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03:歩くって大変

 あれから1年。ようやく今日レイハルトは歩き始めた。自分では何もすることができなかったレイハルトにとって、この1年はとても長く感じられた。もちろん、いまだにミーアのパフパフはいただいているが、自分の意志で、自分の足で行動できるようになったのは大きなことだった。


——これまで何もできなかった僕じゃない。これからは自分の足で立つんだ!


 なんて馬鹿なことは置いておいて、歩けるようになったレイハルトはさっそく両親のもとへ向かった。フェリクスとミーアはレイハルトが歩けるようになったことを知らない。レイハルトは二人を驚かせたい一心で歩いていた。


——うんしょ、うんしょ、テテテっ


 やはり小さな子供にはまだまっすぐ歩くのは難しいらしい。つい昨日まではつかまり立ちだったのだから当たり前ではあるが、赤ん坊の筋肉には負担が大き過ぎるのだろう。

 それでもレイハルトは両親のいるサンルームへ懸命に歩いた。後ろでメイリ―が心配そうに見ているのはレイハルトにもわかっていた。彼女に抱っこしてもらった方が楽だし早いのもわかっていたが、自分の力で歩きたかった。


 レイハルトはまだ1歳半にもならないが、今まで大切に育ててくれたフェリクスとミーアにこの姿を見せたかった。レイハルトが生まれてからというものの、両親の溺愛ぶりにはあきれるほどで、ちょっと控えてほしいと思ったほどだったが、自分をとても愛してくれているのが伝わってきて本当に嬉しかったのだ。


 前世の記憶はあるが、いや、記憶があるからこそ悲しくもあり、寂しくもあった自分をこんなにも大切にしてくれた両親。絶対に喜んでくれる。そう思いながらレイハルトは時折よたよたとふらつきながらも懸命に歩いたのだった。


「っしょ、んっしょっ」


 メイリーが後ろで手を出そうとしている気配がした。


「めいりー、て、めっ!」


 手助けを拒まれたメイリ―は息を止めながらレイハルトを見守っている。息はしても良いだろうに、なんで呼吸しないのか。心配のし過ぎでよくわからなくなっているメイリ―だった。


 レイハルトはやっとの思いでサンルームの扉の前にたどり着き、ドアをノックした。


「とうさま、かあさま、れいはるとです」


 今日のために言葉も一生懸命練習した。この世界の言葉はなぜか理解できるが赤ん坊には発音が難しく、どうしても舌ったらずになってしまうのだ。レイハルトはなんとなく恥ずかしかったので誰にも聞かれないようにこっそりと練習したのだが、しっかり言えている。練習した甲斐があったというものだ。


「旦那様、奥様、レイ坊ちゃまを中にお連れしてよろしいでしょうか」


 話すのも練習が必要なほどなので長文の話せないレイハルトに代わってメイリ―が訪ねた。


「もちろん。おいで」


 中からフェリクスの声がすると、メイリ―は扉を開けた。


「とうさま、かあさま!」


 やっとたどり着いた喜びからか、レイハルトはいつもより大きな声で呼びかけ、二人に向かって歩き始めた。


「レイ!」


 突然自分の足で歩き始めたレイハルトに驚いたフェリクスとミーアは、あわててレイハルトに駆け寄ろうとした。


「とおさま、かあさま、きちゃ、め!です!」


 二人が自分に駆け寄ろうとしたことに気が付いたレイハルトはそれを制止して、また自分の足で歩き始めた。当然、フェリクスとミーアは心配で仕方がなかったが制止されてしまったため動くことはできない。二人はハラハラする思いで見守った。


「とおさま、かあさま!」


 レイハルトが二人のもとにたどり着き、やり切った顔で二人を見上げた。それをみたミーアは我が子のその初めての姿に涙を堪え切れず、顔をくしゃくしゃにしながらレイハルトを抱きしめた。そしてフェリクスはこみ上げる思いを必死で押しとどめ、二人を抱きしめたのだった。


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