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お前さては加減を知らないな?


 僕は次元の狭間で目を覚ました。

 次元の狭間とは一般的に、世界と世界を繋ぐ場所だ。

 誰にも侵すことのできない不可侵の領域。

 存在する幾つもの平行世界を骨だと例えるなら、ここはまさに軟骨と言えるだろう。要するに平行世界の緩衝材ってことだな。我ながら良い例えだ。

 そんなことを考えながら虚空を見つめていると、ふと腹部が痛んだ。

 「ゼネットの奴、本気で殴りやがって……」

 状況が飲み込めて来るとだんだん腹が立ってくる。

 大した説明もなく主を異世界に転生させるメイドがどこにいるんだ?まぁニートやってる魔王もそうはいないだろうけど……。

 しかしどれだけ譲歩したってやはり腹は立つのだった。


 ――――三十分ほど経っただろうか。

 それは僕が歴代ギャルゲーヒロイン達の名前で一人しりとりをしている時だった。

 突然空間に裂け目が現れたのだ。

 縦横二メートルはあろうかというその大きな裂け目は僕に全くの抵抗を許さない程の吸引力で吸引を始めた。

 当然プカプカと次元の狭間を漂っていただけの僕は何か掴まるものを見つける間もなく非力にも吸い込まれていく。

 「軟骨に裂け目が……」

 思ったことをすぐ口にしてしまうのは僕の欠点かも知れない。

 次第に遠くの方から光が近づいてくる。

 そして同時に意識が遠くなっていくのを感じる。

 神様どうか、僕を裕福なお家のボンボンにしてください。

 こうして僕は一度も信じたことがないくせに、神に祈ったのだった。

 


 ―――き―――――ぶ?

 ――――だいじょうぶ?

 「ちょっと君!大丈夫?」

 誰かの声で目が覚めた。

 どうやら僕は地面に寝転がっているらしい。

 視界に広がる空は憎たらしいほどに青く、雲一つない快晴だった。さらにどこからか涼しい風が吹いて心地よい。

 そうか…僕は……。

 「転生したんだな」

 「え?本当に君大丈夫?どうしよう私のせいだよねコレ……」

 僕を呼んだのはこの女か。

 金色の長い髪が風に揺られるのを手で押さえながらあたふたと所在なく視線と体を動かしている彼女は新米の冒険者のように見えた。

 一息ついて話しかける。

 「お前、名は?」

 「わ、私?」

 「お前しかいなかろうが」

 「ご、ごめんなさい……、私はエナ、そこの街の魔導士です」

 「なるほど、魔導士」

 通りでローブなど着ているはずだ。

 となると僕の読みは意外といい線をいっているのかも知れない。

 「あなたは?」

 「僕か?僕はレイ・デュミオス・ルクセリア。魔王だ」

 「は?魔王?」

 しまった、つい緊張して魔王だと名乗ってしまった。

 いや、違うよ?別にキョドってないからな。うん。あいつら以外の女性と話したことがないとかじゃ全然ないから。今童貞って言ったやつ殺す。

 「あ、いや違う。勇者だゆうしゃ。僕は勇者なんだ」

 「――――勇者?」

 また我ながら適当な事を言ってしまった……、これじゃ頭のおかしい奴だと思われ――――――――。

 「あなた、あの伝説の『勇者』なの???」

 「え?」

 「全ての魔族の頂点に立つ魔王を討伐できる唯一の可能性と名高い『勇者』???世界最後の希望の?????あんたが!?!?!?」

 「いやちょっとまtt」

 「すごい!!!勇者って実在したのね!!!!さっきは本当にごめんなさい!お願いだから仲間にして!いやしてください!!」

 このエナとかいう女も話を聞かねぇ…。女ってみんなこうなのか?

 まず話が飛躍し過ぎだろ。勇者?魔王?最後の希望?何言ってんだ?

 ――――この時僕に電流走る!!!この女利用できる!

 彼女は僕を全く疑っていない。完全に僕が勇者だと信じ切っている。

 それになんだか知らんが仲間にしてくれとさっきからめちゃくちゃ深く土下座もしてる事だし、こっちは情報が少ない以上仲間は必須。

 まさに棚から牡丹餅!天恵だぞこれは!

 「面を上げよエナ」

 「ははっ勇者様」

 「お前を仲間として認める。代わりと言っては何だがさっきから何を謝っているのか教えろ、別に怒らん」

 「いやぁ…それがこんな平野誰も居ないと思って、いつもの調子で魔物狩りのために魔法を撃ってたら爆炎の中から勇者様が出てきたもので……、やっちゃったかと」

 「気にするな、それとレイでいい、お前の方が年上だろう」

 そう言うとエナはじゃあそれで、と小さく笑い、頭をかいた。

 なるほどな、それで僕に対して申し訳なさを抱えているという事か。

 やはりこの魔導士使える!せいぜいこきつかってやろう!!!

 やがて僕が彼女をどんな風にこきつかってやろうか考えて始めると、彼女は何か思い出したような顔をして話しかけてきた。

「ねぇレイ、勇者の紋ってどんな模様なの?ちょっと見せてよ」

「モン?」

「そう、紋よ。身体のどこかに勇者の職業紋いれてるんでしょ?ちなみに私だってもちろん入れてるわよ?ほら、これ」

 そう言って彼女がローブの首元をはだけさすと、確かに首に小さな羊のような入れ墨が刻まれていた。

 「ね?私ちゃんと魔導士でしょ?」

 「た、確かにな」

 まずいぞ、まさかそんな身分の証明方法があったなんて!

 このままでは俺が勇者じゃないことがバレるどころか、紋が体のどこにも入っていない事から無職のクソニートだと断定される!

 それは何よりもまずい。

 なぜならほぼ初対面の金髪美女に、僕がニートだという事について罵られようものなら、僕は泣いてしまうかも知れないからだ。心弱いな僕。

 「ほら早く見せてよ、もしかして……本当は勇者って嘘?」 

 「ちちちち違うぞエナ、実はさっきの衝撃で自分の身体のどこに紋が入っていたか忘れてしまってな」

「あ、そう………ふーーーん……………」

 流石に怪しまれたか?無職独特の怪しさを隠しきれなかったか?

 僕が色んな意味でハラハラしていると、エナが突然叫び出した。

 「あ!ドラゴンだ!!」

 「なっ…!ドラゴン!?!?」

 「ひっかかってやんの!隙ありッ!!!」

 「あっ!卑怯だぞ貴様!」

 エナは俊敏な動きで僕の左の長袖をまくりあげた。

 が、当然そこにはなにもない。

 「じゃあ右か!えい!」

 しかしそこにもなにもない。当たり前だ。僕は無職だぞ。

 ところが諦めの悪いエナは僕の服もめくり、腹も背中も嘗め回すように見た。何度も言わせないでほしいのだが僕は無職なのでいくら探しても紋など見つからないと知っていた。だからもはや抵抗すらしなかった。

 「ど、どこにもない………」

 「あー……実はな………、すごく言いにくい事なんだが――――」

 「あ!よく考えたらレイ手袋してるじゃん!じゃあもしかして…!」

 「少しは話を聞いて――――――――」

 「ほらやっぱりあった!にしてもやっぱり見たことない模様だね、これが『勇者』の職業紋かぁ」

 「そんな…バカな……」

 職業紋なんてあるはずがなかった。それは僕が一番よく分かっていた。

 じゃあこいつはなんだ?まさか本当に僕は勇者なのか?

 宝くじ並みの確率を乗り越えて転生時に特殊能力を授かってしまったタイプの無双ハーレム系主人公の紋なのかこれは!?

 思考は廻れど答えは出ず、謎に納得しているエナをしり目に僕は思った。

 (なんかこの紋…勇者の紋って感じじゃ無くね?)

 小さな円に大きな角のようなものが生えている赤色の紋。

 これが一体何の紋なのか、そして僕の転生ライフはどうなってしまうのか、それを知るものはこの世界には誰一人としていなかった。


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