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生徒会長の憂鬱  作者: 茅葺クッキー
3/3

缶回収①

登場人物紹介

***********************************************

三浦みうら 荘二郎そうじろう・・・鷹の丘中学校生徒会長

澄水すみず 太一たいち・・・副会長

池表いけおもて 一茂かずしげ・・・副会長

金沢かなざわ 由宇ゆう・・・書記

大崎おおさき 光子みつこ・・・副書記

綿部わたべ 日影ひかげ・・・副書記

田末(たすえ) 砲現三郎之助 ほうげんさぶろうのすけ・・・生活委員長

伊勢島いせしま 武彦たけひこ・・・2年6組学級委員

岸本きしもと 康介こうすけ・・・2年3組学級委員

関伊せきい 裕太ゆうた・・・2年7組学級委員

麒春 猷真(きはる ゆうしん)・・・1年5組学級委員

北野きたの 那津なつ・・・1年6組学級委員

「君はこの鷹の丘中の“生徒会長”なんだろう。だったら数字で結果を出したらどうなんだい?」

ねちっこい口調で話しかけてきたのは三浦の隣のクラスの伊勢島武彦である。

伊勢島は以前から三浦を目の敵としているのか、事あるごとに難癖をつけてくる奴だった。

レスリングの吉田沙保里、大相撲の稀勢の里が引退を表明した1月のことである。


「明らかに目標回収量に届いていないじゃないか。偉そうに“家からアルミ缶を持ってこい”だなんて言ってた割りには自分は成果を全く出してない。これはリーダーとして失格じゃないのかい?」

「ああ。すまなかった」

言いたいことは山ほどあるのだが、こいつとここで口論をしても何も生まれないのを三浦はわかっていた。


伊勢島は三浦の隣、2年6組の学級委員であり、評議委員会2年学年代表でもある。背はそんなに高くないが、体はガッチリしている。学業優秀で教師の前では優等生ぶるのだから、評価評定は欲しいままだ。

その態度から学年の中で彼をよく思わないものもいるが、大多数は去年の生徒総会以来、英雄扱いそのものである。


当然だろう。全校生徒の前で、あの“生徒会長”三浦荘二郎を打ち負かしたのだから。


「あれがあってから生徒会の権威は地に落ちたに同然ですね」


いつしか綿部が言った。当然、ムッと来るのだが誰も言い返せなかった。ほぼ事実だからである。

「まあ、誰のせいでもないですけどね」

綿部はそう付け加えるのを忘れなかった。


伊勢島が学年代表になってからは、特に大きなトラブルもなく時が過ぎていった。


そんな中、事が動いたのは師走の頭、12月の評議委員会でのことだった。


「というわけで、今回アルミ缶回収を行うにあたって1,2年生から5名でアルミ缶回収チームを組織したいと思います。それでは人選を始めてください」


話し合いが始まるやいなや伊勢島が口を開いた。

「今回の主任は岸本くんにまかせてみてはどうだろうか」

2年生の学級委員がざわつき始める。何しろ、学級委員の中で一番存在感のない岸本康介を主任に抜擢しようというのだから。


岸本康介は背丈は普通ぐらいで眼鏡をかけた痩せ型、いかにも「頼りない」と言った感じの男である。

彼のクラス、2年3組では学級委員の立候補者がおらず、彼は半ば強引に押し付けられたとの話を田末から聞いたことがある。普段は消極的なくせに部活のときには後輩に偉そうに指図しているとのことも聞いた。


伊勢島は「副主任は僕がすることにしよう。あと一人、誰かいるか」と続ける。


誰も手を挙げない。しばらく沈黙が続いた。

「あ、俺やりたいんだけど」と関伊がいうと伊勢島は明らかに機嫌を悪くして、

「他にいないか」と呼びかけた。


関伊は三浦のクラス、2年7組の学級委員で三浦の数少ない友人の一人だ。軽い性格で誰とでも中が良い人間である。だが、伊勢島とは合わないようで、伊勢島はいつも関伊に対して嫌味たれている。


未だに誰も手を挙げない。


「誰もいないなら俺で決定だな」といつもの軽い調子で関伊は確認した。


そうして選ばれた岸本、伊勢島、関伊の3人に加え1年から成績学年トップの麒春猷真と北野那津の2人で回収チームは組織された。



「2年ではやっぱり伊勢島さんが目立ってましたね。回収チームの主任になって、また盾突いてくるじゃないですか」

評議委員会終了後、生徒会室で池表が不安そうに言った。

「ああ、伊勢島は主任じゃなくて副主任だ。主任は岸本」と取り敢えず訂正しておいた。

「岸本さん?あの頼りなさそうな人ですか。何でまたあの人なんかが。明らかに仕事できなさそうじゃないですか。伊勢島も伊勢島さんで、何でわざわざ副主任なんかに・・・」

相変わらず歯に衣着せぬ言い方だ。

三浦が答えようとすると、横から澄水が口を挟んできた。

「手柄を自分のものにしたいんだろう」

「でも自分の手柄にするには主任の方が良いんじゃないですか?」

「確かにな。だが伊勢島も今回は失敗の可能性が高いと思ってるんだろう。そもそも冬にアルミ缶が集まるわけがない。だから、失敗しても悪い印象が自分ではなく岸本に向くように主任に推したんじゃないか。逆に成功させたら存在感のない岸本より伊勢島の方が好印象になる。いかにもあいつが考えそうなことだよ。」

澄水は教室の一点を見つめて動かない。何かを悟ったかのようにも見えた。

「なるほど。よくそこまで考えられるもんだな」と池表は唸った。


普段はチャラチャラしている澄水がこのカラクリを見抜いているのは三浦にとって意外だった。

そして、「生徒総会でアルミ缶回収を押し通し、自らの手で成功させたら、まさしく伊勢島は英雄だ。それと相対的に生徒会の評価も下がることになる」と付け加えた。部屋の空気の質量が増える。


「なんでそこまでして生徒会を下げたがるんだろ」

さっきまで黙っていた金沢さんがボソッと言った。確かに、自分の評価はさておき、生徒会の評価を下げるメリットが伊勢島には見当たらない。損得勘定の塊のようなやつだ。ただの気分でやったとは考えにくい。

三浦には理解できなかった。





ちょっと路線変更。

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