着いた。入口の横のセンサーに右手に埋め込まれたPSチップを当てるとカチッと音がして施錠が外れ扉が自動的に開く。


米村はマウンテンバイクごと建物の中に入るとロビーの隅の方に駐輪する。そして廊下を進み、途中にある階段を上って2階のコントロール室に入った。コントロール室の中はモニター画面がズラリと並んでいて、水槽の中の養殖魚や水耕栽培している穀物や野菜の様子を映し出していた。


米村は制御卓のパソコンの前に座ると携帯を取り出しRMSアプリで当番の開始を送信する。


<米村幸助さん、おはようございます>

<8時12分、食料生産棟のコントロール業務を開始しました>


米村がパソコンの画面で水槽のエサやりのスケジュールを確認していると、携帯から、ピコッ、、ピコッと2回続けてメッセージ通知の音が鳴った。


優子:<陽御子さまは午前中に食料生産棟に行く予定>

優子:<粗相のないように気をつけるんやで!>


幸助:<りょ>(了解)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その頃、資源保管棟の受付では、さゆりが当番に入っていた。


<白潟さゆりさん、おはようございます>

<8時25分、資源保管棟の受付業務を開始しました>


RMSアプリで当番の開始を送信すると、受付の椅子に座りパソコンの画面を見て予約状況を確認する。


 今朝はまだ予約はなしですね


さゆりが、ぼーとしながら1時間くらい待っていると、入口から優子が入ってきた。


「あ、優子さん、おはようございます。」


さゆりは優子に挨拶する。


「白ゆりちゃん、おはよう。」


「あれ? 優子さんの予約は入ってなかったですけど?」


「あ、ちゃうんや、協会の施設に見学に来られてる人がおってな、その案内しとるんや。」


すると入口から由川が四人の男女を案内をしながら入ってきた。背の低い少女と彼女を守るように男性と女性が両脇に立っており、後ろにがっしりした体格の老人が付いてくる。少女は白色のワンピースを着て麦わら帽子を目深に被っており、ゆっくりとした動作で建物の中を見渡していた。


「こちらが資源保管棟です。先ほどの生活棟と同じくソーラーパネルと圧縮空気タンクで電力は完全自給になっており、空調も完備しています。」


「本当に、中は涼しいのですね。」


少女は高い天井を見上げながら中の様子を眺めていた。


「お野菜やお肉もここで保管しているのですか?」


と尋ねる。


「はい、生鮮食料品は、ここの冷蔵・冷凍室エリアに保管されています。」


「どのように品物を受け取るのかやってみても構いませんか?」


「はい、では受付に行きましょう。」


由川が陽御子さま御一行を受付まで案内する。


受付ではさゆりと優子が待っていた。


「おはようございます、由川さん、見学者の案内お疲れさまです。」


さゆりが由川に挨拶する。


「白潟さん、おはようございます。」


由川はさゆりに挨拶すると、受付で待機していた優子に小さく声を掛ける。


基礎食品ベーシックフードの予約デモンストレーション、お願いできる?」


「おっけ。」


優子も小さく答えると、


「それでは、こちらのゲスト端末をお使いください。」


と言ってゲスト端末を陽御子に渡す。陽御子は受け取ると端末の画面を見た。


<ゲストの認証を行います、PSチップを当てて下さい>


「PSチップで認証するのですね。」


陽御子の問いに、


「はい、ゲストでは認証情報は保存されませんのでご安心下さい。」


と優子が答える。


陽御子はワンピースの胸元からペンダントをスルッと取り出すと、ゲスト端末に当てる。


<ゲストの認証中、、、>

<認証完了、あなたのレベルは最高レベルに設定されました>


それを聞いてさゆりは驚く。


 すごい、この女の子どこかの御令嬢なのかな?


受付で座っているさゆりの位置から、麦わら帽子の下の少女の表情を垣間見ることができた。


 あれ? この人もしかして、、、


「あの、陽御子さまですか?」


さゆりの言葉に、島田がスッと前に出る。


「島田、良いのです。」


陽御子はすかさず島田を止めるとさゆりを見て、


「そこの御方は受付をなされているのですね?」


と微笑みながら聞いてきた。


「は、はい! 陽御子さまにお会いできるなんて光栄です!」


さゆりは、机に突っ伏すくらいの勢いで頭を下げた。


「どうか、お顔をお上げになって下さい、私はあなたさまと同じ和皇国の一国民、普通に接して頂いて良いのです。」


優子は、


 あちゃー、ばれてもうた、まあこうなると思っとったんやけどな


と思いながら、


「陽御子さま、RMSのデモンストレーション、お続けになりますか?」


と尋ねる。


「もちろんです。この後どうすればよろしいのですか?」


優子がRMSの予約の仕方を解説すると、陽御子は基礎食品ベーシックフードの中の「乾パン1食分」を選び予約を送信する。


さゆりが座っている受付の端末画面に、


<ベーシックフード「乾パン1食分」の予約が入りました>


と表示される。


「あ、じゃあ、私、取ってきます!」


さゆりは立ち上がると「乾パン1食分」を保存食糧庫から取ってくる。


さゆりが乾パンを取りに行っている間、優子は


「それでは、スキャナに二次元バーコードをかざして下さい。」


陽御子は優子に言われるままにゲスト端末を操作してスキャナに二次元バーコードをかざす。


<請求確認しました。品物をご用意しますのでしばらくお待ちください>


すると、さゆりが手に品物を持ってすぐに戻ってきた。


「お待たせしました、品物をご確認下さい。」


陽御子はそれを手に取ると、


「食べてみてもよろしいですか?」


と尋ねる。


「はい、お口に合いますか分かりませんが、どうぞ召し上がり下さい。」


と優子が答える。すると時子が横からスッと前に出てきて、


「失礼します。」


と言って、乾パンが密封された袋を開け、中からひとかけら取り出すと口に入れる。


 もぐもぐもぐ、、、


「特に異常はないようです。」


陽御子は頷くと、優子たちを見て、


「どうか、時子の失礼をお許しください、私はあなた方の食べ物が安全であることを疑っていないのですが、彼女は自分の仕事を全うせざる得ないのです。」


優子は、臥院のおっちゃんがもう確かめとるんに慎重なんやな、と思いながら、


「こちらこそ心遣いのお言葉、感謝いたします。」


とお礼を言う。


陽御子は時子が持っている袋から乾パンをひとかけら取り出し、パクっと口に入れる。


 もぐもぐもぐ、、、


「これは美味しいですね。皇宮庁から支給される非常食のクラッカーよりも味わいがあります。」


「お気に召していただき何よりです。材料の麦は食料生産棟で栽培したものです。この後にご案内いたします。」


優子はその後、陽御子さま御一行を木材などを保管する資材エリアに案内する。


受付に残った由川は、さゆりに、


「ごめん、陽御子さまの見学のことは一般会員には知らせていなかったんだ、驚かせちゃったね。」


と小声で謝る。


「いえ、びっくりしましたけど、なまの陽御子さまを拝見できて感激です!」


そして、携帯を取り出すと、


「あの、優子さんから、もしものときのために由川さんと連絡取れるようにって言われたんですが。」


と遠慮がちに言う。優子は、さゆりがまだ由川のメッセージIDを知らないことを聞いて、この機会に交換してはどうかと提案していたのだ。


由川は、役場の外だしコンプライアンス違反じゃないから問題ないかな、と思いつつ、


「そうだね、じゃあ。」


と言って携帯を取り出し、さゆりとメッセージIDを交換する。


 やったー、由川さんのIDゲット!


さゆりは内心ガッツポーズをして優子のアシストに感謝する。そうこうしている間に優子と陽御子さま御一行が受付に戻ってきた。優子はさゆりがニコニコ微笑んでるのを見て、


 うまくいったようやな


とさゆりにウィンクした。由川は優子たちと合流すると、


「それでは、次に食料生産棟へ向かいます。」


と告げて優子たちと一緒に資源保管棟を出て行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


徒歩で3分くらいして陽御子さま御一行が食料生産棟に着くと、由川が入り口の横のセンサーに右手のPSチップを当てて扉を開く。


「どうぞ、中へ。」


皆が中に入ると、


「それでは、食料生産棟を集中管理しているコントロール室に行きましょう。」


と言って、廊下を渡り、2階の階段を上ってコントロール室に入った。


扉を開けると、壁の一面にモニター画面が並んでおり、養殖魚の水槽の様子や、水耕栽培の様子を映し出していた。


「食料生産棟では、このように水産養殖の水を水耕栽培へ送り水質を綺麗にして循環させるアクアポニックを行っております、水槽への餌の投入や水耕栽培の照明の調節などは自動で制御されており、、」


由川は説明しながら、ふと陽御子の方を見ると、彼女はモニター画面ではなく制御卓に座っているある人物を凝視していた。


皆が陽御子のその様子に気付き、視線を制御卓に移す。そこには携帯で「ぷにクエ」をしている米村がいた。


 ネムのあほ! TPO考えんと何やっとんのや!


陽御子はそろそろと米村の元に歩み寄る。米村は「ぷにクエ」に集中して気付かない。


「うっし、最高ダメージ更新デス!」


米村がそう言って横を振り向くと少女が立っていた。由川がたまらずに米村のところに駆け寄り耳元で囁く。


「米村君、陽御子さまです、、」


米村は、あっ、と言って立ち上がり、


「陽御子さま、失礼しまシタ、、」


と頭を下げる。しかし彼が頭を下げたのは、陽御子ではなくその横に立つ時子であった。


優子は顔面蒼白になる。


「ネム! そっちは側近の人!」


米村は、キョトンとする。陽御子はゆっくりと笑みを浮かべると、


「陽御子です、よろしくお願いいたします。」


と会釈する。


「あ、失礼しました。うちテレビがないのデ、陽御子さまのお顔がわからなかったデス。」


と少女に頭を下げる。


陽御子は麦わら帽子をファサっと脱ぎ、顔を表すと、


「あなた、お名前は?」


と米村に尋ねた。


 あかん、終わったわ、、、


優子は絶望して、二人の様子を眺めていた。


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