第1話 勇者一行クビになりました。
その通告は突然だった。
「悪いんだが…ミシェル。お前をこれからの旅には連れていけない。」
大魔王討伐の為の旅も中程に差し掛かった頃。
この勇者パーティーの要であるパラディンからそう言われた。
「な、何故だ? 唐突に何故…。」
あまりにも突然のことで狼狽えながらも、自分はいつかこんな日が来るのではないかと予感はしていた。
「ミシェルの強さは申し分ない。ないんだ。このパーティーとしても攻撃役は多いに越したことはないからな。だが…お前の種族が問題でな。」
俺を見つめる、パラディン以外の4人から来る侮蔑を含んだ冷酷な視線。
この場にいる彼らもこのパーティーのメンバー。
パーティーリーダーである勇者率いる、俺を含めた6人がこの世界の命運を託された勇者パーティーだ。
彼ら彼女らの視線から異種族である俺に対しての恐怖や差別的感情、そして「お前の存在が迷惑きわまりない」という思いがありありと伝わってきた。
俺たちは人間界の侵略を開始した大魔王を倒すために選ばれたメンバーだ。
世界は一度、魔王に恐怖の底に叩き落とされた。そして現れた勇者によって討伐されたのだが、
魔王を討ち、宴会を開いていたエレノア王国に大魔王が直々に現れ、宣戦布告をしたのだ。
大魔王はその場で魔王討伐後で油断していた勇者を殺害し、
エレノア王国の国王、兵士、ならびに民を国ごと魔界に引きずり込んだ。
その様子を魔法で全世界に中継、宣戦布告後に近隣の国々から侵略を始め、今では世界の約半分が壊滅、もしくは支配されている。
おまけに大魔王は天界をも封印、神殺しまでもを成し遂げた。
そんな世界が恐怖と絶望に支配されそうな絶体絶命な危機を救うために結成されたのが、天界が封印される寸前で精霊達が力を振り絞り世界から集め、加護を与えられた
俺たちだ。
最も強く加護を受け、伝承の魔法を扱える勇者:ヨハネス。
パーティーの要、仲間を守る盾となり、ときには回復もこなすパラディン:ニシキ。
教会で最も癒しの力が強く、歴代最強の女僧侶:イライザ。
魔王討伐に参加し英雄と称えられ、かつて勇者の剣を作ったと言われる伝説の賢者:リディア。
パーティーの攻撃の要、あらゆる武器を使いこなし、素手ですら竜種を葬り去るバトルマスター:カヴァディ。
最後に俺。この中で唯一の竜の混血でブレスや闘気を利用して戦う竜騎士:ミシェル。
このメンバーで2年ほど前から精霊から啓示を受けた勇者パーティーとして大魔王軍討伐に乗り出し、支配された国々を救い、今では奪われた世界の内約7割を取り戻した。
それでもまだ魔物達は外を闊歩して人々を襲ったりしている。
前のように戻すには今の状況を維持し地道に討伐していくしかない。魔王軍と比べ大魔王の軍勢は明らかに上位の魔物が多い。魔王は恐らく尖兵として送られてきたのだろう。そんな中でも俺たちは多少時間はかかったが取り戻すことができ、人々に希望を持たせることができた。
この功績でパーティーは世界中からの称賛や尊敬を浴びた。
国々からの援助も少しずつだが送ってくれている。
だが、だがだ。
「ミシェル。キミには旅を始めた頃からその力に助けられた。
人間では難しいことや古代の言語を読めるキミに助けられてきたのも事実だ。
だが、異種族が居るゆえにこのパーティーが人間からも恐れられているのも事実なんだ。
これから先、魔物恨みを持つものも増えるだろう、その時にキミが魔物と間違えられ俺達が怪しまれたりするかもしれない。」
勇者ヨハネスが、そう言った。
魔物に間違えられ、人間に襲いかかられたり、国に信用してもらえなかったことはあった。
皆からしたら迷惑極まりないんだろう。
それにバトルマスターが竜の混血である俺の攻撃力を越え始めた。
もはや上位互換と言っても良いくらいにだ。
ならば異種族である俺が居ないほうが面倒が起こらない。
精霊によって集められ、人間が送られてくる中、俺が送られてきたとき人々は恐怖した。
まさか竜の混血が送られてくるとは思っていなかったのだろう。
この世界では人間が就ける職業は決まっている。
戦士や魔法使い等、職業によって取得できる魔法や特技、成長時の伸びる値が変わっている。
人生で職業を選べるのは一度きりで、それによってこれからの生活が変わる。
それによって国の上層部にまで格上げされた人まで居たくらいだ。
この世界で職業とは最も大切なものなのだ。
勇者パーティーのメンバーが就いている職業はほぼ上級職ばかりだ。
上級職は世界に数えるほどしか居らず、就ければ人生はもう安泰だ。
そんな中、精霊から俺に与えられた職業は竜騎士。
それは竜のもつ能力を使用できたり、竜との会話、かなりの耐久値や攻撃力、そしてなによりも圧倒的な防御力を持つ職業だ。
竜騎士は人間が就ける職業には入っていない。
だから伸びしろや特技も人間のものとは違い、初期ステータスも遥かに高かった。
それだからこそ俺は恐れられたんだろう。勇者パーティーとして旅を始めた最初はメンバー達は種族なんて関係ないと接してくれた。
高いステータスもあって、俺を越えるものは居なかった。
リディアのステータスをも越えていたのだ。
だから最初は頼られていた。「ミシェルは本当に強いなぁ」とヨハネス達にも慕われていた。
しかし旅を続け、皆が順調に強くなっていく中、遂に種族が違うということの恐ろしさを味わった。
魔物によって壊滅させられた村を通ったときに、村人達によってパーティーが襲われたのだ。最初の頃は皆も庇ってくれていたが、回数が増える毎に次第に仲間の態度も変わっていった。
村に入るときには俺は基本別行動で、夜は外で過ごすようになった。
ここからだったか、仲間からの視線が冷たくなってきたのは。
そうして出来上がったのが人間では扱えないスキルは持っているが戦闘以外では足を引っ張る混血のおっさんというものだった。
俺だって努力はした。
フードを被るなりして竜の特徴を隠し、村に入るようにしたり、
擬態の魔法を使い、人間を模してみる等工夫もした。
だがそれでもわかる人にはわかってしまい、少しでも変装や擬態に穴があると大事になり、それが近隣に広まるともうどうしようもない。
さらに言えば、竜の部分を無くす方法を探し回りもした。
リディアの知り合いの魔法使いに聞いたり、伝説の秘薬を取りに行ったりなどしたが全て徒労に終わったせいでパーティーの消耗も激しかった。
これ以上続けると旅にも支障が出てしまう。
それは最もいけないことだ。
これらのことから俺はもう勇者パーティーの足を引っ張るだけの
混血のおっさんだということを意味していた。
「ッ!……。」
俺はもう何も言えなかった。今にも涙腺が崩壊してしまいそうだった。
大魔王討伐のパーティーに精霊から選ばれた時はうれしかった。
こんな俺でも人の役に立てるかもしれないって思えたから。
うれしくて、体をはってまでパーティーに貢献してきたけど、最後に待っていたのは種族の壁だった。種族が違うだけで見限られたのだ。
俯いたままの俺をパラディンのニシキは申し訳なさそうな顔で見ている。
「…つまり俺が居ては支障をきたすから連れていけないと。
お前ら全員で判断したんだな?」
「……えぇ、そうね。そういうことよ。」
沈黙していたイライザが口を開きそう告げた。
侮蔑を隠さない顔で言っているところからコイツが一番俺のことを嫌っていたのかもしれない。
俺は深呼吸すると涙が出るのを堪えて彼等に一礼する。
「……これ以上、お前らに迷惑を掛けるわけにはいかないもんな。
今まで旅をしてくれてありがとうな。人と旅ができて俺は幸せだった。」
そうして旅の中盤。
これからと言うところで俺はパーティーメンバーをクビになった。
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