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3、さびれた墓地に死体はよみがえる

 寺院のわきにそびえるクスノキの影が、夜更けの雨にうたれている。ごろごろと鳴る漆黒の夜空に、ときおり白い稲光がはしる。


 どん、と雷鳴がとどろき、稲妻がクスノキのシルエットをまっぷたつにひき裂いた。寺院の前に広がる墓地が白く照らしだされる。


 ざーっと雨の音が戻ってきた。


 クスノキの根もとが燃えあがっていた。ふたつに裂けた幹を火が伝わり、大きくしげる枝葉に燃え広がって、巨木は炎のかたまりとなった。ふりそそぐ雨を蒸気にかえて、クスノキは燃えつづける。


 燃えさかる根もとから、やおら女の影が立ちあがった。


 その一糸まとわぬ肢体は成熟した女性のそれで、赤い髪をくるぶしまでたらしている。周囲のすさまじい熱気にもかかわらず、女は両手で裸身を抱いて震える。


「おお、寒い。われの生まれし場所は、なんて寒いんだろう」


 そのとき、女は自分の腹がふくらんでいるのに気づいたらしい。腹部に両手をあてる女の顔に、母親らしい慈しみの表情があらわれる。


「われの子も震えている。おまえが生まれるときは、こんな寒い思いはさせないよ。おまえにふさわしい火床をつくってあげるからね。そうして強くたくましい子に育つんだよ。そのためには――」


 赤い髪をひるがえし、夜空をまっ赤にそめる巨大な火柱をふりあおぐ。


「こんな火力じゃ足りないねえ。もっと、たくさんの木を燃やしつくさないと」


 女の長い髪が燃えあがり、炎の翼のように左右に大きく広がった。


                  *


 ランドとチビット、ゴーラの一行がエセル伯爵邸を出発したのは、寺院のある森の樹々のふちに夕日がかかりだしたころだった。


 林道のなかばから分岐する道に曲がり、森のなかに入る。うっそうと生いしげる枝葉が頭上をおおい、夜更けのような暗さだ。チビットが〈魔法の光(ライト)〉をともし、一行は下生えの多い道を進んだ。


 ほどなく木立が切れて、ヒルチャーチの旧共同墓地に出た。


 宵闇のなかに、四角く平たい無数の墓石が灰色にうかびあがる。墓地の向こうには、さびれた古い寺院がたたずむ。サンロランはこの廃墟にこもり、エセル伯爵の怒りにふれた研究をしていたのだ。


 ランドは、墓石の群れのあいだを寺院に向かう。墓地のあちこちでは、土が掘りかえされたり、墓石が引っくりかえされたりしていた。墓泥棒の荒らしたあとが、そのまま放置されているのだろう。


 目的の寺院の、たくさんの柱に支えられた大きな三角屋根の下に、その屋根よりひとまわり小さい礼拝堂が造られていた。寺院の横には、裂けて黒こげになった巨木の燃えのこりがあった。


 玄関ポーチの柱に、サーコート姿の兵士がもたれかかっている。出入口のドアは破壊され、その残骸が兵士の足もとに転がっている。


 ランドは弓を手に用心深く兵士に近づいた。ぷん、と鼻をつく悪臭がした。死後、何日かたっているようだ。兵士のサーコートをあらためたランドは、はっとなった。そこには〈獅子と盾〉の紋章が染めぬかれていた。


 やにわに兵士の顔がもちあがった。その口がくわっと開かれ、片方の眼球がこぼれ落ちる。抜刀した兵士が襲いかかってきた。


 ランドはとっさに後方にとびのきながら矢筒に手をのばす。すぐさま矢をつがえ、兵士の心臓をねらって射た。


 向かってきた兵士の胸に矢が突きたち、その動きが止まる。がくんと膝をついた兵士が、大地にゆっくり倒れふしていった。


 ランドは、仕とめた兵士にじっと視線をそそいだ。


 〈獅子と盾〉はハイランド王国の紋章だ。ハイランドの兵士がどうしてここで死んでいるのか。しかも〈生きる屍(アンデット)〉となって――。


 兵士の体がびくんと動いた。おもむろに起き上がろうとしている。


「この死にぞこないはゾンビよ。いっきに大きなダメージをあたえないと、しつこく何度でもよみがえってくるわ」


 チビットが注意をうながした。


 起き上がった兵士の顔面に、ランドは矢を放った。


 眉間に矢を突きたてられた兵士の体がのけぞり、ポーチの石畳にあおむけに倒れた。そこに飛びだしたゴーラのウォーハンマーが、兵士の頭部を粉砕した。


 つぎの矢をつがえたランドは、弓矢を構えてしばらく待った。


 頭をうしなった兵士は、こんどはぴくりとも動かなかった。どうやら生きの根を止めたようだ。ランドは、安堵の息をはきだした。


「ソンビは何体もいるという話だ。弓矢に〈増強魔法(エンチャント)〉をかけておこう。通常の武器でも有効だったけれど、できれば一発で仕とめたいからね」


 ランドはチビットに提案し、弓矢とウォーハンマーに魔法をかけてもらった。


 ごとり、と小さな音が響いた。


 薄闇にうかぶ無数の墓石の、手前のひとつが倒れていた。その土中から片腕が突きだされている。地面をかきわけて腐った体が這いだしてきた。


 墓地のあちこちでも、人影がゆらりゆらり立ち上がりだした。そいつらは体をゆらし、おぼつかない足どりで、ランドのほうに向かってくる。


 月明かりのなかに姿をさらしたそれは、あるものは片手をうしない、あるものは足をひきずり、あるものは首がねじれている。子供も、大人もいるが、男女の区別は判然としない。ほとんどが腐りかけていた。


 墓が掘りかえされていたのは、墓泥棒の仕業ではなさそうだ。そこに埋められた張本人が墓石をどけたに違いない、とランドは確信した。


 ぞろぞろ迫りくるゾンビは30体近くいそうだ。この共同墓地にはもっと亡がらがうまっているはずだが、そのほとんどは白骨化している。いまよみがえったのは、3か月前の疫病で亡くなった人の遺体だろう。


 いずれにしろ、相手にするには数が多すぎる。しかも、一度に致命傷をあたえないと何度でもよみがえってくるのだ。


「いったん、寺院に避難しよう。その戸口で待ちかまえて1体ずつ始末するんだ」


 ランドは、兵士の死体をとびこえて礼拝堂の出入り口にとびこんだ。


 たてに長い礼拝堂の、2列に並んだ柱の先に祭壇がある。壁の燭台に照らされたその周囲にも、6つの人影がみとめられた。


 1体の武装した兵士と4体のゾンビ、そしてもう1人が、祭壇の手前に置かれた大きな水槽をのぞきこんでいる。あの男は――?


 水槽のなかでは、まるく発光するなにかがいくつも浮遊している。


 1体のゾンビが、水槽のずらした木のふたのあいだから、なかの発光物を小瓶にうつしかえている。片側の壁ぎわの棚に、そのゾンビが手にしているのと同じ10数本の小瓶が並べられていた。


 あの兵士の監督のもと、なにかの作業をしているらしい。


 ――あいつらは、いったいなにをやっているんだ?


「ゾンビどもがポーチに上がってきたわ」


 チビットがランドの注意をひいた。


 最初のゾンビが戸口から顔をのぞかせる。ゴーラがウォーハンマーを振り下ろし、そいつの頭を叩きつぶした。敷居に倒れたゾンビを乗りこえ、2体目、3体目のゾンビが礼拝堂に入ってこようとする。


「うへえ。きりがないんだなあ」


「ゴーラ、自分の背中で戸口をふさいでゾンビの侵入をはばんでくれ」


 ランドは指示をとばした。一度に何体も相手にしていられない。


 祭壇の兵士がこちらを向いた。片側のあごが欠けて、歯ぐきがむきだしになっている。この兵士もゾンビ化しているのはまちがいない。


 水槽のそばでおびえた顔つきの男は30歳くらい。体に欠損はみとめられず、新鮮な肌をしているように見える。


 ランドは、たてつづけに3発の矢を兵士の顔面にたたきこんだ。さらにチビットの〈魔法の矢〉(エナジーボルト)が相手の胸をつらぬく。兵士が水槽の上に身をのけぞらせ、そのガラス面を背中ですべって床にくずおれた。


 祭壇にいた4体のゾンビが目前に迫っていた。身長180メートル以上の体格のいい大男と、小太りの中年男、生前は美形だったらしい青年、もう1体は、頭に残っている長いブロンドから女らしい。


 ランドは、3体の男のゾンビに1発ずつの矢を射こむ。残りの女のゾンビが両手の爪をたてて襲いかかってきた。


 ランドは女の攻撃をかろうじてかわした。背後から、ぐいっと太い腕が首に巻きついてきた。あの大男だ。死人とは思えない力でしめつけてくる。一発では仕とめられなかったか。


 ブロンドを振りみだした女がさらなる攻撃をしかけてきた。ランドは女をけりとばし、腰から抜いた短刀をうしろ手に、大男の腹に突きさす。言葉にならない声があがり、しめつける力がゆるんだ。


 ランドはいっきにしゃがんで男の腕から抜けだすと、振りむきざま大男に体当たりをくらわす。床に倒れた男に馬乗りになり、刃をひらめかせて相手ののどをかき切った。血潮は吹きださなかった。


 女が迫っていた。ランドは身をよじって短剣を投げつけた。それは女の心臓に命中したが、襲いかかるいきおいのまま、ランドの上にのしかかってくる。


 視界のすみに、心臓に矢を突きたてられた小太りの中年と、かつては美青年だったらしいゾンビがゆるゆる起きあがるのをとらえた。


 ――くそっ、よみがえったか。


 ランドは、こと切れた女の体を力まかせに押しのけて立ち上がった。かんじんの弓は、大男の背中の下敷きになっていた。


 奇声をあげて、残りの2体のゾンビが襲いかかってきた。


 するどい爪をはやす青年の両手をランドはつかむ。間髪いれずに小太りの中年が、横からランドの腰をとらえた。中年の腐った肉体に似合わず、すごい力だ。


 そのとき、チビットの〈魔法の矢〉(エナジーボルト)が頭上から弧をえがいて飛来し、青年に命中した。やせ細った体が硬直し、どうっ、とくずおれた。


 ランドは、あいた手で矢筒から矢を引きだし逆手に握る。上半身をねじり、自分の腰にしがみつく中年の背中に、その矢じりを力いっぱい突きさした。


 中年男の力が抜け、ランドの足をすべって床に倒れふした。


 のどをかき切られたゾンビや、短剣や矢の突きたてられたゾンビが礼拝堂に転がっている。こんどは生きかえる気配はなかった。


 4体の死体の上を、ぶーんと飛ぶチビットに、ランドは感謝の片手をあげた。


「うへえ、もうもたないんだなあ」


 礼拝堂の戸口にふんばるゴーラのかがめた背中ごしに、何体ものゾンビがのしかかっている。ゾンビの群れがどっとポーチに押しかけているようだ。


「ゴーラ、頭を下げて」


 チビットの体が光りかがやいた。そこから、数本分の〈魔法の矢〉(エナジーボルト)をひとつにまとめた太いすじがまっすぐ飛んでいく。


 じょり――「うへ?」


 いくつもの悲鳴があがり、ゴーラの背後につめよっていた何体ものゾンビをまとめてつらぬいたようだ。すぐに後続のゾンビが集まってくる。


「そんな飛ばし方もあるんだ」


〈魔法の矢〉(エナジーボルト)の威力は高まるけれど、魔力の燃費が悪いのよね」


「いま、じょり、っていったんだな。おいらの頭をかすめたんだな。ハゲたらどうしてくれるんだな。もっと気をつけてほしいんだな」


 さらなるゾンビにのしかかられながらも、ゴーラが抗議する。


 毛なんて一本も生えてないじゃないか、とランドはあきれた。


 ばりっ、と木の割れる音がひびいた。側面の壁の板戸がまっぷたつに裂けていた。裂けめから、するどい爪をはやすゾンビの片腕がのぞいた。


 ランドは、大男のゾンビの下敷きになった弓を引きずりだしにかかる。


 窓の板戸が破れおちた。弓を手にしたランドは、窓わくを乗りこえようとするゾンビの額と両目に、たてつづけに3本の矢を撃ちこんだ。


 窓の内側に倒れこんだゾンビの手が、壁ぎわの棚のビンをなぎはらう。床で割れた何本ものビンから土がこぼれだした。


 棚の上に乗りあげたゾンビのあとからも、他の仲間が殺到する。われ先に侵入しようと、押しあい、へしあいし、なかなか入ってこられない。


 ゴーラのがんばる出入口側でも、ゾンビが群れている。


 ランドは、礼拝堂の奥の祭壇に視線をはしらせる。


 死んだゾンビの兵士がもたれかかる、大きな水槽のそばに、さっきまでそこにいた生身の男の姿はなかった。裏口でもあるのだろうか。


 どさり、と棚の上のソンビが床に投げだされた。ひげに顔をおおわれたゾンビが窓から室内に入ってくる。そのあとからも、何体ものゾンビが窓わくを乗りこえようとする。


「取りかこまれたらおしまいだ。いったん、後方に下がろう」


 ランドは、侵入してきたゾンビに矢を放ち、急いで祭壇に向かった。


「うへえ。待ってほしいんだな。おいらも逃げるんだな」


 床をきしませてゴーラが追いかけてきた。戸口からなだれこむゾンビの群れに、チビットから5本の光のすじが放たれる。いくつもの断末魔の声があがった。


 礼拝堂の奥に裏口はなかった。祭壇のわきに、ランドは地下におりる階段を見つけた。せまく急な石段がのびる先で、明かりがまたたいて消えた。


 ――誰かがいる。それは、水槽をのぞきこんでいた男ではないのか。


 礼拝堂のなかに、うめき声と奇声、それに、ずるずる引きずる足音が満ちた。何本も立ちならんだ柱のあいだから、20体以上のゾンビのぎくしゃく動く姿が見えかくれする。


 地下室に逃げこめば、そこは袋小路だろう。もとより逃げるつもりはない。エセル伯爵の本当の依頼はサンロランの救出かもしれないが、表向きには、墓地に巣くう悪霊の退治なのだから。


「チビットの魔力はあとどれくらい残ってる?」


「あと半分くらいね」


 ――ここは、いちかばちかだ。


 ランドは地下室を決戦の場に選ぶと、足早に石段をおりはじめた。


 そのあとを、ものすごい足音をたててゴーラが続く。


「ちょっと、階段が壊れるじゃない。もっと静かにおりなさいよ」


 階段口から滑空しながらチビットが注意する。


「そんな場合じゃないんだな。たくさんゾンビが追ってくるんだな」


「あわてて足をすべらせ転落したらどうするのよ」


 ――ぼくはゴーラの下敷きでぺちゃんこになるだろうね。


 地下におりたったランドは、石段をゆるがす岩のかたまりを見上げ不安になる。


 チビットの〈魔法の光(ライト)〉があたりを照らした。


 階段の片側は石壁に接し、その反対側は石造りの地下室にひらけている。石段を照らす〈魔法の光(ライト)〉は地階のすみまで届いていない。棚や木箱、樽らしき影がうかがえる。かつては倉庫だったのだろう。


 礼拝堂に続く石段以外に出口はなさそうだ。さきほど明かりを消した人物が、地階の闇に身をひそめているのは間違いなかった。


 礼拝堂の光がさしこむ頭上の階段口に、ゾンビの黒い輪郭がのぞいた。その背後にも、いくつものシルエットがゆらめく。


「ゾンビが階段をおりはじめるのを待とう。このせまい石段にやつらは一直線にならぶ。そこに〈魔法の矢〉(エナジーボルト)を束ねて撃ちこむんだ」


 ランドはチビットに小声で指示した。


「オーケー。ゾンビをだんごの串刺しにしてやるわけね」


 1体のソンビが、おぼつかない足どりで石段をおりてきた。


 ランドは3本の矢を指にはさんで、階段の側面にむかって弓を構える。ゴーラにも、ウォーハンマーを手にランドのそばに待機してもらう。


 悪臭とともにゾンビが階段をおりてきた。1体、2体、3体、4体――ゆらめく人影が石壁に交差して不気味におどる。


 先頭のゾンビの片足が最後の一段にかかった。ゆるりと顔を向けたゾンビのとびでた眼球とランドの視線があう。


「いまだ。撃て」


 ランドの号令のもと、チビットの体がまばゆく輝いた。そこから放たれた〈魔法の矢〉(エナジーボルト)が太い光線になって一直線にゾンビの列をつらぬく。


 恐ろしい叫びが地下室にこだました。一段目のゾンビがくずおれると、その上に後続のゾンビがなだれこんで折りかさなる。階段の五段目まで、悪臭をはなつ腐った肉体におおわれた。


 それでも、ゾンビの列はとだえない。ひるむことなく階段をおりてくる。


 チビットの〈魔法の矢〉(エナジーボルト)がふたたび放たれた。ゾンビがなだれをうって倒れる。ある者は石段にひっかかり、ある者はそこからこぼれ落ち、ある者は上がり口に死体の山をつくる。


 床の上でよみがえろうとするゾンビがいれば、ゴーラがウォーハンマーでその頭蓋を粉砕した。階段上で起きあがろうとするゾンビがいれば、ランドは自分の射た矢で息の根を止めた。


 3発目の〈魔法の矢〉(エナジーボルト)で、階段はゾンビのしかばねでうめつくされた。さらなるゾンビは、障害となった仲間の死体にはかまわずおりてこようとする。勝手に階段の側面から落下したり、石段を転落したりする。


 ランドとゴーラは、チビットの魔法から逃れたゾンビにとどめをさしていく。石段でよみがえったゾンビをランドは射落とした。さらなる敵にそなえて、矢筒にやった手が空をきる。ついに矢が切れた。


 まだゾンビはいるか。


 ランドはすばやく地下室内に視線を走らせる。


 階段の上がり口に、よごれたウォーハンマーを振りあげるゴーラがいる。その頭上にチビットが飛んでいる。地下に侵入するゾンビはようやく尽きていた。


 地下室はすさまじい腐敗臭に満ちあふれていた。石段の上にも、石畳の上にも、ふたたび死体に戻った〈生きる屍〉(アンデット)がちらばっている。どれも身じろぎひとつせず、よみがえるゾンビはいなかった。


 ランドは息をはき、構えていた弓を下ろした。


 この寺院の墓地で大量のゾンビがうまれたのはどうしてか。こいつらが水槽で世話をしていた、あの青い光をやどした玉と関係があるのではないか。


「ランド」


 チビットの警告の声がとんだ。


 ランドの背後で、ぬうっと人の気配が立ちあがった。


 ――くそっ、死んだふりをしていたか。


 腰にしがみついてきたそいつを、ランドはすぐさまはねのけようとする。


「違います。わたしはゾンビではありません。生きた人間です」


 すがりつく男が顔を上げた。30歳くらいだろう。黒い髪とひげにおおわれた顔は理知的だ。見開いた目には涙をうかべている。


「あなたは、エセル伯爵の次男のサンロランさんではありませんか」


 ランドは自分の推測を口にした。


「そうです。どうして、それを知っているんですか」


 サンロランが、あわれっぽい目に驚きの色をうかべた。




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