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穏やかな革命 ~Adiabatic Revolution~  作者: 刃竹シュウ
第2章 思い出(科学部)
12/36

孤独な才能

四月の桜が舞う季節、北央高校では、新入生の部活の勧誘が始まっていた。


「バスケ部員募集中! そこの君、背高いね、どう?」


そんな言葉を掛けてくる上級生に、


「興味ないです」


とすげなく断ると、その少年は放課後の廊下を足早に歩み去る。長身に短く刈った黒髪、端正な顔立ちに切れ長の目。少年は上級生の集団から抜けると手に持ったパンフレットを眺めた。


 部活なんて疲れるだけだ


少年は一人でいるのが好きだった。誰にも邪魔はされたくないし誰の邪魔もしたくない。大人たちは言う、皆と仲良くしなさい、お互い助け合うことは大切だと。しかし少年にとって、他人のやり方に自分が譲歩するのも自分のやり方に他人を譲歩させるのもどちらも苦痛なのだ。


たとえば、ある目的地に向かって皆で歩いているとしよう。途中で大きな岩が道をふさいでいたので皆で協力して根気よくその岩を動かそうとする。そんなとき少年は迂回路を探しそちらを進もうとする。他の者たちは岩を動かすことを諦めない。彼らはこう言うのだ。「なぜ君は皆がこんなに頑張っているのに協力しないんだ?」少年は見切りをつけると一人で迂回路を進み、誰よりも早く目的地に到着する。そしてかなり遅れてから岩を動かした集団が楽しそうに互いの健闘を称え合いながらやってくるのだ。少年はそんな彼らを鬱憤と羨望の入り混じった気持ちで眺めながら思うのだ。なぜ自分はあんな風にはなれないのかと。


少年は彼らを観察した。そこに自分に足りない何かがあるのではないかと。しかしそんなものは存在しなかった。その代わりに別のことに気付いた。彼らの協力関係は決して平等ではないということに。助け合おうと言いながら自分は何もせずに面倒ごとを他人に押し付ける者の存在に。そんな風に他人から搾取する類の人間はたいていこう言って近づくのだ。「仲間になろう、絆を深めよう」と。


だから少年は一人でいるのが好きだった。


少年が理科室の前を通ったときだった。どこからか彼の良く知るBGMが聞こえてきた。


少年は立ち止まって耳を澄ます。そのBGMは理科室の中から聞こえてくる。


そして、BGMに混じって人の声が聞こえて来た。


「・・・永ちゃん、防御・・・」


「・・・米村君、いったん引いて・・・」


少年は理科室の扉を見る。


<科学部使用中>


そんな張り紙が貼ってあった。


 科学部?


少年は部活勧誘のパンフレットを見る。科学部など載っていない、いや、あった。


最後のページの隅っこの方に小さく掲載されていた。


 <科学部>

 <活動内容:コンピューターを使った仮想現実シミュレーションの研究>

 <部員募集:なし>


 仮想現実シミュレーション?


少年は扉に近づいてBGMを聞く。


 EFGだよな、これ。


間違いようはない。なぜなら彼は毎日のようにEFGにログインしているのだから。


少年は扉の前に立つ。


<科学部使用中>


理科室の扉には確かにそんな張り紙が貼ってある。


少年は扉に手を掛け、いったん引っ込めると、もう一度手を掛ける。


そして扉をそっと開く。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


扉を開けると異様な光景が飛び込んできた。


理科室のパソコンでEFGをプレイしている三人の少年と一人の少女、そしてそれを後ろから観戦している大柄の人物。


 あれは数学の大山か?


他の生徒が組長と恐れているあの風貌、確かに数学の教師の大山泰全だ。


少年が扉を開けたまま立ち尽くしていると、気配を察したのか大山が後ろを振り向いた。


「誰だ」


少年はビクッと肩を震わせると、蛇に睨まれた蛙のようにその場を動けなくなった。


そんな中、EFGをプレイしていた少女が声を上げた。


「あちゃー、負けてもうた。」


隣の少年も悔しそうに呟く。


「このボス、攻撃パターンが変則的過ぎデス、、」


少女は振り向いて扉に立つ少年を見た。


「見学の子? 中に入って見てもええんやで?」


たまに科学部の活動内容に興味を持って見学に訪れる生徒がいるのだ。大抵の場合、大山を一目見ると退散してしまうのだが。


少年は迷った。いつもなら「すみません、失礼しました」と言いながら、すぐにその場を離れていただろう。しかし彼らがやっていたのはEFGなのだ。少年が毎日夜遅くまでプレイして世界ランキング2位になるまでやり込んだ、あのEFGなのだ。


少年は理科室の中に入るとゲーム画面を表示しているパソコンの前までやって来た。


「これ、試練の塔のラスボスですよね。」


少年がそう言うと、


「君もこのゲームをやったことがあるのかね?」


と大山が尋ねる。


「はい、試練の塔はクリアしています。」


少年がそう言うと、


「ほう、クリアしたのか。」


大山が興味津々といった目で少年を見つめる。


「すごいやん! ちょっと、こっち来ていっしょにやらへん?」


優子がそう言うと、大山が少年に尋ねる。


「君は新入生だな。 名前は?」


王李神ワンリーシェンです。」


優子はその名前を聞くと、少年に尋ねた。


「枢華人の留学生の子? 和皇語うまいんやな?」


優子の問いに少年は切れ長の目で鋭く睨む。


「祖父の代から和皇国に帰化しているので。俺は生まれた時から和皇人です。」


「そうなんや、かっこええ名前やん、シェン君って呼んでもええ?」


シェンはその質問には答えず優子を見つめた。


 馴れ馴れしく他人の領域テリトリーに侵入してくる


そして他の三人の少年を見る。


 試練の塔のラスボスまでいけたのはこいつら下僕たちのお陰なんだろうな


シェンは踵を返すと、


「俺はこれで失礼します。」


と言い、優子を蔑むように一瞥すると、そのまま帰ろうとする。


優子はシェンのその態度にカチンときたのか、


「へー、逃げるんや、クリアした言うんも怪しいもんやな。」


とシェンを挑発する。


シェンは立ち止まって振り返ると優子を睨んだ。二人の目線の間で火花がバチバチと飛び散る。


そこへ大山が割って入った。


「王李神君、私も君がクリアするのを見てみたい。」


シェンは大山に振り向くと、


「ええ、いいですよ。」


そう言うと、由川の方に近づき、


「代わってもらってもいいですか?」


と尋ねる。


由川は大山を見る。大山は黙ってコクリと頷いた。


「えと、、じゃあ、ログアウトするから君のアカウントで入って。」


由川がEFGをログアウトして席を譲ると、シェンは座ってユーザー名「WLS」でログインした。


米村はそのユーザー名を見て驚いた。


 EFG世界ランキング2位のあの「WLS」?


シェンがログインすると、戦士となって現れた。場所はEFGの高ランカーだけが使える全ての転送ポイントに飛ぶことができる転送エリアだった。彼はアイテムショップで全回復ポーションをいくつか手に入れると転送ポイントに向かい、試練の塔の最終ステージに転送した。


戦士がラスボスの部屋の前まで来ると大山が尋ねた。


「一人で挑むのか?」


「はい、俺はソロプレイヤーなんで。」


シェンはそう言って扉を押す。


<試練の塔、最高階、天空神ウラノスの間、挑戦しますか?>


シェンは腕時計をチラッと見る。


「3分で片づけます。」


そして「YES」をクリックした。


部屋の扉が開き、戦士が中に入ると、中央に座していた天空神ウラノスが俯いた姿勢から顔をゆっくりと上げた。


戦士は腰から短剣ダガーを抜くと軽やかなステップでウラノスに向かって突撃する。


ウラノスは全身を輝かせて翼を広げると無数の黄金の羽が針となって戦士に向かって全方向から襲い掛かる。


「な、いきなり必殺技しかけて来た!」


辻が驚く。


「このパターンは初めてデス、、」


米村も画面を見ながら唸る。


戦士は横っ飛びに柱の陰に隠れたが、針は何本も全身を突き抜けており、HPがあっという間に残り僅かとなった。戦士は全回復ポーションを飲んで針を体から抜く。


そして再びウラノスに向かって短剣を持って突撃する。


ウラノスは手に持った剣を振りかざし、戦士に切り付ける。


戦士はそれを間一髪で避けると、ジャンプしてウラノスの左脇腹に短剣で切り付け、すぐさま跳び去る。戦士は短剣で同じ場所を何度も斬りつけるが致命傷とは程遠いダメージしか与えられなかった。実際、HPは1%も減っていない。しかしウラノスの方も最初に放った必殺技以外に大技を繰り出す気配はなかった。


 もう2分過ぎてるけど、、、本当に倒せるの?


由川がそんな風に思っている時だった。


戦士は短剣を投げ捨てると、アイテムボックスから銀色に輝く槍を取り出した。


ロンギヌスの槍、神系統のボスを倒す武器の一つである。


戦士が槍を構えウラノスの間合いに飛び込むのと、ウラノスが必殺技を繰り出すモーションに入るのは同時だった。そしてそのモーションの隙を付いて戦士は短剣で切り付けた左わき腹の箇所にロンギヌスの槍を突き立てた。


ウラノスは腕を伸ばして戦士の首を掴む。


シェンが、


「終りだ。」


と一言呟くと、戦士はさらに槍をぐっと押し込んだ。


ウラノスのHPが99.3%から一瞬にしてゼロになり、光の泡となって蒸発して行った。


<天空神ウラノスの間、クリア>


「うそやろ、、、」


優子が呆然として呟く中、シェンはログアウトして立ち上がった。


「これで文句はないですよね。」


そして大山に向き直ると、軽く頭を下げた。


「それでは、失礼します。」


そして理科室を出ていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


それから数日後、1年のクラスで最終時限が終わり生徒たちが教室から出ていく中、授業を受け持っていた大山は生徒の一人を呼び止めた。


「王李神、君に少し話があるのだが、いいかね?」


シェンは振り返って大山を見る。


「何でしょう?」


「君がクリアしたウラノスの間の攻略について聞きたいことがある。」


シェンは訝しげに大山を見ると、


「もう帰りたいんで、手短にお願いできますか?」


と答える。


他の生徒が誰もいなくなった教室で、大山はシェンを見つめる。


「君はウラノス戦を始める前に腕時計で時間を確認していたな?」


シェンは一瞬、眉をピクリと動かすと大山を見た。


「3分で終わらせると宣言しましたから、時間を見ただけです。」


「君は戦闘中はPCの時計を見て時間を確認していた。」


シェンは大山の鋭い眼光に見つめられ視線を逸らす。


 あの状況でそんな所を見ていた?


「攻撃をかわしながら腕時計を見る余裕なんかありません、当たり前でしょう。」


「ならばなぜ最初に腕時計を見た? 時間の経過を確認するためなら最初からPCの時計を見れば良かろう。」


「あなたは何が言いたいんですか?」


大山は何かを探るようにシェンを見つめながらこう言った。


「君が腕時計を見たのは、PCの時計が正確に合っているか確認するためだ。」


シェンは無表情のまま俯くと、しばらく押し黙る。そして顔を上げると大山を見た。


「それで? 仮に俺がPCの時計が合っているのを確認したとして何のためにそんなことをする必要があるんですか?」


大山は依然シェンの表情を観察するように見つめながらこう言い放った。


「ウラノスの攻撃パターンを確定させるためだ。」


シェンは軽く眩暈を感じながら胸に手を当てる。


 ありえない、この男は推測だけでその結論に辿り着いたというのか


「私はあの後、部員達にウラノスに挑戦する時刻を1秒単位で変えながら繰り返させた。その結果、秒針が15秒で開始した時のウラノスの攻撃パターンが君がプレイしていたときと全く同じだということが分かった。」


「なぜ全く同じだと言い切れるんですか?」


「私は部員たちのプレイ状況を映像記録ソフトで全て記録している。もちろん君がプレイした由川の端末もバックグラウンドで映像記録は続いていた。」


シェンは力なく尋ねる。


「つまりどういうことですか?」


「つまりこういうことだ、君は何らかの方法で挑戦開始時の秒の値がウラノスの攻撃パターンの条件分岐に使われていることを知っていた。君がどのようにしてそれを知ることができたのか、私はそれが知りたい。」


シェンは混乱した頭の中で適当にごまかせる理由を考えようとした。


 いや、たぶん、この男には見透かされるだろう


そして下手な言い訳をして泥沼に嵌まるより事実を話すことを選んだ。


「EFGのバイナリコードを逆アセンブル、逆コンパイルしてソースコードの中身を見たんです。」


大山は手を顎に当てるとこう言った。


「ほう、君はそんな芸当ができるのか。」


シェンはもう隠すこともないので素直に受け答えをする。


「高ランカーの中にはやってる人はいると思いますよ。アカBANすれすれのグレーな行為なんで表立っては言えませんが。」


「アカBANとは何だ?」


「ゲームの運営によってアカウントを禁止(BAN)されることです。それまで育ててきたキャラは永久に使えなくなります。」


「なるほどな。」


 終わったな、この男はきっと俺のことを運営に通報するだろう


しかし次に大山が言った言葉はシェンが予想もしていないことだった。


「王李神、君のことをシェンと呼んでもいいかな?」


シェンはポカンと大山を見つめると、


「身内は俺のことをシェンと呼びますが、なぜそんなことを聞くんですか?」


と尋ねる。


「私は君に興味がある。科学部員になって欲しい。」


「俺のことを運営に通報しないんですか?」


「君は君の持てる才能を使って最も効率的にゲームを攻略した。それは賞賛すべきことだ。運営の都合など知ったことではない。」


それは教育者にあるまじき発言だった。


 この人はいったい、、


シェンはしばらく無言のまま大山の表情を伺った。そして大きく溜息をつくとこう言った。


「部員になってもいいですが、条件があります。パーティーを組む際、俺を自由に動かさせて下さい。」


大山はニヤリと笑う。


「元よりそのつもりだ。君は一人で自由に活動したときが最もパフォーマンスが出るだろうからな。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日の放課後、大山はシェンを連れて理科室に行き新入部員として紹介した。


四人の反応は様々だった。米村はゲーマーとしてのシェンの才能には一目置いていたので好意的に迎えた。辻は持ち前の素直さでよろしく!と握手をした。由川は高身長のシェンに少し気後れしながらも笑顔で迎え入れた。優子は初対面のときの悪印象からあからさまに嫌な顔をしていたが大山の説得で渋々受け入れた。


シェンは科学部に入ってから四人のことを観察した。米村は飄々(ひょうひょう)として掴みどころがないが勘が鋭くEFGではモンスターの出そうな場所を誰よりも早く察知していた。由川は一見オドオドして頼りなさそうに見えるが洞察力に優れておりボス戦では適格な指示を与えて頼りになる存在であった。辻はプレイヤーとしては普通だがパーティーメンバーが危機のときは自分が傷つくことも顧みずに献身的に振舞っていた。


科学部の男性陣はお互い「君」付けて呼び合っていたが、そのことはシェンにとって好印象であった。というのもシェンは人のことを馴れ馴れしくあだ名で呼び合う連中が苦手だったからだ。そういう訳でシェンの中での男性陣の評価は高く彼らのことを「先輩」と呼称するようになったのだ。


しかし優子に対しては、他のメンバーをあだ名で呼び自分のことは「さん」付けで呼ばせていることが気にくわなかった。ちょっと容姿がいいからといって何様のつもりだと。なので優子のことは「そっち」とか「あの人」とか名前をつけずに呼んでいた。


ある日、大山は他のメンバーがいないところでシェンを呼び止めた。


「シェン、生物の生存戦略には2種類ある。」


シェンは呆気にとられて大山を見返した。


 いきなり何を言い出すんだ、この人は?


「ひとつは個の能力で優位に立つこと、もうひとつは集団で力を合わせて優位に立つこと。人間は一般的に後者、即ち集団での優位性によって勝ち上がってきた。」


シェンは大山が何を言い始めるのか予見して少し不機嫌になると、


「それで?」


と短く聞き返す。


「周りを頼り巻き込むことは人間社会で生きていく中では有効な手段なのだ。」


ああ、結局この人もそうなのだ、仲間だとか絆だとかそういったもので言いくるめるのだ。


シェンが黙って俯くのを見て大山はこう付け加えた。


「だが仲間だとか絆だとかを口実にして他人から搾取する連中には心底うんざりするだろ?」


シェンは驚いて顔を上げると大山を見つめた。


 俺の心が読めるのか?


大山はシェンから視線を外すと窓の外を見た。


「ある種の人間は、集団に適合しないことがある。」


「ある種の人間とは?」


「考え方や行動が他人と異なり、周りから浮いていているような人間だ。」


シェンは溜息をつくと、


「俺がそういう人間だということですか。」


とぶっきらぼうに言う。


「そうだ。そして私もそんな人間の一人だ。」


「!?」


「そういった人間は、周りを傷つけることもあるだろうし、周りから傷つけられることもあるだろう。だから誰にも迷惑を掛けず、誰からも迷惑を掛けられない、そんな自己完結した生き方をしても良いのだ。そのような選択肢を取ることを誰も責めることはできない。」


シェンは混乱した。


 何を、この人はいったい何を言っているのだ?


大山を見る。


「だから、シェン、君は何も変える必要はない。」


シェンは衝撃を受けた。これまで大人たちは彼に、皆と仲良くしろ、もっと協調性を持てと彼を矯正することばかり言ってきた。しかしこの男は何も変えなくていいと言う。そんなことを言う大人は今まで誰もいなかったのだ。


「あなたは、いったい、、、」


大山はシェンの肩をポンと叩くと、


「私が言いたいのはそれだけだ。」


と言って立ち去る。


呆然と立ち尽くすシェンに、大山は途中で立ち止まり振り返った。


「ところで、シェン、三宅には適当に愛想よくしてやれ。彼女は君から何かを搾取するような人間ではない。」


そう言い残して去っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


次の日からシェンは優子のことを再び観察し始めた。大山が言ったことが気になったからだ。


そしてあることに気付いた。優子は他のメンバーから何も奪っていないのだ。


米村と優子の関係性。それは同じゲーマーとしてのフラットな関係。


辻と優子の関係性。お互いムードメイカー的な役割を自負している。


由川と優子の関係性。この二人の性格は相反するはずなのにすごくしっくりとしている。


どうして自分は今までこのことに気付かなかったのだろうか。


ある日、EFGのクエストを終えると、シェンは優子にこう言った。


「三宅先輩、さっきの回復ヒール助かりました、ありがとうございます。」


シェンのその言葉に他の部員は驚いて彼を見返す。


 シェン君が、おミヤさんを名前で呼んだ!?


優子はそわそわとした感じでシェンを見ると、


「な、なんや、気持ち悪い、変なもん食ったんちゃう?」


と悪態をつく。


「ええ、そうですね、先生が俺に変なものを食わせました。」


大山は後ろで腕を組んで微笑んでいる。


優子は少し恥ずかしそうに俯くと、


「あんな、うち、シェン君に、和皇語うまいんやなって言ったことあったやろ、そんとき、もしかしてシェン君のこと傷つけたんやないか思うて、ずっと気にしてたんや、、、ごめんなさい。」


優子がペコリと頭を下げる。


「あー、あのことなら気にしてないです、こちらこそ今まで無視した感じで接してすみませんでした。」


とシェンが頭を下げる。


「おー、シェン君、優しくなった!」(辻)


「うん、変わった、丸くなった。」(由川)


「雪でも降るんじゃないデスか?」(米村)


と男性陣が言う中、シェンは


「いえ、俺は何も変わっていません、ただ、、、」


窓から覗く五月晴れの空を見てこう言った。


「見える景色が少し変わっただけです。」


スペック:

 シェン: 180cm, 67kg, AB+


次話から本編に戻ります。

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