3話 語り、騎士団へ
約440年前。アテアノス大陸北部、テリテン国。
巨大な空間の変異による歪みが発生。テリテン国軍が調査を行うと、25人の兵士が連絡を絶った。次いで100人の兵士が戦闘用の装備にて調査を行うと、またしてもその多くが連絡を絶った。当時は、現在のような通信技術は無く人が移動して連絡を行っていた上に、最速の移動手段が騎馬であった。さらにテリテン国はアテアノス大陸の中でも小さな国であったため、周辺国に援助を求めたものの、それらが到着するまで半年近くかかってしまった。
アテアノス大陸中央部に位置する南北を山、東西を海に囲まれた巨大な独立国アストラルが、テリテン国に調査団を派遣したところ、テリテン国兵士による攻撃を受け、30人近くが殺害された。それ以外の国の調査を行った部隊もテリテン国兵士より攻撃を受けた。被害を受けた部隊は、「テリテン国の兵士は怪物だ」と言った。
その原因は、テリテン国に現れた1人の人物。魔王を名乗る人物によりテリテン国は制圧された。1人も抵抗することなく、兵士から国民、そのすべてが魔王に従った。それだけの力が魔王にはあった。
今でもその力は謎だが、いつも魔王の側には1人の女性がいたという。
魔王はテリテン国の兵士を操り周辺国に戦争を挑み、時には自ら最前線に立ち戦い続け、5年と経たない内に大陸北部を制圧。中央部と南部で、その魔王に対する特別軍を編成。アストラル国北部の山岳部にて防衛戦展開、その戦いは短い激しさと長い膠着を繰り返し、10年近くに及んだ。
今から420年前。アテアノス南部、キューレン国にてテリテン国の時のと同様の歪みが発生。テリテン国と同じ結末を予期したキューレン国は早々に南部の大小様々な国に停戦、及び救援を求めた。
キューレン国に出現した特異な力を持つかもしれない人物は、自らを英雄と名乗り、キューレン国を占領することなく、交渉を行った。キューレン国に出現した人物はテリテン国に出現した人物に心当たりがあるとし、その身柄をアストラルに預け、関係のない人には一切手を出さない事を約束し、テリテン国へ魔王の謁見のため向かった。
テリテン国の魔王は、キューレン国に現れた人物が、自分に似た人物で合ったことを知るとすぐさま自分のもとに呼び寄せた。英雄もそれに答え魔王のもとまで向かうと、2人は密談を開始。その内容は今も分かっていない。たが魔王に対しテリテン国周辺の解放を求める旨の話をしていたという噂がある。
しかし、密談、という名の交渉、は失敗し、英雄はアストラル国まで撤退、魔王は再び大陸制圧を開始した。
英雄は魔王と同様側に女性を置き、特異な力で魔王の軍を制圧していった。魔王の軍を押し返す毎にアストラル国より南下の国が英雄に追従。魔王の軍をそのままの勢いで大陸北部に押し込んでいった。
こうなったのはおそらく、魔王の持つ力よりも、英雄の持つ力の方が優れていたからと言われている。英雄は魔王に従っていた兵士たちを、統率のとれた混乱から正気に戻すように、元のテリテン国兵士に戻したという。
その最後はあっという間で、北部の巨大な城に立てこもっていたものの、兵士は英雄の前では無力であったために何も出来ず、抵抗してきた少数も南部の国軍により制圧された。さらに北部に逃げた魔王は、元々貴族の住んでいた洋館に立てこもったが、英雄はその洋館ごと魔王を焼き尽くした。
その後、英雄は魔王が消滅したことを察すると、自らも消滅した。
こうして、テリテン国含めた北部の国は魔王の支配から放たれた。しかし、南部への被害は大きかったため、南部は北部に対し賠償を求めた。北部は、魔王による被害のため、すべては魔王の責任、として賠償には応じなかった。これがアストラル国を巻き込んだ南北の戦争へと発展していったが、それはまた別の話。
「まぁ、ざっとこんなところだな」
ミリアードは満足したようにイスに深く座る。
長い・・・。かれこれ一時間くらい話してた気がする・・・。
理子はココアを少しずつ飲みながら、時に周りを見つつ、話を聞いている振りをして終わるのを待っていた。
「で、えーと。その英雄が私かも?と」
「その可能性は低いと思うがな。その特異な力とやらもないのだろう?」
理子自身には全く自覚がない。
まぁ、特別な力とか憧れるけどね・・・。俺はこの力でみんなを守るんだ!とか。窮地に陥った味方の元に颯爽と現れ、女神様からもらった魔法とかで味方を救ったりとか。
理子はそんなことを頭の中に浮かべて、消していく。
・・・ないない。
「それで私・・・。これからどうしたら?」
ミリアードは、忘れてたと言わんばかりに「あー」と言い、空を見て何かを考えた後、「とりあえず、王都までくるか?」と言った。
「良いんですか?いきなり言ったらひどい目にあいそう」
「そりゃあ、いきなり行ったらな。だが、リコは歪みによって現れたかもしれない人物だ。それを説明すれば、王都には入れるだろう。その後は知らん」
「ちょっと!」
二度目のピンチである。いきなり変な場所に来たと思ったらゴブリンに襲われ、助けてもらった女性に王都に連れて行かれその後は捨てられる、と。話の感じからして、魔王や英雄の持つ特別な力については良く分かっていないみたいだし、最悪の場合、実験の対象とか、奴隷とかに。
「安心しろ。もう一つ案もある」
「それは!?」
理子は身を乗り出しミリアードに迫った。
ミリアードは満面の笑みで答えた。
「私たちの騎士団に入る。具体的には、私だけの兵士になる」
「どっちも嫌な予感しかしないんですけど・・・」
果たして、理子の運命やいかに。