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6、カオーリンの生まれた土を採取する

 大地母神(だいちぼしん)に胴体をつかまれたファティマが両手を振りあげてあらがうが、大地の神にはまるで効果がない。体から黒い煙をあげてくすぶるだけだ。


『おやめなさい。どんなに抵抗しても無駄ですよ』


 大地母神が優しくファティマをさとした。


「あたしは自分の子供をこいつに射殺されたんだよ」


 20メートルの高みから、ランドに指を突きつけてくる。


『あなたの赤んぼうはたわむれに〈癒しの森〉に火をつけました。ここにいる人間は、火もとがあなたの子供とは知らず、森林火災をふせごうとしたんですよ』


「だから、どうした。あたしの子供が殺された事実に変わりないじゃないか」


『かわいそうなことをしました。母親の心ちゅうは察します』


「だったら、あたしがこいつらに復讐したい気持ちだってわかるだろ。ちくしょう、あたしにもっと火力があったら、この森ごと焼きつくしてやるのに」


 ファティマが両手で、自分をつかむ神のこぶしを叩く。


『お聞きなさい。強すぎる火はなにも生みだしません。どれほど大きく燃えひろがろうと、そのあとに残るのは灰とすすだけです』


「大地の全てをすべる大地母神よ」


 ランドのかたわらに、カランが長身をそびやかした。


「わたしは大地の大精霊使いであり、世界最高の治癒師(ヒーラー)、カラン・セシル・ヴァ―ルです。あなたの忠実なしもべであるわたしの呼びかけに応え、その偉大なる姿をお見せくださり、光栄しごくにございます」


 ――カランの声に応えたわけじゃないだろう。


 ランドはそう思ったが、ここはあげあしをとらないことにした。


「わたしたちがあなたのもとに参上したのは、あなたの子であるカオーリンの生まれた土のありかをたずねるためです」


『それを教えるわけにはいきません。大地の精の掟ですから』


 大地母神の意志にゆるぎはなさそうだ。


 カランも引かない。


「わたしは、ヒルチャーチのエセル・ド・ライト伯爵に雇われました」


 カオーリンには、伯爵の子息とのあいだにエルザという娘がいる。エルザは〈冬枯れ病〉にかかっていて、それを癒すのがカランの役目だ。そのためには彼女の母親の出生土(しゅっしょうど)が必要だと説明した。


『カオーリンは、自分の生まれた場所をあなたに教えなかったんですね』


「それは無理な話です。カオーリンが自分の生まれた土地で土に還ったのは2年前ですから」


『そのカオーリンには、かりそめの命を与えて娘のもとに向かわせましたよ』


 なんだって? ランドとチビット、ゴーラは顔を見あわせた。


 自分の生まれた土地に戻ったカオーリンは、そこに身をしずめて土に還った。それから2年近くがたち、エルザが〈冬枯れ病〉にかかったと大地母神から知らされた。カオーリンは娘の余命をたずねた。


 それはわからないと大地の神は答えたという。


 なぜですか、とカオーリンが反問した。


 大地の精が〈冬枯れ病〉におかされると、その病によって枯らされた生命が大地に還るときを、わたしたちに教えるではないかと。


 大地の精と人間とは違います、と大地母神は答えた。


『わたしが大地の精の寿命を知らせられるのは、あなたたちがみずからの運命を変えられないからです。人間は自分の運命を切りひらいていける種族です。エルザの体には人間の血が半分流れています』


 エルザが病気を克服できる可能性を知ったカオーリンは、病と戦う娘を助けるため、エルザのもとに戻りたいと懇願した。


『かりそめの命は1か月、それも一度きりです。その期限がくれば、あなたは自分の娘とまた別れなければなりませんよ』


 大地の精と違い、エルザには未来の可能性がある。娘は人間として生きてもらいたい。母との別れをのりこえて、これからのすばらしい人生を生きてほしい。


 カオーリンはそう願い、1か月のかりそめの命をさずかったという。


「では、エルザを看病していた女性は本当に彼女の母親だったんですね」


 ランドは勢いこんで大地母神に確認した。


「じゃあどうして、カオーリンは自分が本物だって名のりでなかったのかしら」


 チビットが疑問を口にした。


 ランドはカオーリンの気持ちを推しはかる。


 母親の名のりをあげてエルザをよろこばせたところで、1か月後には別れなければならない。再びエルザを悲しませる結果になるのだ。


 エルザに、あなたは自分の母親じゃないと言われたときの、カオーリンの悲しみと苦しみの入りまざった表情の意味を、ランドはいま理解した。


 カオーリンは、エルザの命を救うのに自分の出生土が必要だとわかっても、その産地を言いだせなかった。それは掟だからだけではないだろう。言えば、本当の母親だとわかってしまうからだ。


 カオーリンが、大地母神をたずねるランドの一行を黙って見送ったのは――。


『カオーリンは、わたしの口から自分の生まれた場所を話してもらいたかったのでしょう。そういう事情なら、カオーリンの出生土のありかを教えましょう』


 大地母神が認めてくれた。


 ランドは、巨大な手の高みにおとなしくもたれるファティマに気づいた。大地の神の圧倒的な力にもはや抵抗をあきらめたのだろう。


 大地母神が身をかがめて、ファティマを地面に降ろした。


『さあ、お帰りさない。あなたはいま身ごもっていますね』


 ファティマがふりあおぐ。


『その子を産みおとす火床にするため〈癒しの森〉を燃やそうと考えてはいけませんよ。この森のすべての木々があなたの行ないを見張っています。出産に必要な火力は薪でじゅうぶんに起こせるはずです』


 ファティマは応えず、ぷいっと顔をそむけて立ちさった。


 2か月半前の、ランドが勤めていた森の火災は、ファティマの出産で生じたものらしい。ランドが射殺した赤んぼうは、そのとき生まれた子だろうか。では、ファティマが呼んでいたファランクとは何者なのか。


 くすぶる火種は、また燃えあがる可能性がありそうだ。


 大地母神から、カオーリンの出生土の産地を教わった一行は、〈癒しの森〉をあとにしようとする。ゴーラだけが名残おしそうだ。


「本当に、おいらのおっかさんなんだなあ」


 自分の母親の巨体をあこがれの目でつくづく見上げている。


「行くよ、このマザコン。日が暮れちゃうじゃないか」


 つるつるに磨かれたゴーラの頭の上から、チビットが文句をつける。


 体をかがめた大地母神の大きな手のひらが下りてくる。おおいかぶさる巨大な影から、チビットがぱっと飛びたった。


 大地母神の手がかかり、ゴーラがずぶりと足首まで地面にしずんだ。息子の頭をやさしくなでているつもりだろうが、力加減が難しいらしく、ゴーラの体がガクガク揺さぶられている。


 おもむろに大地母神の巨大な手が、ゴーラの頭部を離れていった。そこに、ぽっと白く可憐な1輪の花が咲いた。


 ゴーラが甘えきった表情で、地面に足をうずめている。ゴーラはまだ3歳だったのをランドは思いだした。甘えたいさかりなのだろう。


 大地の神は、あらわれたのとは逆に地中にしずんでいった。


 森の入り口に、焦げたウッドマンの残骸が転がっていた。森林火災はふせいだが、彼の宿り木だった火もとのカシは燃えつきた。ウッドマンが自分の宿り木を教えたがらなかった理由がこれでわかった。


 〈癒しの森〉を出た一行は、曲がりくねった林道を通って主街道に出た。その晩は、そこから一番近い宿駅に泊まった。


 カオーリンが生まれたのは、ヒルチャーチに戻る道すじの、岩山のふもとの湖畔だと教わっていた。あくる早朝に宿をたつと、目的の湖に向かう途中の村で、シャベルと麻袋を購入した。


 カオーリンの生まれた場所には昼前に着いた。岩山と草原にかこまれた湖では、湖面に反射した陽射しがきらめいている。


 岩場と接する湖畔の、ゆらめく水を透かして、白っぽい土の鉱床が見つかった。ランドは湖にひざまでつかり、カオーリンの出生土を湖底からすくいとる。水をあまり吸収しない、しっとり粘りけのある白い土だった。


 求める土は湖の底にあった。洞窟や岩場を探しまわったサンロランの目にふれなかったわけだ。月明かりの湖面から、女性の白い姿態が立ちあがる。そんな光景を思いえがき、ランドは幻想的な気分になった。


 ランドとゴーラは湖の鉱床を掘り、用意した麻袋に白土をつめにかかった。カランは、出生土の採掘は報酬にふくまれないと手伝わなかった。


 これでエルザの病気を治してくれればいいけれど――。ランドはちらりと、涼しげな表情で見物するカランを見やった。


 30キロより多めにつめた麻袋をゴーラにかついでもらった。袋から水がしたたっている。屋敷に戻るころには、水気は切れているだろう。

 

 エセル伯爵邸に帰還したのは、同じ日の日没近くだった。屋敷のポーチのまわりには50人くらいの人だかりができていた。ヒルチャーチの20代の男を中心に集まっていて、ものものしい雰囲気だ。


「どうしました? なにがあったんですか」


 ランドは人垣に割ってはいってたずねた。


 人びとの不安そうな視線がランドに集まる。その向こうの玄関口には、険しい顔つきのエセル伯爵、それにカオーリンとサンロランもいる。


「なにがありましたか」ランドは伯爵にきく。「必要な土は採取できました。できるだけ早く、お嬢さんの治療にかかりましょう」


「そのエルザなんだが、行方がわからなくなってしまったんだ」


 打ちあけて、エセル伯爵が唇をかたく引きむすんだ。


 エルザがいつ屋敷を出たかはわからないらしい。カオーリンによると、エルザは昼食のあと寝室に鍵を下ろしてずっと閉じこもっていたという。


 夕食の時間が近づき、カオーリンは寝室のドアを叩いた。エルザの返事はなく、鍵はかかったままだった。カオーリンは中庭から2階のベランダに上がった。そちら側のドアは開いていた。


 エルザのベッドには、もぐりこんで寝ているらしく掛け布団がもりあがっていた。不審をおぼえたカオーリンが布団をはぐると、


「丸めた衣服がつめられていて、エルザの姿はありませんでした」


 カオーリンが唇をわななかせて言った。


 すると、エルザは自分の意志で家人の目をあざむき屋敷を出た。自分の目的を知られると、誰も許してくれないと考えたからだろう。


「まずは森を捜索しようとヒルチャーチの住人に集まってもらったんだが――」


 エセル伯爵が言って、顔をしかめる。


 森に出没するゾンビの噂にためらっているらしい。伯爵は、ランドたちによって退治されたと話したが、それでも人びとの不安はぬぐえなかったようだ。


「『生きる屍(アンデット)』はもとの遺体に戻りました。それは寺院の地下に安置してあるので、墓に戻してとむらってあげてください」


 エルザが森で迷っているとは限りません、とランドは続ける。


「やみくもに探すのはやめましょう。エルザの行き先に心あたりはありませんか」


 たずねて、ランドはポーチに集まった人を見わたした。


 捜索隊にあてがあるはずもなく。顔を見交わしあうばかりだ。エセル伯爵とカオーリンもむなしく首を横にふる。するとサンロランのあわれっぽい目に、不安と後悔の色をランドは見た。


 〈冬枯れ病〉を治して2年ぶりに屋敷に戻ってきたカオーリンが、エセル伯爵の雇ったにせものだったと聞き、エルザは大きなショックを受けた。そんなエルザが屋敷を抜けだした目的はなにか。


 ランドと目があったサンロランが、視線を足もとに落とした。


「あなたはエルザさんに教えましたね。カオーリンさんが出生土に還るときがきたのを知り、自分の生まれた地に戻っていったことを」


 サンロランが、首をがくがくさせてうなずいた。


「にせもののカオーリンだと知られてしまった以上、事実を教えたほうがいいと考えたんです。カオーリンの出生土のありかがわかれば、わたしの〈生命の球(ライフボール)〉で妻をよみがえらせると娘に話しました」


「まだ、そんなたわけた研究を続けるつもりか」


 エセル伯爵が一喝した。


「それよりも」ランドはカオーリンに強い視線を向ける。


「あなたの娘さんは、あなたを探しに出かけたんですよ」


 エセル伯爵とサンロランが――なにを言ってるんだ? と問いたげな視線を向けてくる。無理もない。2人は本当の事情を知らないのだ。


 ランドは大地母神から聞いた話を打ちあけた。


「カオーリン」サンロランが悲鳴に似た声をあげた。


 どうして本当のことを言ってくれなかったんだ、と最愛の妻の腰にすがりつく。足もとにひざをさいて、おいおい泣きだした。


 夫の震える背中にカオーリンが手をそえる。


「ごめんなさい。お父さまには、わたしはカオーリンの双子の妹だと嘘をつきました。本人だと打ちあけたところで、1か月がたてば再び土に還る運命です。なんども悲しませるのが心苦しかったんです」


 しかし、カオーリンに再会したエルザがあまりによろこぶものだから、エルザの叔母だと嘘をつけなくなった。エセル伯爵からも、母親のふりをしてくれと頼まれ、エルザの看護人として雇われた。


「伯爵から看護の前金をいただきましたが、わたしには無意味なお金です。それはエルザの将来のために残していくつもりでした」


「すべての事情はわかりました。森を捜索する必要はありません」


 ランドは捜索隊に向きなおった。


「それでは、きみにはエルザを見つけるあてはあるのかね」


 エセル伯爵がランドにきいた。


「エルザさんは、自分の母親がその出生土の産地に帰ったと父親から聞かされました。彼女にはその場所に心あたりがあったはずです。なんのあてもなく、屋敷を抜けだしたとは思えませんから」


 抱きあうカオーリンとサンロランに、ランドは問いかけの視線を向けた。


「そういえば」カオーリンがなにか思いあたったようだ。


「エルザの6歳の誕生日に、屋敷の供をつれて馬車でピクニックに行きました。その目的地に、ひそかにわたしの生まれた土地を選んだんです」


「そうなのか」サンロランが驚きの目を向けた。


「あなたは地質調査の旅で留守にしていました」


 カオーリンは、自分の出生土の産地を誰にも明かしてはならない掟にしばられながらも、エルザにその鉱床を見せたい気持ちもあった。


「エルザにそうとは言わず、自分の生まれた湖のほとりに座ってランチを楽しみました。そのとき湖底からすくいとった土をエルザは思い出したんでしょう」


 あなたは娘さんに、とランドはサンロランに向きなおる。


「カオーリンさんの出生土を見せたことがありますか」


 サンロランが、その産地を見つけるさいのサンプルとして、妻の形見の土を持ちあるいていたのをランドは知っていた。


「何度かあります。これがそうです」


 サンロランがふところの革袋から、白っぽい土のかたまりを取りだした。


 エルザは、かつて湖で母親に見せられた土と、母親の形見の土との類似から、カオーリンの生まれた場所の見当をつけたのだろう。


「じゃあエルザちゃんは、母親の生まれた場所を探しに出かけたのね」


 ゴーラの頭上からチビットが言った。


「おいらたちはあの湖で行きちがっていたかもしれないんだな」


 ゴーラがたまげたような声をあげた。


「いや、エルザが2年前にピクニックに行った場所に、1人のおさない足でたどりつけたとは思えない。それに彼女は病気なんだ」


 ランドは、エルザは子供の発想でどう考えただろうかと思案する。


 ピクニックに行くのに利用した馬車を思いついたのではないか。行き先については、宿駅でたずねればなんとかなると考えたかもしれない。駅馬車を利用するなら、1・6キロあたり1シルバー必要だ。


 カオーリンさん、とランドは質問を向ける。


「あなたはエルザさんの看護料の前金を、娘のために残していくと言いました。その金はどこに保管してあるんですか。それを娘さんは見つけたかもしれない」


「エルザの寝室の戸棚のなかです。わからないように隠しておいたんですよ」


「子供は隠しものを見つける天才です」


 ランドは、カオーリンにその金がまだ戸棚にあるか確認するように言った。


 カオーリンが足早に屋敷の奥に消えると、こんどはエセル伯爵に向きなおり、看護の前金として渡した金額をたずねた。


「50ゴールドだ。過分な代金だが、特別な役割のぶん色をつけた」


 エセル伯爵は、カオーリンの妹に、姉のふりをたのんだと思いこんでいた。その看護料には口止め料もふくめていたに違いない。


 50ゴールドあれば、主街道のどこまでだって駅馬車は運んでくれる。


 カオーリンが玄関ポーチに戻ってきた。金貨はなかったという。


 ランドは自分の推測に自信をもった。エルザが駅馬車を利用して、2年前にピクニックに行った場所に向かおうとした可能性をみんなに話した。


 エセル伯爵は納得していない。


「体の加減が悪そうな8歳の少女の1人旅だぞ。いくら大金をもっていたって、宿駅の主人が馬車を手配するとは思えない。不審をおぼえるはずだ。エルザについて宿駅からなんの問い合わせもないんだぞ」


 伯爵の疑問はもっともだ。それでも――。


「エルザがヒルチャーチに近い宿駅に向かった可能性が一番高いんです。そこからのエルザの足取りは、その宿駅でたずねてみましょう」


 自分で確かめてくる、とランドはエセル伯爵に早馬の拝借をたのんだ。


「エルザは宿駅で保護されているかもしれないし、主街道を歩いているかもしれない。宿駅でエルザの行方がわからなかったら、こんどはここに集まっているみんなで街道を探しましょう」


 捜索隊にはいったん屋敷にとどまってもらい、ランドは厩舎に向かった。


 エセル伯爵邸を出発したランドは、日没間近の月明かりの林道を馬の速足で駆る。エルザの宿駅までの足取りは間違いないはずだ。そこからどうなったか。エルザは大金を持ちあるいている――。


 ランドは嫌な予感を頭から振りはらい、一心に馬を走らせた。


 宿駅は店じまいをしているところだった。ランドは宿の中庭に飛びこむと、厩番に手綱をわたし、宿の主人を呼んでもらった。もう閉店だとしぶる番人にエセル伯爵の使者だと告げると、すぐに対応した。


 夜分に何事かと2階から降りてきた主人に、ランドは質問した。


「エルザお嬢さまでしたら、3時の鐘が鳴るころお見えになりましたよ。粘土を焼いて作った人形を手にしていましたっけ」


 いまから3時間前だ。ランドは主人に先をうながした。


「見るからにお加減の悪いご様子で、大きな都市の医者にみてもらうという話でした。ずいぶん大金を持っていらっしゃいましたよ。病院に行くなら早いにこしたことはない、とさっそく駅馬車を都合しました」


「乗車賃があるからって、8歳の少女を1人で駅馬車に乗せたんですか」


 ランドは思わず強い口調になった。


「とんでもない。お嬢さまにはお供がありましたよ。あなたと同じ年ごろの、燃えるような赤毛の大男です。お嬢さまは、そのお供をファランクと呼んでいました」


 ――ファランクだって。


 大地母神の手のなかで、ファティマが呼んでいた名前だ。



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