4話 朝、それは始まり
ミリアードより昔の英雄の話を聞いた理子。
ミリアードたち騎士団と同じ宿屋に案内され泊まることに。
朝起きると、私の上に誰か?
「・・・きろ。起きろ」
いつものベッド、いつもの部屋、カーテンの隙間から暖かな太陽の光が射し込んでくる。そんななかいつもと違う声がする。
「お母さん・・・?」
「おいおい、俺のこと忘れちまったのか?」
体が重い。何か乗ってる。思春期になり少し低くなった声がそこから聞こえてくる。
「ほら、起きろ。朝だぞ」
顔を近づけて来る。いいにおいがする。
ゆっくりと目を開けてその姿を見る。
褐色の肌。整った鼻。少し朱色に染まった頬。ぱっちりと開いたオレンジ色の目。少年にも見える丸い童顔。
「あぁ・・・。王子様・・・」
「む?私は王子じゃないが?」
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえてくる。パチパチと瞬きをする。
「・・・」
「・・・」
目の前には、褐色の小柄な少女。
「おはようごさいます。チャナ」
「お、おう。おはようリコ。さっきの王子とは・・・」
「あー!いい朝だなぁ!」
理子は顔を赤くしてチャナの質問に被せるように言い、背筋を伸ばす。上に乗っていたチャナは背中からベッドに倒れる。
「いやーよく寝たよく寝た!さぁ今日の朝ご飯は何かなぁ!」
ベッドから勢い良く立ち上がり、近くのテーブルに置かれた着替えに手を伸ばす。
チャナはベッドに座り、理子の慌てぶりを気にしつつも聞きはせず、理子の着替えを眺めながら、朝ご飯という単語に反応した。
「今日はパンとシチューだ。・・・細いな」
「・・・食が?」
「いや、リコの体が、だ」
理子はミリアードに渡された、村の人たちが着ていた布で出来たワンピースに頭から着て袖を通し、振り返ってチャナを見る。チャナはほとんど下着に近い、体にぴったりとくっついたスポーツブラとスパッツのような服を着ている。彼女たち曰わく鎧の下に着る正装で、魔術の糸で出来ており、汗をすったり、伸縮性が高く体の動きを阻害しにくい、とてもすごい服らしい。そんな服を着ているためチャナの体のラインがそのまま見える。騎士団に所属しているからか体はがっちりとしている。身長は理子の方が高いが、腕や足はチャナのほうが圧倒的に太く力強いように感じる。
「ほんとだね」
理子はチャナの隣に座り、チャナの腕と自分の腕を比べる。
「大変じゃないか?そんな細かったら」
「そんなことないよ。こっちみたいに魔物とか出たりしないし」
そう言うと、チャナの顔に陰りが見えた気がした。
ここは、私の住む世界とは違う。魔物が住んでるし、多くの人が魔物に殺される。そういう世界。
「ごめんなさい!そんなつもりじゃなくて・・・」
「いや、別にいいのだが。羨ましいな」
羨ましい。その言葉は理子の心に強く響いた。
ミリアードから、王都に行き理子についてを王都の人達に任せるか、ミリアードの騎士団に身を預けるかという二択を迫られ、理子はミリアードを選んだ。その方が、今すぐの身の安全が保証されるからだ。そして、今のこの世界についてと騎士団に置いてくれる理由を聞いた。ここアテアノス大陸にはいたるところに魔物が住み着いており、人はそこから離れ、暮らすようにしている。魔物をすべてを倒すことは出来ないようで、それはこの大陸が出来た頃から変わらないらしい。英雄の伝承にあった、魔王と英雄。その出現には、私が来たときと同様、空間の変異による歪みがあるようだが、これ自体は魔物のいる場所ならどこにでも起こりうることである。この変異による歪みが魔物を生み出しているのではという説もあるくらいにだ。だから、私がその魔王や英雄でない確証がない、または害を与えるもので無い限り、ミリアードの騎士団は私を置いておいてくれるようだ。
「さぁ、朝ご飯を食べに行こう。もう皆起きてる」
「うん」
理子とチャナはベッドから立ち上がり部屋を出る。
ここはパリアスという村にある大きな宿屋。今はミリアードの騎士団がほとんどの部屋を借り泊まっている。
チャナは、私が隠した特異な力で操られても対処できる監視役、という名の遊び相手だ。ミリアードが、「ただ騎士団にいても暇だろう?チャナと遊んでおいてくれ」と私の部屋に連れてきた。騎士団内に姉がいて、その姉に無理やりついて来たのがチャナだ。といっても戦う力は十分に持っていて、身軽さを生かした戦闘を得意とするみたいだ。ほとんどが18歳を超えた、こちらでは、成人なのだが、チャナはまだ14歳。子供だ。素直で、いたずらをすることはほとんど無いが、好奇心旺盛で、知らない事、特に私の世界のことについて強く興味を示す。
まぁ、でも。可愛い妹が出来たみたいで。今の私としては、チャナと話してる時は、心が安まるというか。
2人は部屋を出て、一階にある食堂に入る。そこにはすでにミリアードさんたちがいた。チャナはその姿を見ると、一目散に駆けていった。
「おはよう!ミリアード」
「おはようございます。ミリアードさん」
ミリアードは抱きついてきたチャナを撫でて、挨拶を返した。
「あぁ、おはよう。チャナ、リコ。昨日は良く眠れたか?」
「はい。チャナが側にいてくれたので」
言うと、チャナはミリアードを「えらいだろ!」と言いたそうな、満足げな表情で見る。そんなチャナを再び撫でると理子の方をチラリと見て言った。
「・・・ホントは、私が隣にいっても良かったのたが・・・」
それに対して理子が、アハハと愛想笑いする。
「まぁ。いきなり、私だけの妹に!なんて言われたら警戒するよな」
テーブルに座ってパンを食べていた、レリアという女性騎士がミリアードにそう言った。レリアもミリアードもチャナと同じ騎士の正装とやらを着ている。
レリアは、赤色の短い髪に、細く鋭い目。体つきはチャナよりも圧倒的に大きく威圧感があるのだが、明るい笑顔と、優しい性格、姉御と呼びたくなるような、包容力がある。
レリアの言った通り、理子は少し、ミリアードを警戒している。助けて貰ったことには感謝してるけど、妹はちょっと・・・。
「別に、痛いこととか、イヤなことをするつもりはないんだぞ。ただちょっと・・・、抱きつかせてもらえればそれで・・・」
そんな大きな体で抱きつかれたら壊れちゃうと思います。
理子が少し引いていると、チャナはミリアードを慰めるように言った。
「ほらミリアード。私を抱けばいい。私ならウェルカムだ」
「うぅ。チャナ・・・」
抱き合ってる2人をよそに、レリアは私に話しかけてきた。
「まぁ、あんな人たちだけど。リコにひどいことしようとする人はいないから。どこから来たか分かるまで、騎士団でゆっくりすればいいさ」
理子は笑って、「はい」と返事をして言った。
「悪い人じゃないのは分かりますから」
身分の分からない人に、寝る場所を与えたり、着がえをくれたり、小さな子を側においたり。そんな人たちを疑うような性格はしてないし、疑いたくもない。
チャナが、ミリアードを慰めるのに成功したのか、理子の方に来て、ご飯を取りに行こうと言った。2人で食堂のカウンターにご飯を取りに行き、レリアの近くの空いてる席に持って行き、食べ始める。レリアは微笑ましげに2人を見て、ミリアードはその場にいる騎士団の皆を眺める。そして、二度手を叩き、皆の注意を集めた。
「我々はこれより、調査及び魔物討伐のため、ヘリエスへと向かう。出発は午後1時。それまでに準備を済ませておくように」
食べ終わった者の何人かは食堂を出て行き、その他の何人かはゆっくりと食事をとっている。その違いが理子には分からなかったが、とりあえず、午後に新しい場所に向かうということは分かっているので、チャナにヘリエスについて聞いた。
「ヘリエスってどんな場所?」
「ヘリエスは普通の大きな町だ。近くにたくさん花が咲いた丘があるくらいだな」
お花畑かぁ。と理子が考えていると、ミリアードが近づいて来て私に言った。
「リコも準備をしておけよ」
「準備?」
なんのこと?と首を傾げると。
「もちろん、探索の準備だ。その格好で出発したら痛い目みるぞ」
たしかに服とかないし、いろいろ必要な物はあると思うけど。
「探索って?魔物がでるのに?」
「魔物と戦えとは言わん。だが、ただ飯食らいは許さんぞ。働かざるもの食うべからず、と言うだろ」
なんでそんなことわざ知ってるんですか?とは聞けず、ただ、いろいろな危機感を覚えた。
魔物がでるかもしれない場所、探索、準備。
「やっぱり、嫌な予感がするんですが・・・」
「もちろん、今から王都に送ってやってもいいが?」
ミリアードは笑顔で答えた。
「私たちとしても、その方が身軽になるからな」
「全力で働かせていただきます」
それしかないようで。
ミリアードの騎士団の動き始めた私。
果たして、帰れる日は来るのか?
ヘリエスへと出発したミリアードたち騎士団。
丘に咲くきれいな花に浮かれる理子に探索の指示。
果たして理子は無事探索を終えられるのか!
次回、訪れなかった争乱。
の予定。(予定は未定)