第8話Aパート
前回などない!
(前回までのあらすじ)
僕の名前は、みつき。
父ちゃんはギャンブル好きな男だった。2年前、その父ちゃんが突然姿を消した。
そして家族に残されたのは信じられないくらい巨額の借金だった。
借金返済のため、家族を救うため、そして父ちゃんを探すため。
高利貸しの烏龍に言われるまま、僕はギャンブルの世界へと足を踏み入れた。
僕が持ち前の運の良さと引きの強さで3千万ほどを稼いだ頃、都庁の地下で極秘に行われているという闇のカジノからの招待状が届いたのだ。
**第8話「闇のカジノ4人目」**
「勝者、みつきぃ!」
「よし、勝った!」
僕がガッツポーズをすると、相手の男は絶望的な顔をしていた。
場内がざわつく。
「見応えのあるギャンブルだった。」
「あのガキ、3連勝したぞ。」
「次もやるかな?」
彼ら観客は、ギャンブラーのどちらが勝つかを賭けている。
僕が招待されたのはタイマンのギャンブル勝負。1対1で勝負し、勝ち続ければ大金を手にできる。
そして、僕たちが闇のカジノで賭けるのは人生。負ければ人として終わる。
いつの間にか相手の後ろには、2人の屈強な男たちが立っていた。
そして両脇から抱えあげ、連れて行く。
「やめろ、やめてくれ!」
相手は抵抗するが、体格も筋力もレベルが違う。どんなに体を揺らしたり、足を蹴ったりしても、男たちはびくともしない。
「助けてー…」
あっという間に外へと連れて行かれてしまった。
扉がバタンと音を立てて閉まる。すると、場内は再び笑い声に包まれた。
観客の彼らにとっては、これが日常なのだろう。
しかし、みつきにとっては他人事ではない。
(連れて行かれたら、どうなるんだろう。)
マグロ漁船?人身売買?臓器提供?もしかしたら実験対象かもしれない。
少し手が震える。
その時、ここのボスであるBジェイドが偉そうに口を開く。
「おめでとう、みつき君。」
彼は、高台の上のいかにも玉座といった椅子に腰掛け、僕たちを見下ろしている。
「君は3人に勝ち抜いた。これが今の獲得賞金だ。」
Bジェイドが、玉座の隣に置いてあるバカでっかいアタッシュケースを開ける。
中には百万円の束がごっそりと入っていた。
「4億だ。」
観客からもどよめきがあがる。
僕のセコンドについている烏龍が、ゴクリと喉を鳴らす。
闇のカジノでは、1人に勝てば1億円。勝ち続ければ、賞金は倍になっていく。
3人を撃破した僕は4億円の賞金を手にする権利を得たのだ。
「そして!」
Bジェイドがもう一つのアタッシュケースを開く。同じ数の百万円の束。
「次、勝てば8億円だあ!」
Bジェイドが場を盛り上げ、観客達もそれにあわせて歓声を上げる。
烏龍が僕の耳元で囁く。
「ここで止めないよなぁ。借金は6億残ってるぅんだ。次勝てばぁ、完済しても釣りがくるっ!」
僕は「判ってる。」と短く言って頷いた。
Bジェイドがニヤリと笑う。
「みつき君、挑戦しますよね!」
僕も笑って答える。
「当たり前だ。」
「結構、結構。」
Bジェイドはパチパチと拍手をすると、近くに控えていた女の子に「おい、あの女を呼んでこい。」と指示した。
女の子は首輪をはめられ、扇情的な格好をさせられていた。きっとあの子もここで人生を賭け、負けたんだろう。
彼女は力ない返事をして別室に消えていった。
僕の横にボーイが寄ってきた。
彼は契約書を持っていて、僕にサインするようペンを渡す。
今までの3回の戦いの前には必ず契約書を交わした。勝負に勝てば大金がもらえ、負ければ連れていかれるという契約。
僕は迷わず名前を書いた。
「さて、みつき君。次勝てば8億だ。一般サラリーマンの生涯年収の3倍以上。人生3回分の金を手にしたら君はどんな夢を叶えるのかな?」
Bジェイドは僕を見つめる。僕は睨み返す。
「借金を全部返して、父ちゃんを探す!」
「ほほう。行方不明の父親を探すために…、なんという家族愛!素晴らしいじゃないですか?ねえ、皆さん。」
Bジェイドが煽ると、場内のあちこちから拍手が沸き起こる。
烏龍がまた囁く。
「みつき。落ち着けぇ。これはヤツの罠だ。冷静さを失うなよぉ。」
「ありがと。」
烏龍の独特な抑揚の喋り方は、イラついてるときは不快この上ない。
だが、今の僕には気にならない。大丈夫。僕は落ち着いている。
「いやあ、君にはギャンブルの才能があるよ。父親に似たんだろうね。」
やはり、こいつは父ちゃんの事を知っている。今回僕を招待する上で調べたのか…それとも、もともと知っていたのか。
「もし次勝ったら、父ちゃんの事教えてほしい。」
僕はBジェイドに言い放つ。烏龍が慌てる。
彼は腕組をして、少し考える。
「ふむ。本来、賞金以外に副賞はないのですが。良いでしょう。彼の素晴らしい家族愛に心打たれました。私の知る限りのことをお教えしましょう。」
「本当だな。」
「ええ。ただし。」
やっぱり条件を出してきたか。ということは、父ちゃんの情報には価値があるのだろう。
「4回戦の契約はもう済んでしまいました…。ですから、情報提供は5回戦の契約に盛り込みましょう。」
そう来たか…。
僕は次の試合で勝てば借金は完済する。5回戦を受ける必要がない。
しかし、これだけの観客の前での約束だ。4回戦勝てたとしても、次を拒否すればブーイング確実。逃げられないようにされてしまった。
さっきの女の子が戻って来た。
その後ろから、金髪碧眼背の高いスタイル抜群の美女が歩いて来る。袖のない緑の燕尾服のような服を着ているが、服の上からでもわかる胸の大きさ。
烏龍は驚愕していた。
「ヤっバい奴が出てきたぁ。あのおっぱいはぁ闇ディーラーのメイコだ。」
「どうヤバいの?」
僕もささやき声で烏龍に聞く。
「奴はぁ闇カジノ最強だ。何人ものギャンブラーを地獄に送って、ほっとんど負けてないとぉ聞く。」
「ほとんど?1回でも負けたら連れていかれるんじゃないの?」
「Bジェイドにぃ雇われた女だ。みつきたちみたぃな契約をしないんだ。」
なんだ。こいつは人生賭けてないのか。
じゃあ負けるわけにはいかない。
僕の前に、暴力的なおっぱいが立ちはだかる。
「よろしく。」
彼女が両手の手袋を外してボーイに渡すと、手を伸ばしてきた。
僕も手を伸ばし握手をする。やわらかい手だ。
「勝負方法はあなたが決めてください。カードでどうでしょう?」
彼女はブラウスの胸のボタンを外すと、谷間からトランプの箱を取り出した。
嫌な予感がした。
この直感に従って、僕は生き残ってきたのだ。
「トランプはイカサマできるだろ。」
僕は彼女を睨んだ。
烏龍も彼女を睨みながら言う。
「良い判断だぁみつき。前にババ抜きで、一枚もカードをひかずにぃ勝ったのを見たことがある。」
烏龍が言った状況がよくわからない。
闇のカジノでババ抜き?
なんでそんな子供みたいなゲームを。
1枚も引かない?
配った状態で全部ペアが揃ってたとかいうこと?
…ちょっと、烏龍。大事な場面で混乱させんなよ。
「あら、そうですか?じゃあ、ダイスはいかが。」
彼女はその魅惑的な赤い唇に手を当てて、投げキッスをする。すると、その手のひらには大きめのサイコロが2個乗っていた。
袖なしの服に手袋もつけていない。当然口の中に隠すことなんてできない大きさ。どこから出した?
観客からは拍手が巻き起こる。
「サイコロだってトリックできるだろ。あなたとはインチキの可能性のない勝負がしたい。」
やはり、この人はマジシャンだ。どんな手を使ってくるかわからない。できるだけ負ける要素を取り除きたい。
彼女はやれやれとため息を吐いた。
「じゃあ、宝くじでも引きますかあ?」
この様子を見て、Bジェイドが口を挟んできた。
「では、FXでの勝負はどうかな。情報は世界に公開されているし、イカサマはできない。」
…FX?
烏龍に「何それ?」って聞く。
「為替相場のぉ差額を使った取引だよ。乱暴にいうと、株のデイトレードみたぃに、安い時に買って高くなったら売る。これだけだ。」
父ちゃんが株で儲けて、競馬につぎ込んでいるのを見ていたので、デイトレードと競馬は分かる。
父ちゃんはその程度の可愛いギャンブルしかしない人だと思っていた。なのに、億単位の借金を残して消えた。
なぜだ!それを知るためにも絶対に探し出してやる。
メイコの方を見ると、心なしか眉を寄せていた。この勝負は苦手なのか?
いける。
僕は直観に従った。
「それで勝負します。」
「結構。」
Bジェイドの口角が片方だけ上がった…。