ある騎士達が嘆いた地
「オレ達は誰よりも自分らしくありたいと願ったのさ……」
騎士は自嘲するような笑みと共に吐き捨てた。
王族による政権と階級性に縛られた国。彼と魔女はそこを目指す最中、騎士団と出会う。
戦争で英雄となった彼らは、その戦争が終わると共に戦犯として国外追放の刑に処された者達。
「……それで?」
魔王はただ問うた。
「奴らはオレ達に背を向けた。戦いではなく、大切に思った者との静かな生活を望んだオレ達から」
大きく息を吐き。 手には力を。 目には諦めを。
「戦いしかしてこなかったオレ達は、それでも大切な者のため、その戦いを捨てようとした」
望まれたのは理想。 英雄と言う形。
自分自身に目を向けてはもらえず、ただ英雄と言う幻想のよりしろとして求められたことに苦しみ、足掻き。
戦いを捨てようとする騎士達を、王族は不要と切り捨てた。そして。
「オレ達が大切だと思った者達は、所詮王族に逆らうこともせず、オレ達を見捨てた」
恋人。妻。友。様々。
騎士は泣く。 ただ、1人の人間として。 泣く。
「ようやく見た光は、所詮幻か……」
魔王は同情はしない。 ただ、事実を事実としてみる。
「オレ達は……弱かった。それを忘れていた。 結局はやっとの思いで捨てたものを又拾い、それに縋って生きていくしか出来ない」
過ち。
誰かのために、大きな何かを捨て、 誰かに裏切られ、また拾う。 そして、結果、己を傷つけて。
「悔やんでも、何も変わらん」
魔王は騎士に優しい言葉はかけない。 無駄だから。 何も変わらない。 自分の言葉は何も変えてはやれない。 変えれるのは、騎士の心の中にいる大切なだれかだけ。
「人は勝手だ」
魔王は知っている。
一人の少女と出会い、人の汚さを憎んで。
一人の青年と出会い、世界の狂いを知って。
一人の魔王と出会い、意志の移ろいを感じて。
己の考えを確信した。
「オレは……」
「本当のお前は何処にいる?」
「本当のオレ……」
「人に求めるな。己に求めろ。他人など当てにするな。総て自分に求めろ、他人へ期待するな。総て己のせいだと思え」
信じられるのは所詮己だけ。
「どうせ裏切られ、失望させられる。過度に期待して、されて、どこかでその期待を壊しあう」
たとえその気があろうと無かろうと。
「何かを知って、何かに気づいて、何かを思い出し。 何かに惹かれ、何かに恐れ、何かを嫌い」
人などムラのある生き物でしかなく。
「理想を抱き! 理想に溺れ! 理想に出会い!」
過去に手にした理想を掲げ
「今を苦しめ! 今を傷つけ! 今を蔑ろにする!!」
こんなちっぽけな世界で
「絶対的な物などない世界で!なぜ己の欲のみ求める!?」
答えなどありはしない。 否、人間に解することなどできはしない。
「世界を眺め、自分より幸福な誰かを見つけると、私は不幸ですと泣き喚く!! 己の横で唇をかみ締め、涙を堪える存在に見向きもせず!!」
歯軋り。
「目の前で泣くことさえも己に許さない者がいるというのに!」
誰もが動きを止めていた。 騎士も、その仲間達も。 魔女となった一人の少女も。
「富があれば偉いのか!? 名声があれば偉いのか!? 生まれたのが早ければ偉いのか!? 家族が揃っていれば偉いのか!? 健康であれば偉いのか!? 誰かの理想が偉いのか!?」
誰も答えない。
「ならば、富がなければ愚かなのか!? 名声が無ければ意味のないことなのか!? 生まれたのが遅ければ、泣いて諦めるしかないのか!? 家族がいなければ、蔑まれるのも仕方ないのか!? 病気ならば、死ぬのを待つしかないのか!? 誰かの理想になれない人間は、苦しみあがくしかないのか!?」
答えられるわけも無い。
「そんな勝手、認められるものか!!」
誰もが、叱られる子供のようで。
「光など所詮は一時の物に過ぎん!! いつか小さくなり、その光の弱さに苦しむ!!」
見えて、感じて、だからこそ苦しみ。
「ならば捨ててしまえ!苦しむくらいならいっそ捨ててしまえ!!」
ただ、
「己のために生きろ!! 他の誰でもない、自分だけのために生きろ!!」
知ってしまった事実。 変えがたい、運命。
「そして創れ! 己のための世界を!」
最早、目の前の者達は敵ではなく。
「富や名声、生まれや種族、人に差をつける台など必要ない!! 理想や力、運命や血筋、人を傷つける枷も必要ない!!」
ただ、その目に映るのは、未来の王。
「世界を一色に、生まれながらの差などない世界に!!」
男は往く。
「他者に求めず、己に総てを求める世界に!!」
郎等は連なる。
「本当の自分こそが、最も求められるべき世界を!!」
それこそが。
「俺が目指す世界だ!!」
高く宣言する。
「俺は、いや、私は、いつかこの世界を去るだろう! 奈落に落ちるか、新たなる道を見つけるために!!」
嘘は無い。
「よって、お前達の理想にも、拠り所にもなれん!! それでも、それでも創りたい世界があるなら!! 叶えたい何かがあるなら!! 着いてくるがいい!!」
それだけのこと。
「お前達の願いを叶えてやることも、手伝ってやることもできん! だが、望む世界が同じならば、同じ方向を向いて往けるだろう!!」
他者ではなく。 己のために。
「私はお前達を利用しよう! だからお前達は私を利用しろ!!」
手を借りるのでなく。 利用し合い。
「さぁ、悩め! お前達にはその権利があるのだから!!」
答えは決まっている。 だが、問うのだ。 なぜなら、
「お前達は自由なのだから!!!」
響くは“応”の怒号達。
ある騎士達が嘆いた地で、魔王軍が産声を上げた。