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セブンスコード  作者: 鳥島飛鳥
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2話 『炎の守護者 グレン・ホタル・シックス』(1)

 

 俺はひとりで怜奈のマンションの一室の前に立っていた。

 ここには少女を閉じ込めている……それだけ聞くと犯罪臭がやばい。

 怜奈の魔力をほぼ全てを使い、魔力防壁を施しているので、外からも中からもこじ開けるのは難しい。さらには今の少女は能力を使うことができない。

 それでは怜奈の魔力を突破するのはほぼ不可能だろう。

「……怜奈。開けてくれ」

 ガチャ。

 小さく呟くと、ひとりでにドアが開く。怜奈がマンションの能力で俺の言葉を聞き、ドアを開けたのだ。

「ほんと……いい能力だよな……」

 俺はため息を付きながら部屋に入る。

 部屋には電気もついておらず、ここは元は空き部屋なので、家具もベッドが一つだけだ。

 そんな殺風景な部屋で、少女はベッドの上にちょこんと座っている。

「……何故。殺さないのですか?」

 少女は静かに感情のない無機質な声で呟く。

 少女の名前は『グレン・ホタル・シックス』。俺が倒したセブンスコードのひとりだ。

 彼女はドラゴンを召喚し、自在に操ることができる。

 それはミセとは違う『世界を亡ぼす力』。

「俺は元々ひとりも殺す気なんてない」

 これは本心だ。

 俺はもう既に人を殺している。殺した先にあるものを知っている……。

 それを再びあじわうなんて、絶対にごめんだ。

 だが――甘いことを言っていられないのも事実だ。

 この世界は戦争を始めた。それも世界を亡ぼす力を使ってだ。そこに国際法も、何もない。ただセブンスコードを奪い合う純粋な殺し合いだ。

 ……ミセを連れて来なくてよかったな。なるべくあいつの前では生臭い話はしたないし。怜奈には能力で聞かれているけど。

「だけど……お前を野放しにできないのも事実だ。お前は知り過ぎた」

「……」

 そう。グレンは知り過ぎた。俺と怜奈の能力、ミセの『弱点』。それは他のセブンスコードに知られれば致命傷になる。

 俺の目的は『セブンスコード全員を支配下におく』ことだ。そうすれば俺の死具で、世界を亡ぼす力なんてものはなくなる。

 そうすれば――ミセは本当の意味で自由になれる。

 その為の障害を見逃すことなどできない。

「私はお兄さんに負けました。敗者には何も言う資格はありません。それに私ではお兄さんの魔力は外せません」

 グレンは悟りきったように言い切る。もう――諦めているのだ。自分の命も人生も。

 俺よりも歳がだいぶ離れている少女が、そうしなければならないほどこの世界は過酷だ。そうだ。定石通りだったら、リングの効果が利いているのを利用して、情報を引き出せるだけ引き出して、殺す。

 今の俺にはそれができる。でも――。

「グレン。お前いくつだ?」

「歳のことですか? ……十四ですが……」

「十四って中坊じゃねぇか。そんなんで悟りきるなんて百年早い」

 俺はあることを決意し、天井を見る。どうせあの覗き魔は見てやがる。

「おい。怜奈。この部屋に回している魔力を解け。こいつを自由にする」

「えっ……お兄さん、今なんて言いました?」

「なんだよ。もう一度言うか? お前を自由にする。あ、もちろん力は縛ったままだからな。あんな力はない方が良いだろ?」

 グレンの表情が変わり、戸惑いが顔に張り付く。そりゃそうだ。敵を逃がすって言っているんだからな。

『はーいはーい! 怜奈ちゃんでーす』

 頭に響く様な怜奈の声。

「あなた……正気ですか? 私はセブンスコードですよ? 私を逃がせばガストのお姉さんを殺しに来ますよ?」

「お前らの世界の常識を俺に押し付けるな。それに……そうなれば返り討ちにすればいい。別にお前を信用している訳じゃない。俺は俺の力を信用しているだけだ」

 簡単な話だ。というか俺はこういうシンプルな話ししかできない。策謀とか正直苦手だ。うんざりする。やっぱり俺は暴れまわるのが一番楽しい。野蛮人だと言われればそれまでだが……。

「……」

 グレンの警戒するようなまなざし。まっ当然だよな。

「罠だと思うか? というか罠だと思ってるだろ?」

「……それを疑わない人は世間を知らな過ぎます」

 こいつ中坊の癖に言うな。

「なんとでも言え。これはもう決まったことだ。お前はどこに行くかでも考えておけ。国に戻るでも、ひとりで旅をするでも好きに――」


「なら、私たちと旅をしない?」


 後ろから聞こえる凛々しい声。おい後ろの奴、今なんて言った?

 俺の耳がおかしくなければ、頭のおかしいことを言い始めた様な気がしたが……。

「ミセ。何でお前がここに居るんだよ」

「リュウジがなんかコソコソしてたからね~。後を付けちゃった♪ 大変だったのよ? あなた感知スキル高いから、魔力で潜伏して、それからレイナの監視もかいくぐって」

「……こういうことには努力を惜しまないよな……」

 いつもはめんどくさがって頼んでも動こうとしないのに。

「ミセ・ガスト・ワン……どういうつもりですか?」

「どうもこうも言葉通りよ? グレンは私たちとセブンスコードを倒す旅に出るの。そして――旅が終わったあかつきには私たちは自由になる。最高じゃない?」

「……正気ですか?」

「ええ。正気も正気。グレン。あなたはリュウジが提示した選択肢どちらを選んでも死ぬことになるんじゃない?」

「……」

 否定はしないか……。まっ。セブンスコードの力を失い、国に帰ったらいい結果にはならないよな。旅に出てもいずれは捕まってしまう。

 そうすれば――最後には死だ。

 俺はそうなる可能性も考慮したうえで、グレンを解放しようとした。

 そこまでは責任は取れないし……俺はミセを傷つけたグレンが許せなかったんだ。

「……でも、本人がむちゃくちゃ言うんだもんなぁ~」

「私は……ドラゴンを使役し……何人も殺しました。そんな私を仲間にするのですか?」

「……」

 俺は正直抵抗がないと言えば嘘になる。

 だが――ここでグレンを仲間にするのはなかなかの妙案だ。

 戦力的にはお釣りがくるレベルだし。俺が縛る力を調整する必要があるけど。

「俺も聞きたい。ミセ、お前はいいのか?」

「そんなの全部戦争が悪いわ。私たちは何も悪くない」

「……」

「……こいつ馬鹿だ」

 唖然とする俺とグレン。完膚なきまでの開き直り。こいつ清々しいなぁ~。いい意味で真っ直ぐだ。

「戦争がなければグレンは殺しなんてしない。根拠はない、ただの感だったけどね~。でも、今のグレンの目を見て確信したわ。『やっぱり戦争が全部悪い』」

 自信満々で馬鹿なことを言っているミセを見ていると笑いが込み上げてくる。

 こいつ大真面目に馬鹿なこと言ってやがる。

 ミセが言う通り、根拠はない。こいつそのうち『人類みんなぐーたらしよう』とか言い出すぞ。

「あはははは。確かにそうだ。ミセ。お前やっぱり馬鹿だろ?」

「あら? 馬鹿な方がめんどうじゃないでしょ? 私はグータラに過ごしたいだけなの。力の大半を縛られているとはいえ、グレンはセブンスコード、戦力としては十分。私が楽ができるじゃない」

 ミセは笑顔で答える。その笑顔に暗さはない。

 どんなにくだらなくても、どんなに馬鹿らしくても、『楽しく』。これがミセの信念なんだろう。

「怜奈はどう思う?」

『……怜奈ちゃん的には――いいんじゃないかな! グレンちゃん可愛いし!』

「お前は面白ければ、なんでもいいんだろ? ミセとは違う意味で狂ってやがる」

『怜奈ショック! ち、違いますよー? ただ面白い方がよくないですかぁー?』

 なにも考えてない様な口ぶり。

 だけどなぁ。怜奈は……ただの馬鹿じゃないから性質が悪いんだよな……。短い付き合いだから、まだ何とも言えんけど、多分俺らの中で一番頭がキレる。

「はぁ。うちのチームは馬鹿ばっかだ。俺を含めてな……。さあ、どうするグレン?」

「私は、大国レインディアのセブンスコードです……」

「俺はセブンスコードのグレンとしてではなく、グレンに問いかけている」

「……」

 グレンは口を閉ざす。グレンは顔にでないので、感情が読みずらいが……ミセと同様に世界を亡ぼす力を持ちながら、人間ぽさがある。

 ミセは自分の力を背負えるほど強くない。それは人間として誇っていいことだ。世界を亡ぼせる力を平然と使える奴は人間として欠陥だ。

 そして――グレンからはミセと同様の空気を感じる。グレンはセブンスコードであることで人生を狂わされてしまったのではないか? 自分を兵器だと割り切り、大義名分の元に力をふるう。

 機械だ。ただの機械。そうなるしか――自分を守れなかったのではないか?

 あくまで感だが……そんな気がしてらない。

「私に情けを……かけているのですか?」

「そうかもな。はぁ……殆ど知らない人間を同情なんて……いよいよ考えが甘いな。だけどそれでいいじゃねぇか。世界が殺伐としてるからって、俺らまで殺伐とする必要はない」

「……」

 グレンの口に笑みが浮かぶ。グレンが笑うところを初めて見た。それは可愛い笑顔で、とても悲しい笑顔。

「……自由ですか……そんなこと考えたこともなかったです」

 それはグレンが初めて見せた人間らしい感情。

 そう。どんなに粋がっても、兵器になっても、こいつは十四のガキなんだ……。

 ミセが言ったことは的を得ているかもしれない。


『戦争が全部悪い』


 本当にそう思う。

「グレン。いいんだ。もう自分を殺さなくて。お前は自由だ。セブンスコードの力は全部俺が引き受けてやる。だから――どうしたいかはお前が決めろ」

「……はい。どうせ私に選択肢はないです。お兄さんたちについていきます」

 全てを諦めた様な言葉。

 グレンは俺の言葉に流されている……。確かに選択肢はない。だけど、自分の意思を貫けば取れる行動もある筈だ。

 だが、グレンはそれをしようとしない。

 ……これからだろう。これから、自由さえ手に入れれば、こいつは自分の意思で、人生を歩むことができるかもしれない……。


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