04:神憑り的回避能力
レイハルトが歩けるようになってはや1か月。自分の足で歩くようになったレイハルトは情報収集に余念がない。彼らの国であるローズワルト王国やラングハイム公爵領について知ることから始まった。
「めいりー、そのたなみちて」
まだまだ舌ったらずなレイハルト。しゃべりも覚束ない1歳児が文字を読めるとも思っていない大人たちはレイハルトが歴史書や地理書ばかりに興味を示すので、絵本の代わりに、と書庫に足しげく通う彼を“うちの子天才?”温かく見守っていた。
しかし、レイハルトは時に頁を指さしながら内容について尋ねてくるので、もしかして理解しているのでは、とようやく真面目に捉え始めたのだった。いや、初めての子供であったにしろ、普通の子供はこんなに早く理解できないとなぜ気が付かなかったのか。それはひとえに、レイハルトがいつまでも手のかかる可愛い赤ん坊だと思っていたからに過ぎない。我が子の早すぎる成長に、大きな喜びと、少しのさみしさを感じた大人たちであった。
「———っ!!!った!」
この数日後、レイハルトは書庫でこっそり狂喜乱舞した。この世界には魔法があること、現在も多くの人が扱えることが分かったのだ。魔法書などこの書庫には何冊もあるのだが、それらをなぜか神がかり的に避けてきたのでまさか魔法が存在するとは思っていなかった。
もちろん、歴史書には魔法使いが建国したという記載はあった。しかし、現在でも使われているという明確な記載はなく、それに加え趣味が先行して主に地理に関わる書物ばかり読んでいたので、魔法の存在については半信半疑であったのだ。
それがようやく、何の気なしに手に取った本が魔法の指南書を見つけたのだ。逆にここまで気が付かなかった方が奇跡だ。そこらに魔法に関することは書かれているのに、ここまで気が付かないとは。
自分が天然(?)とは露にも思わないまま、ワキワキと手を動かしながらその指南書を開いた。それを見ていたメイリ―は少し引いたとかなんとか。
本を読み始めたは良いものの、手に取ったのは火属性向けへの指南書だった。これではどうにもわからない、とレイハルトはメイリーに属性について尋ねた。
「めいりー、ぞくしぇって?」
「属性について知りたいのですか?お力になりたいのは山々なのですが、私は魔法についての知識は坊ちゃまにお教えできるほどではないのでヨハン様にお聞きしましょうね」
そう言ってメイリ―は家令室にいるであろうヨハンを呼びに行った。
「坊ちゃま、魔法の属性についてお知りになりたいのですか?それでこのヨハンがお教えいたしますので、そちらのテーブルについてくださいね。では失礼しますよ」
そう言ってヨハンはレイハルトを抱き上げ書庫の椅子に座らせた。
「では坊ちゃま、まずは属性についてです」
ヨハンの説明によると魔法の属性には、火・水・土・風・光・闇の基本属性をはじめ、魔力のある人であればだれでも使うことのできる無属性魔法や空間魔法、召喚魔法というものがあるらしい。ちなみに光は治癒系で闇は精神魔法だ。異世界マンガでよくある対立関係などは特にない。
種族によっては得手不得手があり、人族は治癒系、獣人や竜人などの亜人族は肉体強化系、魔人族は精神魔法が得意なようだ。ドラゴンなど魔力の豊富な理性ある魔獣は例外として、一般的な魔獣は耳が良く聞こえたり牙を鋭くするなど環境に応じて異なっている。ちなみにドラゴンには不得手はない。最強だ。
その他、それぞれが得ることのできる属性は基本属性の内2属性からせいぜい3属性が多く、平民では1属性のみということも往々にしてある。4属性以上は王都に片手の数ほどで、そのうち半数は王族で残りは貴族である。
この世界の常識として属性や魔力は上流階級ほど多く、下流ほど少ない傾向があるが、まれに平民でも突出した者が出るので一概には言えない。そのような平民の多くは貴族に養子として迎えられるのだが、誰がどこに、というのは普通知り得ない。
しかし、ヨハンはあの子爵家の次男はどうとか伯爵家の3女がどうとか、なぜか詳しく話しているのはどうしてだろうか。この国の事情はよく分からないがヨハンの得体が知れない恐怖におびえるレイハルトであった。
……とまぁ途中いろいろあったが、それも含めてレイハルトはヨハンの話を終始目をキラッキラさせながら聞いていた。それはそうだろう。誰しも一度は憧れる世界が現実のものとなっているのだから。
「よはん、ぼくのぞくせいや、まりょくいつわかりゅ?」
レイハルトは少し興奮気味に尋ねた。
「この国では一年に一度、王都でその年に五つになる子供を集めて魔力や属性をはかります。平民は各々の街の教会ではかりますが、貴族は必ず王都へ赴き、国王陛下のもとで検査をする決まりになっております。ですから、レイ坊ちゃまはあと三年ほどですね」
「——っ!?」
「その後六歳から学校が始まるので、魔法を学ぶのは学校が始まってからが一般的です。」
それを聞いたレイハルトはショックを受けた。ここに魔法の本があるのに、自分にも魔力があるはずなのに、六歳までお預けなんてありえない!と。どうにかして早く魔法を学ぶ方法はないか、すがるような面持ちでヨハンを見上げた。
「一般的には学校で学ぶのが基本ですが、貴族などは家庭教師をつけて先に学ぶこともあります。坊ちゃま、それほど魔法を学びたいのでしたら、この不肖ヨハンが坊ちゃまにお教えいたしましょう!では坊ちゃま、さっそく旦那様へ許可をいただきに行きましょう!さぁ!」
そう言うとヨハンはレイハルトを抱えさっそうと書庫をでた。なぜかレイハルトよりテンション高めなヨハンであった。