ある勇者と魔王の出会った時
「やっぱり、お前だったのか……」
「何のことだ、勇者」
勇者と呼ばれる者。
魔王と呼ばれる者。
「お前なんだろ、ガスト」
「違うな、勇者」
古き名。
村に置き捨ててきた名。
「私は魔王だ」
「ふざけるな!どうしてこんなこと!」
叫ぶ。
正しいと、そう、世界が認めるものが。
「私は、もうあの時の俺ではないよ」
「どういう意味だ!」
「お前だってそうだろう勇者!もうお前はヴァイスではない!」
「どういうことだ…」
「何故帰って来なかった?」
「……魔王の残党と戦っていた」
「それはお前でなければならなかったのか」
「……」
「力の弱った残党ならば、他の者でも大丈夫だったんではないのか!」
「でも俺は!俺はみんなのために…!!」
「…そう、それでいい。勇者のとして、お前はとても正しいさ」
だからこそ。
「その時点で、お前はヴァイスではなく、勇者になったのだ!」
「……」
「世界のためになら、1人の感情などどうでもいい」
「違う!」
「違わないさ!!現にそうなった。そうなっているッ!!!」
「ッ!!」
「友の一人も守れないで、約束一つ守れないでッ」
怒りか、悲しみなのか。
「何が勇者だッ!!!!」
ぶつかり合う剣と剣。
それは理想と現実もまたぶつかり合う場。
「俺は、1人でも多くの人を!!」
「あぁ!貴様は正しいよ!!! だからこそ、貴様はここで奈落に落とす!!」
「それで一体なんになる!!」
「後は同志達が、この世界に新たな色を着けてくれる! それでいい!それだけでいい!!」
「お前はどうなる!」
「そんなこと、どうだっていい!!」
「なに!?」
「今此処にいる同志達が、いつか心からの笑顔を浮かべれるなら、私はそれだけで満足だ!!」
「なんでその心を、もっと広く世界に向けれない!?」
「私は、お前等が思っているほど強くはないッ!!!!!」
破砕の音は世界の調律音。
「私は弱い。矮小で、醜い、愚かな男だ」
「……」
「だからこそ、私は私なりのやり方しかできん」
「ガスト……」
「言った。私は魔王だ」
「……」
「私怨だと笑うなら笑え。逆恨みだと怒るなら怒れ」
「……」
「レディアを恨むのは簡単だ。 だがそんなことも今はどうでもよくなってきた。
彼女に別れを告げるのは、彼女と今の同志達のためになるのかもしれない」
「戻れないのか」
「当然だ。同志達を思えばなおさらな」
「俺が……間違えたのか?」
「きりが無い。強いて言うなら“私達”が生まれたのが間違いだったのだ」
「……そうか」
「終わりにしよう。魔女も、騎士達も戦い続けているのだから」
「そう、だな……」
「何もかも真っ白に消せば、無駄に悲しむこともなくなるのかもしれない……」
ある勇者と魔王の出会った時、一つの命が砕けて散った