ご褒美部屋と技能選択、その覚悟
田園風景から一転、白い部屋に自称神と二人きり。
たっぷりと混乱してから、僕は探り探りに言った。
「もしかして、僕は死んでしまったんですか?」
死後の世界なんて信じちゃいないけど、もしかしたら。
殺したと思っていたけど、実は殺されたのは僕のほうで、あれは『こうであってほしい』という願望が見せた幻なのか?
「な~にを言ってるんだい。君は見事にカエルをやっつけたじゃないか」
「それなら一体……」
「ここはね、ご褒美の部屋だよ。レベルを上げたものを、つまり君のようなものを招いて、その頑張りにご褒美をあげちゃうと。そういうところなのだね。主に技能をね、あげよっかなーと」
チョイチョイ、と自称神は指で机上の紙を指し示す。紙にはSTRやら、言いくるめやら、何とはなしに見覚えのある単語が並んでいる。
「君はレベル1になったからねー。初回特典として技能点を30点あげよう。やったね」
「いえ、やったねと言われても」
ここはご褒美部屋。オーケー理解した。
あなたは神。まあそうなんでしょう。
技能? なんだそれは。
「え~? なに困るよた~かのちゃーん? 君ってばゲーマーっしょ? だったらわかってよ~」
「いえ、なんとなく想像はできますよ? 飛んだり跳ねたり火を噴いたりできるんでしょう?」
「おしい。飛んだり跳ねたりするのは技能。火を噴くのは魔術だね」
「え、魔法が使えるようになるんですか?」
「ノンノン。魔法じゃなくて魔術。ここ重要。
いやー迷ったよ。『奇跡』ってのじゃ硬いし、『魔法』ってなると万能感が出ちゃうじゃん? 『技能超過』っていうのもちょっと考えた。ちょっとだけね。でもま、結局シンプルにいこうってなってね。だから『魔術』。落としどころとしてはこんなもんじゃない?」
「あの、ネーミングの苦労話はあまり……」
興味がないんですが。
「あっそう。とにかくね、技能は『最適解を選択する』能力だから、その効果は限定的と言えるけど、
技能のレベルが10になれば『理屈を無視した現象』、つまり魔術が使えるようになるのだよ。
魔術は技能の上位互換だから、きっと助けになってくれるはずさ。無制限に使えるわけじゃないからそこは注意だけどね。
技能点1ポイントで一つレベルが上がるから、仮に30点分をぶっこめば、三つの技能と三つの魔術をゲットできるって~寸法だよん。もちろん、1ポイントずつ割り振って三十個の技能を取得してもいい。どうするかは君の自由だ。そして更に」
自称神は仰々しく両手を広げた。
「おめでとう。君は4328人目のレベル1到達者だ。先駆者ボーナスとして、この中から一つ、追加の恩寵を下賜しようじゃあないか」
ヒラリ、ヒラリ、とどこかから現れた紙が舞い落ちる。吸い寄せられるように机上の紙に並ぶ。
忠実な大剣 (たまに拗ねる)
死神の大鎌 (君だけの亡者軍団を作ろう)
記憶する二丁拳銃 (ガンカタごっこしようぜ)
錬金術白書 (今日から君も錬金術師)
飛翔の魔術 (飛べねえ豚は)
風神の加護 (雷神のほうがいいとか言わないで)
死の否定 (死んでないからセーフ)
聖母 (そして母になる)
上記八つには二重線が引かれていて、
「十人単位で内容を区切っていてね。4320番台は君で九人目だから、残ってるのは二つだけなんだ」
オーラの実在証明 (証明シリーズの三番手)
ダウジング皆伝 (感度3000倍)
……。
「あの、詳しい説明とかは……」
「してるじゃーん。え、わかんない? フィーリングで感じてよー」
……なるほど。オーラとダウジングじゃ他と比べてどうにもパンチが足りないし、残るのも納得だ。
「でもほら、残り物には福があるって言うしさ。大丈夫大丈夫。どっちもイケてる子だから。役立たずなんかじゃないから」
言い訳がましいなあ。
「別に非難する気はありません。貰えるだけ幸運なんでしょう? ちなみに何人までボーナスを貰えるんですか?」
「気のすむまでかな~」
「……じゃあレベル毎にその先駆者ボーナスとやらは設定されているんですか?」
「さ~? どーだろね~」
なるほど。情報を与える気はないらしい。
そういうことならこっちに集中しよう。僕は紙に目を落とす。
STR+ (筋肉モリモリマッチョマン)
CON+ (元気があればなんでもできる)
POW+ (鋼の精神を手に入れよう)
DEX+ (速さが足りない)
APP+ (※ただしいけめんにかぎる)
SIZ+ (おっきくなっちゃった)
INT+ (賢くなるよ)
母国語 (日本語だね)
検索 (してはいけない言葉)
情報分析 (情報は生き物)
煽り耐性 (wwwww)
運転 (一万一千回転までキッチリ回せ)
健啖 (いっぱい食べる君が好き)
ゲーマー (シンパシー感じるな~)
言いくるめ (詐術だね)
給仕 (スマイル無料)
聞き耳 (ほうほうなるほど)
地図 (伊能忠敬)
威圧 (ゴゴゴゴゴ)
信用 (金で買えない)
観察 (見えてくるものがある)
ひらめき (ピカーン? ピキーン?)
製作 (こまごましたものを作れるよ)
用兵 (傭兵の陽平を用兵しよう)
忍び足 (抜き足差し足)
跳躍 (大人気のチートスキル)
槍 (ブスリ)
頑健 (すっごい丈夫)
我慢 (あんまりすると駄目よ)
斧 (オーノー)
以上三十項目。どうもそれが、僕の選択できる技能らしい。鉛筆は、この中から欲しい技能に印をつけろってことだろうか。
「この技能が選ばれたのには理由があるんですか?」
「もっちろん。技能点が30点だからね、まず基礎ステータス関連七種の枠を確保して、残りの二十三個は
君に与えるにやぶさかじゃない技能を選んだ。今朝から君を観察してね。だもんで、それ以前の君の在り方は考慮していなーいのです」
「ということは、たとえば料理の技能が欲しくても、もう手に入れる機会はないということですか?」
「うんにゃ? レベル2になるまでに、あげてもいいかな~、って思えたら、その時は取得可能にしてあげる。要はインパクトよ。インパクト」
特徴的な行動で印象に残ったらって? 〇ーチューバーみたいだな……。
「技能の説明は……ないんでしょうね。やっぱり」
先ほどのやり取りを考慮するに、このふざけた説明文を頼りに選べということなのだろう。技能の内容を想像しながら。手探りで進めるのは実に不本意ではあるものの、どっこいキャラメイクはこちらも慣れたもの。TRPGで幾度となく通った道だ。
たとえばクトゥルフを例にとると、プレイヤーキャラクターは二種類に大別できる。謎を解く探索型と、戦いを担当する戦闘型だ。
僕の取得可能技能の中では、おそらく『言いくるめ』や『聞き耳』、『ひらめき』あたりが探索向き、『槍』『頑健』『斧』なんかが戦闘向きの技能だと思われる。
どちらの型に寄せるかはセッションによってまちまちなのだけど、僕の今の状況は型の選択において有利だ。
なにしろ先駆者ボーナスがある。ダウジングは探索向けだろうし、オーラ=気功=発勁=なんか凄いエネルギー程度の認識の僕にとって、少年漫画よろしくオーラは戦闘向けのような気がする。……ダウジングで戦う? ははっ、ご冗談を。
ちなみに振り子やL字棒を使うことで、地中の下水管やら、地下水脈やらを見つけられると謳うダウジングしかり、生命エネルギーやら霊的エネルギーやらを主張するオーラしかり、現実主義者を自称する僕との相性は推して知るべし。
とはいえ、一応は技能の組み合わせを考えてみよう。
まずは探索型。先駆者ボーナスにダウジング皆伝を選択し、『検索』『情報分析』『信用』『言いくるめ』で情報収集、戦闘は『聞き耳』『忍び足』で回避する。効果が今一つはっきりしない『ひらめき』も、『アイデアが浮かぶ』という意味なら有用だ。『製作』と併用することでちょっとした後方支援
ができるかもしれない。
ダウジングの力は未知数だけど、なんとなく油田なんかを掘り当てられそうな気がする。
次にオーラを取った場合の戦闘型。『槍』『斧』『頑健』『我慢』、集団戦なら『用兵』も使えそうだ。戦闘向きの技能が少ないため、少数精鋭でこれらのレベルを上げるか、STR+やCON+で身体能力の底上げを図るのもいいだろう。基礎ステって大事だからね。
あるいはオーラの能力に賭けて、技能をいくつか削る手もある。堅実なプレイスタイルの僕らしくはないが……たまには冒険もする。ゲームの中でなら。
そう。これはゲームじゃない。殺すのは自分で、殺されるのも自分だ。セーブもロードもない、やり直しは利かない。冒険なんてするべきじゃない。
戦闘は避け、無理はしない。安全と無難を愛し、危険を避けて生きていく。自衛隊の駐屯地に身を寄せて、ああそうだ、給仕のスキルでも取って食堂で働かせてもらおう。先輩はああ言っていたけれど、きっと何とかしてくれるさ。それが一番良いに決まってる。
――本当に? 生死を他人に依存する、そんな選択が最善なのか。
どこかでリスクを負わなければ、どこかで取り返しのつかない袋小路に行き詰るのではないか。そんな不安がよぎる。
安全に、無難に、怪物の影に怯えながら生きていくのか?
カエルだってそうだ。今回は僕らが勝ったけど、これから先はどうだ? 僕は逃げて、カエルは戦って、僕はレベル1のままで、カエルはレベルが上がって、ある時、そんな怪物と行き当ってしまった時、僕は後悔しないか?
逃げずに立ち向かっていればと。あの時の選択が違っていたらと。
嫌だ。後悔なんてしたくない。死ぬのなら胸を張って死にたい。精一杯やって、それでも駄目だったと納得して死にたい。
『何かを得ようとするのなら、相応の覚悟をするべきだ』
だから、そう。僕は覚悟しなければならない。
レベル制度が導入されたこの世界で、後悔しない覚悟を。
「悩んでるみたいだけどさ、焦って決めることはないよん。時間を止めてるからね、ゆっくりしていけばいーさ~」
「……いえ。決めました」
僕は鉛筆を取る。
もう後戻りはできない。鉛筆の芯を折る勢いで――オーラの実在証明に丸を付けた。
高野行人(19) LV1
オーラの実在証明
地図LV10 魔術『立体地図』
STR+LV3
CON+LV3
DEX+LV3
POW+LV2
頑健LV3
観察LV3
ひらめきLV2
我慢LV1
カエル(3+α) LV6
大過なく成長したif世界のカエル。『用水路の悪食王』。
にんげんがだいすき。




