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セブンスコード  作者: 鳥島飛鳥
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1話 『プロレスラー豊田竜二』(1)


 当たり所が悪かった。

 理由はそれだけ……本当にそれだけなんだ……。


 現在の職業ニート……元プロレスラー。豊田竜二、二十二歳。

 試合中に人が死ぬという、大事件を起こし、プロレスを大々的に、クソ引退をしたのが二年前。人間という生き物は上がるのも早ければ……落ちるのも早かった。

 タイトルを総なめにし、チャンピンにまでなった。

 だが、栄光は過去のもの、昔プロレスで荒稼ぎした資産を食いつぶすだけの社会不適合者の俺様。まじクズ……。

 今日もいつも通り、ボロアパートで昼過ぎまで寝て、起きたら二日酔いの頭で、コンビニで買ったビールで喉を潤し……未練がましく筋トレ、終わったら今度はバーボンやラム酒など度の高い酒を酔いつぶれるまで飲む。次の日もまた二日酔い。ちゃんちゃん。

 クズの一日だ。今日もそんな変わらない日を送る――筈だった。


   ◇◇◇


「……な、なんだ? こ、これは――」

 目の前の幻想的な風景に言葉を失う。

 今俺が居るのは崖の上だ。そこに座り込んでいる。

 ここから見える風景は常軌を逸していた。常識的に考えてありえない。とうとう俺は狂ってしまったのかと疑いたくなるレベル……。

 薬とかには手を出していない筈なんだが……酒に関してはアル中一歩手前だけど。

「……これ幻か?」


 見たこともない怪鳥が飛んでいる。

 見たこともない電波塔並みに巨大な大樹がある。

 見たこともない青色の月が空に浮かんでいる……それも2つ。

 翡翠色の泉があり、赤い木々の森がある。


 おかしい。ここは俺のいた世界じゃない。それが見れば一発でわかる違い。

「あなたいい反応するわねぇ~。それでこそ膨大な魔力を支払って召喚した甲斐があったってものよ」

 俺の横に美少女が立っていた。

 歳は俺よりも下で、十代後半ぐらいだろうか? 日本人離れした赤い瞳に金髪。

さらには黒を基調とした服は日本では見ない独特なデザインだ。パーティで着るドレスに雰囲気が似ている気がする。

 そして、スカートから見える白く長い脚が彼女の美しさに拍車をかけている。

「それにしてもさすが私よね~。あなたの潜在魔力Sランクじゃない。くすっ。極たまーに、本気出すとこれだもん。『オマケ』まで豪勢なのがついて来ちゃったし」

 少女は悪戯っぽい笑みを浮かべながら俺を見る。その態度は友好的だ。

 だが、まるで自分の気に入っているおもちゃを見ている様な――そんな視線な気がする。

 しかし……可愛いな。本当に可愛い。その外国人ぽい容姿で流暢な日本語を話すのは違和感があるが、とにかく可愛い。

さらに普通の人間にはない妖艶さみたいなものを感じる。

「ん? どうしたの? 私の顔を見つめちゃって……あっ惚れちゃった?」

「い、いや。ガキになんか惚れねぇし」

「あー失礼っ。私そこまで子供じゃないんだけど~」

 少女はそうは言うが大して気にした様子もない。どうやら細かいことは気にしないタイプらしい。年上好きの俺だが、その余裕は好感が持てる。

「うーん。召喚は私の好みがそれなり反映されるから、心配してなかったけど……うん。いい感じ。よかった。とんでもないのが召喚されたら目も当てられなかったし」

「お、おい。ち、近いって、ど、どういう意味だよ」

「うん? 恋愛~恋~ロマンチック~っていうのは女の子としては憧れるじゃない? っていうお話。私今まではそういうのとは無縁だったし、興味もなかったから」

「そ、それより、オマケってなんだよ……?」

 少女が顔を近づけてきて、それに動揺してしまう。

 さすがは女性経験値の少ない俺。思わずどうでもいい話題で誤魔化してしまった……。

「くすっ照れちゃった。ほら、後ろ」

「後ろ……?」

 少女に言われた通り後ろを向く。

「すっー……すっー……むにゃむにゃ」

 そこには高校のブレザー型の制服を着た、長い黒髪の少女が可愛らしい寝息を立てながら幸せそうに寝ていた。

「こ、こいつは……」

 俺はこの少女に見覚えがある。

 ドス黒く……苦い記憶。恐怖の塊。それはこの奇怪な世界で目を覚ます前の記憶。

 俺はこの少女と共に――殺された筈だ。それがここに来る前の最後の記憶。

 いや――殺されたんじゃない。俺がこの少女を巻き込んで殺してしまった。

 人生でふたり目の俺が殺した――人間。それが目の前の少女だ。

「……くっ」

 胸糞悪い記憶に思わず吐き気がする。記憶は最悪だ。


『お前なんか! お前なんか死ねばいいのよっ!!! この人殺しぃぃぃぃぃぃ!!』


「……」

 クソみたいな記憶だ。自業自得で因果応報。いくところまでいったクズだ。本当にどうしようもない……。

「俺は……俺たちは『死んだ筈』……うぅ」

「そうね。あなたたちは死んだ」

 今まで明るかった少女の顔に影が差す。どうやら俺たちの死に感じるものがあるようだ。

 だが今の俺には少女の様子を気にしている余裕はない。

 死んだんなら何故俺たちはここに居る……? そして――。

「お、俺たちは何故生きている?」

「それは私があなたたちを生き返らせたから。まっ、違う『世界』にだけど」

「はっ……?」

 サラッととんでもないことを言う少女。

 思考が回らない。頭の中は真っ白だ。このポンコツの脳みそはもう少し働いてもいいと思う。今はかけ算すらできなさそうだ……。

「私は『ミセ・ガスト・ワン』。世界を亡ぼす力を持った原初の存在。『セブンスコード』のひとり。ネクロマンサーよ。よろしくねっ」

「……」

 よくわからん世界でよくわからんことを明るく楽しそうにほざく少女。

 どうやらこの現実は常識を逸脱しているらしい。

「すっー……すっー……んん。きょうはひるまでねるぅー……むにゃ」

「……」

 俺の後ろで、幸せそうに寝言まで言っているこいつが羨ましくなった。

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