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4話 異種族達よ


クルシュに案内された部屋で、俺は一晩寝て明かした。

俺が起きたときには朝日が部屋の窓から差し込んでおり、部屋の外からは慌ただしい足音や、他の住民達の声が聞こえた。


恐らく町の復興作業が再開したんだろう。

部屋に水桶が置かれていることから、クルシュが一度来てくれたんだろう。心遣いがありがたい。


まだ眠気のある状態でぼんやりとする。

思えば、凄い人生送ってるなぁ。


ここの住民は基本優しい人が多いことが、昨日の歓迎会で分かった。特に、クルシュは俺に好意的に接してくれる。

本当にこの国で余生を終えるまで過ごしてもいいと思えた。


そんなことを思い巡らせていると、部屋の扉がノックされ昨日のエルフの女性が入ってきた。


「あ、おはよう。ベリトさん。」


「あら、起きていたのね。ミシェル、調子はどう?」


「調子はまずまずですね。昨日の歓迎会ではしゃぎすぎました。」


「ふふ、ベリトでいいわよ。これから一緒に住むことになるんだから。あと敬語もね。」


美人のエルフの綺麗な笑みを見ると、こっちまで元気になってくる。


「貴方のような人に手伝ってもらえるのはありがたいわ。たまには精霊に祈ってみるのも悪くないわね。」


ベリトはどうやら、少し前に精霊に対して祈りを捧げたらしい。


「ベリトは精霊、もしくはこの世界を創造したと言われている絶対神を崇める宗教とかに関心はあるのか?」


「まさか!正直な話、崇める所か少し恨んでる位よ。職業制についてはまだしも、人間の価値観を定めたのはアイツらだしね。」


「やっぱ、そうなのか。」


この世界で絶対の存在として崇められる精霊、それを纏める絶対神と呼ばれるモノ。


そのモノ達が生み出したもののひとつ、

神から選ばれる自身の未来——《職業》。


その人のこれからの未来、特技や魔法、成長時の伸び率までもが決まる《職業》はそれまでの人生をどのように送ったかや、先天的なもので決まる。

勇者やパラディン等、将来が約束される《職業》を得られるものも居れば、旅芸人や盗賊と言った将来がかなり左右される《職業》になるものも居る。


自分がなる《職業》の御告げを聞くことが出来るのが平均15歳~18歳頃で、遅くとも20歳までには聞けるようになる。

御告げは基本、教会にいくことによって神父様より告げられる。

だから先天的なものを持っていない者達は、その日までに善行や精霊、絶対神達への信仰をし、良い《職業》に就こうとする。


そしてその信仰を取りまとめ、御告げを告げる神父様が所属しているのが聖堂教会だ。


この世界は絶対神によって作られたもので、職業とは絶対神がその人の善行や信仰に見合ったものを選んだものだ。

例え良い《職業》や悪い《職業》であったとしてもそれは絶対神の意向である。 悪い《職業》であっても信仰を欠かさねば必ず良い《職業》に転職出来る機会を与えられる。


と言った趣旨の宗教であったと思う。


《職業》は変更できないとされているが、この宗教の教徒は転職する機会があるということで、子供が上位の《職業》に転職出来るようにと、保険として入信させる母親も年々増えてきている。

子供が上位の《職業》につけばその家族も安泰であるので、下位の《職業》の者達の教徒の数も多い。


今ではこの世界の大半はこの聖堂教会に入信し、絶対神を崇め、奉っている。


だが聖堂教会に入れるのは人間だけという規定がある。

その理由は魔物や異種族は初めから固有の《職業》が決まっているということ、精霊達が何故か人間達を贔屓しているから、とされている。

あくまで後者は魔物や異種族間での噂であるので信憑性は分からないがしかしベリトの言った価値観の設定が怪しさを際立てている。


更に人間にも利益ばかりあるわけではない。

勇者パーティーに居たときも、聖堂教会とは利権問題で結構な頻度でぶつかってきた。


それらのことから、俺としても聖堂教会には良いイメージがなかった。


「ま、祈った理由はね?精霊に力があるなら見せてみろって思ってやってみたんだ。」


結果はご覧の通りだけどね、とベリトは苦笑しながら頬を掻いた。


「聖堂教会はあれだけど、精霊についてはまだ分かってないことが多くてなにも言えないからな。一概に悪いとは言えないよ。」


そうね、とベリトは水桶をこっちに持ってきてこう言った。


「全ての人と私達みたいな異種族が手を取り合う事は出来ないのかしらね……。」


悟ったような、諦めと悲壮感が混じったような表情をしていた。


「……いつかそんな日が来るさ。平和になれば皆、心にも余裕が出来るだろうしな。」


「……!そうね。そうだといいのだけれど。」


「……あぁ。」


「湿っぽいのはここまで!さぁ、顔洗っちゃいなさい。」


クルシュもベリトも混血だとか、異種族だとかで辛い目にあったことがある筈なのに明るいし、俺にも友好的に接してくれる。

どうにかしてやりたいと俺は思った。







顔を洗い、復興を手伝うために広場に出ていくと、そこにはクルシュが何人かの人と魔物達と円を作っていた。

家の配置や必要な物などを話し合っていたようだ。


「おはよう、クルシュ。手伝いに来たぞ。」

「おはようございます。まだ寝ていらしても大丈夫でしたのに。」


うふふ、と笑ってクルシュが言った。


「朝ごはん、まだでしょう?お作りしますよ。」


話し合いを終え、クルシュと俺は食堂に向かう。

食堂に着くとクルシュは段取り良く朝食の準備を進めていく。

その間、昨日の鎧の魔物が食堂に入ってきて、俺を見つけると近くに座ってきた。


「昨日はすまなかった。知らなかったとはいえ、不躾な態度を取ってしまったな。」


「いえ、気にしてませんよ。貴方も朝食ですか?」


「いや、私は休憩で立ち寄っただけさ。クルシュ、飲み物を貰えるか?」


2人で談笑していると、朝食が出来上がる。

メニューはカットしたフランスパンにトッピングを乗せたものに、スープ、この付近でとれる野菜のサラダであった。


少し少なめではあるものの、旅の食事はまともなものを食べられなかったときもあったので、こういった食事はありがたかった。


鎧の彼の方には野菜ジュースが持ってこられた。


「野菜ジュースとは…、私の苦手なものは入っているか?」


「まだ好き嫌いしてたんですか…、ダメですよ?」


二人の会話で苦笑いしながら俺は「いただきます」とご飯を食べ始める。


「ミシェルさん、今日は彼と共に仕事をしてください。」


「復興って主にどんなことをしてるんだ?」


「そうだな、俺達は人間では持てないような瓦礫の撤去や街道の修繕だな。それ以外だと木材や石材を運んだりもする。」


「頑張ってくださいね、昼食も楽しみにしててください。」


「クルシュよ……私にも何か言ってくれてもいいじゃないか…。」


「ニコラスさんはなにも言わなくても大丈夫でしょう?」


「私にもモチベーションと言うものがだね?………。」


しかし、この教会や町の人達は仲が良いな。


皆が協力して、いがみ合うこともないし、この二人みたいに冗談も言い合える。

それ以外にも気付かないところで気遣いがされていて良い雰囲気だ。

そしてなにより皆が優しくて明るい。


互いに互いのことを考えて生きる。

差別されることの恐ろしさや寂しさを知っているからこそ思いやって支えあっている。


勇者パーティーの中ではリディアと二人での時間でしか感じることのなかった心が温まる感じ。


「……ミシェル?手が止まっているぞ?気分が悪いのか?」


「あ、あぁ、すまない。考え事をしていた。」


回想から引き戻され、少し渋い顔になる。


「本当に大丈夫ですか?何処か痛いので?」


「違うんだ。この顔はそういう意味じゃない。

少し昔を思い出してな。」


「……勇者パーティーのことですか?」


「む、その話、興味があるぞ。」


「いやいや、話すようなことでもないさ。

場の雰囲気を悪くしたくはないしな。」


「ふっ、無理には聞くまい。

……そうだった、付近に大魔王軍の残党があらわれているようだ。

気を付けておけ。」


大魔王軍の残党……、恐らく俺達が倒したこの国を支配していた奴等の部下だろう。

ということは50~53くらいの強さの奴等か。

かなり手強いタイプの魔物達だったと思う。


耐久性の高い屍人系と魂系、機械系といった者たちが多い軍勢は倒すのにかなり時間が掛かる。

万が一ここが襲われたとき、俺一人でやれるかどうか…。


「残党ですか……、町の人達にも伝えておきましょう。城には既に?」


「あぁ、ニゼル殿が向かっている。心配はないだろう。」



俺のレベルは45くらいだ。

クルシュは悪魔の血を引いていて、親からの引き継ぎでレベルが高いだけだと言っていた。戦闘経験は殆ど無いとも。


「うーん。」


苦い顔で考えていると、町が騒がしくなってきた。

恐れていた事態が起きたようだ。


「大変だ!残党の奴等が、匿っている勇者パーティーの奴を出せって、町の入り口の方に!」


難しいがやるしかないということは分かった。

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