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3話 異種族の集まる教会


都の復興を手伝うことを条件に、俺は彼女が勤めている教会に住むこととなった。

復興が始まったばかりのこの王都で、一体どれほどの暮らしが出来るのかと、頭の中で想像しながらクルシュについていく。


都の人々が街道や建物を修復している中を進み、広場に出ると、城へと続く道の直ぐ隣にある教会が見えてきた。


「王都に入ったときに見かけたかと思いますが、ここが私の勤めている教会です。」


教会、とは名ばかりで、実質野戦病院の様な忙しなさが印象に残る場所だった。


「…すみません。ここでは傷病者を受け入れているんです。暫くは騒がしい状態が続くでしょうが…。」


「いや、気にしないさ。」


ありがとうございます。と笑って頭を下げるクルシュ。

少し雑談をしながら先導するクルシュに俺はついていく。

入り口の扉を開け礼拝堂を過ぎていくと、廊下で談笑する人間の男性と鎧姿の魔物が居た。


「ま、魔物が教会の中に居るぞ!?」


俺の声で、二人の視線が此方に向いた。


「ん?……竜族とは珍しい。王都にもこれほどの者が居たのか。」

「クルシュ。ソイツは何者だ?新しい用心棒か?」


「あ、あの人。確か勇者のパーティーの人じゃない?」

「ほう?勇者パーティーに人間以外が所属していたとは。人間と異種族が共に大魔王を倒す時代になったか。」


奥の部屋からもエルフの女性と白髪で深い髭の高齢の人間が出てきた。


シスターのクルシュは廊下にやってきた人や魔物達に質問攻めにされるが、穏やかな表情のままこう言った。


「この方は先程、路地で困っていらっしゃったのでね。復興を手伝ってもらう条件でここに住んで貰うことになったんです。」


クルシュは人ならまだしも、魔物やエルフに囲まれているのに、平然としている。


「クルシュ。頼むから俺にも説明をしてくれ。

なんでここに魔物が居るんだ?しかも親しそうに。」


「実は彼等は大魔王の軍勢から逃げ出してきたんです。この教会はそう言った方々も受け入れているんですよ。」


これも今代の王の方針ですよ?と、クルシュは言った。


「成る程。……道理で前に来たときにも俺にたいして皆が気軽接してしてくれたわけだ。

異種族を受け入れてくれたのは本当に嬉しかったからな。」


人間と技術の交換や協定を結んでいるエルフならともかく、目の前に居るこの鎧の魔物は幹部クラスだ。ここに居るのが不思議なくらいだ。人間の国になんてまず入れない。


軍勢から逃げてきたと言っていたから、魔物の方にも戻るわけにはいかない。戻ったりなんかしたらどうなるかなんて目に見えている。

魔物の中にも人間と共存したいやつが居たことにも驚きだが、理解した。


ここは異種族や混血の者達で、人間と共存したいって奴等が集まる場所か。

人間も此方を受け入れてくれて、人と異種族が互いに助け合って生きていける場所なんだ。


勇者パーティーから捨てられたけど、それのお陰でここを見つけられた、と思えば少しだけ気が晴れた気がした。


「あ、私も一応混血ですよ?普段は隠してますけど、羽もありますし。」


「悪魔系との混血だったのか…。気付かなかった。」


悪魔系の魔物は大魔王軍でも上位の魔物だ。基本魔物達の指揮を執ったりするのがこの悪魔系。


「悪魔との混血で、シスターか。凄いな。苦労したんじゃないか?」


「父親が高位の悪魔だったのですが……

シスターだった母に恋をしてしまいましてね。それで生まれたのが私でした。母からの話を聞いていて私はシスターに憧れたんで

す。混血だった私を受け入れてくれたのがこの国でした。

あの時は本当に嬉しかったです。」


「この国の国王は凄いんだな。優しい人なんだろう。」


「ええ。全くです。ですがね?ミシェルさん……でしたよね?」

「合ってるよ。」


「先程の皆さんは一見怖そうに見えますが、根はいい人ばかりなんです。皆さん…外見で判断されるのを嫌ってますからね。

ミシェルさんもきっと気に入りますよ。

それでは、まずは部屋に向かいましょう。」


こちらです。と案内してくれるクルシュについていき、俺は廊下を進んでいった。





「…か、帰ったか。ゴボッ!。ガハッ!…クルシュよ。」


まずはここの責任者に会いましょうとのことで、とある部屋に向かうと、高齢の男性がベッドに背を預けて寝込んでいた。

長身の黒髪で、威厳のある雰囲気の竜と人間の混血だった。


「戻りました、ニゼルさん。

新しい入居者を連れてきました。ミシェルさんです。」


ニゼルと呼ばれた男性は此方を琥珀色の瞳で見つめ、フッと笑みを漏らした。


「同族と会うのは久しぶりだ。良く来た、ミシェルよ。

我等は主を歓迎しよう。何もないがゆっくりとしていくといい。」


顔色が優れない。

先程も吐血をしていた。


「ミシェルさん。そこに座っていてください。

今から少し、この方の処置をしますから。」


「あぁ……わかった。」


この個室はそこまで広くはないが、本棚や机、椅子等と言った、病室に置かれているようなものは大体揃っていた。

俺はニゼルさんのベッドの近くにあった椅子に腰掛け、ニゼルさんの方に視線を向ける。


ニゼルさんは先程の吐血で服を汚し、時折咳をしている。

そしてこちらの視線に気がついたのか、こちらを向いた。


竜の混血には出会ったことがなかった。

同じ境遇の者として聞きたいことなどがあった。


「気になるか?同族の我について。」


ニゼルさんに話しかけられた。

少し座る姿勢を正して俺は言葉を発する。


「えぇ、まぁ。今まで出会ったことがなかったので…。」

「それはそうであろうな。竜族は基本里からは降りぬ。よほどの物好きでもなければな。」

「……俺は母が竜族だったらしいんです。顔は見たことありませんでした。俺を生んだときに死んでしまったと聞いています。」

「それならば知らぬのも無理はない。だか今すぐにでも知る必要はあるまいて、いずれ分かる。」


「俺…、精霊から勇者パーティーに選ばれたんです。」


「なんと…、竜族からその様なものが出るとは誇らしい。

相手は大魔王…であったか。」


「つい先日までですけどね。

それでパーティーに言われたんです。

異種族である俺は連れていけないってことで、クビになったんですよ。

それでこの国のことを思い出して、向かったらクルシュに会ったんです。」


「勇者がまさかそんなことを…嘆かわしいな。仲間を使い捨てるとは。」

「納得はできなかったけど、理解は出来たんです。俺のせいでパーティーに迷惑をかけたのは事実ですし。」


「……昔は勇者とは種族関係なく接し、共に戦うものであった。

勇者とは全ての者の希望の筈であろう?」


その言葉にハッとして彼の顔を見る。

そう語るニゼルさんの瞳には濁りがなかった。そう確信している目であった。


「……そうなんでしょうか?」

「そうでなくては所属していた我はなんだ。フハハハッ

…グッ!?ゴハッ!うぅっ。」

「お、おい!?大丈夫か!?」


ニゼルが吐き出した血を見ると、少しずつだが量が増えている。


「フッ…、すまんな。これは先の戦で掛けられた呪いさな。

あやつは死ぬ間際に我に対して、徐々に体を蝕んでいく呪いを掛けたのだ。直ぐに死なぬようにじっくりと時間が掛かるやつをな。

随分もった方だが、そろそろ限界も近いか…。」


事態はかなり深刻なようだ。


「クルシュ。治す方法はないのか?」


俺の言葉に、準備をしていたクルシュは顔を暗くしこちらを向いた。


「……残念ながら。今の技術では進行を遅らせることしか出来ないんです。

竜族に伝わる秘薬が作れればもしかしたらなんとかなるのですが…。」


成る程。

全くもって降りてこない竜族の秘薬しか可能性がないならどうにもできないのは頷ける。竜族の里なんて何処に在るかも分からないんだ。


「ニゼルさん。秘薬に必要なものってなんですか?」


「……竜の血だ。だがな、我の血では呪いが混ざっていて意味がない。………そうか!」


「俺の血…。使えませんか?竜の血なら通ってますし、呪いも掛かってない。

秘薬が効くかは分からないが、作るのはニゼルさんが作り方を知っていれば出来ると思う。」


クルシュとニゼルの瞳に希望の火が灯ったのを幻視した。

それほどまでに彼等の雰囲気は先程とうって変わった。


「秘薬の作り方は覚えておる。クルシュよ、ここに書いてあるものを用意せよ。」


「はいっ!わかりました!」


クルシュは今までの胡散臭さがまるで嘘のような、喜びの混じった顔で必要なものを準備し俺の前にある机に並べた。

ニゼルさんに聞きながら、秘薬を完成させていく。


「これは…この血ならばかなり高質な秘薬が作れよう。この薬草とそのエキスを混ぜるのだ。そこに血を注げば完成する。」


俺はニゼルさんに指示された通りに必要なものを入れ、調合した。

数分後、容器のなかには無色透明で、そこにあるかもわからないくらいクリアな秘薬が出来ていた。


「……ニゼルさん。飲んでみてください。」

「…これならもしや本当に…。」


ニゼルさんはゆっくりと秘薬を口に入れていくが、半分ほど飲んだところで顔が変わった。


「…なんと。今まで飲んだ秘薬とは次元が違う!既に呪いが消えかかっておるわ!」


「ほ、本当ですか!?」


「俺の血にそんな効力があったとは…。」

「竜族の血というのは万能なのだ。主のはそれが一段と強いようだな。」


ニゼルさんの顔色は既にかなり良くなっており、あんなに弱っていたのが嘘のようだった。


「主には礼を言わねばなるまい。主のお陰で我は生きることが出来る。」


「私からもお礼を!ニゼルさんを救っていただけるなんて!…神よ!この出会いに感謝いたします…。」


「俺の血が役立って良かったよ。」


俺は血を分けただけなんだがなぁ、と苦笑する俺に、ニゼルさんは感謝の色を、クルシュは尊敬の色を目に浮かべていた。


「クルシュ。こんなこと言うのもあれだが、部屋の案内をしてくれるんじゃなかったか?」


「あっ!?すみません!この器具を片付けたら向かいましょう!」


「今晩は皆を集めよう。主の歓迎会とともに礼もせねばな。」


「あ、それは良いですね!ミシェルさん、楽しみにしててくださいな。」


「そういったのは初めての経験だ。まかせるよ。」


「ならばより盛大にせねばな!病み上がりだが手は抜かぬぞ!」


俺の為に教会に住んでいる皆は歓迎会を開いてくれた。

この日は俺にとって最高の一日となった。


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