北央高校科学部
北央高校の入学式から1か月経った頃、放課後の理科室に4人の生徒が集まっていた。
「ネム、まだでけへんの?」
「チョット待って、もうすぐインストール終わル。」
理科室には、生徒達が学習成果をまとめるためのパソコンが6台設置されていた。4人はそれぞれパソコンの前に座って何やらソフトをインストールしていた。
「インストール完了デス。」
「ほな、次うちな。」
米村はパソコンからディスクを取り出すと優子に渡す。自宅でダウンロードしたソフトをディスクメディアに入れて持ってきたのだ。マウスをクリックして先ほどインストールしたソフトを起動する。
<Welcome to the Eternal Fantasy Global>
そんなメッセージと共にオープニングミュージックが流れる。
<ユーザー名とパスワードを設定してください>
「ユーザー名、NEMU。」
パスワードも設定すると、チュートリアルが始まった。
「さすが、最新CPU積んでマスね、描画速度全然早いデス。」
理科室のパソコンは新機種に入れ替えたばかりでメモリも沢山積んでいる。
「うちも、インストール済んだでー。」
そう言って、隣の辻にディスクを渡す。
ソフトのインストールとユーザー登録が終わると、早速パーティを組んで冒険に出かける。
米村:ユーザー名 NEMU:職業 戦士
優子:ユーザー名 OMIYA:職業 回復士
辻 :ユーザー名 EICHAN:職業 騎士
由川:ユーザー名 YOSHI:職業 魔導士
「まずはレベル上げやな。」
4人は初期装備の状態で、マップを動き回り初級モンスターを倒していく。
「おミヤさん、BGMの音、大きくないデスか?」
米村が隣の優子に注意する。
「かまへん、音出さんと気分上がらんやろ。」
そんなやりとりをしている時だった。
「何をしている。」
いきなり、後ろから声を掛けられた。
ビクッと4人が一斉に肩を震わせる。そして恐る恐る、後ろをそーと振り返る。
そこには、数学の教師、大山泰全が、絶望的なまでの威圧感を放ってギロリと4人を睨んでいた。大山はその風貌から生徒たちの間ではヤ〇ザの組長と恐れられており、その人物がいつの間にか背後に立っていたのだ。
「す、す、す、すみませんっっ、今すぐ止めますっっ(汗)」
大山の目の前に座っていた由川が慌ててゲームを終了しようとした。
「待て。」
「え?」
「止める必要はない。そのまま続けなさい。」
「あの、、えっと、、」
大山は、近くのテーブルから椅子を引っ張ってくるとドカっと座る。
「どうした、なぜやらん、続けろと言っている。」
何この状況、、、針のムシロなんですけど、、、
言われるままに続けていいものか、戸惑っていると、
「それは何というゲームだ?」
と大山が質問してきた。
「こ、、これは、エターナル・ファンタジー・グローバルという、、オンラインRPG、、です。」
「RPGとは何だ?」
そこから!?
「えっと、ロールプレイングゲームの略です。プレイヤーがゲーム内のキャラクターになりきって、モンスターを倒したりクエストをクリアしたりして、、成長しながら冒険するみたいな、、そんな感じです。」
「モンスターはどこにいる。」
「マップを、あ、ゲーム内の地理のことをマップというんですけど、、移動していると偶然出くわします。」
「やってみせてくれないか?」
由川は、他の3人の様子を見る。
「どうする? やる?」
「え、ええんちゃう?」
「やりマスか?」
4人は後ろにいる大山にビクビクしながらもゲームを再開した。
大山は彼らのプレイ画面を見て、ほう、と呟きながら、ゲーム内に表示されているHP、AP、 MPなどのステータス値やアイテムボックスの使い方など、いろいろ質問してきた。
しばらくプレイしてこの状況に慣れてくると、辻が思い切って大山に聞いてみた。
「あの、先生、怒らないんですか?」
「なぜだ?」
「だって、学校のパソコンでゲームしてるんですよ?」
「学校の備品は生徒のためにある。生徒である君たちが使って何が悪い。」
「え!?」
「しかし、校長に知れると些か厄介か。」
大山は腕を組むと宙を仰ぐ。
「君たち、部活は何か入っているか?」
「いえ、僕は入っていません。」
辻が他の3人を見ると、3人とも首をフルフルと横に振った。
「ならばこれを部活動にすればいい。ここは理科室だから科学部にしよう。」
「!?」
「私が顧問になる。だが条件が一つある。」
「じょ、条件とは、、、」
「私にこのゲームについてもっと教えなさい。」
その翌日、北央高校に科学部が創設された。部活動の最小人員の4人が揃ったところで、顧問の大山により部員の募集は打ち切られた。活動内容の名目はコンピューターを使った仮想現実シミュレーションの研究であった。
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科学部が活動を開始してしばらく経ったある日の放課後、扉の締め切った理科室の中で白熱した戦闘が繰り広げられていた。
EFGの最初の難関、ダンジョンのラスボスの攻略である。
「次、必殺ブレス来るで、永ちゃん防御!」
「任せて! ウルティメイト・ウォール!!」
騎士が盾を構えた瞬間、ドラゴンが灼熱のブレスを放つ。騎士のHPは、みるみる減っていく。
「うっわ、HPギリギリ、おミヤさん回復お願い!」
「ええで、プリズム・ヒールや!」
僧侶の杖から淡い光が放たれ騎士を包み込む。
「よっしー、頼むわ!」
「わかった!」
魔導士がドラゴンに足止めの魔法を放つ。
「ヴァイオレット・コンファインメント! 」
魔導士の杖から放たれた紫色の光がドラゴンを覆い動きを封じる。
「米村君!」
「行きマス。」
戦士は既に大剣を上段に構えており、その剣身は眩く輝いていた。
「ライトニング・スラッシュ!」
剣から放たれた光の軌道がドラゴンを袈裟懸けに切り裂いた。
残り僅かだったドラゴンのHPがついにゼロになり崩れ落ちる。そしてその身体は虹色の光と共に蒸発していった。
<エルフの森のダンジョン・クリア>
「やったー、クリアできた!」
辻がガッツポーズをする。
後ろで観戦していた大山は大きく頷いた。
「いい連携だったな。」
「先生の攻略メニューのおかげです!」
科学部が発足して最初に大山が出した指令は「全てを記録しろ」というものだった。パソコンに映像記録ソフトを入れてプレイ動画を撮ると、大山はそれを自宅に持ち帰って解析し、次の日には解析結果を伝えるということを繰り返した。
大山の口癖は「こうすればもっと効率的にやれる」であった。実際、クエストをクリアするにはどんな装備が必要で、どれくらい経験値を稼いでレベルアップをしておくか、そして経験値アップのためのマップの巡回ルートはどれが最適かといったことまで詳しくメモして部員たちに渡していた。
大山はまた、数学の論文を持ってきてその原理がどのようにゲームに応用できるかを説明した。米村と由川は興味を持って勉強し数学が好きになっていった。辻と優子は敬遠していたが、それでも論理的な考え方の基礎を学んだおかげで苦手だった理系の科目の成績が良くなっていった。
こうして大山に感化されていった彼らは、自分たちも「効率的」という言葉を日常的に使うようになっていった。そしていつしか周りの生徒たちは科学部のことを「効率厨クラブ」と呼ぶようになったのである。
スペック:
大山:182cm, 74kg, B+
次も過去エピソードです。