ようこそ!青葉荘へ
4月6日。春休みの最終日。
西から差す斜陽に照らされる 木造平屋建ての門には『青葉荘』とある。
木造とはいっても、ボロさは感じさせず古き良き日本らしさを醸し出していた。
青葉荘はドーナツ状の建物で、真ん中は庭になっている。
間取りは、玄関に入ってか左手に共有のリビング。さらにその奥は小さなホールとなっている。
また、玄関に入って右手に行くと管理人室があり、そのとなりに101号室から110号室までが続く。そして、奥に浴室と洗面所がある。
そんなごく普通の寮。または、最近流行りの言葉でいうとシェアハウスが高校生になった藤宮創太の根城になるのだ。
大きく深呼吸をして、先ほどから強く握りしめていた手をはなし、その手をインターホンへと向ける。
ピーポーンとお決まりお音がしたが、なかなか人は出てこない。
痺れを切らした創太が何気なく戸に手をやり開けようとすると、普通なら鍵が掛かっているはずなのにスルリと開いた。
「ごめん下さ〜い」という言葉を静まり返った室内に放り込んだが、案の定返事はない。
意を決して中に入ると何やら囁くような声が聞こえてきた。
まだ、右も左も分からない創太がその声がするほう進んでいくと管理人室と書かれている扉の前に出た。どうやら声の出どころはこの部屋らしい。
扉に寄り掛かり耳をピッタリとつけると、はっきりと声が聞き取れた。
「クソっわたしの、私の2000万円が…」
と言っているようだ。
この言葉の意味をしばらく思案した創太だったが、2000万円などという大金、犯罪臭がするところもあるのでひとまず、部屋の中に入ることを決意する。
「失礼します、今日からここでお世話になることになった藤宮です。」
と、言いながら部屋を見渡す。
すると、殺風景な部屋の隅に何やら黒いオーラを出している物体があった。どうやら女性のようだ。
「あの、どうかしましたか」
「き、聞いて…くれる?」
「俺でよければ」
女性の願いに創太はYesと答えるしかなかった。
女性が山のように涙を溜めていたからだ。決してのボタンの外れたブラウスから覗く山に誘惑されたわけで訳ではない。けっしてー
30分後ー
「ーというわけよ」
その女性は、話し終えた達成感からか満足げに大きく息を吐くと、創太に視線をやった。感想を求められていると受けとった創太は、
「えっと、つまり…合コンで狙っていた年収2000万の医者がに逃げられたってことですね?」
と、今までの話を要約して時間を稼いだ。
「ええ、そうね大体合ってるわ。ただ、しいて言うなら逃げられたんじゃなくて、相手に見る目なかったのよ」
と、女性は軽く創太を睨みながら反論した。その睨みに押された創太はとりあえず当たり障りのないことを言うことにした。
「あの、その…きっとあなたの良さを分かってくれる人に出会えますよ。」
「そうよね!あなたなら分かってくれると思ってたわ」
創太の答えにご満悦の様子の女性は、満面の笑みで頷いている。
さっきの睨みとは対象的な笑顔にこれがギャップ萌えか、などとくだらないことを考えたつつ、ずっと気になっていた事を聞いた。
「ところで、あなたはー」
「そういえば自己紹介がまだだったわね。私の名前は水瀬涼子、青葉荘の管理人をしているわ。よろしくね。」
「こちらこそお願いします。」
自分が聞きたかった事を先回りされ少し気恥ずかしく思った創太だったが、お決まりの挨拶を返しておいた。
「それから、食事は基本的に当番制で作るんだけど、今日はまだ君以外いないから適当に食べて」
「じゃ、私はまだ仕事があるから。」
水瀬さんは一気にまくし立てると、部屋から出ていってしまった。
取り残された創太は虚しいカラスの鳴き声を背に自分の部屋である103号室へと足を向けた。
先ほどは綺麗に照っていた夕日が今は雲に隠れていた。




