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穏やかな革命 ~Adiabatic Revolution~  作者: 刃竹シュウ
第4章 ブドウ狩り
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新会員、白ゆりさん

孝之たち第2パーティーのメンバーが湖岡町の支部に移って間もない頃、第1パーティーのメンバーの大山、由川、米村、優子は、大山邸に集い定例会議を行っていた。


「由川、RMS導入後、一般会員に混乱はないか?」


「一般会員の方達にはRMS導入時に特別CPを付与してあるので、食料や生活必需品は今までどおり供給できています。今のところ特に混乱はありません。」


大山の案で、RMSの導入が始まる前に協会に入会した会員達には、協会創設時からの貢献を考慮して特別CPが付与されていた。ただし、委員会のメンバーは予めRMSのことを知っていたということもあり、自力でCPを稼がなければならない。また、RMS導入後に入会する会員はRMSによる資源分配のしくみを予め了承した上で入会することになっており、原則的に自力でCPを稼ぐことになっている。


生活棟はランク分けされて新規に4棟建設されていた。RMS導入後の新規入会者は最低ランクのR1生活棟(アールワン)に入居し、基礎食品は長期備蓄が可能な乾パン類やミネラルウォーター、基礎衣料は木綿製の下着とシャツ、ズボンのみが提供される。


「一般会員のRMSの導入率はどうなっている?」


大山が由川に尋ねる。


「天仁町本部の会員164人中、148人が導入済みです。残りの16人のうち携帯を持っていない人が3人、機種が古くてRMSアプリをインストールできない人が13人です。湖岡町の支部34人については全員導入済みです。」


「そうか、RMSが使えない会員には資源保管棟のタブレット端末で対応しなさい。」


資源保管棟のタブレット端末は、RMS端末を使わずに資源の出し入れをするためのもので、何らかのトラブルでRMSサーバーが停止したときのために用意されていた。RMSサーバーが停止するような非常事態においては復旧するまでの間、レベルによる優先順位をつけずに全会員に公平に資源を分配することになっている。


「半年後にはシェン君が200台の専用端末を用意してくれるそうなので、携帯を持たない人にもRMSを導入できると思います。」


「うむ、資源保管棟で貸出サービスをする要員は足りているか?」


「それなんですが、天仁町役場の同僚が自給生活協会に興味を持ってくれていて、その人に手伝ってもらおうと思っているのですが。」


「由川が認めた者なら問題ないだろう。入会申請は受理するのですぐにでも登録しなさい。」


「はい。」


大山は続いて米村に尋ねる。


「米村、第2食料生産棟の方はどうなっている?」


「すでに自動制御システムが稼働中デス。栽培品種には、孝之サンの依頼で生薬の材料となるハトムギ、エビスグサなどを入れる予定デス。」


孝之が計画していた医薬品生産のプランBの方である。この時点では製薬会社と派遣契約をして医薬品を確保する案は考えられてなかったのでプランBの計画は進行中であった。自給生活協会では食料の生産者が多いため、食品に関しては供給過多になっているのだが、将来会員が増えた時に対応できるように生活棟、食料生産棟、衣類生産棟は今後も増築していく予定であった。現状では余剰分の食料は、協会外部に売却して施設拡大の資金や税金の支払いに当てていた。


「三宅、SISの方は順調か?」


SIS:Social Interface Systemとは、RMSと連携して協会外部からの資源の購入、外部への資源の販売、国や地方公共団体に払う税金の計算などを自動で行うシステムだ。協会外部との貨幣の交換をSISで一本化することで、会員が貨幣を使わずに済むようにしているのだ。所得税や固定資産税などの税金もSISが集約して会員に代わって収めるようにしている。後に孝之が考案した製薬会社との派遣契約もSISを通して行っている。


「購入に関しては、RMSがリストアップした不足品を買うとります。販売の方は主に農家で生産した生鮮食料品を協会の直販サイトで売っとります。RMSと連携して帳簿が自動的に作成されるんで確定申告もきっちりできとります。」


「そうか、ご苦労。」


「まあ、SIS作ったシェン君の手柄なんやけどな。」


優子は肩をすくめる。


「ところで、広報関係で、ビッグニュースがあるんやけど。」


優子は協会の広報と来客対応も引き受けていた。大山が、


「何だ?」


と尋ねると、優子は皆を見渡し、ふっふっふと小さく笑い、両手を広げてこう言った。


「なんと! 北皇宮殿下であられる陽御子ヒミコさまが、協会の施設に視察に来られるんや!」


優子の言葉に由川と米村が「おおー」と同時に声を上げる。


「北皇宮殿下が来られるんなんて、すごいね!」


「イベント発生デスね、新たなクエストの予感デス。」


和皇国は建国以来、三皇制という統治制度を取っており、北州の北皇、本州の本皇、南州の南皇の三人の皇が、国の政治を協議して司ってきた。和皇の名前の由来は和する皇から来ている。皇政が廃止され立憲君主制となった現代でも、三人の皇は国の重要な決定事項に対して「良心的な国民の代表」として意見を述べることができる。国会は三皇の意見を無視することが出来ず、最終的には国民投票を行うことになる。北皇宮の皇女である陽御子は次代北皇の候補の一人であった。


大山は、北皇宮殿下視察のニュースに特に驚くでもなく優子にこう尋ねた。


「皇宮庁の担当者は、臥院時郎ガインジロウという名ではなかったか?」


大山の問いに優子は訝し気に大山を見る。


「先生何で知っとるん?」


「私の古い友人だ。北皇宮殿下の視察は私が彼に打診した。」


臥院家は代々、北皇宮の側近を務めており、臥院時郎は大山が学生の頃の数少ない友人だった。


優子は自分のサプライズに水を差された気がして少しふてくされる。


「先生も人が悪いわ、何で先に言うてくれへんの?」


「すまんな、まさか受けてくれるとは思わなかったからな。」


悪びれもせず謝る大山に優子は、


「せやけど、うちも先生が名家の資産家や言うことすっかり忘れとったわ。皇室と繋がりがあるとかほんまにすごいねんな?」


と言う。


「皇室と直接繋がりがある訳ではない、臥院は北皇宮の側近の家系だ。」


大山がそう答えると、由川が尋ねてきた。


「先生はなぜ北皇宮殿下の視察を打診されたのですか?」


「北皇宮殿下は北州ではカリスマ的な存在だ。その御方が協会に視察に来られれば天仁町の役員達も注目するだろう。第2フェイズに向けた布石となる。」


大山の言葉に、


「自給生活協会の好感度を上げようっちゅう事やねんな?」


と優子。大山はニヤリと笑う。


「そういう事だ。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


第1パーティーの定例会議から数日後の土曜日、優子は隆一の祖母のヨネさんに頼まれて生活棟の住民が予約した食材を代理で受け取る手続きをしていた。


「優子ちゃん、食事の買い出し、いつもやってくれてありがとうね。」


実際はお金を払うわけではないので「買い出し」ではないのだが、ヨネさんはいつもそう言っていた。


「ええねんで、料理するんはうちも好きやし、咲さんが湖岡町に行ってもうたから、悦子おばさんもヨネばあちゃんも大変やしな。」


優子は生活棟の食事当番がヨネさんのときはいつも「買い出し」を手伝っていたのだ。


手続きが完了し資源保管棟に行くと、優子は自分の携帯を取り出して予約した食材を受け取る二次元バーコードを表示した。そして受付にある読み取り機にかざすと、ピロンと音がして、


<代理請求確認しました。品物をご用意しますのでしばらくお待ちください>


と音声メッセージが流れる。


しばらくして倉庫の奥から若い女性が食料品をカートに乗せてやってきた。


「お待たせしました。品物をお持ちしたので中身の確認お願いします。」


 見かけん顔やけど、新しく入った会員さんなんかな?


優子はカートを押してやってきた女性を見つめた。


背丈は優子と同じくらいで、ウェーブをかけた明るい色の髪を後ろで一つに束ねており、おっとりした雰囲気の女性だった。優子は、


「もしかして、よっしーの職場から来た新人さんですか?」


と女性に尋ねる。女性はキョトンとすると、


「よっしー?」


と聞き返す。


「あ、ごめんな、由川君のことや。」


女性は「あっ」と言って両手の平を合わせ優子を見る。


「よっしーって由川さんのことなんですね! かわいい呼び方ですね!」


と言って満面の笑みを浮かべる。


「うちは由川君の高校んときの友だちで、三宅優子、言います。」


優子の自己紹介を受け女性は、


白潟シラカタさゆりです、よろしくお願いします。」


と自分も名前を名乗り、ペコリと頭を下げた。優子は、


「かわいい名前やん、しらゆりちゃん、って呼んでもええ?」


と早速あだ名をつける。さゆりは、またキョトンとすると、


「あ、そうか、白潟の白、と、さゆりのゆり、を取って白ゆりですね、かわいい呼び名をつけていただきありがとうございます。」


と笑顔で答える。


 なんや、天然ちゃんみたいやな、、、


「よっしーとは天仁町役場でいっしょなんやろ?」


と優子が尋ねると、


「はい、私は派遣職員なんですが由川さんにはいろいろ教えていただいてお世話になっています。 土日は役場の仕事が休みなので、こちらのお手伝いをさせてもらってます。」


とにこやかに答える。


 ん? 派遣の子、白潟、どっかで聞いたような、、、


優子は頭を捻ったが思い出せなかった。


 ま、えっか、えーと、今日はカレーの日やったな、にんじんに、玉ねぎ、じゃがいも、牛肉っと、、


優子はカートの中身を確認する。


「おっけ、全部揃うとるわ。」


と言って、食品が入ったカゴを運搬用のカートに乗せ換える。


「白ゆりちゃん、住むとこは決まっとるん?」


「はい、私はまだレベルが低いのでR1生活棟(アールワン)の一人部屋です。」


「そうなんや、せっかく入会してもろうたんに狭い部屋でごめんな?」


優子はすまなそうに言う。


「いえ、前に住んでた一人暮らしのアパートも狭かったので全然快適です! それに家賃もかからないし、乾パンとミネラルウォーター無料でもらえるので、お昼とかに頂いてすごく助かってます!」


さゆりは特に資格を持っていないので、QPもCPも少なく、レベル1であった。


「もっと、ええもん食べさせてあげたいんやけど、、せや、もしよかったら、ここの当番終わったら、うちらが住んどるR4生活棟(アールフォー)に来えへん? 今晩カレーやから。」


最初に建設された生活棟はランク的には最上位から2番目のR4となっている。現在最上位のR5生活棟(アールファイブ)は基本的に来客用で普段は誰も入っていない。レベルの高い孝之が天仁町に帰って来た時にたまに使用していた。


優子の食事の誘いに、さゆりは嬉しそうに手を合わせると、


「いいんですか?」


と聞き返す。


「ええねん、うちも同じくらいの年の子来てくれて、うれしいしな。」


「ありがとうございます!」


「ほな、メッセID交換な?」


「はい!」


優子とさゆりは互いの携帯を近づけてメッセージIDの交換をする。


「じゃあ、また後でな?」


「はい、楽しみです!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日の夕刻、優子とさゆりは、生活棟の食堂で一緒に食事をしていた。


「由川さんは、ここにはいないんですか?」


「よっしーは、大山先生の家に居候やから、ここには住んどらんのや。」


「そうですか。」


そこへ、米村が食料生産棟の当番を終えて食堂に入ってきた。


「お、ネム、今終わったん? こっち来ていっしょに食べへん?」


優子が米村に声を掛ける。米村は、


「今日はカレーなんデスね。」


と言い、チラッと優子の対面に座っているさゆりを見た。


さゆりは米村の視線に気付くと、ペコリと頭を下げ、


「初めまして、由川さんの紹介で先日入会した、白潟さゆりです。」


と挨拶する。


「米村デス、よろしくお願いしマス。」


米村は軽く会釈をすると、スッとその場を離れそのまま食事を取りに行く。


さゆりは米村の背中を見ながら、


「かっこいい人ですね! 優子さんの彼氏さんですか?」


と優子に聞いた。


「そういうんじゃないねん、よっしーと同じで、高校んときの友達や。」


「そうなんですか、でも何でネムさんなんですか?」


「ヨ・ネ・ム・ラの真ん中の、ネとムを取ってネムや。」


さゆりは、両手を合わせて、


「ああ、なるほど、そういうことですね!」


と感心する。そこへ米村がトレイにカレーの皿を乗せてやってきた。


米村は優子の隣の席に座ると携帯を取り出しテーブルに置く。するとピコっと音が鳴りメッセージが通知された。


萌:<お兄ちゃん、次キリ番、お願い!>


米村は携帯の「ぷにクエ」の画面を開く。


「全盾逆転ステージ、、陽菜と萌にはキツいカナ、、」


と言って、食事そっちのけで「ぷにクエ」を始める。


「あのー、米村さん? カレー食べないんですか?」


さゆりの言葉に米村は無反応でゲームを続ける。


「無駄や、ネムはガチゲーマーやから、集中すると反応せえへん。」


と優子。さゆりは立ち上がると、米村のところに行きゲーム画面を眺める。


「あ、これ知ってます! ぷにぷに、ですよね!」


米村は、「ぷにクエ」の画面を閉じるとメッセージを送る。


幸助:<倒した>


陽菜:<りょ>


そして、さゆりをチラッと見ると、


「ぷにぷには落ちゲーの方、今のは、ぷにぷにクエスト、カード揃えてデッキ組んで攻撃するパズルゲー。」


と言い、カレーを食べ始める。


「大山先生のリアルRPG始まったんに、ネムもブレんなぁ。」


「ぷにクエは別腹デス、今ギルイベだから。」


「そうなんや、ネムのギルド、陽菜ちゃんと萌ちゃんも入っとるんやろ? 何体まで倒すん?」


「もちろん、1600体、カンストまでデス。」


さゆりは二人の会話についていけずポカンとしながらも、なんとか話題をつなげようと、


「キャラクターの絵、かわいいですね、私もやってみようかな?」


と言う。米村は、フッと口を歪めた。


「キャラの可愛さで誤解を受けてマスが、ぷにクエは、火力増し増しのガチゲーだから、羊の皮を被った狼デスヨ。」


「は、はあ、、」


さゆりは、自分の席に着く。


「白ゆりちゃん、ごめんな、訳わからんやろ?」


「いえ、なんとなく凄いっていうのは伝わりました!」


そんな二人のやりとりの中、米村はカレーを食べる手を突然止めた。


「あ、思い出シタ。」


「?」「?」


「おミヤサン、科学部の飲み会、みんながPSチップをインプラントにしてたの分かったときのこと覚えてマスか?」


「もちろん、覚えとるで。」


「そのとき、おミヤさん、由川クンの浮いた話を問い詰めてましたヨネ?」


「ん、そうやったな、そんで?」


「由川クンが職場で困ってた後輩を助けたって話、覚えてマスか?」


「あー、せやったな、、、あ!」


優子はさゆりの方に振り向く。


「白ゆりちゃん、あんときの人やったんか!」


「?」


さゆりは、またしても話についていけず、困惑した表情をする。


「そうデス、由川クンが下心を持っているかも、という後輩クン、デス。」


米村の言葉に、さゆりは、ぽっと赤くなる。


「由川さんが、、私に、、下心!?」


 白ゆりちゃんのこの反応、まさか、、(優子)


 突発イベント発生の予感デス(米村)


スペック:

 白潟さゆり: 157cm, 45kg, A+


本業の仕事が忙しく更新が遅くなり、すみませんm(__)m

次回も第1パーティの話です。


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