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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

犬猿の仲な二人




ファミレスの一角に険悪な空気が流れていた


「なんでアタシがこんなお子様のお守りをしなきゃなんないのよ……」


短い黒髪ポニーテールをした少女がメロンソーダを飲みながら嫌味を溢す


「それはこっちのセリフです。いい歳してメロンソーダですか」


それに対してブラックコーヒーを飲んでいる長い茶髪のツインテールをした少女が反論する


「あら?ブラックコーヒーが飲めれば大人だと思ってるの?身長と一緒でまだまだ中身もお子様でちゅねー」


「そうやっていちいち突っ掛かってくる貴女もお子様だと思いますが?」


「はぁ!?アンタ馬鹿にしてんの!?」


「馬鹿にしてるのは貴女のほうでしょう!?表に出なさい!」


二人の少女は立ち上がり胸ぐらを掴み合うが


「お客様!他のお客様に御迷惑になりますので自重してくださりますようお願いします!」


場慣れしたウェイトレスに窘められすごすごと座る




ポニーテールの少女の名は楓、大学一年生

ツインテールの少女の名は柚子、楓より二歳下で高校二年生


この二人は仲がよろしくない

寧ろ、犬猿の仲と言えるだろう

楓と柚子が初めて出会ったのは楓の親友、かつ恋する相手の蜜柑の家を訪れた時だった

楓は帰宅した蜜柑に颯爽と抱き着き姉に見えないように欲情した顔をする柚子を見て敵だと認識し

柚子は姉に必要以上に近づきあわよくば身体接触を試みている楓を姉につく悪い虫と認識した

楓と柚子は互いに互いを恋敵と認識していがみ合い

そのうちに人生最大のライバルとも呼べる仲になってしまったのだ


そんな二人が何故、一緒にいるかというと二人が愛する蜜柑が原因だったりする

ステルスオタクの柚子はコミケに共に行く友達はなく年齢的に買えない本を買うため保護者が必要で姉に同行を頼んでいたのだが急用で行けなくなり代理で親友の楓が送り込まれた

柚子とは犬猿の仲だが、愛する親友のお願いを断れない楓

欲しい物のために背に腹は変えられない柚子


何故か仲が悪い二人のために、という天然な姉の粋な計らいで現在、ファミレスからコミケ会場に至った


「うわ、すごい人混み、アイドルでもきてんの?」


「コミケなんですからこれくらい当たり前じゃないですか」


「コミケって何?」


コミケというものを知らない一般人楓は首を傾げる


「……まさか姉さんは貴女に何も言ってないんですか?」


「蜜柑には妹の買い物を手伝ってとしか言われてないよ」


「はぁ、全く、姉さんはどこか抜けてるんだから……そこが可愛いんですけどね。移動しながら説明しますから着いてきてください」


柚子は楓の腕を引いて歩く


「な、なんで手を繋ぐ必要あんのよ?」


いつも自分と鎬を削っている柚子が急に手を取ってきたことに警戒する楓


「何故って……離れ離れになったら私が困るからです。知っていますよね?私は辞書より重たい物は持てないんですよ」


「本っ当、アンタって貧弱よね……」


呆れながらもひ弱な柚子の代わりに人混みを掻き分けて進んでやる楓であった




「アンタ、これ18禁じゃない!その見た目で買えると思ってんの!?」


「だから、貴女を連れてきたんじゃないですか」


噛みつく楓

鬱陶しそうな柚子


「しかも、女の子同士のって!?」


薄い本を食い入るように読む楓


「百合がそんなに珍しいですか?後、勝手に読まないでください」


楓から本を取り上げる柚子


「ふ、普通は男の人を好きになるでしょ!女の子同士なんて不毛じゃん!」


取り上げられた本を口惜しそうに見ながらも否定する楓


「それは貴女の価値観です。それに姉さんに詰め寄る貴女が言えることですか?」


ジト目で睨む柚子


「うっ!確かにそうだけどさ……」


たじたじな楓とジト目の柚子は注意が散漫だったというしかないだろう


「あ、危ないすっよー」


軽い注意の後に、横から重い衝撃を受けた柚子は吹き飛ばされ隣にいた楓を巻き込み地面に倒れる


事故は現場で起こった



チュ……



柚子に巻き込まれ楓は押し倒された

それだけならよかったが、運悪く唇と唇が接触してしまったのだ


「な、何をするんですかッ!?」


体を起こして下敷きになっている楓を指差す


「それはこっちのセリフよッ!よくも人のファーストキスを奪ってくれたわねッ!」


馬乗りになっている柚子を放り投げる楓


「私、初めては姉さんに捧げるつもりだったのに……責任取ってもらいますからね!」


「それもこっちのセリフよッ!」


「あー、ごめん」


柚子にタックルをかました男は申し訳なさそうに頬を掻き


「「「百合ごっつぁんです!」」」


周りのオタクの方々はサムズアップする


「「百合言うなぁ!」」


二人は息を合わして否定する

それが余計に周りを煽った


「大体、アンタ実の姉に何しようと企んでたのよ!?」


「私の口から言わそうだなんて恥を知ってください!」


「そんな貧相な体のガキンチョが何言ってんだか」


「いやらしい目で見ないでくれます?」


「はぁ?それはアンタでしょう?第一、アタシは蜜柑みたいな娘が好きなの。アンタみたいなちんちくりんなんて興味ないわよ!」


警備員に止められるまで二人の喧嘩は続いた




コミケを後にした楓と柚子は公園で涼んでいた

気まずくて目を合わせられない楓に対して柚子はケロリとしていた


「今日はとんでもない日でしたよ」


「それはこっちのセリフだってば……」


「まぁ、それはそれとして貴女に渡すものがあります」


「何よ?」


怪訝そうにする楓にトテトテと近付き柚子が背伸びをすると二人の影が重なる


「ん……」


唇に今日知ったばかりの柔らかいものが押し付けられていた


「(甘い……)」


現実逃避する楓を余所に柚子は楓の唇を抉じ開け、舌をからませ、甘噛みし、歯のすみずみまでなめあげる

唾液を流し込まれたところで息が苦しくなり楓では覚醒し慌てて抱き着く柚子を引き剥がす


「い、いきなり、何すんのよ!?」


今度は事故ではなく故意にだ

混乱と快楽で頭がクラクラしている楓は辛うじて文句を言うことに成功した


「何って?今日のお礼ですよ楓先輩」


ほんのり頬を染めている柚子は艶かしく微笑む

その柚子に不覚にも鼓動が跳ね上がる楓


「な、何でキスなの!?てか、アンタキス二回目なのよね!?なんでそんなに上手いのよ!?」


「あ、満足してくれましたか。漫画で得た知識も役に立つものですね――楓先輩」


片目を瞑ってウィンクする柚子の指は楓の唇をなぞる


「ひゃ……」


抵抗出来ずに目尻に涙を溜める楓


「ふふ、うぶですね楓先輩が可愛く見えますよ?」


いらずらに成功した小悪魔はクスリと笑う


「可愛っ!?う、五月蝿いわね!アタシはアンタと違ってちょっと純情な乙女なだけよ!文句ある!?」


顔を真っ赤にして多少自棄になっている楓


「いや、別に。自分で乙女と言うところ流石だな、と思いましたけどね」


散々楓を翻弄した柚子は挨拶もなく小走りで帰っていった


「な、なんなのよアイツゥゥゥ!」


顔を恥ずかしさと怒りで真っ赤にした楓は誰もいない公園で叫ぶ




――犬猿の仲だった二人の関係は少し前に進んだ……かもしれない





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