02:ミルクサーバー
「おはようございますレイ様。今日も大変麗しゅうございます。どうしてレイ様は毎日お可愛らしいのでしょうか。このメイリー今日も今日とて坊ちゃまに誠心誠意尽くしますわ!さぁ、奥様のところへ行きましょうね」
レイハルトの一日はDカップメイドさんに抱っこされることから始まる。このDカップメイドもといメイリーも例にもれず彼にに首ったけだ。レイハルトが生まれてから5か月経つが、よく飽きずに褒めている。話している本人は何とも思っていないのだろうが、褒められている本人身にもなってほしいと褒められる度思っている。照れを通り越して無になりそうだ。
「レイ、おはよう。今日も可愛いわね!日に日に可愛くなっていくあなたは私の自慢よ!さぁ、ご飯にしましょうね」
レイハルトがうんうん唸りながら考えていたらいつの間にかミーアの部屋に着いていた。ソファから立ったミーアがレイハルトを抱きご飯の催促をしてくる。普通催促するのはご飯をもらう側のはずだが。
そしてレイハルトはご飯を飲む。飲む。赤ん坊のご飯は母のおっぱいだから飲む。今となってはこうしてゆっくり飲むことができるが、最初は大変だった。なんと言っても前世のレイハルトは引きこもり童貞だ。恋人もおらずもちろんセッ…せ…ゴホン、女性とのあれやこれやなど経験したことがないため目の前のパフパフには意識が飛びそうになっていた。加えてミーアのパフパフはF。Fなんてものはマンガでしか見たことがないレベル(そもそも他人のは男と母親のものしか見たことはない)なので、それはそれはガン見しながら意識を飛ばしていた。
それが今や何も感じない。強いて言えば大事な栄養源を供給してくれるミルクサーバーといったところだろうか。こんな言い方は完全に嫌な奴だが、レイハルトにとって大事なパフパフなのである。
「レイ、たくさん飲んで大きくなるのよ」
「あ~う~」
——ありがとう母様。僕は大きくなれるように頑張ります。ま、今はミルクを飲んで寝てお漏らしすることしかできないんだけど。あと1年は母様の大事なミルクをいただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
「んもうっ、レイが可愛すぎるぅ~!」
——母様、ほっぺスリスリやめて下さい。そろそろ僕のマシュマロ肌が……
と、まぁここまでそんなことばかりしているが、何もできないながらも両親や執事、使用人たちの会話を聞いたり、それぞれが家のいろいろなところに連れて回るのでそれなりに情報収集していた。
それで分かったのは、この家は公爵家だということ、また、自身がその長男であることだった。
お金持ちだとは思っていたがまさか公爵家だとは思っていなかったレイハルトはそれを知ったときとても驚いた。しかも自分が嫡男だとは。自分は上手くやっていけるのだろうか、今から心配で胃が痛くなりそうなレイハルトだった。
しかし、そんな心配ばかりしていても仕方がない。フェリクスやミーア、ラングハイム家の使用人たちがレイハルトを全力で支えていくだろう(何回も熱弁されている)。レイハルトには気楽にやって欲しいものだ。まだパフパフしかできないのだが。
「レイ、レイは母様のこと好き?」
そんなの当たり前です。
「あいっ!」
そう答えるとミーアはバックに花が舞っているのが見えそうなほど満面の笑みになった。毎日フェリクスにも同じことを聞かれているが、今のミーアと同じ反応をする。動かない口を駆使して返事のし甲斐があるというものだ。そんなことでこんなに喜んでくれるならいくらでも答える!とレイハルトは恥ずかしいので口には出さないがいつも思っている。
「私も大好きよ!もう少しレイが大きくなったらみんなに自慢しなきゃね!」
——母様、僕は基本的に引きこもり体質なのでそればかりは避けたいです。なるべく人とは距離を置いてゆっくり過ごしたいのです。どうか、察してください。
そう思いながらも現状ではできそうもなく、レイハルトため息をついた。